産まなければよかった

初心なグミ

文字の大きさ
1 / 1

産まなければよかった

しおりを挟む
「生まれてきてすみません」
 縮こまりながら私は言う
「役に立たなくてすみません」
 痛みに耐えながら私は言う
 
 私は生まれてからずっと独りで
 私は生まれてからずっと痛くて
 
 誰かの温もりを感じたいなんてちっぽけな願いも
 私に関心の無い貴方達には分からないでしょうね
 
 泣くことさえ許されない身体の痛みも
 私を否定する言葉で刺された心の痛みも
 上手く重ねなれた嘘に、気づけないのだから

 いつも通りの日々を重ねて高校生になった私
 古傷を負いながら成長したのは身体だけでした
 そんな私にママは言うの
「その身体、使えそうね」

 全てが黒く塗りつぶされた無価値な人形
 そんな私に残された唯一の価値が処女でした

 愉快な地獄から抜け出さない私は
 いっそ笑ってしまいそうになるくらいバカな人形だと
 嘘で化粧した痛みを天高くから漏らす

「最低な、人生だったなぁ」
 
「おいっ!待て!!」
 
 私に差し伸べられたのは救いの手だったの
 黒く汚れてヒビ割れた人形に
 彼は温もりを与えて、人間にしてくれたわ
 
「これからは……俺が護る」

 小さい頃から出なくなった私の悲しみは
 彼が受け止めてくれたの
 
 彼は地獄を私から遠ざけてくれました

 彼との優しい日々を過ごす度にね
 私には温かい感情が生まれたの
 それは、愛って言うんだって

 私たちは成人したら直ぐに結婚したの
 結構式はあげなかったけれど後悔はないわ
 だって二人での生活はとっても幸せだったから
 
 彼が頑張って買った指輪を貰った時はね
 初めて嬉しくて泣いたのよ?
 ずっと左手の薬指に嵌めてるわ

 結婚してからどのくらい経ったかしら?
 彼といると一瞬一瞬が楽しいの
 だから時間の流れが早く感じるわ

 でもね、人間って貪欲なのよ?だからね
 「二人の愛の形が欲しいわ……」

 彼と重なる度に彼の体温を感じて安心して
 彼と繋がる度に彼を身体で感じて気持ちよくて
 とっても幸福だったの
 もう何も失いたくない、この手から離したくない

 貪欲に、強欲に彼の温もりに抱かれてできた形
 それはねとっても愛おしくて
 私にとっての光だったの
 
 もう独りになりたくない、この光から堕ちたくない
 だって、太陽に照らされてしまうと夜が怖いの
 だからね……
「産まなければよかった」
 
 騒がしい部屋の片隅にある鏡に映っていたのは
 冷たい手を握りながら嗤ってる人形でした
 
「ママ……?」
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

わたくしが代わりに妻となることにしましたの、と、妹に告げられました

四季
恋愛
私には婚約者がいたのだが、婚約者はいつの間にか妹と仲良くなっていたらしい。

処理中です...