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第三章
4月19日(金):やる気一杯
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【京一】
その日の夜。
「ドモドモ京一サン!」
「はいはい。どーも」
例によってもやの中から元気よく飛び出してくる小人。
思えば、この小人と初めて会ってからもう一週間が経過している。
あまりに奇天烈な夢での出会い、だが時間が経てば慣れてしまうものだ。夢の案内人を自称する奇妙な小人の存在は、すでに僕の日常の一部と化している。
今になれば、こいつの存在には感謝できる。
僕が想い人に勝手に告白をしてキスを迫るだとかいう不埒な夢を見ていたから、という理由で夢の中に現れたこの案内人だが、こいつの存在は僕が現実で抱える問題に対して、正直、非常に有益なものとなっている。
手芸部存続を巡る微妙に繊細な人間関係――その現実問題に対して、僕がやれることは現実にはない。
しかし夢の中でなら、僕がやれることもある。
イブの本心を知ることもそうだ。彼女が凛を拒絶していたら、凛を入部させることは無理だった。
だがイブは、凛とまた仲良くしたい――と、本心では思っている。
それさえ確認できれば、気兼ねなく動けるのだ。
「ふふん、京一サン、ヤル気いっぱいってカンジの目、してマスネ」
「そうか?」
「エエ。らしくないデス」
「いつも無気力で悪かったな」
「イイエ、悪くないデスヨ? いっつもヤル気いっぱいでギンギンしてる男なんて、ワタシ、ちょっと嫌デスもんネ。まァ、そうだなァ、いつもは割と淡白風なくせに、あるとき急にグイと来てくれるのがいいカナ。ふへへ」
頬に手を当てながらそんなことを言うキューピー。なんだか話がずれている。
とにかく、僕は今夜、らしからぬ使命感を負って夢へ臨んでいるのだ。
僕がすべきこと。
夢の世界で行うこれは、いわば根回しというか、暗躍というか……ともかく表立っての行動ではない。だが、だからこそ五人の関係を『自然な形』へ導けるはずなのだ。
昨日、イブの本心を聞けたが、しかしそれはあくまで心の奥底の本音の部分である。その感情は表層意識にはない。
要は、それを表層部にまで浮上させてやらなければならないのだ。
問題の根本の部分は、小学校の頃は五人で仲良く遊んでいたのに中学生になってからは凛と疎遠になってしまったということにある。
親しい関係から気まずい関係になってしまったのだ。
そう、イブの気持ちがどうか、あるいはそれに対する凛の懸念も、いずれにしても問題はそこだ。僕ら四人と凛との間に空白期間があること。
ならば、その空白を埋めればよい。仲良く遊んでいたあの頃の感情を『思い出せば』よいのだ。
例の、調理実習のチョコの件と同じだ。子供の頃、凛からもらったチョコケーキを食べて気分が悪くなってしまった出来事があった。
凛は実習の日の時点ではそのことを忘れていたが、その晩の夢で当時と同じ状況となり、翌朝には僕のチョコ嫌いを思い出していた。
夢で過去が再現される。――すると、心の奥底に眠っていた記憶が呼び起こされる。
以前、宮本が「ちょっとしたきっかけで、ずっと昔の頃の印象を急に思い出したりとかする」と言っていたのが、まさにそれだ。
「昨晩おっしゃってた京一サンの計画を改めて確認しまショウカ。
夢世界で、お友達みんなを集めて、子供の頃に一緒に遊んでいたときの情景を作り出す、――すなわち『昔の再現』をするんデスネ。夢で子供の頃の情景を見せることで、意識の深層に眠っている『あの頃の感情』を表層意識まで呼び起こす! フム、とっても良い考えデスヨ!」
「それは可能なんだろ?」
「エエ。でも、いきなり五人を一つの夢に集めることはできまセン」
「そうなのか?」
「ワタシが直接彼らの夢に行ってしまっては、今の京一サンのように夢世界で『覚醒』させてしまうことになりマスからネ。この件は、無意識へ介入することに意味があるので、夢で意識を持たせてはいけまセン」
「ん? どういうことだ……?」
この小人が皆の夢へ直接現れると、覚醒してしまう?
