ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

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第三章

4月19日(金):大倉蘭子の夢

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 【京一】


「姫様。城の周りをうろついていた怪しい者をひっとらえました」
 きりっとした良い声でそう言い、玉座に向けて僕を差し出す兵士。

 自分の目線が低い。体格は、例によって小学校に上がったばかりの頃のもの。
 そんな僕では、ここのドーム状の天井はもう遥か天空のように高い。

 ここは、城である。
 中世風と言うのだろうか。しかし歴史の古い感じはなく、汚れのないきれいな白い城壁に囲まれている。


 キューピーに付いてもやの中を推進し、抜けた先は森の中だった。
 木々に囲まれた中に、明らかに人の手で舗装された道があり、進んだ先には森の中に堂々と居を構える大きな城が現れたのである。
 あきらかにファンタジーな雰囲気――イブの夢で開幕早々にドラゴンに食べられそうになった経験を踏まえると、何かよからぬものが飛び出してくることもあり得る。
 そう思い、警戒して周囲からその城の様子を伺っていたところ、巡回していた兵士に捕まってしまったのだ。

 兵士に、とはいっても、彼が兵士だというのは状況的にそう言えるのであって、単純にその外見からは彼を兵士だとは呼び難い。


 ここは城の中。その中でも一番大きな部屋、イメージで言えば謁見の間という感じだ。
 部屋の入口の方から赤いカーペットが長くまっすぐに続いていて、その先には可愛らしい装飾が施された椅子がある。
 僕を引き連れてきたやつだけでなく、カーペットを挟むようにしてずらりと同じ外見の兵士が並んでいる。


「まあ。だめよ『マリオ』! その人はきょーいち君、おともだちだよ!」

 慌てた様子でそう言って玉座を降り、とたとたとこちらに駆け寄って来る少女。幼い姿となった僕よりも、さらに背が小さい。

「な、なんと! 姫のおともだちでしたか、それは失礼を!」

 『マリオ』、と呼ばれた兵士はすぐさま僕の拘束を解き、敬礼して一歩下がる。その厳格な所作に反して、もふ、と気の抜けた足音が鳴る。


「いらっしゃい、きょーいち君。えへへ、ゆっくりしていってね」

 そう言って、幼い頃の姿でクララは笑う。


 正直、本日昼間に見た笑顔と全く変わらない。
 体も、成長はしているはずなのだが、今なお『幼い雰囲気』を色濃く残しているためか、夢の中のこの姿を見ても何ら違和感がない。


 ここは、大倉蘭子の夢の中である。

 森の中の大きな城。
 そして彼女は姫。
 クララらしい少女趣味の世界観というわけだ。

 ――何より、『マリオ』とかいうこの兵士の姿こそ、彼女らしさの表れである。

 僕を捕らえてここまで引き連れてきた兵士は、クマのぬいぐるみだった。子供の僕らと同じぐらいの大きさで、動き、喋る。生きたぬいぐるみなのである。

 小さい頃、彼女は外で遊ぶときでさえいつも小脇にクマのぬいぐるみを抱えていたし、何より現に手芸部に入りたがっているのも、ぬいぐるみが好きだからだ。
 その『好き』が、この夢世界を形成している。
 ぬいぐるみが好き、というのは、上辺だけでなくまさに心の根幹部にまで沁みつく彼女の嗜好なのだ。


「みんな、きょーいち君と仲良くするんだよ?」

 クララがそう言うと、その場にいるぬいぐるみたちが一斉に頷いて、にっこりとほほ笑みながら僕を見てくる。
 確かにその笑顔は一様に好意的なものだが、これほどたくさんのぬいぐるみたちに一挙に笑顔を向けられるのは、絵面としては少し怖い。夢に出てきそうだ、と思ったが、これがすでに夢なのだった。


「兄貴、兄貴!」

 そのとき、もふもふ、と柔らかい足音を立てながら、僕らのもとに別のぬいぐるみがやって来た。
 その名前の呼び方に、怒気が含まれている。兄貴、と呼ばれたのは、僕を捕らえてきたぬいぐるみ『マリオ』だった。

「なんだ、ネイサン」
「兄貴、このやろう、休憩室に置いてあったおれのプリン、食べやがったな!」

「なんだプリンぐらいで怒ってんじゃねえよ、男らしくねえ」
「プリンに男も女も関係ねえだろ、俺のプリン返しやがれ!」

「食ったもんを返せるわけねえだろ」

 ……なにやら二体のぬいぐるみが僕の目の前で揉めだした。


「おい、お前ら。姫君と客人の御前だぞ、よさないか」
 そこへ、さらにもう一体のぬいぐるみが割って入って来る。

「なんだイザヤ、お前は関係ねえだろが」
「俺はお前ら二人の兄だ、関係はあるだろ」

「うっせえ。ひっこんでろ」
「兄に向かって引っ込んでろとはなんだマリオ!」

「そうだそうだ引っ込んでろ!」
「ネイサン、お前まで! くそ、生意気な口をきくな」

 そして三体入り乱れてわちゃわちゃと喧嘩しだした。
 どれも西洋風の名前で、口調も男らしいので、聞くだけならば屈強な男たちの激しい争いにも思える――が、見れば拍子抜け、彼らは可愛らしいテディベア。

