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5話ー使徒と歓声と美男女
しおりを挟む『…………………………』
「はぁ……はぁ……」
僕の世界は、静寂を孕んでいる。
──疲労した為に漏れ出る吐息。
──緊張した為に滴り落ちる汗。
──余韻を秘めた数秒間の静寂。
ただ、それだけが存在している。
誰一人として動かず、誰一人として言葉を発しない。
(あれ?駄目だったかな?もしかして僕、死ぬ?)
緊張のあまりに、僕はドバドバと汗を垂れ流す。
まだ何も動かない。
まるで、時が止まってるかのようだ。
しかしその静寂は、一人の女性によって壊される。
パチパチパチパチパチパチパチ……………………。
遠くからでよく見えないが、鎧を纏っている金髪の少女が拍手をし始めたのだ。
そのことに僕がホッとしていると、最初は小さかった拍手が次第に大きく広がっていく。
『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
一体、何人の観客が居るのだろうか?
見た感じ一万人?
それとも十万人?
そんなこと、僕には分からない。
高揚感に浸りながら大きく手を振る僕には、その歓声が実際の何倍にも膨れ上がっているのだから。
「あ、ありがとうございましたーーーー!!」
僕が何度もペコペコしていると、左右からそれぞれ、赤と青の正装を着ている男女がやって来た。
赤と白の煌びやかなドレスアーマーと、ガラスのカチューシャを装備した、赤髪の美人。
青と白の清楚なタキシードと、左腕にガラスのブレスレットを装備した、青髪の美男子。
正確には、他にも二人ずつ兵士が居るのだが、真ん中を堂々と歩く二人の存在感が強く霞んで見えたのだ。
そんな二人の年齢は、僕と同じ位だろうか?
そのためか、戦場に居ると言うのに、何処かホッとしている自分が居る。
二人は僕の前まで来ると、右片膝を着いて頭を下げた。
その姿の、何と凛々しいことか。
僕が思わず見惚れてしまっていると、二人は言葉を紡ぎ出した。
「お初にお目に掛かり至極恐悦に存じます、使徒様」
「…………しと、さま?」
「はい。貴方様は女神メルシー様の使徒と存じ上げます」
慈悲の女神、メルシー様。
僕のことを異世界に転移させた、張本人である。
女神様にこの世界を救って欲しいと頼まれ、僕はココに来ているのだ。
使徒と言うのも、正しいかもしれない。
しかし分からない。
何故僕が、女神メルシー様の使徒だと、分かったのだろう?
相手目線だと、音で洗脳みたいなことをした何か凄くヤバい奴、という認識だって出来ない訳じゃない。
実際僕も自分自身のことを、やってること、ハーメルンの笛吹き男みたいじゃね?、と思っている位なのだ。
では何故、僕が使徒であると限定したのだろうか?
それが、というか……女神に呼び出された時から、ずっと分からないことばかりが起こるけど。
だから取り敢えず、僕は聞いてみることにした。
結局のところ分からないことは何事も、知っている人に聞くのが一番なのだから。
「まぁ……はい、そう……です。でも何故それをあなた方は知っているんですか?」
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