【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第六章 Hash

姦計―⑤―

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 思わず名前を叫びながら、ロックは地上に降り立つ。

 紅ではなく、灰褐色の双眸そうぼうをしたアンティパスがロックを見据え、

「君が誰かは、分からない。だが……」

 平静だが力強いアンティパスの声と共に、ストーン・コールド・クレイジーに灰褐色の迅雷を浮かばせ、

に、を振るわせてもらう!」

 アンティパスの姿は、ロックの目の前から消える。

 消えた場所から風が吹き、鉄が砕けた衝撃がロックの背後から襲った。

 灰褐色の戦士の一振りが、風雨を切り裂きながら、コシュチュシュコの右肩にめり込む。

 “蹄鉄“は、肩から大きな蒸気を噴き出しながら、足から崩れた。

 しかし、アンティパスの背後から、

 彼の背後から飛んできたのは、カイルの蹄鉄“ジャクソン“の左腕から放たれた、約2メートルの大きさの杭だった。

「俺はテメェなんかと友情を育んだ覚えはない。だが……」

 そういって、ロックは背面から剣を切り上げると、

「テメェの知っていることを教えてもらう。俺の中に流れる記憶……その持ち主が、何をしたのかも!」

 雨を弾きながら跳躍ちょうやくしたロックは、ジャクソン機から放たれた杭を翼剣の斬閃ざんせんで遮った。

 翼剣に飛ばされた杭が、“ラ・ファイエット“の前面の甲羅に大きくぶつかる。

 鋼鉄の表面から火花を血の様に散らす、上空に泊まる鉄騎兵“ラ・ファイエット“。

 その頭部に、ロックは翼剣を振り下ろした。

 “頂き砕く一振りクルーン・セーイディフ“の一振りが、甲羅から微かに覗くラ・ファイエットの頭部を叩き潰す。

 その衝撃で、蹄鉄は勢いを上げながら、地表に落下。

 蹄鉄の周囲に大きな擂鉢すりばちを作った。

 カイル=ウィリアムスの駆る“ジャクソン“が、擂鉢すりばちの周縁に吹き飛ばされる。

 反動で下がりつつ、“ジャクソン”の大杭がロックを捉えた。

 だが、灰褐色の壁がロックの前に広がる。

 針の衝突の衝撃で混凝土コンクリートが砕けるが、結果として杭の勢いを殺した。

 杭は地表に落下したが、カイルの”蹄鉄”の狙いがアンティパスに変わる。

 ロックに破壊された“ジャクソン“の右関節は、杭箱に覆われていた。

 機械仕掛けの両腕から射出される蒸気圧が、雨粒を蒸発させながら、二本の杭を放つ。

 アンティパスは、下手に構えていた剣を振り上げた。

 二本の杭は、剣の風圧で舞い上げられる。

 だが、カイルの“ジャクソン“から続けて撃たれた、四本はそれを物ともしない。

 小さな弾道噴進爆弾ミサイル然とした四本の杭が、アンティパスの頭に突き進む。

 それを、遮ったのはロックの剣だった。

 “穢れなき藍眼スール・ヒンプリィ“の水鋸が、カイルの駆る人型戦車から放たれた杭の弾丸を切り裂く。

「俺は、

「それは君の意地か?」

 アンティパスはロックに問いかけた。

 彼の中で思っていたのは、そんな高尚なことではない。

で、。だから……」

 鉄の人形に駆るカイルが、左手の杭をロックに肉迫させてくる。

に貸し借りは、!」

 ロックは、自分の命導巧ウェイル・ベオを逆手から正眼に替え、カイルの左杭の刺突を迎え撃つ。

 鉄の人形は、全長4メートル弱。

 大きさから来る力の差は、歴然だった。

 だが、ロックに下がる選択肢はない。

 “蹄鉄“の左の一撃から放たれた応力を、赤い外套コートに触れる手前で、磁向防《スキーアフ・ヴェイクター》の壁で遮った。

――自分に関わりのない過去で、全てを縛られる訳にはいかない。

 アンティパスに吐露することなく、ロックはカイルの駆る“ジャクソン“の一撃に歯を食いしばりながら信念を刻む。

――だから、!!

 “深紅の外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド“という肩書に興味はない。

 ロックは、関わった力の大きさと引き換えに、大事な存在を無くした。

 それを繰り返したくない。

 が、

 それが許せなかった。

『妙なことを言うな……UNTOLDを操るお前が、人間を語れる了見か?』

 カイルの電子変換された嘲笑が鉄の塊から、流れる。

「UNTOLDを知り、それに流されずに戦う。自分を見失わない。それが、人間だ!」

 最後に命を賭して、己を認めてくれた少女。

 使

 ロックの、戦いの原動力だった。

 抱いた信念と共に、ロックは鉄巨人からの応力を跳ねのける。

 彼は、微かに生まれた蹄鉄との隙間に、“迷える者の怒髪ブイル・アブァラ“の噴進ジェット火炎を放った。

 轟炎の剣が、鉄巨人の左腕を切り離す。

 カイルの駆る鉄巨人は、ロック目掛けて、右手の代わりとなった箱から杭を突き出した。

 だが、灰褐色のセメント弾がロックの横を突き抜ける。

 アンティパスの灰褐色の籠手に覆われた、右腕の混凝土コンクリート砲弾が、右腕の代わりと言える杭箱を潰した。

 両腕から切り離された、胴体と脚部だけとなった“蹄鉄”。

 アンティパスの上段斬りが、後者を圧壊する。

 更にカイルの乗る胴体の前面を、ロックの“ブラック・クイーン“が、大きなIの字を刻んだ。

 “蹄鉄“――“ジャクソン機“――は胴体の後ろから、火花と蒸気を出しながら、人を飛ばす。

 鋼鉄のかにから放り出されたカイルが、雨空で弧を描いた。

 雨に晒されながら、背中から肺を圧し潰した音と共に、彼は大地に叩きつけられる。

 “コシュチュシコ”、“ラ・ファイエット”も立つことは出来ず、それぞれの操縦者の傭兵が鉄のガラクタから、傷だらけで這い出ている。

 ロックはそれを他所に、

が、礼は言っておくぜ。アンティパス」

 悶えるカイル達を見ながら、ロックは吐き出した。

「大丈夫、この結果でお釣りは十分に来る」

 アンティパスは、灰褐色の甲冑で薄く笑って返す。

 ロックの中で、彼の顔を思い出そうとするが見つからない。

「悪いが、何処をどう考えても……テメェを、思い出せん」

「だから、大丈夫だ」

 ロックの正直な気持ちだが、言葉に困る返答にアンティパスは快活に返す。

 ロックが言葉を失ったが、アンティパスは続けた。

「あくまで……その魂を、のであって、ロック……君じゃない。を思い出せと言うのは、無理な話だ」

 ロックの目の前で、アンティパスは一呼吸を置く。

「しかし、ロック……お前の中の魂は、正直だ。守るための者の為に、躊躇ためらいなく剣を振り、縛られることを嫌う。その目は、常に前を……未来を向いている」

「……自分を通したい気持ちがあるのは否定しないが、『』って面と言われるのは、良い気がしない」

 ロックが、アンティパスの賛辞に呆れて笑うと、嘲笑が響いた。

「よくわかっているじゃないか……人殺しの化け物」

 その声――仰向けのカイル=ウィリアムスに、アンティパスが迫る。

 しかし、ロックは灰褐色の武人を制して、

「人殺しは否定しない。現に、俺はお前の仲間を殺したんだからな」

 言葉を紡ぎながら、

「しかし、だからこそ、俺の持つ力である”UNTOLD”の全てが狂っていると言える。その全てを終わらせる為に戦う。に、な」

「人間である為に、命を奪っていく……正に、人間だな」

 ロックの考えに反応したのは、カイルでは無い。

 青白い光と共に紡がれた言葉は、”ワールド・シェパード社”の傭兵が二柱の人型火柱を雨天の下に立った。
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