だから俺は、あいつが嫌いだ。

塩コンブ

文字の大きさ
3 / 10

猫被り、好き?嫌い?

しおりを挟む
 遅れて教室に入ると、俺の席の周りに人だかりができていた。
 いや、正確には俺じゃない。俺の隣の席の、絵梨奈の周りにだ。
 四方八方にいい顔してばかりの絵梨奈は男女問わず人気者だ。だからこうして、空き時間のたびに自然と人が集まる。俺はクラスメイト達をかき分けて、なんとか自分の席に座る。

「おーす、竜太郎」
「おーう、おはよう」

 クラスメイトからの挨拶に適当に返事をして、俺は今日提出の課題を取り出す。まだ一切手を付けていない、生まれたままの姿だ。
 なになに……放物線とX軸に関して対称な放物線の方程式を求めよ、か。

「あれっ、星川君も宿題やってきてないの?」

 ちょうど絵梨奈の前の席、つまり俺の斜め前の席の柏木さんが、俺と同じく全く手を付けてないプリントをひらひらさせながら話しかけてきた。

「まあね。柏木さんもサボり?」
「私はサボりっていうか、考えたんだけどわかんなくて」

 柏木さんはえへへ、と笑う。
 そういえば、柏木さんは勉強苦手だったっけ。

「星川君は違うの?」
「いや、別に得意ってわけじゃないけど、このくらいなら」

 ぱっと見た感じ、これといって難しそうな問題もないし、問題数も少ない。数学は二限目だから、今からでも十分間に合うだろう。

「えぇ……、私なんてさっぱりだったのにー。じゃあさ、終わったら写させててよー」
「ジュース一本で手を打とうかな」
「何気高いな」
「やめとく?」

 俺が挑発気味にそういうと、柏木さんは慌てて手を振った。

「やるやる! 奢るから見せてよ」
「よっしゃもらい!」

 早速続きに取りかかる。
 えーっと、放物線の式がY=2X²+……

「竜太郎、また宿題やってこなかったの?」

 げぇ。まずいやつにバレた。
 絵梨奈は呆れた目で俺を見る。

「しょうがないな。私が教えてあげるよ」

 さっきまでの二人きりのときとは別人みたいに優しい声。周りに人がいるとき限定で見せる、俺に対しての親切な顔だ。

「いやいやいや結構ですよ」
「ほーら、遠慮しないの」
「でも柏木さんとの約束が」
「柏木さんは私のを写したらいいよ」

 あの真面目な絵梨奈がいきなり介入したことで、約束が破棄されるのではと不安げな表情をしていた柏木さんの顔が一気に晴れる。

「ほんと!? ただで!?」
「もちろん。友達でしょ?」
「さっすが絵梨奈ちゃん! ありがとっ」

 絵梨奈に渡されたプリントを嬉しそうに受け取ると、柏木さんは夢中で書き写し始めた。ず、ずるい……。

「さ、竜太郎は私が教えてあげる」
「いや俺もプリントをくれればそれで」
「いいから遠慮しないで」

 そう言いながら絵梨奈は席を立つと、「よいしょ」っと俺の椅子に座り始めた。
 なに――!? 心の中で絶叫する。

「ちょっと、もう少しあっち行ってよ。狭くて落ちちゃうじゃない」
「あ、ああわり」

 と、絵梨奈ように半分空けたところで我に返る。

「うん、ありがと」
「いやおかしいだろ!」
「何が?」
「この体勢がだよ!」
「だってこの方が教えやすいじゃない」
「だったら自分のイスごと移動すればいいだろ!」
「そんなのめんどくさいでしょ?」

 全然めんどくさくねーよ。
 というか、本当にやめてほしい。
 絵梨奈は学園のアイドルだ。そんな奴と一つのイスを分け合って座ってるなんて、良いように思われるわけがない。男子どもの視線が痛い。

「あの野郎幼馴染だからって……!」
「コロスコロスコロスコロスコロス」
「ターゲットを捕捉。迎撃に移ります」
「ムッキー! アタシの竜太郎ちゃんに!」

 おいちょっと待て。今一人方向性違う奴いなかったか?

「あのな、別にこんぐらい教えてもらわなくても」
「何言ってるの。数学の先生は厳しいんだから、万が一間違ってたら成績落とされることだってあるかもしれないんだよ? こんなプリント一枚で下がるなんて馬鹿らしいでしょ?」

 うぅ……、やっぱりだめだ。
 そりゃ俺だって、好きな子とこんだけ密着できたら、普通は嬉しいに決まってる。けど、こいつの猫を被った演技だけはどうも苦手だ。
 いつも罵倒されてばかりだから調子狂うというか。変に落ち着かない。
 こんな甘々な雰囲気なんて違う。こいつはもっとこう、蔑んだ目と、刺々しい言葉で俺の自尊心をへし折ってくるような……。いや、別に俺はドМじゃなければ罵倒されたいわけでもない。ただ何というか、背中がムズムズして仕方ない。
 顔や声、体型は同じでも、これは本当の絵梨奈じゃない。ほとんど別人だ。
 そう考えると、どうしても好意や喜びよりも嫌悪感の方が上に来てしまう。

「な、なあ絵梨奈……どういうつもりだよ」

 俺は周りの奴らに聞こえないよう小さな声で話しかけた。

「言ったまんまよ」

 同じように絵梨奈も小声で返す。いつもと同じ、冷ややかな声色だ。

「あんたの成績が下がったら、お世話係の私の面目がつぶれちゃうでしょ」

 何だよお世話係って。俺はウサギか。人参はどちらかと言えば嫌いだぞ。

「あのな、流石にそこまでは俺の両親も求めてないと思うんだけど」
「いいから黙ってやりなさい。普通私とこんな状況になれるって知ったらみんな泣いて喜ぶわよ」
「それはそうかもしれんが……」
「そ、それとも! あ、あんたは私とじゃい、嫌なの……?」
「当たり前だろ! 今のお前ははっきり言ってきら――痛って!」

 ドンッという音と俺の悲鳴にに、みんなの視線が俺に集まる。
 言葉の途中で、絵梨奈に思いっきり足を踏みつぶされた音だ。
 俺は涙をこらえてフォローを入れる。

「いや、何でもないから気にしないで」

 俺が興奮して暴れたとでも思ったのだろうか、羨ましそうな、蔑むような、そんな目で俺を見て、再び各々で話し始めた。
 俺は絵梨奈の肩を掴んで言う。

「おい、なにすんだよ!」
「うるさい……」
「は?」

 絵梨奈はキッと俺を睨む。
 顔は真っ赤で、目に涙を溜めている。

「私だって嫌なんだから、さっさと終わらせなさいよ」
「な、なんだよ。泣くほど嫌なら座るなよ」
「……あんたなんて大っ嫌い」

 だ、大っ嫌い……。
 でかくて重い、隕石みたいな岩が俺の心に落ちてきた。

「……そんなの、俺もだよ」

 結局、それ以上の会話は俺達にはなく、問題を解き終わる頃には絵梨奈は消えていた。
 はあ……、やっぱり脈ねえよなあ……。
 早く諦めたい。




──────

お気に入り追加よろしくお願いします
モチベーションが上がります
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

処理中です...