最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

文字の大きさ
39 / 39

最強天使、最後の夏休み

しおりを挟む
 翌日。俺が上界へ戻る日。

 遊はいつものようにバンザイの姿勢で眠り、俺のそばに転がって目を覚ましていた。
 寝返りのたびに布団からはみ出して、最終的にはベッドの端から落ちる。ほぼ日課と言っていい。

 いっそ床で眠ったほうが賢明ではないか?と思うのだが、本人は気にしていない。目を覚ますと「おはよう! サミュエルさん!」と屈託なく笑うのだ。

 ——そんな朝も、今日までである。
 
 だが、どうやら俺も遊も「しんみり」が苦手らしい。いつもと変わらぬ調子で、最後の一日を共に過ごしていた。

「はあ……緊張するなあ」

 遊は朝からずっと、ため息まじりに呟いている。今夜は久美ちゃんへの告白という、人生の大一番だ。

 ソファーで何度もでんぐり返しをしたり。テレビをつけ、普段は気にもしない占いコーナーをじっと凝視したり。
 それを蒼くんに突っ込まれて照れ笑いしたり。

「く、久美ちゃん! お、俺は……俺はぁあああああああっっ!」

 そう叫びながら逆立ちで階段を上ったかと思えば、二階から一階へはブリッジで下りてきた。しかも絶妙な笑顔を浮かべたまま。……もはやホラーで怖かったという。

 現在時刻は午後四時半。
 そろそろ準備するか。俺は立ち上がり、黒のTシャツに着替えた。

 ——いよいよ、この夏最後の舞台が始まる。
 
「えっ! サミュエルさん、黒着るの!?」

 ティラノサウルスとヴェロキラプトルのフィギュアを向かい合わせ、告白の練習をしていた遊が声を上げる。久美ちゃん役まで肉食恐竜なのは、ぜひ再考して欲しい。

「よく着ていたTシャツだろう? 今さらどうしたのだ」
「だって黒なんて着たらさ、暗闇に溶け込んでサミュエルさんがどこにいるのか分かんなくなっちゃうよ!?」

 ……肝試しにでも行く気か?それとも、まだ俺を死神と混同しているのだろうか。

「日本の夏祭りは屋台や提灯が華やかだ。問題あるまい」
「でもさ、サミュエルさんがそばにいなかったら、俺アドバイス欲しいときにもらえなくなっちゃう……」

 そんな心配は無用だ。俺は遊の隣に腰を下ろした。

「遊よ、お前のまっすぐなその性格は、久美ちゃんにも魅力的に映ってるはずだ」

 遊が茶色い瞳で俺を見つめている。

「いつも通りの遊でいれば、告白は必ず久美ちゃんの心に届くぞ」
「サミュエルさあーん! ありがとう!」

 勢いよく飛びついてきたが、この調子で久美ちゃんに抱きつかぬよう祈るばかりだ。そこそこ鍛えている男でない限り、すっ転ぶだろう。

「少し離れたところから応援しているぞ?」
「うん! あとで一緒にかき氷食おうね!」

 ……え?なぜ?
 告白の流れから、どうして俺とかき氷に繋がるのだ。遊の計画は秒針よりもぶれている。

 ——コンコンコン。

 ノック音が聞こえ、蒼くんが顔をのぞかせた。

「サミュエルさん、俺と一緒に夏祭りを巡りましょう」

 おや?聞いていないぞ。
 遊がでんぐり返しをして立ち上がった。

「サミュエルさんはさ、よく迷子になっちゃうから! にーちゃんと一緒だと安心でしょ?」

 ぐっ……!日本の高校生に心配されている。

「それは助かる。蒼くん、よろしく」
「こちらこそ。弟の恋愛の協力に、付き合わせてすみません」
「えっ! にーちゃん、なんで俺が久美ちゃんに告るって知ってんの!?」
「あ、告白するんだ? 頑張れよ」

 自ら暴露し、慌てふためく。やはり、どこまでも遊である。

 俺は二人と共にバスに乗り、夏祭りへ向かった。
 細く開いた窓からは、太鼓のドンドンという響き、陽気な笛の音色が風にのって流れ込んでくる。バスの中には浴衣姿の少女や淑女が増え、彩りはすでに夏祭りの始まりを告げていた。

 だが、そんなレディたちに目もくれず、遊はそわそわと辺りを見渡している。浴衣姿の人々は、遊にとっては色とりどりの背景にすぎない。

 見えているのは、久美ちゃんただひとりなのだ。

「あっ……!」

 久美ちゃんがバスに乗り、遊の口から思わず声が漏れた。
 お団子に結った髪。ピンク色の朝顔が咲き誇る浴衣に、ひまわり色の帯。慎重そうに下駄を引っ掛けながら、こちらに笑顔で近づいてくる。

「く、く、久美ちゃん! 浴衣……っ!」

 遊、見たままの感想である。

「どうかな? 久しぶりに着てみたよ」
「か、可愛いよっ……!」

 言ったそばから、遊は両手で顔を覆って真っ赤になった。それを見て久美ちゃんが笑っている。
 可愛いと言われたのはどちらなのか。——判別不能である。

 バスが揺れ、久美ちゃんが少しよろめいた。

「久美ちゃんさ、ここに掴まってたらいいよ!」

 遊、ポールを勧める。なかなか気が利くではないか。

「どうもありがとう。でも、遊くんはだいじ?」
「うん! 俺にもポールがあるから、だいじ!」

 そう言って、遊が俺の腕をぎゅっと掴んだ。……ポールじゃなく、サミュエルである。

 やがて車内は超満員。バスがゆっくりと停車し、プシューッと扉が開く。
 ぞろぞろと人が降りていく中で、遊が俺のTシャツを引っ張って見上げた。
 
「サミュエルさんさ、あとでかき氷一緒に食おうね!」

 ぶんぶん手を振りながら、久美ちゃんと共に沿道へ向かう。……はて?俺と蒼くんに見守られながら告白するつもりなのか?

「お祭りに男の人と二人で来るなんて、初めてです」
「ははは。そうだろうな」

 なんという活気だろうか。
 赤やオレンジの提灯が連なり、焼きとうもろこしの香ばしい匂いが漂う。金魚すくいに沸き立つ笑い声。浴衣の裾を気にしながら、わたあめを頬張る少女。甚兵衛姿の若者も行きかっている。

 まるで地上の楽園だ。

「しのぶちゃんは、もう東京に帰ったのか?」
「はい。お祭り、ちょっと残念がってましたけど。来年も再来年もチャンスはあるので」

 蒼くんはどこか幸せそうに答えた。
 遊も来年は浴衣を着て、久美ちゃんと並んで歩くのだろうか。その姿をそばで見られないのは、少しばかり惜しいな。
 
 ——俺が感傷に浸ってどうする。しっかりせよ、最強天使サミュエル。

「蒼くん。何か食べたいものはないか?」
「焼きそばにちょっと惹かれてます」
「んまあああっ! こんなところに、いい男っ!」

 …………。

 こ、こ、この声は……まさか(震)!?



 ——続く——

 ここまで読んでくださりありがとうございます!とうとう最終章です!毎日更新&九月三十日の昼間に完結しますので、最後まで応援よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...