ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

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第三章

4月19日(金):意外な着信

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 【京一】

 教室に入り、席に着く。
 幼馴染と淡泊な挨拶を交わし、ちょうど授業開始前の予鈴が鳴るころ、ポケットに入れていたケータイがピロンと音を出した。メッセージアプリが受信した際に鳴る音だ。

『おはよ』

 差出人は、イブであった。

 意外だった。彼女とは連絡先の交換などはしていたが、やり取りすることはあまりない。もちろん、何か特別な用事があれば気兼ねなくメッセージを送り合うが、しかしこの文面はただの何気ない挨拶……。

『おはよう』
 とりあえず、挨拶を返す。

『もう熱は引いたんだけど、ついでにもう一日休んじゃった』

 すぐに彼女から返信。
 やはり、具体的な何か用事があるわけではないのだろうか。


 まあ、深くは気にせず、僕は適当なスタンプだけ押して、すぐにケータイを切った。さきほどから凛が鋭い視線を送ってきている。
 もうすぐ授業が始まるのになにケータイいじってんの、と、その目が言っていた。
 ケータイを鞄にしまったのと同じタイミングで、一限目の担当教師が教室に入って来て、凛が号令を出した。

 記憶が途切れ、次に気がついた時には一限目が終了していた。居眠りしていたらしい。

 そういえばと思い出して、鞄から携帯電話を取り出すと、僕のスタンプに対してイブからも同様にスタンプの返しが来ていた。それに対しては僕からの返信はいらないだろうかと思い、アプリを閉じようとしたところで、――またピロンと鳴る。
 もちろんイブから。おそらくこの授業の合間の休憩時間を見計らって送って来たのだろう。


『見て見て! かわいいでしょ』

 というメッセージの直後、画像が添付される。――それは彼女の自慢のペット、フトアゴヒゲトカゲのドラコの写真であった。

 ……急になんだ?
 ただの挨拶の次は、ペットの写真。
 やはりなにか要件があるわけではないらしい。トカゲに関して盛り上がりたいなら晃の方に送ってやれば良いのに。


 彼女の意図が掴めず不思議に思うも、とりあえず『かわいいな』と返す。

 するとまた立て続けに写真がバンバン送られてきた。

 全身を写したもの、
 手や足やしっぽのアップ、
 顔のドアップ、
 ……様々なアングルのトカゲの写真が、何枚も何枚も送られてくるのだ。


 そんな調子で、ちょうど授業の合間を見計らって、彼女は僕にペットの写真を送り続けてきたのだった。もはや僕のリアクションなど待たず、一方的に。
 写真だけでなく、『この顔すっごいカワイイでしょ!』とか、『ほらみてちっちゃい爪』とか、『この尻尾! カッコイー!』とか、文面もしきりに送られ、彼女のトカゲ愛がひしひしと伝わって来た。

 すなわちその感情を基盤としてあの夢世界が形成されているわけだと、改めて思った。

 彼女がなぜ突然僕にトカゲの写真を送りつけてきたのか、その意図はさっぱり分からないが……とにかく僕は彼女から送られてくる写真を順々に眺める。
 何枚も写真を見ていると、確かに、多少かわいげがあるようにも見えてきて、愛着心のようなものもわずかに湧く。――また、イブの部屋へ行ってトカゲ鑑賞をしてみたいと思った。もちろん晃を連れて。


 トカゲの写真につい見入っていたが、『これ、とっておき! お食事中!』との文面の直後に送信されてきた写真を見て、僕はそのままケータイをそっと閉じてポケットにしまった。
 ……何を以ってして『とっておき』なのか。それはドラコが生餌のコオロギを捕食する写真だった。

 今から昼休みだというのに、勘弁してほしいものだ。


        /


「今日も美代ちゃん、休みなの」
 クララが寂しそうにそう言って、僕と晃の座るテーブルへやって来た。

「京一君。まだ凛ちゃんからは、入部の返事もらえてないんだよね」
「まあ……」

 本当は保留でもなんでもなく、はっきり断られているのだが。それも二度も。

 ――だが、まだ推せばなんとかなる、と僕は思っている。
 凛が入部を躊躇うのは、とある懸念を抱いているためであり、それさえ解消されればきっと受け入れてくれる。わずかながらその見通しがあるので、クララには今のところ、凛に入部を拒否されたということは伏せている。


「でも、ま、お前が推せば、なんのかんの凛は承諾してくれると思うぜ。なんたって幼馴染だし」

 晃が、定食の沢庵をぽりぽり噛みながらそう言った。

「うーん……、京一君が凛ちゃんのことを引き入れてくれたとしても、美代ちゃんがあの感じのままじゃ、良くないよね。ハッキリ嫌だとは言ってないけど、乗り気でもないもん」

 確かに。
 イブは、口では、本心を語っていない。

 実際、本心では凛とまた仲良くしたいと思っている。
 しかしそれは心の奥底、深層部で考えていることであって、それが表層部に浮上しない限り、その気持ちを素直に態度には出さないだろう。イブ自身がその感情を自覚しているとさえ限らない。


「まあでもイブは休んじまってるしなあ。実際のトコどう思ってんのか、直接話も聞けねえし。いいんじゃね、凛さえ入ってくれれば廃部は免れるんだから。イブが乗り気かどうかとかはこの際どっちでも」

 クララとは対照的に、非常に楽観的な晃。

「それは……。ううん、だめだよぅ。美代ちゃんの気持ちがなあなあのまま、話を進めちゃうのは……。ちゃんと、気持ちを整理したうえで五人みんなが揃って、それで、昔みたいに仲良しになりたいよ」

 あまり自分の意見を強く主張しないクララにしては、はっきりとした意思表示であった。
 まあそうだろう、クララは手芸部に入りたいだけでなく、この機に乗じ、凛とまた仲良くしたいと思っているのだ。そのため、イブが乗り気かどうか、はこの際に非常に重要なことである。


「つってもなあ。今日、金曜だぜ。イブは今日休みで、そんで土日の間は会わねえだろうし。入部申請の締め切りの月曜まで、ちゃんと話しもできねえよ。ていうか、やっぱり今のうちに宮本に入部をお願いしておいた方が手っ取り早いんじゃね? このままイブと凛を会わせても、なんか気まずくなって、むしろ余計にぎくしゃくしちまうかもしれねえし」

 投げやりな感じで言う晃に対し、クララが焦った様子で口を開く。

「あ、あのね。前からね、次の日曜日に、美代ちゃんとお買い物に行こうって約束をしてたの。そのときにはもう風邪も治ってるだろうし。だからっ、美代ちゃんと会ったときに……ちゃんと、凛ちゃんに入部してもらいたいの、って私から言うから。しっかり言えば、きっと美代ちゃんも受け入れてくれるよ! だから大丈夫、うん!」

 半ば自らに言い聞かせるような言い方である。


 晃も、投げやりな言い方ながら、一応イブのことを考えているのだろうと思う。
 無理に凛と引き合わせて、余計に関係がこじれてしまうのは避けてやりたいのだ。――ただまあ、あるいはそれも建前なのだろう。
 こいつの場合はわざわざ夢で問うまでもなくその奥に潜む本心は察せられる。面倒ごとに巻き込まれたくないだけなのである。
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