シャッター音と君と

沐猫

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 カメラを構えたまま固まる俺に一花は首を傾げたが、そのまま前を向いて歩き出した。俺はそんな一花を少しばかりファインダー越しに見て、カメラを下ろし立ちつくす。
 いまだに心臓はどきどきと大きく脈打っている。今日は一体どうしたというのか。もしかしたら抑制剤の効きが悪いのかもしれない。
 病院への予約をスケジュールに追加して、桜並木道に視線を移す。しかし、もう一度カメラを構えようとは思えなかった。そこにはただ桜並木道があるだけで残したい構図が浮かばなかったのだ。

「直翔さん、駅の方に戻ろうか」

 いつの間にか引き返してきた一花の声に、しっかりしろと自身を一喝して、苦笑しつつ振り向く。

「すまなかった。もういいのか」
「うん、おおよその時間も分かったから。少し疲れたし、どこかの店に入って休憩しようか」
「あぁ、そうだな」

 来た道を戻りながら、休憩できそうな店を探す。朝早いからか、お店に入っている人はあまり居ない。
 どこでもいいかと近くにあったカフェチェーン店に入る。案内された席に座って、アイスコーヒーを2つ頼んだ。まもなくアイスコーヒーは出てきて、すぐにひと口飲んだ。

「直翔さん、一旦お疲れ様。直翔さんの自宅の最寄駅から大学までの乗車時間は10分くらいだけど、ドアtoドアで考えると30分はかかるね。バスだと交通状況も関わってくるから50分は余裕をみて家を出た方が良さそうだね。やっぱり実際来ておいて良かった。朝から付き合ってくれてありがとう」
「いや、大したことじゃない。まあ久しぶりの満員電車で多少の疲労はあるが気にするな。俺が利用していた時は通勤時間とは被っていなかったからまだ早く着いていた気がしていたが」

 そういえばいつもだったら電車の時間を前もって調べて、電車が到着する少し前にホームに着くように家を出ているから待ち時間というものがほぼない。そういったところも今日の体感時間の違いなのだろう。
 そんなことを思いながら、ミルクとガムシロップに手を伸ばす。やっぱりブラックはあまり好きじゃない。子供っぽいと思われようが好みなので大目に見てほしい。

「このあとはどうするつもりなんだ? 行き先は決まっているのか」
「そうだね……。あ、服を見に行きたい!」
「服か。欲しいものでも出ているのか?」
「それもあるけど、直翔さんの服を見たいんだよ! 今日クローゼットを見せてもらったけど、あんまり服持っていなかったよね。せっかくだからコーディネートしちゃおう」

 なぜ服を見たいと言い出したかと思えば、今朝のせいか。まあ、商談に行くにしても最低限しか身なりを整えないし、外出するときは動きやすさを重視しがちだから似たような服ばかりあるのは認める。見せる相手が居なければなおのこと気を使わなくなる部分だから仕方ない。
 一花はというと、早速店を検索しているようでどこに行くかルートを決めているようだ。かなり張り切っているようだから好きにさせよう。

「はは。張り切ってくれるのは嬉しいがほどほどにな」
「直翔さんをさらにカッコ良くするんだから手を抜いたり出来ないよ。僕に任せてね」



 それから10分くらい待っていると、一花はスマホを置いて残っていたアイスコーヒーを飲み干した。どうやら行く店が決まったらしい。

「よし、まずはショッピングモール内のショップに行くよ。もう休憩は大丈夫?」
「充分だ、行こう」

 カフェを出て、雑談しながらショッピングモールに向かって歩いていると、2人組の女性に声を掛けられた。
 ーー直感で分かった。この2人組はSubだ。

「お兄さんたち、良かったらそこのカフェに入りませんか?」
「カッコいいお兄さんたちとご一緒出来たらすごく嬉しいんですけど」

 ダイナミクス持ち同士は、第六感的なもので互いの性が分かる。同性は判別しづらいが、求める性なら確実に感知できる。DomからDomは感知しづらいが、DomからSubは感知できるといった具合だ。
 ということでDomよりの俺は相手がSubということが分かったわけだが、このお姉ちゃん方、ちょっと積極的すぎないか。こちらは先ほどカフェから出たばかりだし、またカフェに入ってお茶をする気などこれっぽっちもないが、お姉ちゃんが指し示す方を見遣ると合点がいった。国営のD/Sカフェがあったのだ。

 国営や国公認のダイナミクス施設ではパートナーのプレイ環境はもちろんマッチングも請け負っている。施設の中でも手軽に行けるとして最も利用者数が多いのはダイナミクスカフェ、通称D/Sカフェだ。
 俺は利用することがないからこんなところにあるなんて知らなかった。人が集まるところほど、ダイナミクス持ちも必然と増えるし、施設ができるのも当然ではあるが、教育施設の近くにもあるとは……。

「お姉さんたち、ごめんなさい。僕、今デートしてるところだから、他をあたってくれない?」
「「え??」」
「直翔さん行こう。色々回るんだから、時間足りなくなるよ」
「あ、あぁ」

 一花の一言に呆然としたままの2人組を残して再び歩き出した。雑談していた時とは打って変わって独り言を呟く一花はだいぶ不機嫌そうだ。出鼻を挫かれたのだから気持ちは分かる。
 だが、俺は一花よりも気分が上がっていた。断り文句がまさかデートとは思ってもみなかった。嘘から出た言葉だったとしても嬉しいと感じた。

「!?!?」

 突然俺に髪をくしゃくしゃにされた一花は驚いた顔でこちらを見た。

「一花くんが断らなくても俺はあの子たちと一緒に行くことはなかった。もちろんきちんとお断りもしていた。そんな暗い顔しないでくれ。今は俺とのデート中で、これから俺のコーディネートしてくれるんだろ?」
「直翔さん」

 顔の緊張が取れたようで明るさを取り戻した一花の顔にほっとする。
 程なくしてショッピングモールに着いた俺は一花に連れられアパレル関連の店を見に行く。
 ーーそれから一花にさんざん連れ回されたのは言うまでもない。
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