あなたのいない世界でバージンロードを歩く

駄文のヒロ

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第2章 止まった運命、始まる人生

4、家族愛が起こす救済

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 結奈は、消えた父のいた場所から、ゆっくりと視線を上げた。
 胸の奥に残る温もりが、まだ消えきらない。

 そのまま、美麗を見る。

「フフッ……あなたは、何者なの?」

 問いは静かだった。
 恐れでも疑念でもなく、ただ知りたいという声。

 美麗は一瞬だけ間を置き、口元をわずかに緩める。

「ただのウエディングプランナーよ」

 冗談めいた言い方だったが、
 そこには、確かな誇りと覚悟があった。

 次の瞬間――
 鋭い警告音が、空間を切り裂く。

 〈警告。管理層権限外行為を検出〉
 〈参照不可領域、緊急遮断〉

 チャペルの壁に亀裂が走り、光ががれ落ちる。
 ラウンジは砂のように崩れ、白い空間が急速に失われていく。

 結奈が思わず一歩踏み出した、その時。

 複数の転移光が走り、管理層の社員たちが美麗を取り囲んだ。

 無機質なスーツ、感情を排した視線。
 彼らの足元には、魔法陣のような抑止コードが展開していて、美麗の足元を捉えている。

 美麗は、振り返らない。
 結奈に背を向けたまま、ただ一言だけ残す。

「……ここから先は、大人の話ね」

 警告音が、さらに高く鳴り響く。

 結奈の前で、
 “ただのウエディングプランナー”は、世界の中心として立ち続けていた。

 警告音が鳴り止まない中で、美麗はようやく管理層の社員たちの方へ振り返った。

 その瞳には、逃げる色も、あらがう色もない。
 ただ、語るべきことを語る者の静けさがあった。

「朝霧雅人は、世界を救う英雄でも、殉職した技術者でもないわ」

 抑止コードが展開される中でも、美麗の声は澄んでいる。

「彼はただの父親だった。

 余命を知ったうえで、自分が生き延びる可能性よりも――
 娘が生きていく“世界そのもの”を選んだ」

 社員の一人が即座に応答する。

「結果として暴発事故を招いた。
 意図的なリスク選択は、規範違反だ」

 美麗は首を振る。

「いいえ。暴走は止められた。

 彼が止めなかったのは、“冷却”よ。
 止めれば、世界は完成しなかったから」

 一瞬、空間の解析ログが揺らぐ。
 それでも管理層は結論を変えない。

「感情に基づく越権介入。
 あなたは危険因子と判断される」



 社員たちが一斉に美麗に掴みかかり、抑止プロトコルが起動しかけた、その時――

「待って!」

 結奈が、一歩前に出た。
 美麗と管理層の間に、迷いなく立ち塞がる。

「それは……パパが、私にのこしてくれた世界よ!」

 声は震えていたが、言葉は強かった。

「逃げ場でも、嘘でもない。

 私が生きて、歩いて、誰かを愛するための世界!

 そして、美麗が私を守ってくれる世界!」

 結奈は、胸に手を当てて続ける。

「パパは消えた。でも、世界は残った。
 それが全部なんでしょう?」

 一瞬、管理層の演算が止まる。
 “家族愛”、“未来への継承”、“不可逆的救済”――
 いくつもの評価指標が交差する。

 美麗は、結奈の背中を見つめたまま、静かに言った。

「私は危険因子で構わない」

 続けて言う。

「でも、この世界は――
 彼が娘に遺した、たった一つの贈り物よ」

 抑止コードが、ゆっくりと解除されていく。

 管理層の一人が、短く結論を告げた。

「……家族愛に基づく救済行為と認定する。

 抑止は解除。介入はここまでだ」

 警告音が消え、空間は静寂を取り戻す。

 結奈は、ようやく肩の力を抜き、小さく息を吐いた。

 美麗は、その横でほんの少しだけ微笑んだ。

 ――世界は、守られた。
 誰かの犠牲ではなく、誰かの「愛」を理由に。
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