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第三章
4月18日(木):風邪で休んだ日
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【美代】
高校に入学して一か月もしないのに、あたしは風邪を引いて学校を休んでしまった。
学校を休めるのは良いけど、でもヒマなのは苦痛だ。
ベッドで一日大人しくしているよう母に言いつけられてしまう。仕方ない、愛するトカゲのドラコちゃんを眺めながらぼうっとしていた。
風邪を引いたときはゆっくりお風呂に入れないのがとてもつらい。あたしは風呂好きなタチなのである。
せめて体を拭こうと思い、母に用意してもらっていた濡れタオルを手に取ったところ、ドアがノックされた。
「美代ちゃん、えっと、具合はどうかな」
扉の向こうから蘭子の声がした。お見舞いに来てくれたのだろう。
「あ、蘭子ー? うん、もう熱も引いたし平気ー。入ってきなよ」
蘭子なら構わない。なんなら体を拭くのを手伝ってもらおうと思い、パジャマのボタンに指をかけて一つずつ開けていく。
「え、それはちょっと……、あの、京一君と晃君に来てもらってるんだけど……」
「うーい、大丈夫かイブよ」
乱暴なノックの音と、晃の声がした。
「はっ? ……え、ちょ、待って、なんで晃が」
「入るぞー」
あたしの返事を待たずに、晃は部屋に入って来る。
「な、なに勝手に入ってきてんのよおーっ」
信じられない。咄嗟に枕を投げて追い出した。
くそう。
……大丈夫だよね、一瞬だったし、見られてないよね。
あたしは、あまり発育の良い方ではないのがコンプレックスなのだ。
見られるわけにはいかない。
よく、「ハーフなのにあんまり大きくないんだね」だとか言われる。そんなことハーフとか関係ないし。……いや、まあ、とかいって別にもし大きかったら晃に見られても良かったとか、そういうことじゃ決してないんだけど。
まったく、女の子の部屋にいきなり入ろうとするなんて、この男は頭がおかしい。
それとも、こいつにとってあたしは女として意識するまでもないってことなのかな。
――ドイツ人の父と日本人の母のもとに生まれたあたしは、髪の色や瞳の色といった顔立ちははっきりとハーフのそれだ。
でも日本生まれの日本育ち、外見上はどうあれ中身は歴とした日本人なのだ。
見た目がみんなと違う、そのせいで注目を集めてしまう。……それを初めて経験したのは、小学校に入学したとき。
たかだか6歳だか7歳だかの小さな子供が、好奇心を押さえておけるはずもない。初めて見る混血の人間に対して、遠慮もなく寄って集り、あれやこれやと質問を投げかけて来る。……あたしは、幼いながらに辟易した。
あたしとしては彼らと何ら変わりないつもりなのに好奇の目で見られるというのは、とても居心地が悪かったのだ。
そのときあたしは大倉蘭子という気弱そうなクラスメイトに積極的に話しかけるようにした。
もともと近所に住む同い年。入学以前にはそれほど関わりはなかったけど、彼女だけはあたしに対してあれこれ問い質してきたりはしなかったからだ(今になって思えば、好奇心があっても気が弱いせいであれこれ聞けなかった、ってことかもしれないけど)。
それ以外の、あたしの見た目に興味を持って近寄ってきた子たちと親しくなるのは癪だったのだ。
さすがに冷たい態度で言葉を返したりはしないけど、でも、あたしの中ではその子たちを友だちだとは思わなかった。ひねくれた子供だと、自分でも思う。
入学して間もないある日。
放課後になるや否や、あたしの噂を聞き付けたらしい二年生のとある男子が教室に突入してきた。ずいずいと、あたしの席に近づいてくる。
「友達になろうぜ!」
開口一番、言葉はそれだけだった。
彼はあたしを強引に連れ出した。そばにいた蘭子も、あたしの友達ならばとついでのように一緒に連れ去られる。
破天荒なその男の名前は、遠野晃といった。
彼と同じ年の京一と凛を紹介され、五人で遊ぶことになった。
特に説明もなく、わけの分からないまま色んなところに連れまわされる。でも、意外と居心地は悪くなかった。
彼があたしを誘った理由は、ハーフであるあたしが物珍しいからに違いなかったはずだけど、かといってやたらと質問してきたり特別扱いをしたりはしなかった。
他の子はあたしを中心にしようとしてくるけど、彼はいつでも彼自身が中心なのだ。
『イブ』というあだ名は晃がつけたものだ。
苗字の頭二文字を取っただけの安易なあだ名だったけど、他のクラスメイト達に「ハーフなのに名前は普通なんだね」だとか言われるのがたまらなく腹が立ったから、親しみやすいあだ名をつけられたことがとても嬉しかった。
すぐに京一や凛もあたしのことをそう呼ぶようになった。晃によって強引に引き合わされた形だけど、あたしのことをそう呼んでくれたとき、二人とも仲良しになれたと自覚できて、それまた嬉しかった。
でも、それが学年中に定着してしまったのは少々癪だった。あたしのことをそう呼ぶのは、あたしにとって親しい仲の証明だからだ。
ある日、学校近くの森へ虫とりが敢行された。晃がやりたいと言い出したからだ。
森に入ったらいけないと先生たちに言われていたけど、普段から何度も入っていた。あたしは女の子だったけど虫なんかは特に苦手意識はなく、なんなら素手で、次々に虫を捕まえていった。
晃はそんなあたしを褒めてくれた。
――特に、あたしが小さなトカゲを捕まえて見せたとき、彼は、あたしとトカゲのツーショットがたまらなく似合っていると言って、それはもうやたらと、かっこいい、すげえ、を連発してこの上なく興奮しだしたのだ。
あたしは、それが嬉しかった。
今になって思うとなぜそんなことで喜んだのか。
そもそもトカゲが似合うなんて普通は女の子に対する褒め言葉じゃない。……晃は、あたしとトカゲのツーショットがまるでRPGの世界観を想起させるようだったことに興奮していたのだろうけど、当時のあたしはそんなくだらない理由だとは知らず。
晃に褒められるのが嬉しくてとにかくトカゲをたくさん捕まえた。
その度に、晃がすげえな、すげえなと言ってくれた。
…………。
「おー、相変わらずすげえよなあ、こいつ」
晃がケースの中を覗き込んで言う。
そうやって褒められると、弱い。さっきのデリカシーのない行動もつい許してしまう。
「でっしょー? かわいいよね、ねっ」
彼とトカゲについて話し出すと、途端に楽しくなって思わずテンションが上がる。
元はといえばあの頃、晃が喜んでくれるからとにかくトカゲばかりを捕まえるようになって、トカゲに執拗にこだわっているうちに段々と可愛く見えてきて、気がつけばあたしはもうトカゲがすごく好きになっていた。
いや、トカゲを好きになるよりも前に、晃のことを好きになっていたんだとは思う。
しかし後悔だらけだ。だらしないしデリカシーもないし。あたしのことをただの友達、よくても妹のような存在ぐらいにしか思っていないんだ、この男は。
あたしや蘭子にとって、高槻凛はとても頼りがいのあるお姉さんのような存在だった。
小学校の頃、五人で遊ぶときも気弱な蘭子をよく庇ったり暴走する晃を制止したり、小学校では児童会の会長をしたり、子供ながらにしっかり者だった。
小学校の頃は五人でずっと一緒にいたけど、晃たちが中学に上がってからは当然、会う機会は減った。とりわけ、凛とはまるきり会わなくなってしまったのだ。
ただ一度だけ、凛が中学に進学した後、偶然彼女を見かけて話しかけたことがあった。
すなわちあたしが小学六年のときだ。
しばらく会えていなかったので久しぶりに話ができると思い、そのときあたしはとても嬉しかったのだ。
久しぶりに凛と話せる。なんだかとても嬉しくて、浮足立っていた。
でも、そんなあたしの浮いた心はすぐにとっぷりと沈められる。……凛は、あたしに対して、まるでそれまで仲良く遊んでいたことなんてなかったかのように、素っ気ない態度をとったのだ。
小学校の頃は明るかったのに、なんだか元気がなかった。
会話が盛り上がらない。
急に話しかけたのがいけなかったのだろうか。いやな焦りが胸に生じた。
そこであたしは満を持して、ペットの話題を出したのである。
そう、そのときちょうど、親に頼み込んでトカゲを買ってもらえたばかりの頃だったのだ。もちろんそれは、今なおあたしの部屋でいる愛しいペット、ドラコちゃん。
しかし凛はなおも、素っ気ない態度だった。
むしろドラコちゃんの話を聞いて、一層テンションが下がったようだったのだ。
おかしい、とあたしは思って、元気を出してもらえるよう、持っていたドラコちゃんの写真を見せてあげた。ドラコが可愛いあまり、お父さんのカメラを借りて、いっぱい写真を撮って、現像したそれを持ち歩いていたのだ。
いくら写真を見せても、凛は喜んでくれない。
――『とっておき』まで見せてあげたというのに、凛は笑顔を見せなかった。
あたしはついムッとしちゃって、そのまま強引に別れてしまった。
ショックだった。
あの優しかった凛に冷たくされたことが、たまらなくショックだったのだ。あたしのことを嫌いになったかもしれないと感じた。
この春高校に進学して、また同じ学校の生徒になれたわけだけど、凛とは話せていない。
たまに電車で見かけても、とても話しかけられない。どうしても距離を取られているように感じてしまうし、実際、そう思うせいであたしも距離を取ってしまっている。
京一から、入部申請書を受け取った。
そして、手芸部のもう一人の部員に、凛を誘うつもりだと聞いた。
「なるほど……、凛ね」
納得した。
蘭子が言ったらしい。もう一人は、やっぱり四人の共通の友人を入誘うのが良い、って。――確かに、四人の共通の友人って言ったら、凛しかいない。
蘭子は、凛に対してあんまり気まずさとかは感じていないと思う。
あたしの手前、凛を見かけても近寄ってはいけないようだけど、たぶん本当は話しかけたくってうずうずしているだろう。
晃と京一は凛とクラスメイトだし、きっとあんまり気まずいとかではないんだろう。晃はそもそもデリカシーのない男だからそんなこと関係ないし、京一なんかはあたしたちよりもずっと前からの幼馴染だし。
凛に対してこんなに気まずいと感じているのは、多分あたしだけだ。
どう反応すればいいのか、よく分からない。
凛のことを嫌いかと問われれば、……ううん、そんなことはない。
でも、手芸部に凛を誘うことに対して、正直乗り気にはなれない。
ぜったいに嫌だとは言わないけど、それよりもまず気まずさが先行するのだ。
申請書の締め切りは、二十二日の月曜日。
それまでにもう一人の部員を誰にするかはっきり決めてしまわないと手芸部が廃部になってしまう。……この場合、凛を誘うことにあたしが肯定的でないと、うまく話が進まないかもしれない。
でも、どうしても気後れしてしまう。
だって、いっそ凛の方が、あたしのことを嫌っているかもしれないし。
せっかくお見舞いとして来てくれて、申請書を渡してくれたのに悪いけど……。凛を誘うっていう話に、同意することはできなかった。
高校に入学して一か月もしないのに、あたしは風邪を引いて学校を休んでしまった。
学校を休めるのは良いけど、でもヒマなのは苦痛だ。
ベッドで一日大人しくしているよう母に言いつけられてしまう。仕方ない、愛するトカゲのドラコちゃんを眺めながらぼうっとしていた。
風邪を引いたときはゆっくりお風呂に入れないのがとてもつらい。あたしは風呂好きなタチなのである。
せめて体を拭こうと思い、母に用意してもらっていた濡れタオルを手に取ったところ、ドアがノックされた。
「美代ちゃん、えっと、具合はどうかな」
扉の向こうから蘭子の声がした。お見舞いに来てくれたのだろう。
「あ、蘭子ー? うん、もう熱も引いたし平気ー。入ってきなよ」
蘭子なら構わない。なんなら体を拭くのを手伝ってもらおうと思い、パジャマのボタンに指をかけて一つずつ開けていく。
「え、それはちょっと……、あの、京一君と晃君に来てもらってるんだけど……」
「うーい、大丈夫かイブよ」
乱暴なノックの音と、晃の声がした。
「はっ? ……え、ちょ、待って、なんで晃が」
「入るぞー」
あたしの返事を待たずに、晃は部屋に入って来る。
「な、なに勝手に入ってきてんのよおーっ」
信じられない。咄嗟に枕を投げて追い出した。
くそう。
……大丈夫だよね、一瞬だったし、見られてないよね。
あたしは、あまり発育の良い方ではないのがコンプレックスなのだ。
見られるわけにはいかない。
よく、「ハーフなのにあんまり大きくないんだね」だとか言われる。そんなことハーフとか関係ないし。……いや、まあ、とかいって別にもし大きかったら晃に見られても良かったとか、そういうことじゃ決してないんだけど。
まったく、女の子の部屋にいきなり入ろうとするなんて、この男は頭がおかしい。
それとも、こいつにとってあたしは女として意識するまでもないってことなのかな。
――ドイツ人の父と日本人の母のもとに生まれたあたしは、髪の色や瞳の色といった顔立ちははっきりとハーフのそれだ。
でも日本生まれの日本育ち、外見上はどうあれ中身は歴とした日本人なのだ。
見た目がみんなと違う、そのせいで注目を集めてしまう。……それを初めて経験したのは、小学校に入学したとき。
たかだか6歳だか7歳だかの小さな子供が、好奇心を押さえておけるはずもない。初めて見る混血の人間に対して、遠慮もなく寄って集り、あれやこれやと質問を投げかけて来る。……あたしは、幼いながらに辟易した。
あたしとしては彼らと何ら変わりないつもりなのに好奇の目で見られるというのは、とても居心地が悪かったのだ。
そのときあたしは大倉蘭子という気弱そうなクラスメイトに積極的に話しかけるようにした。
もともと近所に住む同い年。入学以前にはそれほど関わりはなかったけど、彼女だけはあたしに対してあれこれ問い質してきたりはしなかったからだ(今になって思えば、好奇心があっても気が弱いせいであれこれ聞けなかった、ってことかもしれないけど)。
それ以外の、あたしの見た目に興味を持って近寄ってきた子たちと親しくなるのは癪だったのだ。
さすがに冷たい態度で言葉を返したりはしないけど、でも、あたしの中ではその子たちを友だちだとは思わなかった。ひねくれた子供だと、自分でも思う。
入学して間もないある日。
放課後になるや否や、あたしの噂を聞き付けたらしい二年生のとある男子が教室に突入してきた。ずいずいと、あたしの席に近づいてくる。
「友達になろうぜ!」
開口一番、言葉はそれだけだった。
彼はあたしを強引に連れ出した。そばにいた蘭子も、あたしの友達ならばとついでのように一緒に連れ去られる。
破天荒なその男の名前は、遠野晃といった。
彼と同じ年の京一と凛を紹介され、五人で遊ぶことになった。
特に説明もなく、わけの分からないまま色んなところに連れまわされる。でも、意外と居心地は悪くなかった。
彼があたしを誘った理由は、ハーフであるあたしが物珍しいからに違いなかったはずだけど、かといってやたらと質問してきたり特別扱いをしたりはしなかった。
他の子はあたしを中心にしようとしてくるけど、彼はいつでも彼自身が中心なのだ。
『イブ』というあだ名は晃がつけたものだ。
苗字の頭二文字を取っただけの安易なあだ名だったけど、他のクラスメイト達に「ハーフなのに名前は普通なんだね」だとか言われるのがたまらなく腹が立ったから、親しみやすいあだ名をつけられたことがとても嬉しかった。
すぐに京一や凛もあたしのことをそう呼ぶようになった。晃によって強引に引き合わされた形だけど、あたしのことをそう呼んでくれたとき、二人とも仲良しになれたと自覚できて、それまた嬉しかった。
でも、それが学年中に定着してしまったのは少々癪だった。あたしのことをそう呼ぶのは、あたしにとって親しい仲の証明だからだ。
ある日、学校近くの森へ虫とりが敢行された。晃がやりたいと言い出したからだ。
森に入ったらいけないと先生たちに言われていたけど、普段から何度も入っていた。あたしは女の子だったけど虫なんかは特に苦手意識はなく、なんなら素手で、次々に虫を捕まえていった。
晃はそんなあたしを褒めてくれた。
――特に、あたしが小さなトカゲを捕まえて見せたとき、彼は、あたしとトカゲのツーショットがたまらなく似合っていると言って、それはもうやたらと、かっこいい、すげえ、を連発してこの上なく興奮しだしたのだ。
あたしは、それが嬉しかった。
今になって思うとなぜそんなことで喜んだのか。
そもそもトカゲが似合うなんて普通は女の子に対する褒め言葉じゃない。……晃は、あたしとトカゲのツーショットがまるでRPGの世界観を想起させるようだったことに興奮していたのだろうけど、当時のあたしはそんなくだらない理由だとは知らず。
晃に褒められるのが嬉しくてとにかくトカゲをたくさん捕まえた。
その度に、晃がすげえな、すげえなと言ってくれた。
…………。
「おー、相変わらずすげえよなあ、こいつ」
晃がケースの中を覗き込んで言う。
そうやって褒められると、弱い。さっきのデリカシーのない行動もつい許してしまう。
「でっしょー? かわいいよね、ねっ」
彼とトカゲについて話し出すと、途端に楽しくなって思わずテンションが上がる。
元はといえばあの頃、晃が喜んでくれるからとにかくトカゲばかりを捕まえるようになって、トカゲに執拗にこだわっているうちに段々と可愛く見えてきて、気がつけばあたしはもうトカゲがすごく好きになっていた。
