俺の番が見つからない

Heath

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63. 夜会 3-5

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 アルーゼは一人でしばらく夜道をゆっくり歩いて目抜通りまで戻り、「あなぐら亭」の前の酒場へ戻って来た。エールを飲みながら、もうすぐ手に入るかと思うと自然と頬が緩む。

記念にあの宿屋あなぐら亭も手に入れるか、などと考えていると、子供の頃からの世話係である忠僕がやってきた。

「……坊ちゃま、先程のものは猫のようでした。例の場所では逃げ出すやもしれませんので(隷属の)首輪を着けておきました」

「ん? 獣人かぁ、丁度いいな、新薬を試してみるか」

「ああ、それはようございますね。早速木天廖またたびから生成したものを使ってみましょう」

「そいつは良いなぁ、それでそいつの目的を吐かせろ。お上品そうなやつだったから身代金がっぽりかもな。金額次第じゃぁ(身代金を)いただいてから奴隷市に出すか? ダブル、いやトリプルで美味いな」

「左様ですね、良い案かと。ところで坊ちゃま、夜会がございます」

そう言って招待状を渡し、視線で外の馬車を示す。

「しゃーねぇ顔を出すか。朗報が入り次第、連絡しろよ。すぐに戻る」

「はい、畏まりました。どうぞ、ご油断なきよう……」

「お前はいつまでたっても心配性だなぁ、もう子供じゃねーんだよ。お前こそ暗闇には気をつけろよ」


アルーゼを乗せた馬車は軽快にメイン通りを抜け坂道を上がり、時間をそれほどかけずに目的地に着いた。

この豪奢な建物は街が見下ろせる小高い丘の上にあり、広い敷地内のあちらこちらに馬車が停められている。

馬車から降り立ったアルーゼは品の良い夜会服に着替え、グリッティ商会頭の顔をしていた。

「ようこそ、グラン・ミラヌス迎賓館へお越しくださいました。どうぞ、ゆっくりお過ごしください」

館の案内係が恭しく挨拶し、中に通してくれる。

アルーゼは慣れた様子で主会場へ入ってゆく。まずは主催者へ挨拶を、と探したがお目当てのミラヌス伯は他の客と話し込んでいる。

ミラヌス伯の手が空くまでゆっくりしているか、と係りの者からシャンパンを受け取り一口飲んだ。
こりゃぁ上物だなぁ、ナヴァール産か、けっ儲けていやがる、と舌鼓を打つ。なら食べ物はどうだろうか、と会場の隅に置かれたテーブルに近くと、そこに愛人であったビオレッタが大きなブルーダイヤのネックレスを着けて立っていた。

は? どういうことだ? と近寄ると、それを遮るようにビオレッタに歩み寄る人物がいた。

それはアルーゼの商売相手でもあるラヴォワ大公国の世子ゼイナス・ド・ラヴォワサンであった。

ある意味、因縁の相手である。

この大陸の王族や貴族は子女をヨルミテス王国の名門ヴェリータ校で学ばせ、ハクをつける傾向があるのだが、アルーゼとゼイナスもご多分に漏れずそこへ放り込まれていた。

イーバとは同級生として知り合い、似た生い立ちにすぐに意気投合したのだが、ゼイナスは5つほど年上で大公国嫡子でもあったため、学内ですれ違っても会話をする機会もほとんどなかった。

ただ、美に対する、その好みが少々被っていた。

平民アルーゼの持つ物全てが一流品であったのだが、ゼイナスはそれが赦せないようだった。

学門内では皆、身分が学生であるにも関わらず、見高なゼイナスは事あらば、平民ごとき、庶子風情、といった類の発言が通常モードの人物である。

アルーゼは生まれてこのかた自身の出生や身分を面倒と感じても、卑下したことがなく、その態度がまたゼイナスの癪に触るようだった。

正直、気乗りはしないが、ビオレッタをポイ捨てしたという認識があったので、一言教えておいてやろうと二人の方へ歩を進める。

気付いたゼイナスが見下すような顔付きで声をかける。

「ああ、グリッティ商会の……」

わざと名前を呼ばないところに意地の悪さを感じる。

「お久しぶりですね。ゼイナス先輩」

アルーゼは舞台を対等であるはずの学生時代に持っていく。

ビオレッタは二人が知り合いであることに驚いた様子を見せたが、すぐに傲慢な笑みを見せた。

ゼイナスが他の客から話かけられた、そんな隙きを見てビオレッタに小声で話す。

「おいっ、どういうつもりだ?」

「何? ほぉら、このブルーダイヤやっぱり似合うでしょう? ゼイナス様が先ほどお支払い下さったわ。大公世子様にもなると気前が良いわぁ」

ビオレッタは当てつけるように鼻にかけて笑う。

「それは、いわくが……、いや、アイツは止めとけ、ヤバ「あ~ら、失礼、もう行かないと」」

ビオレッタは話しかけられるのが迷惑だと言わんばかりに、ふんと鼻で笑い目一杯上品そうにゼイナスの方に歩ていく。

媚びるようなビオレッタの視線を受け、ゼイナスはそれを満足そうに見る。

それを見たアルーゼは片方の口角を上げて二人に丁寧に会釈してから、踵を返しゆっくり歩き出す。

新たに受け取った極上のワインを口の中で楽しんでから、呟く。

「(あいつは)人を壊れるまでいたぶって愉悦を覚える……狂人だよ」

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