ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

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第二章

4月16日(火):部室棟

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 【京一】

 放課後、僕は文化部の部室棟に向かっていた。

 僕はどの部活にも所属していない。しかし今になって、入学して以来一度も行ったこともない部室棟にわざわざ足を踏み入れている。晃と、イブとクララと共に。

 きっかけは本日の昼休みのことだった。食堂でイブが突然言い出したのだ。


「私と蘭子さ、手芸部に入ろうと思ってるの。……今日の放課後に見学しに行くつもりなんだけど、部室棟とかどこにあるかわかんなくてさ。だから、晃と京一、悪いけど付き合ってくれない? どうせヒマでしょ?」

 お願いをする言い方ではあるが、僕らに判断を委ねる気などはさらさらなさそうな顔だった。
 あっさり、僕と晃はこうして彼女らにつき合わされている。


 文化部系の部室棟は学校の敷地の端のほう、教室棟の裏に隠れるようにして建っている。普通に学校生活を送っているうえではまず立ち寄らない場所だ。寂れた雰囲気が漂っており、学内での文化部の扱いが少々ぞんざいであるように感じられる。

 日当たりの具合が悪いのか、やけに薄暗い。暗い廊下に様々な部室が並んでいる。中には存在すら知らなかった部もある。


「私、夢だったんだあ、手芸部に入るの。材料とかいろいろ、部費で買えちゃうんでしょ、ぬいぐるみ作り放題だよね、えへへ」

 クララがふにゃっとした笑顔で言う。

「あー、クララは昔からそういうの好きだったもんなあ。でも、なんでイブも手芸部に入んの?」
 晃が訊ねた。

「私は、……生物部とかあれば入ってみたかったんだけど……この学校にはないみたいだし。でもどこの部活にも入らないってのは淋しいからさ。じゃあもう蘭子と一緒にしよっかなと思っただけ」
「生物部?」

 意外だ、と一瞬思ったが彼女の趣味を考えてみれば合点がいった。


 それぞれの部室の入り口の上にはプレートがあり、その部の名が冠されている。その中に『手芸部』の文字を見つけた。ここだ。
 入り口の前に立ったが、室内に人がいる気配がない。中から話し声どころか物音ひとつないのだ。一応ノックをしてみたが、返答はない。

「今日はやってないのかな……」

 クララが言う。確かにどの部も毎日欠かさず活動があるとは限らない。例えば決められた曜日だけ集まって活動しているとか。厳しい特訓などとは無縁そうな手芸部ならきっとそうしているだろう。


「……出直しだな」
 僕がそう言うと、晃が露骨に嫌な顔をしてうなだれる。

「まじかよ。せっかく付き合ってやったのに。こんなことならさっさと帰ってればよかったじゃんか。ちくしょう、俺今頑張って積みゲー消化してんだぜ」

 何を言っているのかよくわからないが、とにかく早く帰りたいらしい。
 しかしいくら無駄足だったとはいえ、イブやクララの前でそこまで露骨にうなだれることはないだろう……ああ、ホラ見ろ、イブなんか明らかに晃のことを睨んでいる。


 人がいないなら仕方ない。また改めるとして、今日は帰ろうかときびすを返す……と、そのとき。

 ギギギ、と、立て付けの悪そうな扉開音がする。ただし手芸部の扉ではない。その隣の部屋だ。


「あれ? なんか騒がしいと思ったら。京一と晃だったのか」
 半分ほど開けた扉の隙間から、ひょろ長い男が顔をのぞかせて言った。

「あ、山本」

 思わず晃と声をそろわせてしまった。クラスメイトの山本がそこにいたのだ。

「二人とも、ここで何してんだ?」

 言いつつ山本が廊下に出ようとすると、――突然、その背後から彼を押し出して勢いよく女生徒が飛び出してきた。


「どしたの耕太郎! なんかおもしろいモノでもあった?」

 山本はその勢いのまま吹っ飛んで反対側の壁に激突した。

「おや! 小智君と遠野君じゃないすか。どしたんですか」

 山本を押しのけて部屋から出てきたその女生徒は、溌剌はつらつと喋りながら眼鏡をくい、と釣り上げた。鮮やかな赤色のフレームで、珍しくアンダーリムの眼鏡である。

 僕は彼女らが出てきた部室のプレートに目を向けた。
 ――『新聞部』。
 なるほど、手芸部の隣はこいつらの部室だったのかと納得する。


「あ、君たちは一年生ですか? なになに、もしかして我が部を見学したいんですかっ?」

 まるでインタビュアーが芸能人にマイクを向けるように、彼女がイブとクララに詰め寄った。色々と突然の事態に二人はきょとんとして固まってしまっている。見かねてか、起き上がってきた山本が彼女の肩に手を置いて落ち着くよう促した。

