【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!

天羽

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19話 真実

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温かい……。

ポカポカな春の日差しに照らされてるかのような……気持ちよくて晴れやかな気分だった。

すっと何かが離れたような気がして、手を動かす。
すると私の手を大きな温もりが包んで、身体を包んだ。

落ち着く。

私の顔には次第に笑みが浮かび、その温もりを離すまいと抱きついた。




「ふへへ……」

「ふっ、どんな夢見てんだか……」


大好きなバリトンの声が耳を掠めて私は睫毛を揺らし、薄目を開けた。


「おはようレイラ。身体は大丈夫か?」



「ーーふぇ……夢?」


寝ぼけて視界がハッキリとしない中、視線の先には私を見つめて優しく笑うグランの姿があった。
布団からはみ出す部分は裸で、鍛え上げられた身体が陽の光に照らされよく見える。

何故グランが隣に居るのか、何故そんな表情で私を見つめているのか……寝ぼけた頭では考える事が出来ず、つい零れた私の言葉に、グランは吹き出して笑った。


「くくくっ……夢なわけねぇだろ、夢だったら俺が困るな」

「……っっ!?」

グランは無邪気に笑うと私の唇に自身の唇を重ね、顔を沸騰させた私にもお構い無しに頬や目元にもチュッチュと軽くキスを食む。

(ーーそうだ、私……昨日グランと……)

「お、その反応は思い出したか?」

よく見たら私も裸で、意識を失った後グランが綺麗にしてくれたのか、下半身の違和感はあるものの嫌な感じは無かった。

グランが私の髪を梳きながらキスをしたり、頬ずりをしてくる。
尻尾は私の太腿に絡ませ、そのグレーの瞳に見つめられるといつもよりも格段にドキドキした。

(……なんか、今日のグランーーー)

「いつもと違う……」

「あ?何がだ?」

肘をベッドにつき片手で頭を支えて私を見るグランは首を傾げる。

「な、なんか今日のグラン……そ、その…甘い」

口元まで布団を持ってきて目線だけをグランに向ける。それも恥ずかしくて直ぐに目を逸らしてしまうのだが……。
私の言葉に三角の耳をピクピクと動かし、ぷっと吹き出して笑った。

「俺がお前に甘いって?当たり前だろ、もう昨日とは違うんだ……お前は俺の番だろ?」

「ーーっっ!!」

耳元で囁かれるとビクッと身体が反応してしまう。
お腹にも響いてムズムズする。

「もう絶対離してやらねぇから、覚悟するんだな」

グランは晴れやかに笑って、私を抱きしめた。

瞳が絡まり、お互いに引かれ合って……そして唇を重ねた。





。。。。


その後グランは王城へと向かった。
ランセルとの一件を報告するため、そして赤い瞳が関係する闇取引が実際に行われていた事を明らかにするためだ。
でもグランは出発前に、私が安全に暮らして行けるよう全てを片付けてくると私に伝えた。

被害者である私も一緒に行きたかったのだが、グランとの行為のせいで立つ事すら出来なかった私は、大人しく宿でお留守番となったのだった。







赤い瞳に関する調査は、隣国の王女がこの国へ滞在を初めた時から……現在進行形で調査が進められていたらしく、ランセルを捕らえたことにより難航していた事態が嘘かのように、芋ずる式に明らかとなった。

ランセルは、地下牢に送られた直後から様々な脅しや拷問を繰り返した末、全てを洗いざらい話したという。
そして同時期にランセルの故郷である国に協力を要請し、闇取引に手を染めた貴族も見つかったのだ。
貴族達もランセルの持っていた『ジュウ』を所持していたのだが、まるまると太った身体能力の低い人間には、ジュウの放つ威力には耐えられなかったようで、発砲した衝撃で気絶したらしい。
そして呆気なくも主犯格である数名を捕縛し、真実を聞き出したのだった。




ーーー全ての始まりは、やはり魔女を恨む貴族が広めた噂からだった。
卑しい貴族達は、魔女の呪いのせいで不幸が起こったと叫ぶものの、下層で暮らす一部の民たちが言う魔女の印象は、それとは全く違うものだった。

民から税金を貪り、その金で裕福に暮らす貴族達に制裁を下し、真面目に清い心で生きる者には慈悲を与えたーー『聖女』

聖女は、お金もなく弱った身体を治療すら出来ない民を不憫に思い、その力を真面目に生きる者に使ったとされ、それに憤りを覚えた貴族は、自分達の良いように話を偽り、『聖女』を『魔女』と広めたのだ。

小さな村で生活する民よりも、様々な国での交流がある貴族の発した噂の方が広まるというのは当然の事で、年月が流れる程、その噂は真実へと定着していくのだ。

だが、聖女に助けられた人々は少ないながらにそれを信じる事はなく、強く信念を貫き、そして新たに一つの国が出来上がった。

その国は赤い瞳を聖女の生まれ変わりとして、聖女の力が誰一人として使う事が出来ずとも、大切に保護し、助け合いの精神の末、国の発展もめざましかったのだった。


赤い瞳の人間が全員、その国へ生まれていれば……幸せだったのかもしれない。
だが、世界はそれほど甘くないとでも言うように、他国で生まれ育った赤い瞳の子の人生は不幸で災難だったのだ。




