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【2】僕は天才少年?
しおりを挟む「璃音、お~い、曲まだか?」
「は? 無理、イメージ湧かない」
「頼むよ! お前の大事なとーちゃんのためだろ?」
「やる気出ないネ。ザーンネん」
「お前ねー、プレサンの曲はすぐできたじゃねーか」
「当たり前! ああ、みのりんのこと考えたら、また曲、降ってきた!」
「だからな、イスエンの曲とアイドル曲は違うだろーが」
「みのりんの曲落ちてきてから忙しくなった。とーちゃん、自分で作って?」
「いやぁ、とーちゃんはな、凡人…凡人なんだよ……、
おい、天才! 今度、とーちゃんの誕生会にみのりん誘ったんだぞ、来るぞ!」
「え?!」
「二人っきりで話せるようにしてやろうか?」
「え?! まぢ?」
「今、プレサンのアルバム頼まれてんだぞ、だから、まずは俺のイスエンの曲をだなぁ……」
「やる! 今、湧いた! ヤル気出た!」
朝比奈久遠は広々としたリビングから、地下のレコーディングスタジオへ駆け込む息子を見ながら、呆れたように笑った。
朝比奈久遠は中学生の時にロックにはまり、エレキギターを親に買ってもらって好きなバンドのコピーを始めた。
高校生一年の時に初めてバンドを組んだ。ギターが上手いってことでパートはリードギターだったが、ベースもドラムもキーボードも簡単なものなら何でもやった。学校内での軽音活動は流行りのバンドのコピー曲ばかりで、歌もパフォーマンスもそんなに上手くない奴でやり甲斐が刺激されない。まだ、俺の方が聴けるし、観れる。
演奏するのも学園祭や部活勧誘の場ばかりで、だんだんつまらなくなってしまった。腕を買われて誘われるままに大学生たちとオリジナル曲を作って演奏するようになり、ライブを定期的にできるようになった。
好きなバンドのギターリストを真似て、頭に黒いバンダナを巻き、ぴったりとした黒い服を着て、ギターストラップを長くした。
180cmを超える身長と面長で三白眼がよほど目立つらしく固定ファンがつき、凝った衣装やアクセサリーがプレゼントされるようになった。それを着て、くれた女に舞台の上から手を振って、ウインクすれば、みんな競うようにプレゼントしてくれた。
音楽では作詞先行・作曲先行・ギターリフ先行の曲作りもしたし、編曲もどんどん覚えた。年上の上手な人たちとアイデアを出し合って曲を作り上げている作業が殊の外楽しく没頭した。
音とリズム、酒に、女、超楽しい日々の到来だ。楽しいことはなんでもやった。めんどくさいから基本、女が相手だが俺は男もイケる。俺とやってみたいっていうヤツも結構いた。準備なんてメンドクセーこと、してらんねーから突っ込む方専門だ。
それに、俺は褒められると伸びる子だったらしい。
派手なパフォーマンスをすると、みんながちやほやしてくれた。
そうして、たまたま取ったソロボーカル曲が音楽関係者の目に止まり、二十一歳でメジャーデビューした。
そこからも俺の快進撃は止まらない。日本に仕事で来ていた超美人の金髪碧眼モデルと好い仲になって、子供ができて、結婚して、人生は最高潮だった。
息子の璃音が生まれるまで。
子は鎹っていうのは嘘らしい。
子供ができてから喧嘩が増えた。
俺はプロのミュージシャンなんだよ。
付き合いってのがあるんだ。
家族を、子供を、自分を、大事にしろ、一番にしろ、って
言ったって、できねーもんはできねーんだよ。
結局、璃音が五歳になった頃には夫婦生活は完全に破綻して、あいつはアメリカへ一人で帰った。
璃音は手のかからない子供だった。泣きもしなければ、笑いもしない。ひたすらミニカーを一列に並べていた。
TVをつければ、身動きひとつせずに一日中見ている。俺がギターを弾いていれば、ずーっとそれを見ている。
それが一年も続いたある日、ミニカーじゃなくて楽器を触りだした。
絵本見せられて指を指す。
前にもそんなことがあって、めんどくせーから、ぐずりそうな時用に与えてた貰い物のタブレットにアプリを入れてやった。使い方は教えなくても知っていやがる。
小さな指が指してんのは緑色の服を着た奴がバイオリンを弾いてるところだ。「ふぅーん、へぇー、そうか」って言って放置したら、何度でも持ってきやがる。
めんどくせー、音楽仲間に話したら、教育熱心そうなインテリんちは、娘に習わせてるらしく、年齢と身長を聞かれた。大体これぐらい?って太もも辺りを指差した。「丁度、使わらなくなったのがある」っておもちゃみたいなちっちぇーバイオリンをくれた。「ヴァイオリンは楽器の中でかなり難しいんだよ。良い先生について、その上、親がちゃんと見てあげないと上達しないんだ」と言いやがる。
めんどくせー、オススメの教本ったらいうのと、弾き方を解説してるっていうDVDを○○ゾンでクリックしといた。
そうして、気付いたんだ、こいつは天才だってな。
もらったバイオリンだけじゃない。家にある楽器類とプロ用の機材を自由に操って曲を作っていやがる。
しかも、俺なんかには思いもつかないようなコード進行のイケてるフレーズだ。
偶然なのかと思っていたら、そんなのがPCん中の音楽ファイルに数十曲になってた。
イースト・エンド六枚目のアルバム、映画とタイアップの曲を製作中、行き詰まって魔が差した。
大ヒットした六枚目アルバムの曲、ほとんどが璃音のものだった。
手柄は、金と名声は、俺のものになったが、天才は自分の才能も興味ないらしい。才能を、誰もが欲しがる才能を、全く惜しまない。
ニコニコしながら奴が要求したのは、なんとかレンジャーの変身ベルトと緑色のフィギュアだった。
さすがに幼稚園児じゃ作詞まではできなかったが、それもインターナショナル・スクールに入学してからはポエムの授業で作ったとか言い出して、才能を見せつけてきた。
才能はそれだけじゃない。俺には良く分からないが、中二のはずなのに、もう大学へ行くの行かないのなんて話をしていやがるし、俺のブログの写真やイラストなんかの半分はあいつの作品だ。
ここまで才能の差を見せつけられると、今まで順風満帆で天才だと自画自賛してた自分が、まるでゴミ粒に感じた。己の才能のなさに、凡人さに凹まされた。
だが、天才は天才なんだと思える出来事が起きた。妙なものに異常にこだわることは知ってたつもりだった。
ある時、頼んでいたハウスキーパーが奴が学校へ行ってる間に奴の部屋を片付けた。
帰ってきて、それを見た奴はヒステリーを起こした。
普段、無表情のあいつが狂ったように、泣いて、泣いて、泣いて、叫んで、暴れて、自分の頭を壁にぶつけ続けた。
それまで、なんにも感じなかった自分の息子に俺は初めて愛しいと思った。
奴の人間染みた感情の爆発を見て、ほっとした。
腕の中で悶え苦しむ息子を強く強く抱きしめた。
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