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76 市場へ行こう
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華がラジネに頼んだ弓は、ラジネの店の一番大きな長弓と同じ長さ、一番小さな短弓の細さを併せ持った弓だった。ちなみに小さな弓は本日お買い上げである。
素材も、ラジネが作業場から出してきた木の中から選びはしたものの、さらに突っ込んで聞けば、ノートに竹を重ねた断面を描いて見せた。
『なるほど。あれならしなるし耐久性も…』
ラジネの工房に竹はなかったが、シアが竹踏みでお馴染みな素材なので解説には困らなかった。
『しかしこれだとバランスが…。上の方が長いのか?飛距離は伸びそうだが当てるとなると…』
『その辺は熟練度の問題じゃない?わたしもこれ欲しい!』
どうもこの“ワキュウ”なるものはパワーで飛距離や威力をどうこうより、射手の技の問題になるのではないかというのが、ラジネとシア共通の予想である。
華も、初心者には難しいといったようなことを身振り手振りするが、シアが最も目を惹かれたのはその美しい姿勢だった。
飛距離を伸ばすために大きく仰け反る事も、近距離を狙うために前屈みにもならない。森の中や馬上での取り回しが不便な気もするが、それも射手の技術的な問題な気もする。
とにかくちょっと引いてみたくなったシアが、店の長弓の下の方を持って華の真似をしてみたところ、華が『かっこいい!』と大喜びしてまた気を良くするのだった。
その後、ラジネとシアの相談により、薙刀を製作した後で和弓に取り掛かるが、まず試作品を華に使って貰い改良したものを店に置くという事で料金は不要となった。
すでに小さな弓は手に入れたし、竹踏みの件で“試作品”を理解している華は、すんなり『たのしみです』と言って店を出たが、完成品が出来ても支払いが発生するどころか、その後の和弓の売上から権利料として受取金が発生する事を知るのはまだ先。楽しみにしていた市場に向かうのだった。
まず華が向かったのは、市場を含む西の広場の入口にある種苗屋だった。
市場の露店ではなく通りと広場両方に面したなかなか大きな店で、華はここでどうしても買いたい物があったのだ。
シアにそれの名前を教えて貰い、店員を捕まえる。
『わたのたね、あるですか。ほしいです』
『はいよー。ちょっと待ってな』
日によく焼けたおじさんが店の奥に種を取りに行く。
(子供のお使いだと思ってるんだろうナー)
見守り姿勢のシアをチラリと見てにこにこと対応するおじさん。
『ハナ。“有りますか”よ。“有る?”でもいいかな』
『あります、か?ありますか?』
『そうそう!上手!』
教えるといちいちお礼を言う華に、育ちの良さが窺える。今でも教えた言葉にわざわざですます語尾で話しているが、母国語では華はもっと丁寧な話し方をするのかもしれないと思うシアだった。
『ほら。これが綿だが…これで合ってるかい?』
袋から出した種を乗せた手を、華に見えやすいように下~に出してくる。
『あんまり発芽率が良くないから、余裕を見て買うといいぞ』
華を子供だと思っているお陰かゆっくり目に話してくれるが、華には何を言われているか分からない。
(どれだけ買うかって言ってるのかな?えーっと、株間…適当に30㎝位だとして、10mの畝を…頑張って5列くらい?1畝30蒔けるとすると150個くらいかな?)
茅の原を開墾して綿の原ならぬ綿畑にする予定の華はざっくり計算する。
今作っている上掛けシーツに綿を入れるため、綿の栽培を計画していた。腐らないし余ったら売れるはずなので是非とも頑張って育てたいところである。
『これください。150くらい』
小袋1つ100リーンが大体50個くらいだと言うので銀貨3枚支払う。
『まいど!』
種苗屋を出て市場へ入る。
『ハナ、それ発芽しにくいって言ってたけど大丈夫?』
端に寄ってノートを出す華に、シアが種苗屋のおじさんの話を説明する。
『はつが。わた、とる。大丈夫!』
『へぇー!ハナはいろいろ知ってるのねえ』
(多分皆さん種にくっついてる綿の繊維をそのままで植えちゃうんじゃないかな…)
最初にファーナに貰った何か判らない種たちも、選別ついでに一通りぬるま湯に浸けて芽出しをしてから植えた華である。
浸けている間に畑の準備も出来て時間の無駄なく種蒔きをすることが出来た。
芽出しをしたので発芽が揃い、その事にアルベルトが驚いたのを華は知らない。
とはいえ、華も東京生まれの東京育ちで農業にそれほど造詣が深い訳ではない。
戦争が始まって少しでも食糧生産を増やせればと農業書を読んだり先生に教わったりした知識やここ数年の経験が大きいのだ。
素材も、ラジネが作業場から出してきた木の中から選びはしたものの、さらに突っ込んで聞けば、ノートに竹を重ねた断面を描いて見せた。
『なるほど。あれならしなるし耐久性も…』
ラジネの工房に竹はなかったが、シアが竹踏みでお馴染みな素材なので解説には困らなかった。
『しかしこれだとバランスが…。上の方が長いのか?飛距離は伸びそうだが当てるとなると…』
『その辺は熟練度の問題じゃない?わたしもこれ欲しい!』
どうもこの“ワキュウ”なるものはパワーで飛距離や威力をどうこうより、射手の技の問題になるのではないかというのが、ラジネとシア共通の予想である。
華も、初心者には難しいといったようなことを身振り手振りするが、シアが最も目を惹かれたのはその美しい姿勢だった。
飛距離を伸ばすために大きく仰け反る事も、近距離を狙うために前屈みにもならない。森の中や馬上での取り回しが不便な気もするが、それも射手の技術的な問題な気もする。
とにかくちょっと引いてみたくなったシアが、店の長弓の下の方を持って華の真似をしてみたところ、華が『かっこいい!』と大喜びしてまた気を良くするのだった。
その後、ラジネとシアの相談により、薙刀を製作した後で和弓に取り掛かるが、まず試作品を華に使って貰い改良したものを店に置くという事で料金は不要となった。
すでに小さな弓は手に入れたし、竹踏みの件で“試作品”を理解している華は、すんなり『たのしみです』と言って店を出たが、完成品が出来ても支払いが発生するどころか、その後の和弓の売上から権利料として受取金が発生する事を知るのはまだ先。楽しみにしていた市場に向かうのだった。
まず華が向かったのは、市場を含む西の広場の入口にある種苗屋だった。
市場の露店ではなく通りと広場両方に面したなかなか大きな店で、華はここでどうしても買いたい物があったのだ。
シアにそれの名前を教えて貰い、店員を捕まえる。
『わたのたね、あるですか。ほしいです』
『はいよー。ちょっと待ってな』
日によく焼けたおじさんが店の奥に種を取りに行く。
(子供のお使いだと思ってるんだろうナー)
見守り姿勢のシアをチラリと見てにこにこと対応するおじさん。
『ハナ。“有りますか”よ。“有る?”でもいいかな』
『あります、か?ありますか?』
『そうそう!上手!』
教えるといちいちお礼を言う華に、育ちの良さが窺える。今でも教えた言葉にわざわざですます語尾で話しているが、母国語では華はもっと丁寧な話し方をするのかもしれないと思うシアだった。
『ほら。これが綿だが…これで合ってるかい?』
袋から出した種を乗せた手を、華に見えやすいように下~に出してくる。
『あんまり発芽率が良くないから、余裕を見て買うといいぞ』
華を子供だと思っているお陰かゆっくり目に話してくれるが、華には何を言われているか分からない。
(どれだけ買うかって言ってるのかな?えーっと、株間…適当に30㎝位だとして、10mの畝を…頑張って5列くらい?1畝30蒔けるとすると150個くらいかな?)
茅の原を開墾して綿の原ならぬ綿畑にする予定の華はざっくり計算する。
今作っている上掛けシーツに綿を入れるため、綿の栽培を計画していた。腐らないし余ったら売れるはずなので是非とも頑張って育てたいところである。
『これください。150くらい』
小袋1つ100リーンが大体50個くらいだと言うので銀貨3枚支払う。
『まいど!』
種苗屋を出て市場へ入る。
『ハナ、それ発芽しにくいって言ってたけど大丈夫?』
端に寄ってノートを出す華に、シアが種苗屋のおじさんの話を説明する。
『はつが。わた、とる。大丈夫!』
『へぇー!ハナはいろいろ知ってるのねえ』
(多分皆さん種にくっついてる綿の繊維をそのままで植えちゃうんじゃないかな…)
最初にファーナに貰った何か判らない種たちも、選別ついでに一通りぬるま湯に浸けて芽出しをしてから植えた華である。
浸けている間に畑の準備も出来て時間の無駄なく種蒔きをすることが出来た。
芽出しをしたので発芽が揃い、その事にアルベルトが驚いたのを華は知らない。
とはいえ、華も東京生まれの東京育ちで農業にそれほど造詣が深い訳ではない。
戦争が始まって少しでも食糧生産を増やせればと農業書を読んだり先生に教わったりした知識やここ数年の経験が大きいのだ。
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