96 / 257
第一章 Grassroots
草の根―⑩―
しおりを挟む
上万作市内 ラーメン屋 わさの 午後7時40分
ラーメン屋、わさの。
店の特徴について言えば、色々な意見があった。
ただ、共通しているのは、その店は毀誉褒貶ということだろう。
古臭くもなく、新しくもない醤油ベースのラーメン。
敢えて強調するなら、牛骨を出汁に使っているところだろうか。
スーパーの惣菜では物足りない時に腹を満たせる餃子、レバニラ炒めという主要メニューはカバーされている。
チャーハンは、酒を飲んだ後の腹にそこそこ優しい。
値段は高くもなく安くもない。
あれば困らない程度の町中華の店だ。
しかし、毀誉褒貶の毀と貶があるとすれば、
「お客さん、それ止めた方が良いよ~」
距離感もなくデリカシーの欠片もない声。
極めつけが、求めてもない助言をする店主の男は間違いなく《貶》だろう。
現に、電脳世界での店の評価で、店主が偉そうというのは的を射ていた。
スキッパ―はそう考えながら、卵スープをレンゲで一口入れる。
何回かこの店に来る中で、スキッパ―は卵スープが意外と食べられるというのを学んだ。
「山さん……俺たち出た方が良いかな?」
スキッパ―から見て、二人の男が上座にいた。
一人は、年齢が悪い意味でわからない山土師。
“ビーニー”を被っている。
もう一人は、額の広い短髪の男だ。
威嚇を目的としているのか眉毛を細く剃り、目の鋭さと揃えていた。
太ってはいないが、肩幅が広い。
鍛えているのか上半身はがっしりとしている。
ただ、スキッパ―は、この男の肩が背中に彫った刺青と洋ナシ腹――つまり、ビール腹――をした上半身を電脳世界に晒せる自己顕示欲の高さには、内心呆れてもいた。
「マザキさん、前面的じゃないけど……“チカラさん”を集団に入れておいて」
間崎と言われた男は、山土師から言われて頷く。
“チカラ”さんとは、“力人衆”……“政声隊”の荒事専門集団を表す言葉だ。
間崎と言われた男は、そのまとめ役である。
“電脳右翼”や中立的な知識人からも、“政声隊”との繋がりを非難されているが、山土師は無論公式には認めていない。
少なくとも、山土師の言い分としては認めて飲み友達であろうが。
「“S.P.E.A.R.”にも付けておいた方が良いかもね……それとなく、顔の若い方を入れといて……不自然に思われないから」
そういって、若い男に頷いた。
男の恰好は、白黒の格子模様の長袖シャツとデニムを着ている大学生風の男である。
「無論、主役は秋津さんだからね……あんたの“S.P.E.A.R.”の手腕は買っているけど、それ忘れないでね?」
どこか、業界人じみた言い回しで山土師は大学生の右肩を左で叩く。
激励の意味だろうが、大学生風の男はどこか距離を離したがっていた。
「高校生の女の子が、この国を軍事化させようとする悪しき独裁者に立ち向かう……いい構図じゃないのよ!! なぁ!?」
間崎が、山土師の言葉に笑った。
上座の男たちの笑いが座敷席を一文字に結ぶテーブルを中心に広がる。
心からの笑いでなく、苦笑いなのだが、山土師と間崎がそう気付かないからか。
はたまたわかっていながら無視しているのか。
座敷席にいる客人が、この店の毀誉褒貶の毀を表していた。
“ラーメン屋わさの”の奥の座敷席で開かれる、政声隊のデモを終えた後の打ち上げ会。
同時に言うと関係団体が集まり、次のデモの予定を立てる戦略会議でもある。
関係団体はスキッパ―が認識する限りでは、“政声隊、S.P.E.A.R.”と“地自労”の二十代以上の男女が出席者だった。
“地自労”に至っては、春の地方公務員研修の後に集まっていると聞く。
「“地自労”さんも、飲んで飲んで!! 河上 サキに煮え湯を飲まされて“わさの”さんでしか飲めないんだから、さ?」
業界人でどこか評論家を思わせる饒舌さで、喋り散らす。
河上 サキという名前に、どこか地自労関係者の顔色に影が宿った。
“わさの”というラーメン店自体、三軒ある。
和佐野三兄弟によるものである。
一軒目は、山陰の河竹市にあった、長男坊のものだ。
なんでも、河竹市役所を巡る汚職事件があり、河上 サキとその友達がすっぱ抜いたらしい。
河竹市の“わさの”は、そのあおりを受けた。
しかも、河竹市の“わさの”の子どもたちも絡んでいた。
