149 / 171
第149話 街を目の前にして
しおりを挟む
「出発!」
「「「応ッ!」」」
マルドの街へ進軍する為の準備を全て整えた俺達の軍はクレの街を出発した。それ以外の各街には守備兵を配備しておいた。後方からの反乱を防ぐ為だ。
東からは俺達とカウンさんの第一軍と近衛軍。南からはゴウシ将軍率いる第三軍、西から回り込む形でジゲルの第四軍とベルマンさんの第六軍、そして北からはエルン地方軍がそれぞれマルドの街へ向けて進撃中だ。ザイード家は東西南北から俺達に圧迫されていく。仮に隙をついてどこかへ逃げようとしても、各軍がすぐに対応出来るようにしてある。そもそも今の彼らに逃げるところは無いんだけどね。
「エリオ様、いよいよですね。ザイード家に報いを受けてもらいましょう」
行軍中、俺のすぐ脇を並走している馬上のルネから声がかけられた。
「ああ、そうだな。元々ザイード家と俺達には何の遺恨もなかったが、ザイード家が手に入れたテスカリ家の御曹司を利用して、俺達が築き上げたゴドールの金と富を奪おうとしたからにはこちらとしても容赦出来ないからな」
「エリオ様を怒らすなんてザイード家も愚かですよね」
「すぐ隣に金の成る木があれば誰でも欲が出てくるってものだろうな。古今東西、戦が始まる理由で人間の欲がきっかけになるのはいくらでも歴史が証明してるからね。俺だって綺麗事を言うつもりなんてない。今でこそゴドール地方は豊かで繁栄しているが、俺が治めるようになった当初はこれといった産業もなく財政も火の車だったからな。もしかしたら俺が逆の立場になっていたかもしれないよ。まあ、俺は成り上がると決心した時から自分が悪になるのでさえも厭わないけどね」
「それでも私は一生エリオ様についていきますよ」
「ありがとう。理解者が一人いてくれるだけでも俺はとても勇気づけられて励まされるし前へ前へと進む原動力になるからね。でも、いくら何でも一生は大げさじゃないか?」
「大げさじゃないのでお気になさらずに」
「はあ、よくわからないけどわかったよ」
なにげに後ろから視線を感じたので振り返って見ると、俺の後方で行軍中のロドリゴが俺を生暖かい視線で口元を緩めながらじっと見ていた。何となくムカついたので睨んでやったら慌てて目を逸したけど何なんだアイツ。
それから暫く行軍を続けていると前方に石壁に囲まれた大きな街並みが見えてきた。おそらくあれがマルドの街だろう。見た感じだとかなり大きい街のようだ。ザイード家にはもったいないな。
「ブンツをここに呼んでくれ」
「はっ!」
俺はマルドの街を知る元ザイード軍のブンツを配下に呼びに行かせた。そして、それほど時間はかからずに俺の元へブンツはやって来た。
「お呼びですかエリオ殿」
「ああ、前方に街並みが見えてきたのだが、あれがマルドの街で間違いないか?」
俺の質問に、ブンツは視線を前方に向けた後コクリと頷いた。
「はい、間違いありません。あれがマルドの街です」
「情報担当からの報告だけでなく、街を知る者から直接聞きたかったのでな。ところで、これからブンツ達が以前仕えていたザイード家を攻め滅ぼすつもりだが元配下として何か思うところはあるか?」
「ないと言ったら嘘になりますが、現在の私はエリオ殿の忠実な配下です。今となっては私自身はザイード家に思い入れも何もありません。なので私が土壇場で裏切るのではないかという心配も無用です。そこは私を信じていただきたい」
「わかった。ブンツを信じよう。ところでこの街の防備は元ザイード軍のブンツの目から見てどう思う?」