 彼女の名は遊免一佳ゆうめんいちか

 眼鏡の種類だけでなく名字もまた珍しい。学年は同じだがクラスは違う。しかし僕と晃は彼女のことをよく知っている。……いつも山本から話に聞いているからだ。

 遊免と山本、二人は交際関係にある。
 テンションの高いこの眼鏡っ子は隣のひょろがり男の恋人なのだ。


       /


 山本と遊免は僕らを新聞部部室に入れてくれた。
 室内にいる新聞部員は彼ら二人だけだった。そもそも新聞部員の中で積極的に活動をしているのはほぼ二人だけらしい。三年の部員はおらず、遊免が部長を務めている。

 部員同士で恋人である二人だが、部の活動の中で恋愛が成就したのかというとそういうわけではなく、彼らの付き合いは中学時代より続いているものなのだ。
 つまりカップルで同じ高校に入学してしかも同じ部活に入部したということだ。もはや爆散などして然るべきである。

 新聞部の部室内で、遊免が僕らに手芸部についての情報を教えてくれた。


「もともと、去年まで手芸部は三年の人たちしかいなかったんすよ。その人たちがこの三月で卒業しちゃったから、今は部員がゼロになってしまっていて、部室がもぬけの殻というわけなのです」
「そうだったんですか……」

 クララが残念そうに顔を俯ける。

「でも、そんな悲観的になることもないすよ。入部申請締め切り日までに新規部員が五人以上集まれば、手芸部の廃部は免れられるんすから」
「……っ、じゃあ……」

 遊免から部員の規定人数を聞いたクララが、イブの方をちらりと見た。
 そのイブはまた僕と晃の方をちらりと見る。


「二人とも、部活入ってないんだよね?」

 イブが言う。その質問の真意は火を見るよりも明らかである。

「俺はやだぞ! なんで手芸部なんか入らにゃならんのだ」
「んー、京一と晃が入ってもあと一人足りないなあ……」
「聞けやあ!」

 猛烈に抗議する晃を後目しりめに、指を折って人数をカウントするイブ。彼女の中では僕と晃が入部することは確定しているらしい。クララも異議はなさそうに微笑んでいる。


 そこで、部屋の隅の方で立っていた山本が突然口をはさんできた。

「手芸部だったら、宮本誘えば? あいつ裁縫とか好きだぜ。確か宮本、なにかの同好会には入ってたけど部活はどこも入ってないだろ」
「……なんでお前がそんなこと知ってんだ。お前と宮本って仲良いの?」

 僕は、宮本についてやたら詳しい山本に対し、少し感情を濁らせつつ聞く。

「仲良いっていうか……、俺、宮本と中学一緒だからさ」
「あ、そうなのか」

 初めて聞いたことだ。確かに、関わりが長ければ相手の趣味などを自然と把握することもあるだろうか。納得した。


「中三の文化祭のとき、クラスの出し物で演劇をやったんだよ。――『ロミオとジュリエット』。宮本はジュリエット役だったんだが、裁縫得意だからって言って衣装の縫い合わせも自分でやってたんだ。あいつめっちゃ演技うまかったし、なかなか評判よかったんだぜ」

 宮本の演じるジュリエット……。さぞかし艶美であったことだろう。

「そんで、その衣装の完成度も高かったし、楽しそうに衣装作ってたし。宮本なら手芸部向いてるんじゃね。俺、あとであいつに聞いといてやろうか? 連絡先知ってるし」
「おお。ありがとう山本! 助かるよ」

 正直、僕は手芸などには欠片も興味はないが、宮本が一緒に入部してくれるのなら入部もやぶさかではない。むしろ本望。
 図書委員だけでなく、部活まで同じになれるとは……。いや、まあ、とはいえ別にそれに乗じて言い迫ろうなんて思ってはいないが。

 僕の個人的な都合はさておき、ともかく宮本が入ってくれれば手芸部は存続され、クララの念願が叶う。


「ふふん、よかったですねみなさん。これで手芸部も廃部にならないで済みそうすね」
「ええ、先輩、ありがとうございます。ね、良かったじゃん、蘭子」

 イブが嬉しそうにクララの方を見る。

「うん、そうだね……」

 手芸部の廃部を免れられそうでご満悦、かと思ったが、クララはどこか浮かない面持ちだった。
 なにか言葉が喉元につかえさせていそうな様子だ。……どうかしたのだろうか。
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