うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第9話 宝玉の力を吸収

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 俺の元へと戻ってきたコルとマナ。
 でも、何やら違和感が…よく見るとなんとその口に咥えられていたのは宝玉らしき物だった。

 少しの間、驚きのあまりに呆然として立ち尽くしていた俺だが、コルとマナが俺の前に来てお座りの姿勢で俺の顔を見上げているのを見てようやく我に返った。見間違いではなく、二匹とも赤い玉を口に咥えている。

「おい、それって…もしかして」

 俺の声に反応するように二匹は俺の足元に咥えていた赤い玉をそっと置いて、俺の顔をまた見上げながらこれは俺の為に見つけて来たのだとばかりに二匹同時に俺に向かって吠えてきた。

『『ワゥワウワゥ!』』

「二匹ともわかったよ。とりあえずその玉を調べてみるからちょっと待っていてくれ」

 手に取る前に地面に置かれた赤い玉を観察してみるが、前にギルドに冒険者が見つけて持ち込んできた赤い玉と見た目が一緒だ。水晶のようにキラキラと光ってその見た目だけでも価値がありそうだ。そういえば宝玉には金色に光る玉もあるということだが、そちらの方はまだ今まで我が目で見たことはない。

 いつまでも観察だけしてる訳にもいかないので、意を決して二つの赤い玉を手で拾ってみよう。

 恐る恐る手を伸ばし赤い玉に触れてみる。
 触れただけではまだ何も起こらない。
 今度は両手で二つの玉を掴んで持ち上げる。
 重さはそこそこあり、なぜかほんわかと暖かい。
 コルとマナが口に咥えて来たからかなと思ったが、それだけではなさそうだ。

 人づてに聞いた話では宝玉から力を貰う為には、玉を胸に当てて力をくれと念じると宝玉を司る神と思われる存在から問いかけがあるらしい。その時にこの玉の持つ力を教えてもらえるようだ。そして、その問いにはいと答えるともう一度念を押す為にか同じように問いかけがあり、それにもはいと答えるとようやく玉に込められた力がその人のものになるのだそうだ。

 選択の機会が二回あるのはいいな。もしかしたら受け入れたくないスキルや称号だったりするかもしれないし、選択の余地なしに受け入れてしまうリスクがない。自分がその力を必要としなければ他人に渡したり出来るもんな。これを創った神はそこまで考えてこの世界に存在させているのかもね。

 急な事で色々と確認しながらあれこれと思考を巡らせていたが、そろそろ俺もその方法を試す時が来たようだ。

 期待と不安が胸中に渦巻く中、まずは右手に持った玉の方を徐々に自分の胸に当てるように近づけていく。

 そして、玉が胸に触れてから力をくれと念じると、少し経ってどこからか俺の頭に直接語りかけてくる荘厳な声が聞こえてきた。

『この玉の力、剣術レベル5の力をお主は欲するか? 答えよ』

 おお! 確かにこの玉は宝玉で間違いない。
 俺に語りかけてきたのはこの玉を創った神のような存在なのだろう。
 しかも、剣術レベル5という強力なスキルが込められた玉のようだ。

 剣術レベル5といえば、天性の素質を持っていない一般の人が努力して何とか行き着ける限界とも言われているレベルじゃないか。いきなりそんな凄い玉の力を俺みたいな底辺が貰えるのか?

 俺は期待に心臓の鼓動が速くなるのを感じながらしっかりと声を出した。

「はい、この玉の力が欲しいです」

『そうか、もう一度問う。この玉の力、剣術レベル5の力をお主は欲するのだな?』

「はい、欲しいです」

『よかろう、お主にこの玉の力を授けよう』

 すると胸に当てた玉が一瞬微かに光り、玉が形を崩し気体のようになり俺の胸の中に吸い込まれていく。一呼吸置いてから俺自身の体に何か特別な力が湧いてきた気がする。右手を確認すると、持っていた玉はその姿を消していた。

『ワウ!ワウ!』

 コルとマナも俺が授かった玉の力を感じたのか、二匹とも喜んで俺を祝福してくれてるようだ。そりゃ俺だって嬉しいよ。

 なんせ今まで落ちこぼれの底辺と蔑まれ馬鹿にされてきた俺が、いきなり剣術レベル5の力を手に入れたんだもんな。俺自身もまだ夢の中にいるようだよ。

 ふと気づく。そうだ、忘れちゃいけない。
 俺の左手にはもう一つの宝玉があるんだ。
 あれよあれよと言う間の展開に興奮冷めやらぬ俺は浮かれすぎて左手に握りしめたもう一つの玉の存在を忘れるところだった。

 俺は再度左手に持つ玉を自分の胸に近づける。
 さっきは初めての事なので期待と不安であたふたしてしまったが、二度目は心の準備も出来ていて準備万端だ。

 そっと自分の胸に玉を当ててみる。

 すると、また先程と同じように荘厳な声が俺の脳に直接響いてきた。

『この玉の力、聖魔法レベル5の力をお主は欲するか? 答えよ』

 おお! 今度は何と聖魔法だ!

 単純な魔法と違って聖魔法は回復だけでなく攻撃にも使える魔法じゃないか。これってレアもレア。ただでさえ希少な魔法の中でも滅多に見かけないという超レアもいいとこだよな。そんな貴重な魔法が込められた宝玉を手にしながら胸がざわついてくるぞ!

 俺は一つ目の玉の時と同じように「欲しいです」と答え、同じやり取りの後無事に玉の力が体に吸収されてその力は俺のものになった。同時に聖魔法の知識も取得したようで、回復のヒールや状態異常を治すキュア、そして他の魔法も使えるのを確認出来た。

 さっきまで何も取り柄がない、皆に薬草拾いと馬鹿にされていた俺が、一気に剣術スキルと聖魔法を同時に所持する事になるなんて夢々思わなかったけどこれは紛れもない現実なんだ。

 暫くの間余韻に浸ってた俺だったが、よく考えてみればこの玉を見つけて持ってきてくれたコルとマナが最大の功労者だ。俺は二匹にお礼を言うべく腰を落とし、従魔と同じ高さの目線になってコルとマナに頭を下げお礼の言葉を呟いた。

「コル、マナ。二匹とも貴重な宝玉を見つけてきてくれて本当にありがとうな。おかげで素晴らしいスキルと魔法を手に入れられたよ」

『『ワオン!』』

 二匹からは主である俺の役に立って嬉しいという気持ちが伝わってきた。

 ここ最近は流れの行商人に出会ったり、その行商人から貰った干し肉のおかげでコルとマナを手懐けて従魔にしたりと目まぐるしい日々だったが、まさか自分が宝玉の力を身につけるとまでは考えていなかった。世の中何が起きるかわからないものだな。自分自身がびっくり仰天してるよ。

 そういえば、薬草採取が途中だったっけ。
 飯を食べたら再開しなくちゃな。

 俺は飯を食ってから薬草採取を再開して薬草を集めた後、コルとマナを連れて意気揚々と街へと戻っていった。
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