。。。。




ここまでの話を宿へと帰宅したグランの膝の上で聞き、私は息を吐いた。

不幸を与えていた魔女の噂を何度も恨んだ。
でも本当は、魔女は悪い奴らに力を貸さなかっただけで、聖女と言われる程民からは感謝され慕われていたのだ。


「……ランセルがね、私のお母さんの事、知ってるみたいだった」


力なく呟くと、グランが頭を撫でてくれる。

「レイラの母は、ランセルの故郷である国で生まれたらしい。そして幼い頃に赤い瞳である事を貴族に知られ……金儲けに…使われた」

「っ!?」


グランの話に衝撃が隠せず、赤い瞳からは次第に涙が溢れた。



ーー私の母も孤児だったらしい。
ある日孤児院に来た1人の貴族男性は、大昔に助けられた民とそれを受け継いだ者しか知りえない魔女の能力を知る男性で……後に赤い瞳の人間を闇取引に持ち込む、心底卑劣な男性だった。
だが、当時の幼い母にはそんな事など知る由もなく、愛想の良いその男性の手を取ったのだ。
幼いながらに治癒の異能が使えた母は、それから成人後も、その貴族男性に金儲けの道具として使われ続け、母もそれ以外生きる術を知らなかったため、間違っていると思いながらもただ従うしかなった。

だがある日、貴族男性の屋敷に新しい庭師が働きに来た。
爽やかで若い青年だ。

青年は母に愛する事、愛される事を教えた。
赤い瞳でも関係ないと笑う青年に母も心を通わせて行き、貴族男性の目を盗み何度も逢瀬を重ねーーー私を身篭った。

2人でここから出ようと決意するも、その数日後……青年は貴族男性の手によって帰らぬ人となったのだった……。



「ーーそ、そんな…!」



私は両手で口元を覆う。
顔も覚えていない自身の母親が、そんな辛い人生を生きたのだ。
衝撃の事実に言葉が出なかった。



貴族男性は、お腹に私がいるという事実を知っても殺そうとはせず、逆に協力的だったらしい。
でもそれは、ただ単に新しい金儲けの道具が増えるからだ。

母はそれに勘づき、私を出産してすぐ長年住んだ屋敷から逃げ出したのだ。
出産間もなく、体力も回復しない中……私を抱えて母は逃げた。

いつ追っ手が来るかも分からない。
だから母は出来るだけ遠くに行こうと、それだけを考えて、幾度も国を超えた。
手持ちも少なかった筈の母は、身体に傷を作っても自身の力で治し、その細い足で歩き、走り続けた。
ーーそして、一際ひっそりとした森奥の孤児院にたどり着いたのだ。



「それが、お前のいた…あの孤児院だ」

「……っ」


私は呆然とグランを見つめる。


「騎士の1人がお前のいた孤児院……ジークス伯爵家が管理するその孤児院に話を聞きに行ったらしい」


ある朝の日、その日はすごく寒かったようだ。
いつものように見回りをしていたシスターは、門の前で生まれて数ヶ月も経ってない赤子の私を見つけた。

辺りには私以外誰も見当たらず、しかし、私の身体には薄い布の他にも女性用の上着がぐるぐると巻かれていたようだ。


「レイラ…お前は、自分が孤児の理由は瞳のせいだと……この瞳を両親が怖がり捨てたのだと…そう言ってたよな?」

私はこくりと頷く。
この赤の瞳が魔女であると理解した時から、私は愛されずに捨てられたのだと…確信して疑わなかった。

でもーー。

「レイラは愛されていたんだ。父親にも、母親にも……。
お前が母親の事を口にしなかったから、シスターも敢えて伝えなかったみたいだが、レイラを見つけた時、レイラの小さな手には1枚の紙が握られていた」

「か、紙……?」

グランは静かに頷き、私の頬を撫でる。
いつの間にか涙が頬を伝っていて、それを拭ってくれた様だ。

「お前の…レイラの名前だ」




『ーーレイラ』





私は両手で口元を押さえ、嗚咽を漏らす。


「この国では珍しい発音だが、レイラの母親が生きた国では……『大切』『愛おしい』と言う意味があると、教えてくれた」


「……たい…せつ……いとお…しい」




『ーーレイラ…貴方の大切な人を……助けるのよ』



あの時聞こえた優しい声は…私のお母さんだったのだろうか。
私の事を慈しみ、愛してくれていたのだろうか…。
生まれたことを喜んでくれたのだろうか。

顔も温もりも知らない……私のお母さん。

でもあの声は、あの温かさは……とても懐かしい感じがした。
それはきっと本物の母親だから…。




「ーーぅ…ぁぁ、お母…さん……ああぁ!!」



声を荒らげて泣いたのは…いつぶりだろうか……。

両手で顔を覆い、拭っても拭っても涙が溢れた。
肩を震わす私に、グランは何も言わず強く抱きしめると、ぽんぽんと優しく背中をさすってくれたのだった。





ーーそしてこれは、後から聞いたお話……。

私のお母さんは、私を孤児院に置いた後、その十数メートル先の場所で息を引き取っていたという。
お母さんは、布切れのような服一枚を着ているだけの状態で、酷くやつれ、見た目からしてもボロボロだった。
でも、何故かその表情は安心したように……とても綺麗に微笑んでいたらしい。





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