河竹市職員の長男、河上 サキの友人と反目関係にあった次男というのもまずかった。
そのおかげで、河竹市の“わさの”は閉店。
河竹市役所は”ワールド・シェパード”社の民営化の洗礼を受けることになり、研修として県外に訓練をする羽目になった。
二軒目の“わさの”は海外。
カナダのバンクーバー支店で次男坊が運営。
こちらは“紅き外套の守護者”の戦いの巻き添えで全壊したらしい。
和佐野三兄弟の味覚感覚の悪さもあって、再開店の予定は立ってない。
最後の上万作の“わさの”は、割と荒事とは縁がないように見えた。
しかし、店主が三男坊で甘えられたこともあってか、言葉と行動を弁えない。
損益分岐点ぎりぎりで経営出来ていたが、周辺住民のリピーターもいない。
駅前で肩の張った店を敬遠する、一見の客で成り立っていた。
しかも、酒の後にラーメンを食べたいときに限って閉まっているという不便振りである。
地元民から言えば、「ラーメンはわざわざ、“わさの”でなくても食べられる」という評価が一般的だからだ。
しかし、それ故か、“政声隊”関係者はこの店をよく使う。
上万作の“わさの”にとって、彼らは願ってもないリピーターだった。
しかし、荒事慣れしていて、極端な政治的主張を言う者が顧客に入った後の影響は、カウンター席とテーブル席の空きが物語っていた。
「それにしても……これで何人目だっけ、山さん?」
「五人目だね……ウチのは」
間崎と山土師の会話は、最近騒がせている事件のことである。
というよりは、寂れた場末のラーメン屋で毎回開かれるバカ騒ぎに似合わない話題だった。
「服と炭しか残していない……」
上万作市を騒がせていたのが、ある事件である。
十代の少年少女の変死事件。
いずれも、服を残して炭しか残していない怪死を遂げた。
「いずれも昏睡状態から目覚めた奴らなんだよな……」
上万作市で騒がれている事件の共通点があった。
「“上万作症候群”……快方したのにな……」
“上万作症候群”……これは、ある事件が起きたのを機に発症が確認された病気である。
「“白光事件”……」
スキッパーは参加者が口にした事件に関しては、何かの資源開発の実験による事故という認識である。
だが、
「是音台高等科学研究所、その事故の後に産業用地……政府としては、事故を風化させたいし、管理下に置きたいもんな」
山土師の言葉を支持する同意の声が上がり始める。
それは怒号となり、政府――というよりは、渡瀬政権――への批判に変わった。
陰謀に立ち向かうという明らかで分かりやすい正当性を、酒の肴に叫び始めた。
「だが、山さん……聞くところによると、あっちも用心棒を抱えているとは聞くな?」
「三条さんから、許可は得ている……一応、みんなにアレを持たせろ」
間崎と山土師の言葉に、正義の宴を楽しんでいた同席者の手が止まる。
「山土師さん……大丈夫ですか?」
そういったのは、バイカーのジャケットを着た髭の男。
年齢は三十代中盤から四十代前半に見える。
「良いんだよ……“デンウヨ”も用意してんだから、お互い様だって!!」
山土師の言葉が軽く座敷席に響く。
髭のバイカージャケットの男の懸念には理由がある。
ある“政声隊”の幹部が、“政市会”と話すと言い、刃物を携帯して逮捕されたことがあった。
小競り合いが起きて出したのだが、残念ながらこちらに正当性は認められなかった。
それに、様々な暴力行為によって、活動の場を狭められている。
スキッパ―から見て――皮肉なことだが――“政市会”と“政声隊”、どちらも強硬路線で自縄自縛にある点ではことごとく似ていた。
「ついでに聞くけど、山さん……あの話って本当か?」
間崎の切り出した話に、山土師は頷いて、
「ああ、“デンウヨ”をボコったのが、”紅き外套の守護者”、ロック=ハイロウズって話だ!」
夕方ごろに参加者の子連れ女性を追い回そうとした電脳右翼三人組が、大けがを負わされたという報せが政声隊内を駆け巡った。
「でも、あの顔写真を検索掛けてもそんなやつの名前は――」
「出てこない……”ワールド・シェパード”社の一部が、ネット検索で出なくしているらしい」
参加者の声に、山土師がどこか胸を張る。
「振志田支社長が言っていた……これは、俺たちの“S.P.E.A.R.”に説得してもらう方が良いだろう……しかも、秋津さんと同じ学校じゃないか。連絡を取ってもらえよ」
“S.P.E.A.R.”の立役者と言える青年が携帯通信端末を慌てて取り出し、急かされるまま液晶を叩く。
「でも、説得に失敗したら……」
一文字に結ぶテーブルを囲む一人が弱気を見せると、
「正しいのは俺らだって!! それにこっちが動かなきゃ誰がするんだよ、ええ!?」
正当化と恫喝が木霊する。
間崎は大笑いして、睨んだ。
宴会とミーティングは、士気を挫こうとする者への“九六”を入れる時間に変貌を遂げた。
山土師と間崎、二人の視線がやがて、スキッパーのと交わる。
二人が肌の褐色な青年――つまり、自分――を映し出し、
「すみません!」
トレーナーのポケットに入れていた“携帯通信端末”が振動する。
着信が途切れないから、メールではなく電話だろう。
「もしかして、バイト?」
山土師の怒気の混じった声は無く、どこか馴れ馴れしい言い回しとなる。
言葉に困りながら、スキッパーは周囲に会釈する。
「わかったから、遅れないようにね」
山土師の言葉に、間崎も笑顔を作る。
断りの言葉を入れながら、座敷席を後にした。
※※※
スキッパーは“ラーメン屋 わさの”から歩いて、携帯通信端末へ入電した番号に掛けなおす。
「振志田支社長が、ロック=ハイロウズの情報を流しました」
“ワールド・シェパード”社は主に二つ部隊がある。
一つは実戦を担当する“スコル”。
もう一つは、諜報や情報分析を担当する“ハティ”。
それぞれ、北欧神話の太陽と月を追う二頭の狼から来ていた。
スキッパ―は、後者のハティに所属。
振志田に近い政声隊の動向を探っている。
携帯通信端末の向こう側にいる人物から、命じられていた。。
「ついでに言えば、“政声隊”……三条から預かった武器を持たせるそうですけど――」
スピーカーから聞こえた指示に、スキッパーは驚きの声を上げる。
「大丈夫ですか!? そんなことをしたら……わかりました」
スキッパ―は、戸惑いを抑えながら電話を切る。
まもなく、メッセージが送られた。
彼を直轄する者からで、あるリンクが貼られている。
液晶越しに押して、スキッパーはメッセージを送った。
ラーメン屋、わさの。
店の特徴について言えば、色々な意見があった。
ただ、共通しているのは、その店は毀誉褒貶ということだろう。
古臭くもなく、新しくもない醤油ベースのラーメン。
敢えて強調するなら、牛骨を出汁に使っているところだろうか。
スーパーの惣菜では物足りない時に腹を満たせる餃子、レバニラ炒めという主要メニューはカバーされている。
チャーハンは、酒を飲んだ後の腹にそこそこ優しい。
値段は高くもなく安くもない。
あれば困らない程度の町中華の店だ。
しかし、毀誉褒貶の毀と貶があるとすれば、
「お客さん、それ止めた方が良いよ~」
距離感もなくデリカシーの欠片もない声。
極めつけが、求めてもない助言をする店主の男は間違いなく《貶》だろう。
現に、電脳世界での店の評価で、店主が偉そうというのは的を射ていた。
スキッパ―はそう考えながら、卵スープをレンゲで一口入れる。
何回かこの店に来る中で、スキッパ―は卵スープが意外と食べられるというのを学んだ。
「山さん……俺たち出た方が良いかな?」
スキッパ―から見て、二人の男が上座にいた。
一人は、年齢が悪い意味でわからない山土師。
“ビーニー”を被っている。
もう一人は、額の広い短髪の男だ。
威嚇を目的としているのか眉毛を細く剃り、目の鋭さと揃えていた。
太ってはいないが、肩幅が広い。
鍛えているのか上半身はがっしりとしている。
ただ、スキッパ―は、この男の肩が背中に彫った刺青と洋ナシ腹――つまり、ビール腹――をした上半身を電脳世界に晒せる自己顕示欲の高さには、内心呆れてもいた。
「マザキさん、前面的じゃないけど……“チカラさん”を集団に入れておいて」
間崎と言われた男は、山土師から言われて頷く。
“チカラ”さんとは、“力人衆”……“政声隊”の荒事専門集団を表す言葉だ。
間崎と言われた男は、そのまとめ役である。
“電脳右翼”や中立的な知識人からも、“政声隊”との繋がりを非難されているが、山土師は無論公式には認めていない。
少なくとも、山土師の言い分としては認めて飲み友達であろうが。
「“S.P.E.A.R.”にも付けておいた方が良いかもね……それとなく、顔の若い方を入れといて……不自然に思われないから」
