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一(二)
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しかし契約しちまったもんは仕方ない。やべーモンが現れたら速攻で引っ越そう。そのために、荷ほどきはまだしない。衣装箱だけ開けて、持ち物は布団だけ出しておく。
と、そのとき「ブーーー」とこれまた古めかしいチャイムが鳴った。ここには当然インターホンなんて気の利いたものはついてない。呼び鈴は押しっぱなしにするタイプのやつだ。
「はい」
「こんにちは、山蕗です。」
ヤマブキ?はて?と考えるが、すぐに気づいた。さっき留守だった3号室の人だ。木でできた表札に名前が書いてあったが、漢字が難しくて読めなかった。あれはヤマブキと読むのか。
「はいはい、山蕗さん……」
と扉を開けて、俺は思わず息を飲んだ。
「こんにちは。」
やや上目で俺を見る少年。俺はまた喉がごくりとなった。なんとまあ……とんでもなく、この洋館付きのモダンな邸宅にマッチした、お人形さんみたいな……
ぼうっとなってしまい、ハッとして「あ……すみません、山蕗さん、3号室の方……ですよね?」と笑いかけた。少年はじっと俺を見据えたまま、「留守にしてましてすみません。ポストにタオルが入ってましたから……」と少し警戒した様子で言った。
「すみません、すぐ戻ってくると思わなくて、かなりテキトーな感じにしちゃって……」
「いえ。わざわざありがとうございます。」
「俺、染谷です。染谷 モトキ。」
「染谷さん……僕は山蕗 アラタです。」
「山蕗さん、一人暮らしなんですか?ずいぶん若そうですけど……」
彼はまさしく「少年」のようだった。まだ高校生くらいに見える。
「ひとりですよ。それほど若くもないですし……」
「失礼ですが、おいくつ?俺は今年24なんですけど……」
「……まあ、それくらいです。」
「えっ、嘘。」
濁されたような気もするが、とても同年代とは思えない。
「このお家で何かわからないこととかあったら聞いてください。」
「あ……どうも。」
「それと、染谷さんは、帰りは遅いですか?」
「あー……それなんすケド……」
仕事柄、繁忙期ともなると帰る時間はかなり不規則になる。深夜から明け方に帰ってきて、その時間にゴソゴソされるのがやかましいという両親と大学受験を控えた妹のクレームにより、俺はこのたび同じ東京でありながら半ば追い出される形で引っ越してきたのだ。
「……つーわけで、今は若干落ち着いてますが、また忙しくなるとちょっとご迷惑な時間帯になっちゃうかもです。でも人を招いたり騒いだりなんて決して……」
すると山蕗さんは、その言葉を遮った。
「あ、それは別にいいんです。ただここ、深夜2時に帰宅するのだけは避けてくださいね。」
「へ?」
「丑三つ時になると、此処の敷地一帯に隠れてるいろんなモノが活発になるんです……特に門に立ってる奴がいちばん危ない。だから2時になりそうなら、よそに泊まった方がいいかと。」
「あの……?」
「先にハッキリさせておきますけど、染谷さんてかなり霊感ありますよね?」
「へ?」
「わかるんです、僕と同じだから。」
「同じって……」
「いろいろ巡り巡った結果、大丈夫そうなここに落ち着いたんでしょう。でも残念、ここも相当なお化け屋敷でね。あなたは特に霊力が高いから、引き寄せられたんだと思います。そういう力の無い方でも、ここに越してくる方は、みなさん3ヶ月以上住んでいたためしがありません。でも深夜にむやみやたらと部屋を出入りしなければ、怖い目に遭うことはありませんから……」
玄関を閉めると、俺はまたもや漆喰の真っ白な壁にもたれ、ズルズルとへたりこんだ。
山蕗さんは「これからよろしく」と言って部屋に戻って行ったが、俺は早くもスマホで違う不動産屋のホームページを検索していた。
しかし………
「さっそくかよ!」
