うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第70話 証拠固めと下準備

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 ロドリゴに頼んだ応援部隊は、今夜の襲撃の事の顛末を記した報告書の作成が終わる頃に俺の家に到着した。当直の者と官舎から急遽招集された部隊員の合計はロドリゴを入れて十人。応援部隊は襲撃者を護送する為の馬車を持ってきたのでその護衛の役割も兼ねている。

 俺の寝室から移動させてリビングに放り投げておいたぼろぼろの襲撃者を見るなり部隊員達は「うわっ、痛めつけ方がえげつないな」「こうはなりたくないものだ」「隊長に逆らうのだけはやめておこう」と口々に囁きながら護送用の馬車に男を積み込んでいた。今回も本部に連れて行って収監する予定だが、この前の四人のように毒殺されないように人員を増やして厳重に警備するように本部に伝えてくれと指示しておいた。それと、出来れば第一部隊長の監視もやってもらえないかと頼んでおく。

「ロドリゴ、それじゃ本部までの護送の仕事を頼む。おまえと来てくれた部隊員がいればさすがに大丈夫だろう」

「了解っす。任せてください」

 ロドリゴ達が護送車を警護しながら本部に向かったので、俺もまだ夜明け前だが第三部隊に出動する事にした。眠気もすっかり飛んで目が覚めたので執務室に行ってラモンさんの報告を待った方がいいだろう。

「リタ、後はよろしく頼む。一応警戒は怠るなよ」

「わかったよ。任せてちょうだい」

 リタに後片付けを頼み、俺は従魔を連れて駐屯所にある第三部隊の執務室へ向かっていく。ラモンさんから良い報告が聞ければ良いなと考えながら歩いていったらすぐに到着してしまった。

 執務室で報告待ちの時間を過ごしていると、いつの間にか夜が明けたようだ。
 護送を頼んでいたロドリゴが仕事を終えて俺に報告に来たので暫くの間二人で雑談をしていると執務室のドアが開いてラモンさんが部屋の中に入ってきた。

 俺は軽く手を上げて挨拶をした後にラモンさんに報告を促した。

「ラモンさんの方はどうだった?」

「エリオ殿、襲撃者の第一部隊参謀の男の住み家を監察官と共にガサ入れの結果、第一部隊長のカモンの関与が明らかになりましたぞ。部屋に置かれた物入れを移動させると床に隠し扉があり、そこに隠されていた書類にカモンからの脅迫ゆすりの指示や、ゆすりなどで集めた金の分配を取り決めた割り振り表も見つかりました。それだけでなく副隊長も関与しておりますな。証拠の書類などは監察官がもう一度詳しく精査した後で統括官に報告する予定になっております」

 想像はしていたがやはりそうだったか。

「こちらで証拠を押さえたのは大きいですね。これで第一部隊長が黒幕なのが決定的になったと言えるでしょう。今はまだ表には公表せずに集めた証拠を精査した後は第一部隊長を拘束する為に万全の体制で行きましょう。もし、頑強に抵抗するならば俺の特別執行官の権限で最終手段まで許可します」

「エリオさん、その時は僕も参加させてくれないっすか? きっと役に立ってみせますから」

「ああ、わかった。ロドリゴの強さは大きな戦力になるからな」

「それでは私はもう一度本部に行って監察官と共に精査の作業に加わってきますので、裏付け調査の結果が確定して手続きを終え次第ここへすぐに戻って来るつもりです」

「そうだ、ラモンさん。もう一つ頼まれてもらえますか。第三部隊の部隊員に招集をかけておいてください。第一部隊がどう出るかわかりませんから。俺は第二部隊のタイン隊長と話をしてきます」

「承知しましたエリオ殿」

「ラモンさんもロドリゴもよろしく頼むよ」

 二人が執務室から出ていく。そして入れ替わるようにリタとミリアムが執務室に入ってきた。手には蔓で編まれた籠を持っているから朝食を持って来てくれたのだろう。

「エリオ、あたしとミリアムで朝食を作って持ってきたよ」
「エリオさん、温かいうちに食べてくださいね」

 見ると籠の中には焼いた薄い肉を挟んだパンとポットに入れられたスープが入っており、美味しそうな匂いが漂ってきた。

「二人ともありがとう」

 俺はパンを齧って食べながらその合間にスープを飲んで胃に流し込み、あっという間に用意された朝食を平らげてしまった。夜中に襲撃されてからずっと起きているせいか腹が減っていたのでね。

「エリオはお腹が減ってたのか見事な食べっぷりだね」
「ふふ、そんなに美味しそうに食べてくれると作った甲斐がありますね」

 ハハ、褒められてるのか呆れられてるのかわからないな。

「それじゃ俺はこれから第二部隊まで行ってくる。コルとマナは執務室に置いていくから二人とも何かあったら連絡を頼む」

 リタとミリアムにそう告げた俺は第二部隊の専用施設内にある部隊長執務室に向かった。この時間なら既に早起きで誰よりも早く来るタイン隊長もいるだろう。到着して訪問目的を告げると執務室の中に通されタイン隊長の出迎えを受けた。

「エリオ第三部隊長。こんな朝早くにどうしたんだい?」

 俺はタインさんの疑問に答えるべく、昨夜の俺に対する襲撃事件から始まり事の経緯を細かく説明してあげた。俺の説明を聞いていたタインさんも次第に事の重大さを認識したのか途中から真剣な表情で聞いてくれていた。

「うむ、そういう事なら私も第二部隊も特別監察執行官である君の指示に従おう。私は君の味方だから安心してくれ」

「ありがとうございますタイン隊長。一応念の為に招集をかけておいてください」

「わかった。今すぐ指示しておこう。執行時には私も呼んでくれ」

 これで第二部隊もこちら側に押さえた。第一部隊の隊長から参謀まで全ての人の関与が明らかになった今、第一部隊がどのような状況なのか不明なので今のうちにやるだけやっておきたい。これで事件解決に向けた下準備は大体出来上がってきたものと思う。後はこの一連の事件の黒幕達を退治するだけだ。抵抗してきたら最終手段の行使も考えておこう。
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