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第三章
4月19日(金):『とっておき』
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【美代】
「ん……」
目を開いてすぐは、視界がぼんやりとかすんでいた。
何度かまばたきをして、ようやくはっきりと天井クロスの模様が見えた。白いクロス生地には薄い斜め線が並んで、直角に交差している。
「ふわあ~~」
あたしは、あくびをしながらゆっくりと体を起こした。
熱に浮かされたような感覚は、ない。まだ寝起きでぼけっとする頭のまま、まずは体温計るか、と考えて、ナイトテーブルに置いておいた体温家に手を伸ばす。
電源を入れて、パジャマの裾から手を差し入れて脇に挟む。
細い電子機器を脇に挟むと、なんとなく居心地の悪い違和感があって、あたしは体温計を使うのはあまり好きじゃない。いやまあ、体温計を使うのが好きだなんてやつは普通いないと思うけど。
ピピピ、と、電子音。
表示を見る。
三十六度六分。うん、平熱だ。
でも。
「どうしよっかな……」
ベッドで上体だけ起こした状態のまま、あたしはぽつりと呟いた。
二日間、休んだ。水曜と木曜。そして今日は金曜だ。
なんだろうな、こういう場合……もう一日休んでしまって、土日を挟んで月曜日から気持ちを改めて登校する方が都合が良いんじゃないかなと思える。
もう熱はないし、体調が悪いようにも感じないけど、うん、そう、今日も休んでしまおう。
すぐに、蘭子に連絡した。
『今日も休むわ』
それだけ送る。
しばらく経ってから返信があった。なんだか悲しそうな顔をしたクマのスタンプだった。とりあえず適当に謝ってる感じのスタンプを送り返し、あたしはまたベッドに横になる。
ふう、と息を吐く。
ケータイのブルーライトを浴びたせいだろうか、寝覚め直後のぼやけた頭が鮮明に働くようになった。……そこで、なにやら不思議な感慨が胸の中にふつと灯るのだ。
夢を見た気がする。
でも、どんな夢だったのかは思い出せない。
その内容は思い出せないけど、たぶん、楽しい夢だったのだろう。胸の中に、ぼんやりと温かい感じがあるのだ。なんだろ、この感じ。
淡く、心地よい感覚を胸に感じながら、そのまま寝転んでぼうっとしていた。
二度寝しようかと思ったけど、眠くならなかった。
ふと気が付いて時計を見ると、ちょうど、一時限目が始まる直前ぐらいの時間だった。本当ならあたしもすでにもう席についている。
高校の授業は、まだ今のところ苦戦していないけど、そのうち難しくなってついていけなくなっちゃうかもしれない。
特に、二年生に上がってから、来年の受験なんかを見越し始めて授業も本格的になっていったりするんだろうか、と思う。
二年生、
……というと、晃とか、凛とか、京一。
ふと、妙な思いが湧いた。
なぜだか、京一にメッセージを送りたくなった。
彼とは連絡先の交換はしていたけど、特に、取り立てて用事がなければ連絡をするようなことはなかった。晃とはよく他愛無いやり取りをするけど、京一はそういうキャラじゃないし。
ふと思い立ったままに、ケータイを手にして、彼にメッセージを送った。
『おはよ』
なんとなく挨拶だけ送ってみた。『おはよう』って返事が返って来たので、またついでに送ってみる。
『もう熱は引いたんだけど、ついでにもう一日休んじゃった』
そのあと、京一からはスタンプだけ返される。
たぶん、今日も休んだ、なんて言われてもどう返せばいいのか分からなかったんだろうと思う。そうだよね、用事もないのに急に京一にメッセージを送るなんて、面倒くさがられてしまうよね……。
でも、なんだろう。
なぜか、京一に話しかけたくなったのだ。
できるなら電話とかかけて話してみたかったけど、向こうは学校だ、もう今まさに授業が開始されたタイミングだ。それはできない。
「…………」
変な気分だなあ、と思いながら、ふと視線が向いたのは、飼育ケース。
わが愛ペット、ドラコが中にいるケースである。
一昨日、京一が晃と一緒にあたしの部屋に来た。晃は何度も来ているけど、京一を入れるのは初めてだった気がする。
――そうだ、初めてドラコちゃんを直接見せたのだ。
つい晃と盛り上がっちゃったから、京一がどんな反応だったか見てなかったけど、ドラコちゃんに興味ありげだった気がする。うん、きっと。
もっと見せてやりたい。そう思った。
あたしは、授業が終わるタイミングを見計らって、また京一にメッセージを送った。
『見て見て! かわいいでしょ』
そして写真を添付する。あたしのケータイに保存されてるドラコちゃん写真の中から、いいカンジのものを一枚。
少しして、『かわいいな』と返信。
……おっ。やっぱり! 京一のやつ、ドラコちゃんに興味あるんだ。
あたしは嬉しくなって、他の写真も立て続けに送ってあげた。
いろんな角度、いろんな表情のドラコちゃん――ケータイのデータ容量が圧迫されちゃってるぐらい、写真や動画は大量にあるのだ。
業間のタイミングを見て、その都度、写真をたくさん送る。なんだか楽しくなってきた。
気が付けば、もう昼休み前の時間になっている。――ちょうどいい、『とっておき』を送ってやろう。
ドラコの仕草の中でも一番にお気に入りの、お食事の場面だ。
あの愛らしい顔で、虫をぱくぱく頬張る姿はたまらない。口の端から虫の足をはみ出させちゃってるところなんか、めちゃくちゃ可愛いのだ。