そういって、若い男に頷いた。
男の恰好は、白黒の格子模様の長袖シャツとデニムを着ている大学生風の男である。
「無論、主役は秋津さんだからね……あんたの“S.P.E.A.R.”の手腕は買っているけど、それ忘れないでね?」
どこか、業界人じみた言い回しで山土師は大学生の右肩を左で叩く。
激励の意味だろうが、大学生風の男はどこか距離を離したがっていた。
「高校生の女の子が、この国を軍事化させようとする悪しき独裁者に立ち向かう……いい構図じゃないのよ!! なぁ!?」
間崎が、山土師の言葉に笑った。
上座の男たちの笑いが座敷席を一文字に結ぶテーブルを中心に広がる。
心からの笑いでなく、苦笑いなのだが、山土師と間崎がそう気付かないからか。
はたまたわかっていながら無視しているのか。
座敷席にいる客人が、この店の毀誉褒貶の毀を表していた。
“ラーメン屋わさの”の奥の座敷席で開かれる、政声隊のデモを終えた後の打ち上げ会。
同時に言うと関係団体が集まり、次のデモの予定を立てる戦略会議でもある。
関係団体はスキッパ―が認識する限りでは、“政声隊、S.P.E.A.R.”と“地自労”の二十代以上の男女が出席者だった。
“地自労”に至っては、春の地方公務員研修の後に集まっていると聞く。
「“地自労”さんも、飲んで飲んで!! 河上 サキに煮え湯を飲まされて“わさの”さんでしか飲めないんだから、さ?」
業界人でどこか評論家を思わせる饒舌さで、喋り散らす。
河上 サキという名前に、どこか地自労関係者の顔色に影が宿った。
“わさの”というラーメン店自体、三軒ある。
和佐野三兄弟によるものである。
一軒目は、山陰の河竹市にあった、長男坊のものだ。
なんでも、河竹市役所を巡る汚職事件があり、河上 サキとその友達がすっぱ抜いたらしい。
河竹市の“わさの”は、そのあおりを受けた。
しかも、河竹市の“わさの”の子どもたちも絡んでいた。
河竹市職員の長男、河上 サキの友人と反目関係にあった次男というのもまずかった。
そのおかげで、河竹市の“わさの”は閉店。
河竹市役所は”ワールド・シェパード”社の民営化の洗礼を受けることになり、研修として県外に訓練をする羽目になった。
二軒目の“わさの”は海外。
カナダのバンクーバー支店で次男坊が運営。
こちらは“紅き外套の守護者”の戦いの巻き添えで全壊したらしい。
和佐野三兄弟の味覚感覚の悪さもあって、再開店の予定は立ってない。
最後の上万作の“わさの”は、割と荒事とは縁がないように見えた。
しかし、店主が三男坊で甘えられたこともあってか、言葉と行動を弁えない。
損益分岐点ぎりぎりで経営出来ていたが、周辺住民のリピーターもいない。
駅前で肩の張った店を敬遠する、一見の客で成り立っていた。
しかも、酒の後にラーメンを食べたいときに限って閉まっているという不便振りである。
地元民から言えば、「ラーメンはわざわざ、“わさの”でなくても食べられる」という評価が一般的だからだ。
しかし、それ故か、“政声隊”関係者はこの店をよく使う。
上万作の“わさの”にとって、彼らは願ってもないリピーターだった。
しかし、荒事慣れしていて、極端な政治的主張を言う者が顧客に入った後の影響は、カウンター席とテーブル席の空きが物語っていた。
「それにしても……これで何人目だっけ、山さん?」
「五人目だね……ウチのは」
間崎と山土師の会話は、最近騒がせている事件のことである。
というよりは、寂れた場末のラーメン屋で毎回開かれるバカ騒ぎに似合わない話題だった。
「服と炭しか残していない……」
上万作市を騒がせていたのが、ある事件である。
十代の少年少女の変死事件。
いずれも、服を残して炭しか残していない怪死を遂げた。
「いずれも昏睡状態から目覚めた奴らなんだよな……」
上万作市で騒がれている事件の共通点があった。
「“上万作症候群”……快方したのにな……」
“上万作症候群”……これは、ある事件が起きたのを機に発症が確認された病気である。
「“白光事件”……」
スキッパーは参加者が口にした事件に関しては、何かの資源開発の実験による事故という認識である。
だが、
「是音台高等科学研究所、その事故の後に産業用地……政府としては、事故を風化させたいし、管理下に置きたいもんな」
