呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

文字の大きさ
20 / 43
Case.03【盛夏の潮騒】

day1─夏の訪れと、優雅な花─

しおりを挟む
 蝉の声が、校舎の外壁を震わせていた。
 白く光る夏の陽射し。窓から差し込む風が、優しく頬を撫でる。

「ねぇねぇ、もう直ぐ夏休みじゃん。海行かない?」
 昼休みの教室。机を寄せ合って弁当を広げる三人の少女のうち、黒い三つ編みの京香が、眼鏡の奥をきらりと光らせながら切り出した。
「海?」
「そう、海水浴! 去年、いとこが行ったって言ってた海水浴場、すっごく綺麗なんだって!」
「ふーん……でも、暑いだけじゃない?」と絢葉が箸を止める。
「なにそれ、若者らしくない!」と文子が口を挟む。
 茶髪のボブを揺らしながら、快活な笑みを浮かべる文子。
「夏といえば海! 絢葉も水着くらい持ってるでしょ?」
「うーん、去年ので入るかな……」
「大丈夫大丈夫! 一緒に買いに行こ!」
 京香の目が、完全に“バカンスモード”で輝いている。
 
「……まぁ、海くらいならいいけど」
「やった!」
 二人の声が重なり、教室の窓の外で風鈴が鳴った。


 ────


 放課後。
 日が傾き始めた廊下を抜け、絢葉は優雅部の部室へ向かっていた。
 涼しい風が通り抜ける部屋の中には、誰の姿もない。

「……あれ? 呉宮先輩、いない」

 机の上にはいつものティーセット。まだ少しだけ温もりが残っている。
 ふと、窓の外を覗くと、花壇の前に見慣れた背中があった。

 白いシャツの袖をまくり、ジョウロを傾ける姿。
 傾いた陽に髪が金色に透ける。
 史桜だった。

 花壇には見事な花々が並び、どれもよく手入れされている。
 彼は水をやり終えると、ふっと微笑んで言った。

「実に優雅に咲いてくれたね」

 その言葉はまるで、誰かに語りかけるようだった。

(なんかこの人、何してても絵になるな……)
 絢葉は思わず苦笑しながら窓を開ける。
「先輩、部室に戻らないんですか?」
「ん? ああ、東雲君か。すまないね、つい見惚れていたよ」
「……自分の育てた花に、ですか」
「そうとも。命あるものが懸命に咲く姿ほど、優雅なものはない」
 その言葉は、あまりに真っ直ぐすぎて少し照れくさかった。

「そういえば、夏休みに友達と海に行こうって話になって」
「海?」
「はい。京香と文子が、海水浴行こうって」
「いいじゃないか。青春の香りがする」
「そういう言い方されると、なんか気恥ずかしいです……」

 史桜はくすりと笑い、ジョウロを置いた。

「女子ばかりでは何かと不安もあるだろう。奏汰を連れていくといい」
「え、天野先輩を?」
「彼なら、きっと役に立つよ。何より、護衛としてもね」
「……先輩、また勝手に決めてません?」
「優雅な休日には、優雅な護衛が必要なんだ。……まぁ、勿論無理にとは言わない。女子だけでの方が楽しめるだろうしね」

 絢葉は少し考える。中学生の頃、同じように海に遊びに行って、しつこくナンパされて少し危ない目に遭った事を思い返し、

「……お願いしようかな。どうせなら、呉宮先輩も一緒にどうです?」
「嬉しい申し出だが、私は遠慮しておこう。夏休み中は忙しくなりそうでね」

(自分は断るのに、天野先輩の同行は勝手に決めるんだ……)

 相変わらずの史桜の調子に、絢葉は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 ────


 夜。
 自室の窓を開け放つと、夏の湿った風がカーテンを揺らした。
 遠くで花火が上がる音がする。
 布団に寝転がった絢葉のスマホが震えた。

【おい、なんだ海水浴って。なんだそれ。え? マジでオレも行くのか?】

 奏汰からのメッセージだった。

 絢葉は思わずため息をついた。

【ごめんなさい。ご迷惑なら断って頂いても】
【別に良いよ。断った方がめんどいことになりそうだし】

(……どういうことだろ?    でも、来てくれるなら助かるかも)

 スマホを置いて、窓の外を見上げた。
 カーテンの隙間から覗く夜空には、夏の星々が滲んでいる。
 若き学生たちが待ち望む夏休みは、もう指先で掴めそうなところまで来ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...