『とっておき』の写真。京一のやつ、きっとこれを見て喜んでいることだろう。
「ん……」
目を開いてすぐは、視界がぼんやりとかすんでいた。
何度かまばたきをして、ようやくはっきりと天井クロスの模様が見えた。白いクロス生地には薄い斜め線が並んで、直角に交差している。
「ふわあ~~」
あたしは、あくびをしながらゆっくりと体を起こした。
熱に浮かされたような感覚は、ない。まだ寝起きでぼけっとする頭のまま、まずは体温計るか、と考えて、ナイトテーブルに置いておいた体温家に手を伸ばす。
電源を入れて、パジャマの裾から手を差し入れて脇に挟む。
細い電子機器を脇に挟むと、なんとなく居心地の悪い違和感があって、あたしは体温計を使うのはあまり好きじゃない。いやまあ、体温計を使うのが好きだなんてやつは普通いないと思うけど。
ピピピ、と、電子音。
表示を見る。
三十六度六分。うん、平熱だ。
でも。
「どうしよっかな……」
ベッドで上体だけ起こした状態のまま、あたしはぽつりと呟いた。
二日間、休んだ。水曜と木曜。そして今日は金曜だ。
なんだろうな、こういう場合……もう一日休んでしまって、土日を挟んで月曜日から気持ちを改めて登校する方が都合が良いんじゃないかなと思える。
もう熱はないし、体調が悪いようにも感じないけど、うん、そう、今日も休んでしまおう。
すぐに、蘭子に連絡した。
『今日も休むわ』
それだけ送る。
しばらく経ってから返信があった。なんだか悲しそうな顔をしたクマのスタンプだった。とりあえず適当に謝ってる感じのスタンプを送り返し、あたしはまたベッドに横になる。
ふう、と息を吐く。
ケータイのブルーライトを浴びたせいだろうか、寝覚め直後のぼやけた頭が鮮明に働くようになった。……そこで、なにやら不思議な感慨が胸の中にふつと灯るのだ。
夢を見た気がする。
でも、どんな夢だったのかは思い出せない。
その内容は思い出せないけど、たぶん、楽しい夢だったのだろう。胸の中に、ぼんやりと温かい感じがあるのだ。なんだろ、この感じ。
淡く、心地よい感覚を胸に感じながら、そのまま寝転んでぼうっとしていた。
二度寝しようかと思ったけど、眠くならなかった。
ふと気が付いて時計を見ると、ちょうど、一時限目が始まる直前ぐらいの時間だった。本当ならあたしもすでにもう席についている。
高校の授業は、まだ今のところ苦戦していないけど、そのうち難しくなってついていけなくなっちゃうかもしれない。
特に、二年生に上がってから、来年の受験なんかを見越し始めて授業も本格的になっていったりするんだろうか、と思う。
二年生、
……というと、晃とか、凛とか、京一。
ふと、妙な思いが湧いた。
なぜだか、京一にメッセージを送りたくなった。
彼とは連絡先の交換はしていたけど、特に、取り立てて用事がなければ連絡をするようなことはなかった。晃とはよく他愛無いやり取りをするけど、京一はそういうキャラじゃないし。
ふと思い立ったままに、ケータイを手にして、彼にメッセージを送った。
『おはよ』
なんとなく挨拶だけ送ってみた。『おはよう』って返事が返って来たので、またついでに送ってみる。
『もう熱は引いたんだけど、ついでにもう一日休んじゃった』
そのあと、京一からはスタンプだけ返される。
たぶん、今日も休んだ、なんて言われてもどう返せばいいのか分からなかったんだろうと思う。そうだよね、用事もないのに急に京一にメッセージを送るなんて、面倒くさがられてしまうよね……。
でも、なんだろう。
なぜか、京一に話しかけたくなったのだ。
できるなら電話とかかけて話してみたかったけど、向こうは学校だ、もう今まさに授業が開始されたタイミングだ。それはできない。
「…………」
変な気分だなあ、と思いながら、ふと視線が向いたのは、飼育ケース。
わが愛ペット、ドラコが中にいるケースである。
一昨日、京一が晃と一緒にあたしの部屋に来た。晃は何度も来ているけど、京一を入れるのは初めてだった気がする。
――そうだ、初めてドラコちゃんを直接見せたのだ。
つい晃と盛り上がっちゃったから、京一がどんな反応だったか見てなかったけど、ドラコちゃんに興味ありげだった気がする。うん、きっと。
もっと見せてやりたい。そう思った。
あたしは、授業が終わるタイミングを見計らって、また京一にメッセージを送った。
『見て見て! かわいいでしょ』
そして写真を添付する。あたしのケータイに保存されてるドラコちゃん写真の中から、いいカンジのものを一枚。
少しして、『かわいいな』と返信。
……おっ。やっぱり! 京一のやつ、ドラコちゃんに興味あるんだ。
あたしは嬉しくなって、他の写真も立て続けに送ってあげた。
いろんな角度、いろんな表情のドラコちゃん――ケータイのデータ容量が圧迫されちゃってるぐらい、写真や動画は大量にあるのだ。
業間のタイミングを見て、その都度、写真をたくさん送る。なんだか楽しくなってきた。
気が付けば、もう昼休み前の時間になっている。――ちょうどいい、『とっておき』を送ってやろう。
ドラコの仕草の中でも一番にお気に入りの、お食事の場面だ。
あの愛らしい顔で、虫をぱくぱく頬張る姿はたまらない。口の端から虫の足をはみ出させちゃってるところなんか、めちゃくちゃ可愛いのだ。
『とっておき』の写真。京一のやつ、きっとこれを見て喜んでいることだろう。
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