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第二話

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 遅咲きの桜も散り始めた今は4月、俺の記憶の中には昨日までは秋だったんだがなあ……
 入院している病院は会社の駅に近い県病院だった、なんでも脳外科の権威な所で有名芸能人も東京から通ってるとか。

 目覚めて性反転病の説明を聞いた次の日にはカテーテルは外されたけどまだ歩けるどころか立つ事もままならないので車椅子でトイレまで運んでもらうんだけど……

「…………」
「…………」

「……あの、一人で出来るんで閉めて貰ってもいいですか?」

 ドアを開けっぱなしで俺の前には看護師さんの美村さんが立っている。しかも仁王立ちだ……
 名前の通りなのかは分からないが美人でまだ若い人だ、そんな人におしっこするところをジーッと見られてたら出るものも出やしない……

「いいえ、ダメです!西野さんはまだ女の子になったばかりでカテーテルを外して初めてのトイレでしょ?拭き方とか仕方がわからないんじゃない?」

 うっ、確かに詳しい事は知らないけど適当に拭けばいいんじゃないのか?

「はあ、その顔は適当にすればいいんじゃ?って思ってるでしょ?」

 ギクっ、なんでバレたんだろ……

「やっぱり……いいですか?下手に拭いたりすると尿道や膣に雑菌が入って病気になっちゃいますからね!」
「えっ!?ど、どうすればいいの?」
「まずは脚を広げて前屈みになってね、脚を閉じたままだとおしっこが溜まって膣が炎症を起こしたり匂っちゃたりするからね。」

 へえ、そうなんだ。看護師さんがいうなら間違いはないのかな……ちょっと恥ずかしいが言われた通りに大股開きで前傾姿勢にしてみる。

「うん、それからあまり力まずに力を抜くとおしっこが出てくるからね。」

 あ、ホントだ。溜まってたのかいっぱい出てきた……しかし若い女の子に自分のおしっこ見られてるってどんなプレイだよ、情けなくなってくるな……

「拭くときは基本前から後ろにだけどペーパーを下から充てて5秒から10秒くらい抑えると垂れないわよ。」

 ああ、なるほど。確かに飛び散らないなあ、でも慌ててる時とがは出来ないかも。

「出来たかな?じゃあショーツとパジャマを履いてね、スカートの時とかは気をつけないとシャツがはみでたりするからね。」

 スカート……かあ、やっぱり履かなきゃならないのか、トホホだな。

「じゃあお部屋に戻りましょうね、もう奥さ……お母さん達が来てるみたいだから。」

 祐未はこの身体で妻だって言っても誰も信じないし誤解とか招きそうなので母親として通す事になった、そうなると美奈や翔太は兄と姉になるんだが……解せぬ。俺が妹なんて有り得ないよな……



「あっ!お父さん、お帰り~」

 いきなりお父さんかよ、まあまだ名前を付けてないから仕方ないけど、そのために家族会議を開くため美奈や翔太にも来てもらったんだから。
 祐未の口から詳細は伝えてもらったが見た感じ美奈の方は受け入れてくれた様だが翔太はブスッと不貞腐れた顔をしている。
 二人とも俺に似てキュートでイケメンだ、ホントだぞ?

「スマンな、来てくれてうれしいよ。ありがとな」
「そんなの当たり前じゃない!お父さんがこんな大変な事になっちゃって私達家族が協力しないと、ねっ、翔太?」

「ああ……」

 やっぱり不貞腐れてるな、男が一人になっちゃったんだし仕方がないか、それともサッカーの試合行けなかったからガッカリしてるんだろうか?

「ごめんな、翔太。母さんから聞いたけど試合だったんだろ?こんな遠いとこまで来させて悪かったな。」
「………いいよ、別に。」
「まあまあ、二人とも。とにかく先にお父さんの名前を決めないと、役所に届けないといけないから話し合いましょ。」

 祐未が何だかモヤモヤした雰囲気を仕切り直してくれて俺の名前付けが始まった。
 何しろ役所に届ける前に行政書士や弁護士に相談してから病院に診断書や証明書を書いてもらい尚且つ出生届と死亡届を同時に役所に提出するらしい。まだ性反転病がはっきりと解明されてないのでこんな回りくどいやり方になるんだとか……



「お母さんの名前と私の名前を取って祐美奈はどう?」
「うーん、何かなあ…それも良いけど。あと、俺の名前からは取ってくれないのか?」
「お父さんの名前からどうやって取るのよ?二郎なんて女の子に似合わないわよ!」
「なら二葉とかはどう?女の子っぽいわよ?」
「二葉?もうひとつ何かないかなあ?」

 3人で話し合ってると今まで口を開かなかった翔太がボソッと独り言のように言った。

「詩愛」
「「「しあ?」」」

「4人の愛を受けて……育つ、みたいな……」

 4人って……俺達夫婦と美奈と翔太か、俺の事……父親の事も忘れずにいてくれるんだな。
 言った本人は恥ずかしかったのか真っ赤になって顔を背けたけどな。

「詩愛、西野詩愛……うん、いいじゃん!」
「そうね……あなたもそれでいい?」

 祐未は俺を確かめる様に顔を見る、こうやってじっと見られるのも何年ぶりかな……


「ああ!いいぞ、俺は今日から西野詩愛だ!!」


「じゃあ決定ね。それから年齢も決めなきゃね。」
「え!?年齢?」
「それはそうよ、身体からすると12、3歳だけど小学校がいい?中学校?」

「ええ………」

 まだまだ決める事はたくさんありそうだった、ああ、普通のおじさんに戻りたい………



    
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