「クライス地方は長らく戦禍とは無縁の地方でした。しかも、大国であったキルト王国を構成していた土地の一つでもあり、外敵からの脅威というものにも同じように無縁だったのです。それもあってクライス地方の各街は街の防備という点ではほとんど備えが必要ありませんでした。このマルドの街も例外ではなく、街を囲む石壁も低くて門の強度もそれなりのものでしょう。街中にいると思われる第一軍団の残りも、コラウムが抜けた後に残った将軍はザイード家の縁故採用の人物でお飾りのようなものです。そんな人物の下にどれだけの兵士が忠誠を尽くして残っているでしょうか? 私の考えではそんな兵士はごく少数でしかないと思います。それらの状況からこの街は我らから見て攻めるに易く、彼らにとっては守るのに難いと思います」
「だとすると街を力攻めをしても勝てるのは確実か。ブンツよ説明ご苦労だった」
状況的に正面から力攻めのゴリ押しをしても俺達が勝つのは確実だ。でも、俺は出来るだけ犠牲や損害を抑えたい。まずは搦め手でちょっと試してみるか。
「ラモンさんはいるか?」
「エリオ殿、ここにおります」
「ちょっと相談があるんだ」
「なんでしょう?」
俺はラモンさんに自分の考えを伝えてそれをどう思うか聞いてみた。
「そうですな。上手くいけば敵が勝手に消耗するのでやってみる価値はあるかと」
「ならば、この街を四方から囲む俺達の軍から一斉にやってみるか」
「それならばすぐに各軍に伝令を走らせます。文言はどうしますか?」
少し考えた俺は草案を口に出してみた。
「それでよろしいかと。とりあえずやってみましょう」
ラモンさんとの密談が終わった俺は、カウンさんとロメイ、ロドリゴやルネなどを呼んで俺の考えを伝えて了承を得た後すぐに準備をしてもらう。必要な道具もすぐに用意出来たのでやり始めればあっという間に終わるだろう。
街を囲んでいる各軍で一斉にやりかたったので決行の時間は明日の朝一番とした。数人の伝令が俺の考えた文言と決行時間を伝えに各軍へと走っていく。後は明日の朝を待つばかりだな。
「「「応ッ!」」」
マルドの街へ進軍する為の準備を全て整えた俺達の軍はクレの街を出発した。それ以外の各街には守備兵を配備しておいた。後方からの反乱を防ぐ為だ。
東からは俺達とカウンさんの第一軍と近衛軍。南からはゴウシ将軍率いる第三軍、西から回り込む形でジゲルの第四軍とベルマンさんの第六軍、そして北からはエルン地方軍がそれぞれマルドの街へ向けて進撃中だ。ザイード家は東西南北から俺達に圧迫されていく。仮に隙をついてどこかへ逃げようとしても、各軍がすぐに対応出来るようにしてある。そもそも今の彼らに逃げるところは無いんだけどね。
「エリオ様、いよいよですね。ザイード家に報いを受けてもらいましょう」
行軍中、俺のすぐ脇を並走している馬上のルネから声がかけられた。
「ああ、そうだな。元々ザイード家と俺達には何の遺恨もなかったが、ザイード家が手に入れたテスカリ家の御曹司を利用して、俺達が築き上げたゴドールの金と富を奪おうとしたからにはこちらとしても容赦出来ないからな」
「エリオ様を怒らすなんてザイード家も愚かですよね」
「すぐ隣に金の成る木があれば誰でも欲が出てくるってものだろうな。古今東西、戦が始まる理由で人間の欲がきっかけになるのはいくらでも歴史が証明してるからね。俺だって綺麗事を言うつもりなんてない。今でこそゴドール地方は豊かで繁栄しているが、俺が治めるようになった当初はこれといった産業もなく財政も火の車だったからな。もしかしたら俺が逆の立場になっていたかもしれないよ。まあ、俺は成り上がると決心した時から自分が悪になるのでさえも厭わないけどね」
「それでも私は一生エリオ様についていきますよ」
「ありがとう。理解者が一人いてくれるだけでも俺はとても勇気づけられて励まされるし前へ前へと進む原動力になるからね。でも、いくら何でも一生は大げさじゃないか?」
「大げさじゃないのでお気になさらずに」
「はあ、よくわからないけどわかったよ」
なにげに後ろから視線を感じたので振り返って見ると、俺の後方で行軍中のロドリゴが俺を生暖かい視線で口元を緩めながらじっと見ていた。何となくムカついたので睨んでやったら慌てて目を逸したけど何なんだアイツ。
それから暫く行軍を続けていると前方に石壁に囲まれた大きな街並みが見えてきた。おそらくあれがマルドの街だろう。見た感じだとかなり大きい街のようだ。ザイード家にはもったいないな。
「ブンツをここに呼んでくれ」
「はっ!」
俺はマルドの街を知る元ザイード軍のブンツを配下に呼びに行かせた。そして、それほど時間はかからずに俺の元へブンツはやって来た。
「お呼びですかエリオ殿」
「ああ、前方に街並みが見えてきたのだが、あれがマルドの街で間違いないか?」
俺の質問に、ブンツは視線を前方に向けた後コクリと頷いた。
「はい、間違いありません。あれがマルドの街です」
「情報担当からの報告だけでなく、街を知る者から直接聞きたかったのでな。ところで、これからブンツ達が以前仕えていたザイード家を攻め滅ぼすつもりだが元配下として何か思うところはあるか?」
「ないと言ったら嘘になりますが、現在の私はエリオ殿の忠実な配下です。今となっては私自身はザイード家に思い入れも何もありません。なので私が土壇場で裏切るのではないかという心配も無用です。そこは私を信じていただきたい」
「わかった。ブンツを信じよう。ところでこの街の防備は元ザイード軍のブンツの目から見てどう思う?」
「クライス地方は長らく戦禍とは無縁の地方でした。しかも、大国であったキルト王国を構成していた土地の一つでもあり、外敵からの脅威というものにも同じように無縁だったのです。それもあってクライス地方の各街は街の防備という点ではほとんど備えが必要ありませんでした。このマルドの街も例外ではなく、街を囲む石壁も低くて門の強度もそれなりのものでしょう。街中にいると思われる第一軍団の残りも、コラウムが抜けた後に残った将軍はザイード家の縁故採用の人物でお飾りのようなものです。そんな人物の下にどれだけの兵士が忠誠を尽くして残っているでしょうか? 私の考えではそんな兵士はごく少数でしかないと思います。それらの状況からこの街は我らから見て攻めるに易く、彼らにとっては守るのに難いと思います」
「だとすると街を力攻めをしても勝てるのは確実か。ブンツよ説明ご苦労だった」
状況的に正面から力攻めのゴリ押しをしても俺達が勝つのは確実だ。でも、俺は出来るだけ犠牲や損害を抑えたい。まずは搦め手でちょっと試してみるか。
「ラモンさんはいるか?」
「エリオ殿、ここにおります」
「ちょっと相談があるんだ」
「なんでしょう?」
俺はラモンさんに自分の考えを伝えてそれをどう思うか聞いてみた。
「そうですな。上手くいけば敵が勝手に消耗するのでやってみる価値はあるかと」
「ならば、この街を四方から囲む俺達の軍から一斉にやってみるか」
「それならばすぐに各軍に伝令を走らせます。文言はどうしますか?」
少し考えた俺は草案を口に出してみた。
「それでよろしいかと。とりあえずやってみましょう」
ラモンさんとの密談が終わった俺は、カウンさんとロメイ、ロドリゴやルネなどを呼んで俺の考えを伝えて了承を得た後すぐに準備をしてもらう。必要な道具もすぐに用意出来たのでやり始めればあっという間に終わるだろう。
街を囲んでいる各軍で一斉にやりかたったので決行の時間は明日の朝一番とした。数人の伝令が俺の考えた文言と決行時間を伝えに各軍へと走っていく。後は明日の朝を待つばかりだな。
64
あなたにおすすめの小説
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる