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1話ー音のマジシャン
しおりを挟む僕の名前は音鳴響、十八歳のヴァイオリニストだ。
僕の奏でる音は柔く、聴いた者の心を安らげる。
演奏に聴き入った観客の、あの、おっとりとした表情が、僕はたまらなく好きだ。
演奏を終えた僕は、よく、観客に感想を聞く。
ある者は僕の音を、「母親の子守唄のようだ」と言い。
ある者は僕の音を、「故郷の匂いのようだ」と言う。
それらの表現は、観客一人一人の、心安らぐモノから来ているのだろう。
そんな観客達は決まって一言、こんなことを言うのだ。
『まるで、魔法に掛けられたようだった』
と、何かに胸を満たされながら。
そして、演奏によって魔法に掛けられた観客達は皆、僕のことをこう呼ぶのだ。
『音のマジシャン』、と。
◆◆◆
とある日のこと。
全世界に渡った、大規模なニュースが放送された。
『速報が入りました。今日の午後十九時頃、アメリカのニューヨークで演奏をしていた、世界的に有名なプロヴァイオリニストで、音のマジシャンとも呼ばれている、音鳴響さん十八歳が、突如その姿を消し、消息を絶ちました。今、アメリカ警察が、事件として調査をしており、発見次第、その安否を発表するとのことです』
たった一人のプロヴァイオリニストが、行方不明となったこのニュースは、あっという間にトレンドにも入り、全世界を激震させたのであった。
ーーー
【音のマジシャン行方不明事件について!!】
『0001 名も無き観客』
音鳴響が行方不明ってマジ?
『0002 名も無き観客』
>>0001
マジらしいぞ。全世界でトレンドになってる……
『0003 名も無き観客』
俺。あの人の演奏を動画で見て、初めて演奏を生で見に行ったレベルで好きだったのに……
『0004 名も無き観客』
>>0003
そーゆー人、結構多いらしいぞ
『0005 名も無き観客』
>>0004
やっぱりか……あの人の演奏、マジで心に響くんよな……
『0006 名も無き観客』
>>0003
マジやで。時代の変化で薄れていった音楽業界に再び熱を入れた、現代のパッヘルベルとか言われてる。そのレベルであの人の演奏は人の心を動かすんや
『0007 名も無き観客』
>>0006
へぇ……それ初めて知った。ってか、ホントにそんなこと言われてるん?パッヘルベル要素とか、他の有名作曲家に影響を与えてるのと、自作の曲調が似てること位じゃね?
『0008 名も無き観客』
>>0007
草。それ、要素としては十分過ぎでは?
『0009 名も無き観客』
>>0008
言ってて自分で思ったわWWW
『0010 名も無き観客』
ともかくさ。大丈夫だといいね……
『0011 名も無き観客』
>>0010
ホントだよ。また生で演奏聴きたい
『0012 名も無き観客』
>>0010
そうだねぇ。早くあの笑顔を見たいわ
『0013 名も無き観客』
>>0012
もしかして恋してらっしゃる?
『0014 名も無き観客』
>>0013
あぁ。俺はもう、あの演奏にメロメロだよ
『0015 名も無き観客』
>>0014
それは全人類やろWWW
『0016 名も無き観客』
今、何処で何をやってるんだろーな……
『0017 名も無き観客』
元気に帰って来いよ。そしてまた、俺らに安らぎの魔法を掛けてくれよな。音のマジシャン……
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