うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第127話 コルとマナの障害物競走

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 普段の俺は執務があるので執務室に居る時間が多い。

 だが、暇を見つけてはリタやミリアム、赤ん坊の相手などをするようにしている。大事な家族なのでね。そして、それだけではなく従魔達とも触れ合うモフ分補給も俺には必要なのだ。

 さすがに配下の前でこれ見よがしに従魔達と戯れる訳にもいかないので、従魔専用の遊び部屋が俺のモフ分補給の重要なテリトリーだ。俺にだって癒やされたい時はあるからね。重い責任と重圧が自分の身に伸し掛かってくる立場にいると、たまには気分転換をしたくなるのさ。

 それにトップの立場の俺が息抜きをしないと、配下達だって俺に遠慮して息抜きの一つも出来なくなってしまう。常に絶えず緊張感を張り詰めていると体調にも影響が出てくるのは誰もが知ってる常識だもんな。良い子の皆さんも適度な休息と気分転換を心掛けて心身をリラックスさせよう。

 そんな訳で俺は執務室での仕事を早々と終えてコルとマナと一緒に従魔専用部屋へと向かっているところだ。従魔達も執務室ではただ俺のそばにいるという訳でなく、一応護衛という仕事を務めてるのだ。コルとマナにも俺の特別護衛という役職があるのだよ。

 従魔専用部屋に到着して部屋の中に入る。この部屋は従魔が伸び伸び出来るように大きい部屋を充てがってるのでかなりの広さだ。

『よーし、コルマナ。俺と遊ぼう』

『わーい! 主様と遊べるぞ!』
『ふふ、私の愛しいエリオ様にいっぱい抱かれてあげましょう』

 ハハ、従魔達も俺と遊べるのが嬉しいのか大喜びだ。だけど、マナの言葉は誤解を招くので俺もどう返事すればいいのか困ってしまうぞ。時々だがマナと話していると人族の女性と接しているような感覚になる。たぶん俺の妻達の会話を聞くうちにそういうのが身に付いたのだろう。

 部屋の中は踏み台や棒、天井から吊り下げられた輪っかなどが置かれていて、従魔達がそれを障害物のようにしてコースを回って遊び回れるようになっている。街の外に行った時には原っぱで駆け回らせたりして体を動かすようにさせているが、部屋でもちょっとした運動が出来るようにしたのだ。

『じゃあ今日も軽く準備運動をしてからコース周回をしよう。ミスなく速く出来たら美味しい果物のご褒美だ。最後に二匹で競争して勝った方には俺からの丁寧で優しいブラッシングをしてやろう』

『美味しい果物とブラッシングの為に僕頑張っちゃうぞ!』
『エリオ様のブラッシングはとても気持ちいいから楽しみ』

 コルとマナは体を伸ばしたり首を回したり、軽くジャンプなどをして走る前に準備運動だ。見た感じ、二匹とも動きは軽そうだな。

『最初は一匹ずつ走ってくれ。二匹とも何度か走り終わったら少し休憩して競争な』

『『はい!』』

『最初はコルから。よーい、始め!』

 俺の始めの合図を受けて、まずコルがスタート地点から走り出す。最初の障害物は五段ある凸型の階段状の踏み台が何台も置かれたエリアだ。ここはジャップして踏み台を越えていくのは反則になっている。しっかり全部の階段に前足や後ろ足をつけていかなくてはいけないのだ。

 踏み台をクリアした次の障害は輪っか潜り。直線に並んでいない高さの違う三つの輪っかを潜り抜けていく。輪っかが直線上に並んでいないので、勢いに任せて行くのが難しい。

 しかも輪っかによって高低の差があるのでリズミカルに潜っていけないのも難しいポイントだ。そんな難易度高めの障害をコルは見事にクリアしていく。

『コル、上手いぞ!』

『いえーい!』

 輪っか潜りの後は不規則に並べて立てられた何本かの棒をスラロームで抜けていく。そして最後はパイプのトンネルを抜けた先のゴールに駆け込んでいく。

『主様、どうでしたか?』

『ああ、いつもながら凄い速さだな』

『ありがとうございます!』

 俺が褒めるとブンブンと尻尾を振って大喜びしてるぞ。可愛い奴め!

『よし、次はマナの番だな。よーい、始め!』

 俺の号令を聞くや否や、マナもダッシュで最初の障害に向けて駆け出していく。踏み台をリズミカルにクリアしたマナは得意の輪っか潜りだ。コルとマナは二匹とも異常な速度で障害をクリアしていくが、それぞれ微妙に得意な分野がある。マナは輪っか潜りが得意でコルはスラロームが得意なのだ。

 高低を伴う移動はマナで平面的な移動はコルという感じだな。ギリギリのラインを見定めて見事な体捌きで輪っか潜りをクリアするマナ。

『マナ、さすがだな!』

『当然ですわ!』

 そして棒の間を縫っていくスラロームも確実にこなし、最後のパイプトンネルを飛ぶような速さで抜けてゴールだ。コルもマナもどちらも速くて俺の目から見ても甲乙つけがたいな。

『エリオ様、どうでしたか?』

『マナも凄いな。素晴らしい速さだ!』

『弟には負けられません!』

 ハハ、姉弟で対抗意識があるのか。普段は仲が良いのだが二匹とも負けず嫌いなんだよな。

『それじゃ次はおまえ達二匹で同時に走って競争だ』

 部屋の中には向かい合うように同じ距離のコースが二つある。障害も同じように設置してあるから公平はしっかり保たれている。最後のゴールラインは同じ場所だ。

『二匹ともスタート位置についたか?』

『『はい!』』

『それでは行くぞ。よーい、始め!』

 俺の号令を合図に二匹はもの凄いスタートダッシュを決めながら最初の障害に向かっていった。二匹での競争となってさっきよりも速さが増しているようだ。無茶苦茶な速さで次々と障害をクリアしていく。おまえら速すぎだろ!

 輪っか潜りで若干マナがリードするが、棒のスラロームでコルが追いついてくる。そして最後のパイプトンネルを抜けて左右からもの凄い勢いで二匹の従魔がゴールラインを駆け抜けていく。俺の目から見てもどっちが勝ったのか判断出来ないぞ。仕方ない、ここは同着としようかと声を出そうとしたら、コルもマナも俺がそれを言う前に二匹がそれぞれ勝利宣言をしてしまった。

『やったー! 僕の勝ちだ! 主様のブラッシングは僕のものだ!』
『やりましたわエリオ様! 私の勝利です! ブラッシングは私のものです!』

 えっ、ちょっと待てよ。まだ俺はどちらが勝ったとか宣言してないし、俺の目から見て同着のような気がするんだが。

『姉ちゃん何を言ってるんだよ! 僕の勝ちだ!』
『私の勝ちに決まってるでしょ! 鼻差で私が勝ってたじゃない!』
『嘘つけ! 僕の方が鼻差で勝ってたよ!』
『コル! おまえこそ嘘つきじゃないか!』
『やるか! 姉ちゃんだからといって手加減しないぞ!』
『私の方が優れているのを思い知らせてやる!』

 あっ、コルとマナが取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

『コル、マナ。喧嘩を止めろ!』

『例え主様の頼みでもお断りします!』
『エリオ様! どうしても負けられない戦いがあるんです! 今がその時です!』

 うわぁ……二匹とも頭に血が上ってるよ。どうやら魔獣本来の闘争本能に火がついちゃったようだ。あー、部屋の中にある障害物を薙ぎ倒しながら取っ組み合いをしてるよ。どうすりゃいいんだこれ。

 二匹の取っ組み合いは場所を変えながらエキサイトしていく。そして、取っ組み合いの場所はこの前買ってきたソファーに移ってその上で格闘が始まった。後ろ足の爪でソファーの布をがっしりと掴んで踏ん張っているから布が耐えられなくて破けちゃってるぞ。次第にソファーがボロボロになっていく。せっかく二匹の為に買ってきたソファーなのに!

『コラッ! コル、マナ。二匹とも喧嘩を止めなさい!』

『は、はい……』
『申し訳ありません』

 俺の叱り声で我に返った二匹の従魔はようやく喧嘩を止めてくれたが、喧嘩の戦場となったソファーはあちこちが破れ、中綿が飛び出していて見るも無惨な残骸に成り果てていた。
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