山土師の言葉を支持する同意の声が上がり始める。
それは怒号となり、政府――というよりは、渡瀬政権――への批判に変わった。
陰謀に立ち向かうという明らかで分かりやすい正当性を、酒の肴に叫び始めた。
「だが、山さん……聞くところによると、あっちも用心棒を抱えているとは聞くな?」
「三条さんから、許可は得ている……一応、みんなにアレを持たせろ」
間崎と山土師の言葉に、正義の宴を楽しんでいた同席者の手が止まる。
「山土師さん……大丈夫ですか?」
そういったのは、バイカーのジャケットを着た髭の男。
年齢は三十代中盤から四十代前半に見える。
「良いんだよ……“デンウヨ”も用意してんだから、お互い様だって!!」
山土師の言葉が軽く座敷席に響く。
髭のバイカージャケットの男の懸念には理由がある。
ある“政声隊”の幹部が、“政市会”と話すと言い、刃物を携帯して逮捕されたことがあった。
小競り合いが起きて出したのだが、残念ながらこちらに正当性は認められなかった。
それに、様々な暴力行為によって、活動の場を狭められている。
スキッパ―から見て――皮肉なことだが――“政市会”と“政声隊”、どちらも強硬路線で自縄自縛にある点ではことごとく似ていた。
「ついでに聞くけど、山さん……あの話って本当か?」
間崎の切り出した話に、山土師は頷いて、
「ああ、“デンウヨ”をボコったのが、”紅き外套の守護者”、ロック=ハイロウズって話だ!」
夕方ごろに参加者の子連れ女性を追い回そうとした電脳右翼三人組が、大けがを負わされたという報せが政声隊内を駆け巡った。
「でも、あの顔写真を検索掛けてもそんなやつの名前は――」
「出てこない……”ワールド・シェパード”社の一部が、ネット検索で出なくしているらしい」
参加者の声に、山土師がどこか胸を張る。
「振志田支社長が言っていた……これは、俺たちの“S.P.E.A.R.”に説得してもらう方が良いだろう……しかも、秋津さんと同じ学校じゃないか。連絡を取ってもらえよ」
“S.P.E.A.R.”の立役者と言える青年が携帯通信端末を慌てて取り出し、急かされるまま液晶を叩く。
「でも、説得に失敗したら……」
一文字に結ぶテーブルを囲む一人が弱気を見せると、
「正しいのは俺らだって!! それにこっちが動かなきゃ誰がするんだよ、ええ!?」
正当化と恫喝が木霊する。
間崎は大笑いして、睨んだ。
宴会とミーティングは、士気を挫こうとする者への“九六”を入れる時間に変貌を遂げた。
山土師と間崎、二人の視線がやがて、スキッパーのと交わる。
二人が肌の褐色な青年――つまり、自分――を映し出し、
「すみません!」
トレーナーのポケットに入れていた“携帯通信端末”が振動する。
着信が途切れないから、メールではなく電話だろう。
「もしかして、バイト?」
山土師の怒気の混じった声は無く、どこか馴れ馴れしい言い回しとなる。
言葉に困りながら、スキッパーは周囲に会釈する。
「わかったから、遅れないようにね」
山土師の言葉に、間崎も笑顔を作る。
断りの言葉を入れながら、座敷席を後にした。
※※※
スキッパーは“ラーメン屋 わさの”から歩いて、携帯通信端末へ入電した番号に掛けなおす。
「振志田支社長が、ロック=ハイロウズの情報を流しました」
“ワールド・シェパード”社は主に二つ部隊がある。
一つは実戦を担当する“スコル”。
もう一つは、諜報や情報分析を担当する“ハティ”。
それぞれ、北欧神話の太陽と月を追う二頭の狼から来ていた。
スキッパ―は、後者のハティに所属。
振志田に近い政声隊の動向を探っている。
携帯通信端末の向こう側にいる人物から、命じられていた。。
「ついでに言えば、“政声隊”……三条から預かった武器を持たせるそうですけど――」
スピーカーから聞こえた指示に、スキッパーは驚きの声を上げる。
「大丈夫ですか!? そんなことをしたら……わかりました」
スキッパ―は、戸惑いを抑えながら電話を切る。
まもなく、メッセージが送られた。
彼を直轄する者からで、あるリンクが貼られている。
液晶越しに押して、スキッパーはメッセージを送った。
0
あなたにおすすめの小説
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる