110 / 154
109 迷子?
しおりを挟む
どうやって背負子に入り込んだのか、背負子の籠の底に甲羅がきっちり嵌まってしまっている。
これでは今は甲羅の中に引っ込んでいる中の子も出るに出られないだろう。
とはいえ、中の子が無理矢理出て来ても、華が頑張って籠の底に手を突っ込んで取り出しても籠が壊れそうで嫌だった。
(ここはアレしかないよね)
「よいしょっ」
華は籠をひっくり返して底をぽんぽんした。
「アレ?」
落ちてこない。
どれだけきっちり嵌まっているのか。
いや、違った。
半分落ちかけている。
それを、左右の前足だと思われるものが甲羅から出ていて、籠の底をがっちりと掴んでいるのだ。
「…必死に掴んでるところ悪いけど」
結構な力で掴んでいるようだったが、その指、というより爪を1本ずつ外せばあっさり片手が籠から外れ、じたばたし出したが再び籠を掴む事が出来ないようだった。
梃子でも動かないという意志を感じるような掴まり方だったので、じたばたするのを見て華はほっとした。
元気そうで良かったと。
もうひとつの足は、爪を全部外す前に自重を支えられなくなって自然と外れ、ごろんと落ちた。もちろんひっくり返った状態で。
「ちょと待っててね」
華は籠を仕舞うと、元の竹林に戻すべく、ひっくり返った亀を持ち上げた。
「…そんなに重くないね?」
生まれて初めて触った亀は想像よりもずっと軽く、これなら川向うまでさっと行って帰って来られそうだと華は安心した。
藤棚さんで飼ってもいいのだが、お世話の仕方も分からないので元の場所に戻すのが一番良いように思ったのだ。
「亀さんって、確か噛むんじゃなかったっけ…」
歩きながらそんなことを呟くと、いつの間にか甲羅から首を出していた亀が首を更に伸ばして、自分を持ち運ぶ華を見上げた。
そして口をくわっと開けて見せた。まるで華の呟きが聞こえたかのように。
「あれっ?」
その口を見て華は気付く。
「亀さんって、歯が無い?」
華が初めて見る亀の口には歯らしきものはなく、肯定するかのように口を閉じて再び後ろの華から前に首を戻す亀が、まるで「分かったか」と言っているみたいで華は笑ってしまった。
川を越え、この日伐採していた竹林に到着すると、華は亀を地面にそっと下ろした。
「勝手に持って行っちゃってごめんね」
(左様ならばはおかしいかな?ここに竹を伐りに来たらまた会うかもしれないし…)
「またね、亀さん」
同じ山に住む者同士、気弱さんのようにまた会うことがあるかもしれないと少しだけ期待して、華は藤棚さんに戻って行った。
その翌日はミルク配達の日だった。
前の日、亀を戻した後は水道の設置をするために奮闘していた華だったが、小さな華では思うように木の枝同士に竹樋を引っ掛けられずにいた。
自力での竹樋の設置は諦めてミルク配達のお兄さんお姉さんに手伝ってもらう事にした華は、藤棚さんと綿畑の中間地点に掘った溝に、せっせと石や割れた土器を敷き詰める。
竹樋のゴールは盥ほどの大きさで念入りに。
南側斜面に伸ばした溝は、側面を崩れないように後は適当に。
地面に水が染み込んでいってもいずれ下の川に合流するだろうとの考えで、溝自体も藤棚さんより下の、斜面が急になる辺りからは掘っていない。
実際に水が流れればすぐに水の道筋が出来上がるだろう。
下に畑や民家があればそんなことは出来ないが、斜面の下にあるのは川で、元々そこを流れる予定だった滝の水の余りをお返しする、程度の考えだ。
荷車のお陰で大量に川原の石を運べている。
運んだ石をせっせと溝に詰めていると、マールの笑い声が聞こえてきた。
『なんじゃこりゃー!ぎゃはははは!』
藤棚さんの竹垣の中にいるようだった。
いつも馬達は川原の側の木に繋いでいて、いつでも川の水を飲めるようにしている。
ミルクを先に藤棚さんの中に入れてくれたのだろうが、何か愉快な事でもあったのだろうか。
『おはよー?』
竹垣を入った華が声をかけると、全員振り返って挨拶を返してくれる。
畑は出来上がったのにまたいつもの4人で来てくれたようだ。
『マールさんわらう、なに?』
『あれあれ!』
マールが指差すのは藤棚さんの茅の屋根。
どうやって上ったのか、多分前日と同じ亀が日向ぼっこをしていた。
これでは今は甲羅の中に引っ込んでいる中の子も出るに出られないだろう。
とはいえ、中の子が無理矢理出て来ても、華が頑張って籠の底に手を突っ込んで取り出しても籠が壊れそうで嫌だった。
(ここはアレしかないよね)
「よいしょっ」
華は籠をひっくり返して底をぽんぽんした。
「アレ?」
落ちてこない。
どれだけきっちり嵌まっているのか。
いや、違った。
半分落ちかけている。
それを、左右の前足だと思われるものが甲羅から出ていて、籠の底をがっちりと掴んでいるのだ。
「…必死に掴んでるところ悪いけど」
結構な力で掴んでいるようだったが、その指、というより爪を1本ずつ外せばあっさり片手が籠から外れ、じたばたし出したが再び籠を掴む事が出来ないようだった。
梃子でも動かないという意志を感じるような掴まり方だったので、じたばたするのを見て華はほっとした。
元気そうで良かったと。
もうひとつの足は、爪を全部外す前に自重を支えられなくなって自然と外れ、ごろんと落ちた。もちろんひっくり返った状態で。
「ちょと待っててね」
華は籠を仕舞うと、元の竹林に戻すべく、ひっくり返った亀を持ち上げた。
「…そんなに重くないね?」
生まれて初めて触った亀は想像よりもずっと軽く、これなら川向うまでさっと行って帰って来られそうだと華は安心した。
藤棚さんで飼ってもいいのだが、お世話の仕方も分からないので元の場所に戻すのが一番良いように思ったのだ。
「亀さんって、確か噛むんじゃなかったっけ…」
歩きながらそんなことを呟くと、いつの間にか甲羅から首を出していた亀が首を更に伸ばして、自分を持ち運ぶ華を見上げた。
そして口をくわっと開けて見せた。まるで華の呟きが聞こえたかのように。
「あれっ?」
その口を見て華は気付く。
「亀さんって、歯が無い?」
華が初めて見る亀の口には歯らしきものはなく、肯定するかのように口を閉じて再び後ろの華から前に首を戻す亀が、まるで「分かったか」と言っているみたいで華は笑ってしまった。
川を越え、この日伐採していた竹林に到着すると、華は亀を地面にそっと下ろした。
「勝手に持って行っちゃってごめんね」
(左様ならばはおかしいかな?ここに竹を伐りに来たらまた会うかもしれないし…)
「またね、亀さん」
同じ山に住む者同士、気弱さんのようにまた会うことがあるかもしれないと少しだけ期待して、華は藤棚さんに戻って行った。
その翌日はミルク配達の日だった。
前の日、亀を戻した後は水道の設置をするために奮闘していた華だったが、小さな華では思うように木の枝同士に竹樋を引っ掛けられずにいた。
自力での竹樋の設置は諦めてミルク配達のお兄さんお姉さんに手伝ってもらう事にした華は、藤棚さんと綿畑の中間地点に掘った溝に、せっせと石や割れた土器を敷き詰める。
竹樋のゴールは盥ほどの大きさで念入りに。
南側斜面に伸ばした溝は、側面を崩れないように後は適当に。
地面に水が染み込んでいってもいずれ下の川に合流するだろうとの考えで、溝自体も藤棚さんより下の、斜面が急になる辺りからは掘っていない。
実際に水が流れればすぐに水の道筋が出来上がるだろう。
下に畑や民家があればそんなことは出来ないが、斜面の下にあるのは川で、元々そこを流れる予定だった滝の水の余りをお返しする、程度の考えだ。
荷車のお陰で大量に川原の石を運べている。
運んだ石をせっせと溝に詰めていると、マールの笑い声が聞こえてきた。
『なんじゃこりゃー!ぎゃはははは!』
藤棚さんの竹垣の中にいるようだった。
いつも馬達は川原の側の木に繋いでいて、いつでも川の水を飲めるようにしている。
ミルクを先に藤棚さんの中に入れてくれたのだろうが、何か愉快な事でもあったのだろうか。
『おはよー?』
竹垣を入った華が声をかけると、全員振り返って挨拶を返してくれる。
畑は出来上がったのにまたいつもの4人で来てくれたようだ。
『マールさんわらう、なに?』
『あれあれ!』
マールが指差すのは藤棚さんの茅の屋根。
どうやって上ったのか、多分前日と同じ亀が日向ぼっこをしていた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる