【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

文字の大きさ
5 / 257
序章 A Tear In The Rainy Town

雨降る街の枯れた涙―④―

しおりを挟む
 紅い外套コートの戦士――ロック――の眼差しの先で、“ガンビー“がブルースに、成人の胴程の両腕を振り下ろそうとしていた。

 危機的状況が迫る中、サキの目にはロックが焦っていない様に見えた。

 ロックの目に映るブルースも溜息をついたが、落胆の色は皆無。

「ロック、女の子にそんなこと振っても、答えられる訳ないじゃない」

 鈴を転がした様な声と共に、両腕の槌を構える“ガンビー“の胸から突起物が生えた。

 轟炎が巨猿の体の中で、炎花を彩る。

 “ガンビー“が盛大な花弁になり、土瀝青アスファルトの上にを散らした。

 異形の散華の背後に立つのは、一人の女性。

 赤く癖毛の掛かった二房の長髪は、闇夜を照らす松明たいまつ

 つやのある髪は、火の粉で更にきらめいていた。

 橙色のインナーとレギンスは、彼女の鍛えられた四肢を弛みなく包んでいる。

 丸い肩当てと、菱形ひしがたの膝当ては硬質というよりは、サキの目の前に立つ女性の持つ強靭さを引き立てている。

 女性の瞳は、インナーの上に纏う、赤い拳闘用の洋袴ズボンと共に炎の様に明るい。

「ブルース、ロックに教えたこと……“ガンビー“は、“クァトロ“をけしかけてって忘れたの?」

「そうだぞ、ブルース」

「ロックもブルースに絡まない。ただ、ブルースの脚がなところは、が、は認める」

 炎の陰影で映える女性――炎が弱まり整った目鼻立ちで褐色肌とわかる――が、ロックとブルースを交互に諫める。

「キャニス、そこに同意するな」

「大丈夫……どの”ウィッカー・マン”の頭でも、そのムカつく足癖の悪さは変わらない――というか、あなた達がバカなやり取りしている所為で、こっちは遅れているんだからね」

 炎の肩当てとトンファーの褐色の女性――キャニスが顎で示した先から男性が現れた。

 サキと同じ外骨格を身にまとっていた。

 ただ、彼女と異なる点は、かぶとと外骨格が、銀色だったことである。

 そして、銀色の男は、長さ2メートルの銀色のむちを左手に束ね、かぶとの顔面を覆う樹脂越しに浮かぶ黒瞳は何処か黒曜石の凛とした輝きを彷彿させた。

「スコットランド以来だね……ブルース、ロック君」

 日本人男性は、こけ色と紅色、それぞれの戦士に笑みを浮かべ、サキに目を向ける。

「ナオトさ……いえ、ハシモト隊長」

 知己ちきからの眼差しに、思わず口から出かけた場違いな敬称を、サキは呑み込んだ。

 彼女は中腰から背筋を伸ばし、構えていた電子励起れいき銃で敬礼を取る。

 ナオト=ハシモト。

 ”電子励起れいき銃を提供した側”の人間で、サキの上司。

 同時に、をよく知る顔なじみの人物でもある。

 彼の背後には、犬耳の黒かぶとと、白い装甲を身に着けた一団が続いていた。

 かぶとの強化透明樹脂から薄っすら見える顔は、男女の性は愚か、肌の色も年齢も様々な者たちで構成されている。

 異なる顔が見え隠れするが、サキと同じ白黒二色の突撃銃アサルトライフルを構えていた。

 ”ワールド・シェパード社”。

 サキの所属する組織は、“クァトロ“や“ガンビー“を始めとした、”ウィッカー・マン”対策の専門家集団として、世界にその名を馳せている。

 しかし、その中で、かすかにさざめく言葉がサキの耳に入ってくる。

深紅の外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド!?」

「“ワイルド・ハント“の生き残り」

 口々に噂する犬耳の群れの視線が、赤い外套コートのロックに向いた。

 視線に混ざるのは、驚きと畏怖いふ

 二種類の視線に混じる感情から、微かな敵意も醸しだされている。

 様々な感情のはらんだ言葉の大きな断片を、サキの耳が拾い上げた。

 “ワイルド・ハント“。

 北欧神話の主神オーディン、または アヴァロンへ渡ったアーサー王などの英雄が地上での悪しき魂の狩りを楽しむ西洋の百鬼夜行――もとい、百夜行の名を持つ伝承を指す。

 現在は”ワールド・シェパード社”も対応に苦慮した欧州戦線を指す言葉として、もっぱら有名となっていた。

 バンクーバーで、サキたちが直面している事態すらもかすむほどの”ウィッカー・マン”の襲来事件が数か月前に欧州で起き、それを鎮圧したのが「深紅の外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド」と称された戦士と言われている。

 だが、サキはその戦士が目の前にいる青年ということが信じられなかった。

 集団の困惑の声色を、ナオトの毅然とした声が静めた。

「カワカミさん、状況を」

 サキは、ナオトに促され、手短に報告を行う。

 一人の日本人女性である隊員を助けた後、ロックと邂逅かいこうしたこと。

 ブルースがその後に合流し、”ウィッカー・マン”が自分の周りで集まりだしたことを、サキが話し終えると、

「こっちもキャニス君に助けられて、どうにかガスタウンから抜けた。ウィリアムス隊員は、カラスマ校長と共にトリアージされた生存者を病院に搬送している。そして、市外移送の手続きに追われている」

 ナオトは表情を硬くして、

「東ヘイスティング通りストリートの壁を飛び越えて、シーモア通りストリートまで進めてきた。市街南部の”ウィッカー・マン”も集ってきた。思ったよりも活動的過ぎる」

 ”ウィッカー・マン”は、少し前まで、“壁の向こう“側であるバンクーバー東部と南部に分布していた。

 本来、動くことはあっても南部と東部の壁を越えることは無いはずである。

「もしかしたら、ブルース達の話していたことと関係があるのかもしれない」

 サキは、ナオトの言葉に息を呑む。

 それは”ウィッカー・マン”は自分たちには、知る由のない理由で動いていたという事実。

 しかも、それはブルース達の側から、

 サキの好奇心は、不謹慎と思いつつも、目の前で起きている惨状から、その原因に向かい始めた。

「何かが“アナーシュト・ベハ“を提供している……だが、どうやって? 今まで動いていなかったのにか?」

 ロックが、疑問と共に降り立った。

 彼に続いて、銀鏡色の“クァトロ“が、サキの目の前に一体落ちる。

 悶える銀鏡色の“四つん這い“の左胸は、無粋に作られた橙の穴の炎を明滅させて、消えた。

「それに、ロックとサキちゃんへ”ウィッカー・マン”が集まりだしたのも気になるわね」

 キャニスが疑問の視線を、サキとロックに向けた。

 その眼差しをロックは振り払う様に、

「ナオト。俺、ブルースとキャニスで、”ウィッカー・マン”を掃討するから、そこのサキを連れて、ここから逃げ――」

 ロックの口からは二の句が継げず、盛大に溜息が吐き出された。

 サキたちの後ろに“クァトロ“の群れと、その背後に控えていた“ガンビー“の集団が迫っていたために。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

処理中です...