いや、トカゲを好きになるよりも前に、晃のことを好きになっていたんだとは思う。
しかし後悔だらけだ。だらしないしデリカシーもないし。あたしのことをただの友達、よくても妹のような存在ぐらいにしか思っていないんだ、この男は。
あたしや蘭子にとって、高槻凛はとても頼りがいのあるお姉さんのような存在だった。
小学校の頃、五人で遊ぶときも気弱な蘭子をよく庇ったり暴走する晃を制止したり、小学校では児童会の会長をしたり、子供ながらにしっかり者だった。
小学校の頃は五人でずっと一緒にいたけど、晃たちが中学に上がってからは当然、会う機会は減った。とりわけ、凛とはまるきり会わなくなってしまったのだ。
ただ一度だけ、凛が中学に進学した後、偶然彼女を見かけて話しかけたことがあった。
すなわちあたしが小学六年のときだ。
しばらく会えていなかったので久しぶりに話ができると思い、そのときあたしはとても嬉しかったのだ。
久しぶりに凛と話せる。なんだかとても嬉しくて、浮足立っていた。
でも、そんなあたしの浮いた心はすぐにとっぷりと沈められる。……凛は、あたしに対して、まるでそれまで仲良く遊んでいたことなんてなかったかのように、素っ気ない態度をとったのだ。
小学校の頃は明るかったのに、なんだか元気がなかった。
会話が盛り上がらない。
急に話しかけたのがいけなかったのだろうか。いやな焦りが胸に生じた。
そこであたしは満を持して、ペットの話題を出したのである。
そう、そのときちょうど、親に頼み込んでトカゲを買ってもらえたばかりの頃だったのだ。もちろんそれは、今なおあたしの部屋でいる愛しいペット、ドラコちゃん。
しかし凛はなおも、素っ気ない態度だった。
むしろドラコちゃんの話を聞いて、一層テンションが下がったようだったのだ。
おかしい、とあたしは思って、元気を出してもらえるよう、持っていたドラコちゃんの写真を見せてあげた。ドラコが可愛いあまり、お父さんのカメラを借りて、いっぱい写真を撮って、現像したそれを持ち歩いていたのだ。
いくら写真を見せても、凛は喜んでくれない。
――『とっておき』まで見せてあげたというのに、凛は笑顔を見せなかった。
あたしはついムッとしちゃって、そのまま強引に別れてしまった。
ショックだった。
あの優しかった凛に冷たくされたことが、たまらなくショックだったのだ。あたしのことを嫌いになったかもしれないと感じた。
この春高校に進学して、また同じ学校の生徒になれたわけだけど、凛とは話せていない。
たまに電車で見かけても、とても話しかけられない。どうしても距離を取られているように感じてしまうし、実際、そう思うせいであたしも距離を取ってしまっている。
京一から、入部申請書を受け取った。
そして、手芸部のもう一人の部員に、凛を誘うつもりだと聞いた。
「なるほど……、凛ね」
納得した。
蘭子が言ったらしい。もう一人は、やっぱり四人の共通の友人を入誘うのが良い、って。――確かに、四人の共通の友人って言ったら、凛しかいない。
蘭子は、凛に対してあんまり気まずさとかは感じていないと思う。
あたしの手前、凛を見かけても近寄ってはいけないようだけど、たぶん本当は話しかけたくってうずうずしているだろう。
晃と京一は凛とクラスメイトだし、きっとあんまり気まずいとかではないんだろう。晃はそもそもデリカシーのない男だからそんなこと関係ないし、京一なんかはあたしたちよりもずっと前からの幼馴染だし。
凛に対してこんなに気まずいと感じているのは、多分あたしだけだ。
どう反応すればいいのか、よく分からない。
凛のことを嫌いかと問われれば、……ううん、そんなことはない。
でも、手芸部に凛を誘うことに対して、正直乗り気にはなれない。
ぜったいに嫌だとは言わないけど、それよりもまず気まずさが先行するのだ。
申請書の締め切りは、二十二日の月曜日。
それまでにもう一人の部員を誰にするかはっきり決めてしまわないと手芸部が廃部になってしまう。……この場合、凛を誘うことにあたしが肯定的でないと、うまく話が進まないかもしれない。
でも、どうしても気後れしてしまう。
だって、いっそ凛の方が、あたしのことを嫌っているかもしれないし。
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