【イラストあり】上位職・小説家?戦えないのでパーティから追放されたが、置き土産にした小説は傑作で・・。そして小説家は新たな仲間を得る。

喜太郎

文字の大きさ
17 / 19
これからのこと

16

しおりを挟む
「上位職″小説家″? にゃにそれ。それのスキルで書いた小説に……あたしが登場してた?」


 地下から脱出した後、ベルからその話を聞いたシィナは、きょとん、と目を丸くしながら言葉を反復した。


「あ、ああ。変な話だと思うだろうけど、本当なんだ」

「うにゃー……」


 確かにベルは、初対面である筈なのに自分のことを色々と知っていた。

 仮に彼が以前から自分のことをつけ狙い、こそこそ調べ回っているストーカーでもない限り、自分のことをそんなに詳しく知っているのはおかしい。
 そして、そんなストーカーなんていたら、自分が気付かないわけがないので、――ならば、彼の話を信じる他ない。

 変な感じだ。

 別に、自分はその物語の中から飛び出してきた存在ではない。
 生まれて、ずっと生きてきた。
 彼の手によって生み出されたわけではない、それなのに……。



「…………」


 さきほど。彼に助け出された直後、シィナは、……不覚にも、涙を流してしまった。

 わけがわからなかった。
 なぜ自分は泣いてしまったのか。

 助かった安堵からなのか、……いや、そんな感じではなかった。
 もっと、胸の奥底から感情が漏れ出てきて、それが涙として漏れ出た……みたいな、そんな感じ。



 でも、ベルのその話を聞いて、――なるほど、と思った。


 妙な話だが、さっきの自分の訳の分からない感情の落としどころとしてはちょうどよい。
 で泣いてしまったとあれば、いささか癪ではあるが、でも仕方ない。

 自分にとってはそれを想うのは『ハジメテ』だったのだから。




 少女が、その気持ちについての自覚を持ったところで、――不意に、二人のもとへ駆け寄って来る人物が。


「ああっ! いたいた、おーい、旅人さん!」


 シィナと並び歩き、ちょうど街の大通りへと入ったところだった。

 ベルの姿を見かけて、声をかけてきたのは――昨晩、泊まった宿屋の主人だ。



「ん? 宿屋の……」

「ああ。あんた、昨日ウチに泊まったお客さん、ベル・ノーライトさんだね。よかった、まだ街を出ていなかったんだな」



「どうした? 俺、何か忘れ物でもしていたか……?」

「いやっ、違うんだ、あんたに話が……、あの、あんた、部屋に″小説″を残して行っただろう」

「え? ああ……」



 昨晩。
 宿の部屋で、なんとなく小説を書いた。
 だが、誰かに見せる当てもないので、そのまま部屋に置いていき、悪いが処分しておいてくれ……と、今目の前にいるこの主人に頼んだはず。



「そ、それがよ、あんたの部屋に置いてあったあの小説……俺、つい気になってちらっと読み始めたら、も、ものすげえ面白くて! 普段文字なんかまともに読まねえのに、いやもう没頭するぐらい読みふけっちまって……!」


 興奮した様子で、主人は言うのだ。


「あ、ああ。ありがとう。あなたが読んでくれたなら、俺としてもありがたいよ。良かったら、そのままもらっておいてくれ」


「いや違う! それから、ちょっとばかし大事に成っちまって……」


 宿屋の主人は、興奮した様子のまま、ベルが去った後のことを語り出した――。


 ・・・


 彼の部屋に置いてあった紙束。その小説を、つい読み始めてしまった主人。
 読み始めたら止まらず、宿のカウンターに持って行って、ずっと読んでいたらしい。

 あまりに没頭するあまり、お客さんが来たのを気付かなかったほど。



『ちょっと、あなた! さっきから声をかけているじゃない! 客が来たと言うのに無視なんて、どういうことかしら!』


 客は、豪奢なドレスを着たご婦人。
 なんと、名家マクレイス家の夫人であった。


『すんません! た、ただいま、お部屋をご用意して……』

『あら。それは何かしら』


『へ? これは、ついさきほど出られた旅人の方が置いて行かれたものでして。小説ですね』

『わたくし、日ごろからよく読書など嗜んでおりますのよ。わたくしの声も聞こえないほど読み耽っていたというのは、よほど面白いのかしら、それは。ちょっと見せてごらんなさいな』


『いや、しかしこれは処分しておいてくれと頼まれたものでして……』

『なあに? わたくしが見せてと言っているのに。いいから寄越しなさいな』


 そう言って主人の手から紙束を奪い取る夫人。
 そのまま何の気なしにその文字の羅列へと視線を落とし――。


『お、お客さん? あの……、お部屋の方へご案内しますから、そ、そちらの方で読まれては……』


 ――と、主人が何度か声をかけても聞こえないほどに、宿のロビーで立ったまま没頭して読んでしまっていた。


『――はっ。わたくしとしたことが、我を忘れて読み耽ってしまっていたわ!』


 ようやく我に返った婦人。


『これは素晴らしいわ。とても惹きつけられるわ、こんな小説を呼んだのは初めてよ!』

『え、ええ』


『これは、ぜひ、わたくしに買い取らせてくださいな!』

『え? いえあの、そう言われましても、それは私のものではございませんし……』


『いくらでも出しますわよ! ホラ、これだけあれば文句はないでしょう。いいから受け取りなさい。これはわたくしが持っていきますからね。旅行から帰ったら、ぜひ我が子にも読ませてあげたいわ』


 そう言って、マクレイス夫人は宿代とは別の大金を渡し、小説を持って行ってしまったという……。


 ・・・


(マクレイスか……)

 ベルは心中、呟いた。
 その名に思い当たる部分もあるが、まあ、今は置いておく。


「……で、その小説をご婦人に渡したんだな。別に、構わないぞ。元々、処分しておいてくれと頼んだものだし」

「いや違いますよ、これが、その金です!」


 そう言って、差し出したのは麻袋。
 口が開いており、中が窺えるが……そこには、大量の紙幣。


「あんたが書いた小説だ、その買い取り代金を、俺がもらうことはできねえ! あんたを見つけられてよかった……これを、受け取ってくれ!」


 大金だ。
 さすがにベルは慌てる。ただ暇つぶしに書いただけの小説だし、処分しておいてもらおうとしていたのだから……まさかそんな大金を渡されようとは。



「い、いや、こんな大金、もらえないよ。なんなら、あなたがもらっておいてくれても……」


 そう言って、断ろうとしたベルだが、……すかさず隣から、割って入る声。


「にゃに言ってんのさ、ベル! 折角くれるっていうんだから、もらわないと逆に失礼だにゃ!」


 シィナだ。
 袋に入った大金を目にしてテンションが上がっているのか、異様にそわそわとしている。


 シィナがそう言うし、宿の主人はぐいぐいと押し付けて来るしで、結局断り切れずにその金を受け取ってしまったベル。



「……金をもらうつもりじゃなかったのにな。なんか、申し訳ないような気になるよ」

「ほんとにゃ? ……じゃあさ、そのお金、良い使い方しようよ」

「良い使い方?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...