 ぬいぐるみなので殴り合いでも痛々しくは見えないが、だが明らかに穏やかな空気ではない。……なんだこの展開は。童話的雰囲気の城の中で、ぬいぐるみたちが喧嘩をする、一体どんな世界観なのか。


「な、なんだ、あいつら……。どうしたんだ?」
「あの三人はね、兄弟なの。イザヤが一番のお兄さん、次にマリオ、末っ子がネイサンよ。三人はいっつもケンカばかりしているの……」

 幼い姿のクララが、ふう、と息をついて言う。そして、静かに彼らに近づいていく。

「イザヤ、マリオ、ネイサン。三人とも……」
 クララは力なく彼らの名を呼び、そのまま弱々しく言う。


「け、ケンカしないで……、そんなの私、悲しいよう……」

 言いつつ、ぽろぽろと涙を溢した。
 それを見て、三体のぬいぐるみは、はっと動きを止める。あわてた様子で彼女のもとに駆け寄っていった。


「な、泣かないでクララ姫! ほ、ほら、もう喧嘩しませんよ!」
「そうです、おれたち仲良しだから!」

 そう言って肩を組んで、仲が良いことをアピールするぬいぐるみの兄弟たち。

「ほんと……? もうケンカしない?」
「しないしない!」

「……えへへ、じゃあ良かった。仲良しなんだね!」

 涙をぬぐい、ぱっと明るい笑顔に変わるクララ。


「「そう、仲良し!」」


 ぬいぐるみの兄弟が声を揃える。
 そしてその他のぬいぐるみたちも、わっと笑って『仲良し』コールをする。大きな広間が、爽やかな空気で充ち満ちていく……。


「みんな仲良し。みんなが楽しくて笑顔になれば、私も楽しい! みんな幸せで私も幸せ! えへへ。そうだよね、きょーいち君?」

 屈託のない笑みを僕に向ける、クララ。

「え、あ、うん……、そうだね」
「そうだよね! えへへっ」

 同意を得られて嬉しいのか、ぴょんと跳ねるクララ。


「あ、そうだ、これから町の方へ行こうよ、きょーいち君」
「町の方へ? な、なんで?」

「あのね。テディスキー通りに住んでる、デレクくんとスーザンちゃんって子たちがいるの。あの二人、おたがい相手のことが好きみたいなのね」
「へ、へえ……」

「だからね、バレないようにこっそり二人を後押しして、想いを告げさせるの! お城のみんなと一緒にね、さくせんは立ててあるんだあ。……えへへ、やっぱり好きな人同士は、ちゃんとくっつかないとね! 二人が幸せになれば、私も幸せ! だよね、きょーいち君?」

「…………」

 またも、屈託のない笑顔を向けてくるクララ。僕はただ、求められるまま同意するしかなかった。


「……そうだね」
「そうだよね!」

 純真で穢れのないことを無垢という。彼女のその笑顔は、まさしく無垢と言えるだろう。

 彼女が幸せそうに笑うのを見ると、なにか、心をこころい上げられるような、曰く言いがたい感情になった。


 それから僕は言われた通り、クララと共に町へ行き、デレクとスーザンとかいうぬいぐるみをうまく引き合わせる作戦に協力させられた。
 事はすべてクララの思い通りに進み、その男女のぬいぐるみは見事に結ばれることとなった。
 幸せそうにするペアのぬいぐるみを見て、クララも幸せそうに笑っていた。


        /


 ひとまず、薄紅色のもやの中へと戻る僕。

 クララの夢。想像通りの世界観ではあったが、ある意味では予想外の世界観でもあった。……いや、まあ、あれもクララらしいとはいえばそうなのだろう。すべては彼女が真に無垢ゆえ。


「フム。これでクララチャンと夢世界でつながりが出来マシタ。あと、もう一人なのデス。このまま、続けていっちゃいマショウ、京一サン!」

 キューピーが溌剌はつらつと言う。
 彼女は張り切った様子だが、しかし僕は気乗りしない。

「どうしたんデス、京一サン。なにやらやる気が感じられないデス。何か問題デモ?」
「いや、まあ、別に問題はないけどさ」

 別に問題はない。ただ単純にあまり気分が上がらないだけだ。


 これから向かう夢世界に対して、どうしても関心が湧かないのだ。……何を好き好んであの野郎の夢世界なんぞ覗きに行かなきゃならんのか。

 正直、どのような世界が待っているのかも、ある程度予想はつくのだが。
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