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第一話

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 やっと朝日が昇ってきた、最近夜が明けるのが遅くなってきた。10月でもう暗くなるのも早いしな……

 早朝なのに満員電車のドア側に押しやられた俺はそんな事を考えながら窓の外を見ていた。

 俺の名は西野二郎(にしのじろう)、次男じゃなく長男だが二郎。親父が長男で一人っ子なのに一郎なので息子の俺に二郎って付けたらしい。住んでる所は都心部だけど職場はそこから二時間かかる山奥の町、転勤になったんだが俺には家族がいて妻と娘と息子が猛反対で嫌がった。娘の美奈(みな)は来年受験の高校2年生で今転校するのも大変だし息子の翔太(しょうた)は中学2年生だがサッカー部のキャプテンになったばかりだから無理だと言う。妻の祐未(ゆみ)も近所の人達と別れたく無いらしく俺も単身赴任は嫌だったし通えない距離ではないので結局こんな風になった。
 実際やってみると電車通勤は別に嫌いじゃないしいいんだが着くまでの乗り換えが3回もあって最後はバスだが会社に着くまでやっぱり疲れてしまう、何より……

「お早う!」
「おはようございます、西野課長!」

 そう、課長なんだ。俺は
……

 所謂中間管理職ってやつで名前だけって感じで安月給の割に上司からは書類はまだかと攻められ部下からはここが判らないとか質問責めだわ、陰口叩かれるわろくな事がない。管理職なんてなるもんじゃないよ、本当……
 職場は上辺だけの会話だしプライベートとかで遊びに行く事なんて全くと言っていいほどない、まあ昔は飲みに行ったりとかしてたけど課長になると毎日接待やら残務処理やらで気がつけば終電間際だ……終わったらもうクタクタになりながら会社の鍵を閉めるのが最近の日課だった。

「ふう……」

 駅のプラットホームで項垂れながら電車を待っていると目眩がする……吐き気まで出てきた、昼間変なモンでも食ったっけなぁ……?
 我慢出来なくなり腹を抑えながら地面に倒れ込んだ、人の声がする……騒がれてる気がするが身動き取れずに俺は意識を手放した……






「原因は不明ですが……女性、それも12才くらいの小学生に……」

「そ、そんな……!」

「元々癌細胞が肺にあったのですが先日撮ったレントゲン写真には基から無かったかのように……」

「ど、どういうことですか……?」

「私にも…わかりませんが、生まれ変わったとしか…………」

「ああ………」



 白い天井……見知らぬ天井だ、病院……?俺は倒れたのか……?

 目が覚めると妻の顔がドアップだった、最近こんな近くで見たことは無かったなとどうでもいいことを思っていた。

「あ、あなた……目が覚めたの?大丈夫?」

「祐未……?」

「ここは病院よ、あなたは駅で倒れてこの病院に運ばれてきたの……」

「………そうか、ごめんな。迷惑かけて……」

 周りには誰も居なく個室に入っていて窓もない、今は何時なんだろう。

「今は……何時だ?」

 起き上がろうとする俺を慌てて停める妻、あれ?なんか違和感が……

「待って!今先生がいらっしゃるから、ちゃんと説明してくれるから!ね?」

「あ、ああ……」

 肩を押さえられベッドに戻される、祐美ってこんなに力強かったか……?


 暫くすると四十代くらいの薄毛の男性と二十代くらいの可愛い女性が病室に入ってきた。医者と看護師だろう。

「初めまして、かな?私は貴方の主治医の山本です、こちらは看護師の藤堂です。」

 山本先生が挨拶してくれ併せて藤堂さんも会釈する。2人ともデカいなあ、身長どれくらいあるんだ?

「さて、では説明させて頂きますね。西野さん、貴方は半年前に駅で倒れてそのまま意識不明になっています。」

「はあ!?半年前??」

「そうです、今は4月9日の夕方の4時でずっと目が覚めませんでした。」

 4月9日?半年も眠ってたのか?通りで頭が痛いはずだ……そういえばさっきからの違和感、声が掠れて甲高い……まるで小さい女の子の声みたいだ。

「それでですね、半年かけて判った事は最近男女に関わらず性反転病というのが発見されまして。」

「性……反転病、ですか?」

 他の2人を見ると俯いたまま黙っている、どうやら冗談じゃないらしい。

「それで西野さん、貴方は元は男性。ですから女性に反転しました、それに若返り……なんでしょうか。12歳、小学校6年生くらいになっています。これは見た目、体格、内臓の検査により測定されています。」

「はあ!?俺が女~!?なんの冗談だ!ふざけんなあっっ!!」

 あまりの衝撃に我を忘れて暴れ回るが股間のカテーテルってオシッコの管に引っ張られて動きが止まる。

「お、落ち着いて!落ち着いて下さい、西野さん!」
「あなた!あなたっ!」
「西野さん!落ち着いて!!」

 3人に無理矢理布団に押し込まれる、大体カテーテルで動けないのに……

「………それで?」
「あ、はい。この病気の共通している点は該当患者全員が働き盛りの三十代から四十代であるということ、それから癌を保っているというのがあります。」

「が、がん?俺が?」

「はい、ですが正確には癌だった、です。性反転病になると癌が跡形もなく消えるのです、勿論後遺症もありません。しかも若返り、染みや身体の老朽化が無くなってます。」

「そんな……もう元には戻らないんですか?」

「………残念ですが性反転病がまだ解明されていない状況でしてそれが判らない事には……」

「そう……ですか。」

 皆沈黙していた、どうにもならないんだろうとは思っていたがそれでも不安になって聞いてみたくなった、が余計不安になってしまった……

「半年間寝たきりの状態だったのでいくら若返ったと言っても衰えてます、ですので明日からリハビリを兼ねて少しずつ歩いたり動いたりしてみましょうね。」

「はあ……」

 リハビリ……まるで病人だな、いや……これでも病気なんだよな。

「それでは私達はこれで失礼します。」

 山本先生と藤堂さんは出て行き祐未と俺だけが残された………

 これから如何すればいいんだろう……



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