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囚われのシィナ
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「俺は、魔力の知覚能力には覚えがあるんだ。そいつから、強い魔力をばしばし感じるぞ」
「これが?」
スラム街に店を構える『質屋』――その店主が、いささか興奮した様子で、ベルの懐中時計を見る。
――これは、パーティを抜けて、彼らと別れるとき……メアリーからもらったものだ。
「よく見せてみろ。……これは、相当珍しいシロモノだな」
「知ってるのか?」
「ああ。職業柄、世にある魔法具のことには精通してるが、……これを直接見たのは初めてだ。こいつは、″賢者″が扱う特殊な召喚用の魔法具だな」
これは、魔法具だったのか?
メアリーから、ベルが″賢者″になったら渡そうと思っていたものだと聞いたので、それはただ昇級を記念しての彼女のプレゼントだと思っていた。すなわち、普通の懐中時計だろうと。
そんなもの、″賢者″になれなかった自分がもらってしまってよかったのだろうか。
/
「なんだと!? おいメアリー、本当かよ!」
リグリアからしばし離れた、とある街。
冒険者ギルド所属のパーティ『太陽のキャノウプス』は、ベル・ノーライトの脱退後、また冒険を再開させていた。
「え、ええ。だって、元々、ベルさんに渡そうと思っていたものだったわけですし」
「それは、あいつが″賢者″になったらの話だろう!? 詳細はよく分からなかったが、ともかくあれは″賢者″が使うための召喚魔法具だぞ。″賢者″でもねえあいつに渡してどうする!」
あの懐中時計は、ベルが加入するよりも前に、苦労して手に入れた貴重な魔法具だった。
いずれ″賢者″をパーティに引き入れることが出来たら、使ってもらうために大事に残しておいたのだ。
だが、そのために仲間へと引き入れた男・ベルは、結局、″賢者″にはなれなかった。
昇級した彼は、聞いたこともない職業″小説家″になってしまったのだ。
それは大きな痛手であった。すでに、彼ら『太陽のキャノウプス』は、上位職″賢者″をパーティに入れることを諦めていた。だから、あの魔法具は不要となる。
当面の旅の費用をまかなうため、あれを売って金にしよう――とザブが提案したところ、メアリーがきょとんとした顔で言ったのだ。
「あれはもう、ベルさんに渡しましたよ?」――と。
「だあーっ! あの野郎、今どこにいるんだ! くそ、今すぐ追っかけてあの魔法具を返してもらいてえぜ! ……そんで、あの小説の続きがどうなるのか聞いてやるぞ。どれもこれも、続きが気になって仕方ねえ。旅に身が入らねえんだ、チクショウめ……!」
後半、ぼやくようにザブは言った。
(……でも、私はあれをベルさんに渡して正解だったと思ってます)
怒れるザブの手前、口にはできないが――メアリーはそう思う。
(あの小説を読んで、私、確信しました。ベルさんは″賢者″になれなかったけど、でも、″小説家″だって、クラスで言えば″賢者″と同じ上位職……。あの小説には、とても強い魔力を感じました)
彼のことを想い、きゅ、と、胸の前で手を握るメアリー。
(だから、あの魔法具はベルさんが持っているべきです。あれは″賢者″が扱うための召喚魔法具ということですけど……でも、″小説家″は同じ職級なのですから、ベルさんもきっとあれを扱えるはずです)
あの懐中時計のことは詳しくわかってはいなかったが、きっと、その力を、ベルなら扱えるはずだ。
魔法具を彼に渡してもよいかと、みなに確認を取らなかったのは――故意だ。反対されるに決まっていた。正直、ザブがこうして怒ることも想定内だ。
だから、「勝手なことしてすみません……」なんて謝っていながらも、内心、爽やかな思いなのだった。
きっと、あの魔法具は彼の役に立つはず。
メアリーはそう確信していた。
/
ベルは、確信した。
これは″賢者″が扱うための魔法具だと言うが……きっと、自分にも扱える。
自分が昇級した″小説家″はギルドの記録にもない謎の職業だが、少なくとも″賢者″同じ職級、魔法系の上位職であるはずだ。
ならば、自分にも使えるはず。もしかしたら、そこまで察したうえで、メアリーはこれを自分に渡してくれたのかもしれない。
この魔法具は、召喚用……。
使い方は、店の主人に聞いた。
店を出て、スラム街の西のほうへと駆けていく。
そこに旧いトンネルがあって、下水道管路につながっている。そこが、地下施設への入り口。
シィナだけでなく、他のスラム街の子らもそこに捕らわれているはず。
道中。
粗大ごみが投棄されている場所があった。
そこで、腰の高さほどの手ごろな机を見つけた。ちょうどよい。
シィナを助けるため。
ベルは急いで、――小説を書いた。
「これが?」
スラム街に店を構える『質屋』――その店主が、いささか興奮した様子で、ベルの懐中時計を見る。
――これは、パーティを抜けて、彼らと別れるとき……メアリーからもらったものだ。
「よく見せてみろ。……これは、相当珍しいシロモノだな」
「知ってるのか?」
「ああ。職業柄、世にある魔法具のことには精通してるが、……これを直接見たのは初めてだ。こいつは、″賢者″が扱う特殊な召喚用の魔法具だな」
これは、魔法具だったのか?