……そうか、僕は深層部たるこの夢の世界でも、確かな自意識を持てている。それは、始めの夜にこの小人が僕の目の前に現れたからだ。
だから、同じようにみんなの夢の中にキューピーが出現しては、夢の中で意識を持ってしまうのだ。そうなっては話が滅茶苦茶になってしまう。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「京一サンの夢を基盤として、彼らの夢に介入しマス。ワタシが直接彼らの夢に現れるのではなく、京一サンが彼らの夢に行ってつながりを作っておくのデス。」
「よくわからないけど……要は、僕が晃やクララの夢に行かないといけないのか?」
「そうデス、凛チャンとイブチャンの夢にはすでに行っているので良いデスが、そのお二人の夢には一度行っておかないといけないってことデスネ。五人を一堂に会させるのは、それを済ませてからデス」
「わかった。じゃあ、――『案内』をたのむよ」
「おまかせクダサイ! じゃあ、まずは――……」
その日の夜。
「ドモドモ京一サン!」
「はいはい。どーも」
例によってもやの中から元気よく飛び出してくる小人。
思えば、この小人と初めて会ってからもう一週間が経過している。
あまりに奇天烈な夢での出会い、だが時間が経てば慣れてしまうものだ。夢の案内人を自称する奇妙な小人の存在は、すでに僕の日常の一部と化している。
今になれば、こいつの存在には感謝できる。
僕が想い人に勝手に告白をしてキスを迫るだとかいう不埒な夢を見ていたから、という理由で夢の中に現れたこの案内人だが、こいつの存在は僕が現実で抱える問題に対して、正直、非常に有益なものとなっている。
手芸部存続を巡る微妙に繊細な人間関係――その現実問題に対して、僕がやれることは現実にはない。
しかし夢の中でなら、僕がやれることもある。
イブの本心を知ることもそうだ。彼女が凛を拒絶していたら、凛を入部させることは無理だった。
だがイブは、凛とまた仲良くしたい――と、本心では思っている。
それさえ確認できれば、気兼ねなく動けるのだ。
「ふふん、京一サン、ヤル気いっぱいってカンジの目、してマスネ」
「そうか?」
「エエ。らしくないデス」
「いつも無気力で悪かったな」
「イイエ、悪くないデスヨ? いっつもヤル気いっぱいでギンギンしてる男なんて、ワタシ、ちょっと嫌デスもんネ。まァ、そうだなァ、いつもは割と淡白風なくせに、あるとき急にグイと来てくれるのがいいカナ。ふへへ」
頬に手を当てながらそんなことを言うキューピー。なんだか話がずれている。
とにかく、僕は今夜、らしからぬ使命感を負って夢へ臨んでいるのだ。
僕がすべきこと。
夢の世界で行うこれは、いわば根回しというか、暗躍というか……ともかく表立っての行動ではない。だが、だからこそ五人の関係を『自然な形』へ導けるはずなのだ。
昨日、イブの本心を聞けたが、しかしそれはあくまで心の奥底の本音の部分である。その感情は表層意識にはない。
要は、それを表層部にまで浮上させてやらなければならないのだ。
問題の根本の部分は、小学校の頃は五人で仲良く遊んでいたのに中学生になってからは凛と疎遠になってしまったということにある。
親しい関係から気まずい関係になってしまったのだ。
そう、イブの気持ちがどうか、あるいはそれに対する凛の懸念も、いずれにしても問題はそこだ。僕ら四人と凛との間に空白期間があること。
ならば、その空白を埋めればよい。仲良く遊んでいたあの頃の感情を『思い出せば』よいのだ。
例の、調理実習のチョコの件と同じだ。子供の頃、凛からもらったチョコケーキを食べて気分が悪くなってしまった出来事があった。
凛は実習の日の時点ではそのことを忘れていたが、その晩の夢で当時と同じ状況となり、翌朝には僕のチョコ嫌いを思い出していた。
夢で過去が再現される。――すると、心の奥底に眠っていた記憶が呼び起こされる。
以前、宮本が「ちょっとしたきっかけで、ずっと昔の頃の印象を急に思い出したりとかする」と言っていたのが、まさにそれだ。
「昨晩おっしゃってた京一サンの計画を改めて確認しまショウカ。
夢世界で、お友達みんなを集めて、子供の頃に一緒に遊んでいたときの情景を作り出す、――すなわち『昔の再現』をするんデスネ。夢で子供の頃の情景を見せることで、意識の深層に眠っている『あの頃の感情』を表層意識まで呼び起こす! フム、とっても良い考えデスヨ!」
「それは可能なんだろ?」
「エエ。でも、いきなり五人を一つの夢に集めることはできまセン」
「そうなのか?」
「ワタシが直接彼らの夢に行ってしまっては、今の京一サンのように夢世界で『覚醒』させてしまうことになりマスからネ。この件は、無意識へ介入することに意味があるので、夢で意識を持たせてはいけまセン」
「ん? どういうことだ……?」
この小人が皆の夢へ直接現れると、覚醒してしまう?
……そうか、僕は深層部たるこの夢の世界でも、確かな自意識を持てている。それは、始めの夜にこの小人が僕の目の前に現れたからだ。
だから、同じようにみんなの夢の中にキューピーが出現しては、夢の中で意識を持ってしまうのだ。そうなっては話が滅茶苦茶になってしまう。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「京一サンの夢を基盤として、彼らの夢に介入しマス。ワタシが直接彼らの夢に現れるのではなく、京一サンが彼らの夢に行ってつながりを作っておくのデス。」
「よくわからないけど……要は、僕が晃やクララの夢に行かないといけないのか?」
「そうデス、凛チャンとイブチャンの夢にはすでに行っているので良いデスが、そのお二人の夢には一度行っておかないといけないってことデスネ。五人を一堂に会させるのは、それを済ませてからデス」
「わかった。じゃあ、――『案内』をたのむよ」
「おまかせクダサイ! じゃあ、まずは――……」
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