うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第149話 街を目の前にして

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「出発!」

「「「応ッ!」」」

 マルドの街へ進軍する為の準備を全て整えた俺達の軍はクレの街を出発した。それ以外の各街には守備兵を配備しておいた。後方からの反乱を防ぐ為だ。

 東からは俺達とカウンさんの第一軍と近衛軍。南からはゴウシ将軍率いる第三軍、西から回り込む形でジゲルの第四軍とベルマンさんの第六軍、そして北からはエルン地方軍がそれぞれマルドの街へ向けて進撃中だ。ザイード家は東西南北から俺達に圧迫されていく。仮に隙をついてどこかへ逃げようとしても、各軍がすぐに対応出来るようにしてある。そもそも今の彼らに逃げるところは無いんだけどね。

「エリオ様、いよいよですね。ザイード家に報いを受けてもらいましょう」

 行軍中、俺のすぐ脇を並走している馬上のルネから声がかけられた。

「ああ、そうだな。元々ザイード家と俺達には何の遺恨もなかったが、ザイード家が手に入れたテスカリ家の御曹司を利用して、俺達が築き上げたゴドールの金と富を奪おうとしたからにはこちらとしても容赦出来ないからな」

「エリオ様を怒らすなんてザイード家も愚かですよね」

「すぐ隣に金の成る木があれば誰でも欲が出てくるってものだろうな。古今東西、戦が始まる理由で人間の欲がきっかけになるのはいくらでも歴史が証明してるからね。俺だって綺麗事を言うつもりなんてない。今でこそゴドール地方は豊かで繁栄しているが、俺が治めるようになった当初はこれといった産業もなく財政も火の車だったからな。もしかしたら俺が逆の立場になっていたかもしれないよ。まあ、俺は成り上がると決心した時から自分が悪になるのでさえも厭わないけどね」

「それでも私は一生エリオ様についていきますよ」

「ありがとう。理解者が一人いてくれるだけでも俺はとても勇気づけられて励まされるし前へ前へと進む原動力になるからね。でも、いくら何でも一生は大げさじゃないか?」

「大げさじゃないのでお気になさらずに」

「はあ、よくわからないけどわかったよ」

 なにげに後ろから視線を感じたので振り返って見ると、俺の後方で行軍中のロドリゴが俺を生暖かい視線で口元を緩めながらじっと見ていた。何となくムカついたので睨んでやったら慌てて目を逸したけど何なんだアイツ。

 それから暫く行軍を続けていると前方に石壁に囲まれた大きな街並みが見えてきた。おそらくあれがマルドの街だろう。見た感じだとかなり大きい街のようだ。ザイード家にはもったいないな。

「ブンツをここに呼んでくれ」

「はっ!」

 俺はマルドの街を知る元ザイード軍のブンツを配下に呼びに行かせた。そして、それほど時間はかからずに俺の元へブンツはやって来た。

「お呼びですかエリオ殿」

「ああ、前方に街並みが見えてきたのだが、あれがマルドの街で間違いないか?」

 俺の質問に、ブンツは視線を前方に向けた後コクリと頷いた。

「はい、間違いありません。あれがマルドの街です」

「情報担当からの報告だけでなく、街を知る者から直接聞きたかったのでな。ところで、これからブンツ達が以前仕えていたザイード家を攻め滅ぼすつもりだが元配下として何か思うところはあるか?」

「ないと言ったら嘘になりますが、現在の私はエリオ殿の忠実な配下です。今となっては私自身はザイード家に思い入れも何もありません。なので私が土壇場で裏切るのではないかという心配も無用です。そこは私を信じていただきたい」

「わかった。ブンツを信じよう。ところでこの街の防備は元ザイード軍のブンツの目から見てどう思う?」

「クライス地方は長らく戦禍とは無縁の地方でした。しかも、大国であったキルト王国を構成していた土地の一つでもあり、外敵からの脅威というものにも同じように無縁だったのです。それもあってクライス地方の各街は街の防備という点ではほとんど備えが必要ありませんでした。このマルドの街も例外ではなく、街を囲む石壁も低くて門の強度もそれなりのものでしょう。街中にいると思われる第一軍団の残りも、コラウムが抜けた後に残った将軍はザイード家の縁故採用の人物でお飾りのようなものです。そんな人物の下にどれだけの兵士が忠誠を尽くして残っているでしょうか? 私の考えではそんな兵士はごく少数でしかないと思います。それらの状況からこの街は我らから見て攻めるに易く、彼らにとっては守るのに難いと思います」

「だとすると街を力攻めをしても勝てるのは確実か。ブンツよ説明ご苦労だった」

 状況的に正面から力攻めのゴリ押しをしても俺達が勝つのは確実だ。でも、俺は出来るだけ犠牲や損害を抑えたい。まずは搦め手でちょっと試してみるか。

「ラモンさんはいるか?」

「エリオ殿、ここにおります」

「ちょっと相談があるんだ」

「なんでしょう?」

 俺はラモンさんに自分の考えを伝えてそれをどう思うか聞いてみた。

「そうですな。上手くいけば敵が勝手に消耗するのでやってみる価値はあるかと」

「ならば、この街を四方から囲む俺達の軍から一斉にやってみるか」

「それならばすぐに各軍に伝令を走らせます。文言はどうしますか?」

 少し考えた俺は草案を口に出してみた。

「それでよろしいかと。とりあえずやってみましょう」

 ラモンさんとの密談が終わった俺は、カウンさんとロメイ、ロドリゴやルネなどを呼んで俺の考えを伝えて了承を得た後すぐに準備をしてもらう。必要な道具もすぐに用意出来たのでやり始めればあっという間に終わるだろう。

 街を囲んでいる各軍で一斉にやりかたったので決行の時間は明日の朝一番とした。数人の伝令が俺の考えた文言と決行時間を伝えに各軍へと走っていく。後は明日の朝を待つばかりだな。
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