異世界で、平和を願う。

ちょこぼーらー

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90 それが必要な理由

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 グレイルとアランは領都に留め置かれている間で、すでに町兵の資料には目を通していた。
 それにバルミラ討伐の折りに見た町兵の練度や、配置の現状などを考慮しての大幅見直しである。

 まずこの町はそれほど大きくない割に4つの門に各5人もの人員が配置されている。
 もちろん常時5人ではなく、朝番昼番夜番と交代しながらではあるが、日中は5人が門に揃っていたりもするのだ。
 何故ならこの町では町中警らの業務はなく、何か起こったら町民が門へ兵を呼びに来るからだ。

 このルーシェッツの町はローレンス商会の創業者であるローレンスが造った比較的新しい町で、出来てから70年程しか経っていない。
 まだまだ発展途上で人口もこれから更に増えるだろう。
 顔見知りも多いが新しい住人も多い。
 まだスラムもなく治安が目立って悪いと言うこともないが、揉め事の類いは普通にある。

 現に市に近い西門では独自に日中市場周辺を見回る事をしている。
 これを、町兵部隊として警らの班を正式に設けて門の警備と分ける。

 町中警ら班の新設にあたって、市場等の重点箇所やルートなどは実際の稼働後に現場と擦り合わせるにしても、町民は何かあれば今まで通りに門へ行くだろうから門の人数もそれほど減らすわけにはいかない。しかし、ローテーションを組めば然程無理の出る人数ではないだろう。

 むしろこれから町兵達に課す訓練の方が問題だった。

 これまで町兵部隊としては訓練らしい訓練をしていなかったのだ。
 新たに町兵になる者が、ナッシュなどに兵士としての指導を始めに受けて、各門にて先輩の兵に業務を教わりながら、腕を磨きたいものは各自で鍛練していたらしい。

 グレイルとアランはこの訓練を、今後は町兵部隊としての業務に組み込もうとしていた。

『どのみち今の町兵じゃ、何かあった時に対応出来ないからな。かといって俺が何か指導できるわけでもないし』

 いい機会だと言うナッシュにアランが肩をすくめる。

『反発必至だろうけどな』

『給料貰って騎士様の訓練が受けられるんだ。文句は言わせないさ』

 そういうナッシュがいなければ今の町兵だって整列すらまともに出来ていなかっただろう。昨日の非常召集の際には辛うじて整列らしきものは出来ていた。

 この町の町兵は、全員町民でもある。町で生まれ育ち、仕事として兵士を選んだ者、仕事が見つからず、それならと兵士になった者。今のところ来るもの拒まずで人数だけは揃っている。
 ナッシュもこの町で生まれ育ったが、父親が領都から派遣された兵士だった。似たような境遇の者が数人いて各門の班長を務め、若い者を指導しているのだ。
 逆に言えばそれだけで、有事の際だとか要人貴人が訪れた際の対応などは班長達ですら経験が無いし分からない。分からないものは当然教えることも出来ない。

 唯一北の端にある領主の別邸に詰めている数人の領兵は、領都の騎士団から交替で来ている兵士だ。
 騎士ではないが、その領兵も訓練に巻き込もうとグレイルとアランは画策している。指導側として。

(引退したナッシュ達の親世代にも声かけてみるか…)

 いい案を思い付いたと思っているグレイルだが、ナッシュ達の親世代のほとんどがまだ現役で領兵に所属していることを後で知ることになる。

『じゃあ、これからは門番、警ら、訓練と非番で回していくんだな?…確かに町中警らの班は必要だしな。分かった。承認しておく』

 渡された紙の下の方に代官として承認する旨とサインを書くラインハルトの言葉に引っ掛かるものがあったグレイルは、素直に聞いてしまう。

『何か、警らが必要な案件でも?』

 サインをし終わった父親にじぃっと見詰められて困惑するグレイルのすぐ後ろでは、アランとナッシュが顔に手を当てて辛そうにしている。

『あの?』

『……昨日、不審者がいたと報告を受けている』

『えっ、不審者ですか?どんな…』

『可愛い女の子の後を付けている不審な男がいたんだよこのバカタレが!』

『俺か!?』

 後ろからナッシュに罵倒されて己の所業を思い出すグレイル。
 次いで昨夜母親を泣かせてしまった事と、今朝ファーナが会わせてくれた華を思い出す。
 もし華がまた町で不審な男に後を付けられたりしたら…。

(許せん…!!)

『町中の警らを強化しましょう!』

 まだ編成も稼働もしていない警らを強化するとか言い出した息子にため息しかないラインハルト。

『お前が一番に捕まりそうで心配だよ……』

 因みに今朝、ファーナはグレイルを華に会わせてただ喜ばせる為に馭者をさせたわけではない。
 華に会わせてみて、グレイルからは華に何もしないという約束を守れるかどうかの確認だ。

 それと、華がグレイルの事をどう思っているかの確認。

 結果はグレイルの顔すら覚えていないという哀しい事実だったのだが、グレイルにとっては堂々と可愛い華に会えた幸せな朝だったのだ。

(そろそろ買い物を終えて家に来ているだろうか)

 華に会える事を考えて途端にそわそわし出すグレイルに、こんなのが町にいたら警らがいなくてもまず通報されて捕まりそうだと不安になる父だった。
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