先月買い換えたばかり、充電も満タンにも関わらず、何度も何度も電源が落ちて、やがてとうとう、うんともすんとも言わなくなってしまった。
と、そのとき「ブーーー」とこれまた古めかしいチャイムが鳴った。ここには当然インターホンなんて気の利いたものはついてない。呼び鈴は押しっぱなしにするタイプのやつだ。
「はい」
「こんにちは、山蕗です。」
ヤマブキ?はて?と考えるが、すぐに気づいた。さっき留守だった3号室の人だ。木でできた表札に名前が書いてあったが、漢字が難しくて読めなかった。あれはヤマブキと読むのか。
「はいはい、山蕗さん……」
と扉を開けて、俺は思わず息を飲んだ。
「こんにちは。」
やや上目で俺を見る少年。俺はまた喉がごくりとなった。なんとまあ……とんでもなく、この洋館付きのモダンな邸宅にマッチした、お人形さんみたいな……
ぼうっとなってしまい、ハッとして「あ……すみません、山蕗さん、3号室の方……ですよね?」と笑いかけた。少年はじっと俺を見据えたまま、「留守にしてましてすみません。ポストにタオルが入ってましたから……」と少し警戒した様子で言った。
「すみません、すぐ戻ってくると思わなくて、かなりテキトーな感じにしちゃって……」
「いえ。わざわざありがとうございます。」
「俺、染谷です。染谷 モトキ。」
「染谷さん……僕は山蕗 アラタです。」
「山蕗さん、一人暮らしなんですか?ずいぶん若そうですけど……」
彼はまさしく「少年」のようだった。まだ高校生くらいに見える。
「ひとりですよ。それほど若くもないですし……」
「失礼ですが、おいくつ?俺は今年24なんですけど……」
「……まあ、それくらいです。」
「えっ、嘘。」
濁されたような気もするが、とても同年代とは思えない。
「このお家で何かわからないこととかあったら聞いてください。」
「あ……どうも。」
「それと、染谷さんは、帰りは遅いですか?」
「あー……それなんすケド……」
仕事柄、繁忙期ともなると帰る時間はかなり不規則になる。深夜から明け方に帰ってきて、その時間にゴソゴソされるのがやかましいという両親と大学受験を控えた妹のクレームにより、俺はこのたび同じ東京でありながら半ば追い出される形で引っ越してきたのだ。
「……つーわけで、今は若干落ち着いてますが、また忙しくなるとちょっとご迷惑な時間帯になっちゃうかもです。でも人を招いたり騒いだりなんて決して……」
すると山蕗さんは、その言葉を遮った。
「あ、それは別にいいんです。ただここ、深夜2時に帰宅するのだけは避けてくださいね。」
「へ?」
「丑三つ時になると、此処の敷地一帯に隠れてるいろんなモノが活発になるんです……特に門に立ってる奴がいちばん危ない。だから2時になりそうなら、よそに泊まった方がいいかと。」
「あの……?」
「先にハッキリさせておきますけど、染谷さんてかなり霊感ありますよね?」
「へ?」
「わかるんです、僕と同じだから。」
「同じって……」
「いろいろ巡り巡った結果、大丈夫そうなここに落ち着いたんでしょう。でも残念、ここも相当なお化け屋敷でね。あなたは特に霊力が高いから、引き寄せられたんだと思います。そういう力の無い方でも、ここに越してくる方は、みなさん3ヶ月以上住んでいたためしがありません。でも深夜にむやみやたらと部屋を出入りしなければ、怖い目に遭うことはありませんから……」
玄関を閉めると、俺はまたもや漆喰の真っ白な壁にもたれ、ズルズルとへたりこんだ。
山蕗さんは「これからよろしく」と言って部屋に戻って行ったが、俺は早くもスマホで違う不動産屋のホームページを検索していた。
しかし………
「さっそくかよ!」
先月買い換えたばかり、充電も満タンにも関わらず、何度も何度も電源が落ちて、やがてとうとう、うんともすんとも言わなくなってしまった。
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