俺の番が見つからない

Heath

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57. 夜会 2-3

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「舞踏会」ソフィにとっては招かれるどころか見たこともない。
注文の多いアレクサンドラの支度でしか知らない。


皇帝妃ユディトの心尽くしで、支度が整ったソフィであったが、舞踏会が始まるとどこにどのようにしていれば良いのか分からず、ただ緊張して壁際に立ち尽くしていた。

ふと気がつくとすぐ側にギデオンが三角巾で片腕を釣ったまま立っていた。

何を話すでもなかったが、慣れない自分を気遣ってくれていることを感じてありがたく思った。

しかし、これが家族だけの「舞踏会」だろうか?

フロアは楽し気で軽快な音楽が流れる。

獣人としての運動能力を見せつけるがごとく、アップテンポな曲が演奏され、皆、声をあげ、足を踏み鳴らして楽しんでいた。


その中でもルイと踊れるシャーリィは特に楽しそうだ。身長差の大きい二人なので、ほぼシャーリィがルイを抱きかかえたまま、くるくると踊っている。

この宮殿一の問題児シャーリィはここのところご機嫌続きである。

ドラゴンの宝玉を持って帰れば、ルイがとてつもなくカッコ可愛くなっていた!

ルイの柔らかな髪に絡められた翡翠自分色のリボンはまるで、自分がルイに抱きしめられているかのようにすら感じられた。近づけばそのリボンのあちこちに小さな輝石がついており、ルイが動くたびにその輝石はキラキラとオレンジシャーリィの瞳色の光を放つのだ。

竜人ドラゴニアのシャーリィにしては珍しく番のルイがシャーリィ以外の、家族以外のソフィに懐いていることに寛容であった。

それはルイが楽しげにしているというだけでなく、ソフィ自身がもたらしていた。シャーリィの止めどもない惚気話を傾聴し、純粋にその可愛さに賛同するのでシャーリィはこれまでになく満ち足りた気持ちになったのだ。

気分のムラがあり、扱い難いシャーリィが今までになく落ち着いていることは皇妃離宮内で働く者からすると非常にありがたいのである。

ソフィは番以外認知しないと言われる竜人ドラゴニアシャーリィの例外的ななのだ。


もちろん、シャーリィだけではない。
皇妃ユディトや姉妹はソフィの穏やかで謙虚な性格と、衣装や装飾品の知識、市井の珍しい話や流行りのスィーツなどの話題を非常に楽しみにしていた。それは刺激の少ない離宮内の生活に潤いを与えており、すっかり受け入れられていたのだ。

そして番至上主義が当たり前であるここでは番の、どちらかに気に入られることは、そのままその番相手の好感も得られるため、ソフィを知る者は彼女自身をかなり好意的に捉えていた。



華やかな雰囲気に入りきれないソフィは、壁際に佇んだまま人生で一度っきりの王宮訪問となったお茶会を思い出していた。

夜会とお昼間のお茶会の差だけでなく、お国柄で随分と異なるものだと思った。

音楽にしてもあの時はもっと落ち着いた会話の邪魔にならないような選曲であったように思う。

ルーが逃げ出して、広い庭園に途方にくれた。
見つけたときにはホッとしたものだった。

たが、今ここにルーはいない。

あの仔はどうしているだろう、
私だけが生き延びて、
こんな華やかな場所で、
心尽しの歓待を受けていて、
と息が詰まり、胸が苦しくなる。

ほんの半年ほどの間に、私はこんなにも遠い場所にいる。

それまで和かにしていたソフィの憂い顔に気付いたユディト皇妃に促され、ギデオンは慣れないダンスをソフィに申し込む。

「このような腕では満足にリードできないかもしれないが……
 ソフィ嬢、私と1曲踊っていただけませんか?」

ソフィは生まれてこのかた、ダンスなど踊ったことがなく、ギデオンの手を取ることを躊躇った。

それをギデオンはソフィの気持ちが読めず、その自信のなさから拒まれたように感じ顔が強ばってしまう。

二人の間に距離ができたその瞬間を狙ったかのように、ギデオンに負けず劣らず大柄な男性が二人の間にすっと割り込んできた。

「これは、これは、なんとお美しい人よ。この哀れな貴女のしもべに貴女と踊る特権をお与えください」


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