メアリーから、ベルが″賢者″になったら渡そうと思っていたものだと聞いたので、それはただ昇級を記念しての彼女のプレゼントだと思っていた。すなわち、普通の懐中時計だろうと。
そんなもの、″賢者″になれなかった自分がもらってしまってよかったのだろうか。
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「なんだと!? おいメアリー、本当かよ!」
リグリアからしばし離れた、とある街。
冒険者ギルド所属のパーティ『太陽のキャノウプス』は、ベル・ノーライトの脱退後、また冒険を再開させていた。
「え、ええ。だって、元々、ベルさんに渡そうと思っていたものだったわけですし」
「それは、あいつが″賢者″になったらの話だろう!? 詳細はよく分からなかったが、ともかくあれは″賢者″が使うための召喚魔法具だぞ。″賢者″でもねえあいつに渡してどうする!」
あの懐中時計は、ベルが加入するよりも前に、苦労して手に入れた貴重な魔法具だった。
いずれ″賢者″をパーティに引き入れることが出来たら、使ってもらうために大事に残しておいたのだ。
だが、そのために仲間へと引き入れた男・ベルは、結局、″賢者″にはなれなかった。
昇級した彼は、聞いたこともない職業″小説家″になってしまったのだ。
それは大きな痛手であった。すでに、彼ら『太陽のキャノウプス』は、上位職″賢者″をパーティに入れることを諦めていた。だから、あの魔法具は不要となる。
当面の旅の費用をまかなうため、あれを売って金にしよう――とザブが提案したところ、メアリーがきょとんとした顔で言ったのだ。
「あれはもう、ベルさんに渡しましたよ?」――と。
「だあーっ! あの野郎、今どこにいるんだ! くそ、今すぐ追っかけてあの魔法具を返してもらいてえぜ! ……そんで、あの小説の続きがどうなるのか聞いてやるぞ。どれもこれも、続きが気になって仕方ねえ。旅に身が入らねえんだ、チクショウめ……!」
後半、ぼやくようにザブは言った。
(……でも、私はあれをベルさんに渡して正解だったと思ってます)
怒れるザブの手前、口にはできないが――メアリーはそう思う。
(あの小説を読んで、私、確信しました。ベルさんは″賢者″になれなかったけど、でも、″小説家″だって、クラスで言えば″賢者″と同じ上位職……。あの小説には、とても強い魔力を感じました)
彼のことを想い、きゅ、と、胸の前で手を握るメアリー。
(だから、あの魔法具はベルさんが持っているべきです。あれは″賢者″が扱うための召喚魔法具ということですけど……でも、″小説家″は同じ職級なのですから、ベルさんもきっとあれを扱えるはずです)
あの懐中時計のことは詳しくわかってはいなかったが、きっと、その力を、ベルなら扱えるはずだ。
魔法具を彼に渡してもよいかと、みなに確認を取らなかったのは――故意だ。反対されるに決まっていた。正直、ザブがこうして怒ることも想定内だ。
だから、「勝手なことしてすみません……」なんて謝っていながらも、内心、爽やかな思いなのだった。
きっと、あの魔法具は彼の役に立つはず。
メアリーはそう確信していた。
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ベルは、確信した。
これは″賢者″が扱うための魔法具だと言うが……きっと、自分にも扱える。
自分が昇級した″小説家″はギルドの記録にもない謎の職業だが、少なくとも″賢者″同じ職級、魔法系の上位職であるはずだ。
ならば、自分にも使えるはず。もしかしたら、そこまで察したうえで、メアリーはこれを自分に渡してくれたのかもしれない。
この魔法具は、召喚用……。
使い方は、店の主人に聞いた。
店を出て、スラム街の西のほうへと駆けていく。
そこに旧いトンネルがあって、下水道管路につながっている。そこが、地下施設への入り口。
シィナだけでなく、他のスラム街の子らもそこに捕らわれているはず。
道中。
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シィナを助けるため。
ベルは急いで、――小説を書いた。
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