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4 現実を知る

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 年単位で居座られて迷惑を被ってはいるけれど、別に険悪な仲になりたい訳じゃない。
 とはいえ2度と関り合いにならない絶縁状態となってもきっと惜しんだり悲しんだりはしないだろうとも思っている。

 これが彼氏や親友だって言うなら話は違ってくるんだろうけど。

 つまり、面倒な訴訟を起こすくらいなら、今はまだ来月には出ていくという本人の言葉を信じて待っていた方が自分の心身の負担は少ないので、なるべく心穏やかに過ごせるように顔を合わせないように寝室で過ごしたり出掛けたりしている。
 でもいつまでもこのまま居座られると、既に侵害されている私の生活が今後の人生まで犠牲になってしまうことは容易に想像出来る。だってアラフィフだよ?残りの人生どんだけあんのよ。
 今は「村瀬さんだから」何してもいい、大して怒ったりしないと思って家族以上に甘えている状態なんだろうけど、こいつの面倒を見るために自分のやりたいことを我慢したりしたくない。居座られてはいるけれど、できる限り普通に生活を続けるようにしている。

 あと、訴訟に踏み切る前にやれることはある。
 加賀さんは外面をすごく大事にするから(何故か私には適用されないけど)、共通の知り合いに現状を知ってもらう。
 同じくご実家の方に引き取りを交渉する。
 きっと「なんで言い付けるんだ」って拗ねたり逆ギレしたりすると思われるけれど、迷惑を被っているのはこちらなので、逆ギレされたら却って強制的に出ていくように言えるのかな。

 これで駄目なら嫌だけど訴訟するしかないと思っている。

 今思えば、最初に合鍵は絶対に渡さないって決めておいたのは本当に良かったよ。
 最初の一月程は合鍵作ってくれって煩かったけど、絶対嫌だと拒否し続けたらそのうち言わなくなった。その代わり、平気で鍵開けたまま出掛けるようになったけど……。



 ああ、ダメダメ。
 あんまり考えているとストレスになる。

 心身に負荷が掛かる事はしたくないんだ。
 穏やかに必要最低限だけこなして生きていきたい。

 だから今日もなるべく寝室に篭って居間には行かない。
 視たいテレビももういいや。


 きっとその内出ていってくれるよ……。







 2週間後。
 待ちに待った“ゆらりんこ”が届いた。

 でも使おうと思っていたローテーブルの周囲は既に足の踏み場もなくなっている。

「……ねえ、いい加減、この凄い汚部屋を何とかして欲しいんだけど」

「あー、うん」

「……せめて普通の汚部屋くらいにはしてもらわないといい加減虫が涌きそうなんだけど。て言うかいつまでいるの?」

 またいつもと同じようなやり取りをするけれど、すぐに出て行かない事は分かっている。
 仕方がないので“ゆらりんこ”は寝室で使うことにする。


 使ってみた。

 何て言うか…ちょっとコレジャナイ感が……。

 いや、座ってゆらゆらは別に問題ないんだけど、S字の本体に座るとお尻というか太腿にS字が刺さって長くは座っていられない。
 うん。座椅子じゃないからしょうがないよね……。

 加賀さんが出ていったら(当たり前だけど)座面がちゃんとフラットな座椅子を買おう。

 さて。

 オマケの体重計。
 ネットの方でも見たけど“ゆらりんこ”よりこっちの方が実はお値段高いんだよね。何でオマケなんだろうと思ったけど、実はこの体重計ってあまり売れてなくて在庫余りを起こしていたんじゃないかと推測。



 え~となになに…。
 まずはアプリをインストール。
 同期のボタンを押して体重計に乗る……。


 お、出た………。



 ……………。



 もういちど。

 体重計に乗る………。



 ……………………。









 うそだーーーーー!!



 うっそ待って!?これほんと!?





 8 0 キロ !?
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