うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第33話 後ろからいきなり二人の大男に声をかけられる

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 俺達全員の試験が終わり、皆が一箇所に集められた。

 試験を終えた皆にどうだったと聞くと、全員からとても良い返事が返ってきた。試験官の人の採点基準がどうなのか知るよしもないが、全員がこの試験に合格出来ればいいと思う。たぶん、試験官に負けても他の要素も含めてこの人は実力ありと判断されたら受かるとは思っているけどね。

 練兵場のベンチに腰掛けて暫くの間座って待っていると、審判役をしていた人が手にカードの束を持って姿を現した。

「皆さんお待たせしました。まだ試験は始まったばかりなので、これから受けに来る人の事も考慮しながら改めて後日その結果を受けて合格者を発表します」

 結果発表は後日まとめてって事か。

「それではここに用意したそれぞれの方の名前と受験番号が書かれたカードを渡しますのでお持ち帰りください。二週間後に受験者の合格者を駐屯所跡の仮本部の掲示板に受験番号を書いて貼り出します。それまでの間、こちらで待機期間中の滞在手当を前払いで支給しますので受け取ってから帰ってください。それでは今日はこれで解散します」

 話が終わり滞在手当を受け取る為に俺達は面接を受けた建物に向かう。支給された滞在手当はなかなかの金額だった。この街は裕福な上に新たに設立する部隊への期待値の高さもあるのだろう。でもさ、本当にこんなに貰っていいのかね? あとで返せと言われても無理ですよ。

「ガハハ、エリオはやっぱり強いな」
「フッ、俺を負かしたエリオが弱いはずがない」
「それもそうだけど、エリオさんの従魔滅茶苦茶強くないっすか?」
「確かに。コルとマナは私が目で追えない速さであっという間に制圧してましたな」
「さすがあたしの見込んだ男だね。戦ってる姿を見て胸がきゅんとなったよ」
「エリオさんもそうですが、コルちゃんもマナちゃんも凄いですよね」

「あのね、そんなに褒められても恥ずかしいだけだよ」

 俺は褒められ慣れてないからどう反応していいのか困ってしまうよ。

「そこの御仁、ちょっと待たれよ!」
「そこのあんただよ。ちょっと待ってくれ」

「えっ?」

 そんな時にいきなり後ろから声をかけられたので俺は驚いた。声のした方を振り向くと長くてゴツい武器を持った二人の大男が俺に鋭い視線を向けている。何だろう、俺この人達に何か粗相でもしちゃったっけ? 仲間達もいきなり後ろから声をかけてきた二人の男に向けて、怪訝な面持ちをしながらその二人を見つめている。

「待たれよってもしかして俺の事ですか?」

「うむ、それがしは先程のあんたの戦いぶりを見て人並ではない強者の匂いを感じたのでな」
「そうだ。おいらもあんたにはただならねえ強さを感じたぜ」

 二人のうち、片方は顎髭を生やした涼やかな目の人物で大柄でいかにも強そうな大男。そして、もう片方は顔中に髭を生やしたガッチリとした体型のこちらも強そうな大柄の豪快そうな男。どちらも偉丈夫と呼ぶに相応しい佇まいだ。そんな二人がこちらへどんどんと近づいてくる。まさか喧嘩を売ってきてるんじゃないよな。ベルマンさんとバルミロさんが二人に向けて殺気を放ち、ピリピリとした雰囲気がその場を支配する。

「いや、別にあんたに喧嘩を吹っかけてる訳ではないのだ。あんたとその従魔にただならぬ強さと魅力を感じたので近づきになりたいと思って声をかけたのだ。気分を害したのならこの通り謝罪する。申し訳ない」

「おいらも喧嘩を吹っかけようなんてそんな気はないからどうか安心してくれよ」

 そう言って頭を下げる二人の大男。足元のコルとマナはこの二人を警戒する素振りを見せてないし、俺達に危害を加えようとか悪意を持ってないのは確かそうだ。ベルマンさんとバルミロさんも二人の態度に敵意がないのを知り殺気を解いて一歩下がった。

「そういう事なら謝罪の必要はありませんよ。別に俺達はあなた達二人に何かをされた訳でもありませんし」

「ハハハ、誤解が解けたようで何よりだ。そういえば、まだ名を名乗っていなかったな。それがしの名はカウン。そしてコイツが弟分のゴウシだ。各地で傭兵などをしながらこの街に流れ着いてな。たまたまこの街で新たに発足する部隊の募集をしているのを知ったので、それがし達は興味を惹かれて訪れてみたという訳だ」

「俺の名前はエリオです。ここにいるのはちょっと前に賊徒達を討伐する機会があってその時に知り合った仲間達です」

「ほう、最近世間を騒がしている賊徒達を討伐したとはな…やはりあんたに感じた強者の匂いは本物だったようだ」

「ハハ、成り行きみたいなものですけどね」

「おいらの名はゴウシだ。よろしくな。なあ、カウンの兄貴よ。おいら達の目は節穴じゃなかったようだぜ」

 顔中が髭モジャのゴウシという男がそう言った後、俺に握手を求めてきたので俺もそれに応じて握り返す。体の大きさに比例して大きくてゴツい手だ。

 最初はちょっと怖かったけど、話して見ると二人とも気が良さそうな人達だ。もし、俺達がこの街で働くようになった時はこの二人と一緒に仕事が出来ればいいな。

「それがし達にとって、今日は良き出会いがあったようだ。時間を取らせて申し訳なかった。部隊試験に合格して一緒に働く事になったらよしなに頼む」

「こちらこそ。俺なんかに声をかけてもらってありがとうございます」

 カウンさんとゴウシさんの二人は手を振りながらその場から離れていった。

「ガハハ。エリオ、あいつら強いぞ」
「フッ、この俺もあの二人は相当な強さと見た」
「私もそう思いますな」

 俺もあの二人の強さは相当なものだと思う。あんな人達がいるなんて世の中は広いものだ。

「本当ですよね。話してみると気が良さそうな感じだったし、俺も良い出会いだったと思うよ」

 皆も俺の言葉に納得してくれたようで頷いている。そして二人を見送った後、俺達も試験会場を後にしたのだった。
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