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5話目
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無事にケチャップを届けて、再び容器を持って柊平に言われた通りに調理場に戻った。レジ横を通る時に大翔の視線が刺さったがそれに気付いている上で彼の方が見れなくて目を合わせることはしなかった。
「休憩行って良いって」
「え、ああ……あれ、そういえば美香さんは?」
調理場に戻ったら柊平に休憩に行くよう言われ、瀬凪はケチャップを定位置に戻しながら思い出したように美香の所在を尋ねてキッチンを見渡した。
そういえばさっきケチャップを受け取りに来た時から美香の姿が見えなかった。
「和くんに昼飯持ってった」
「そっか。じゃあ休憩取らせて貰います」
ぺこっと頭を下げてその場を去ろうと思ったら柊平に呼び止められた。
「ちょい待ち。瀬凪の賄い飯あるから持ってって食べろよ」
「えっ……おお~、すげぇ」
「俺、お手製、賄い洋食プレート。味噌汁付き」
柊平が調理台の上に置かれたプレートを手で指し示す。オムライスにサラダ、それにハンバーグとナポリタン、どれも小さめサイズの物がワンプレートに纏められている。今日の休憩は適当にポテトやフランクフルトを食べようと思っていたのでこれは有難い。
「ちなみにこの味噌汁、ここの冷蔵庫に入ってたやつ。瀬凪が作ったんだって?」
てっきり味噌汁も柊平の手作りかと思ったが、これは瀬凪が早朝作ったものだった。
「さっき味見したけど美味かったよ。才能あんね」
「え、ほんと?」
「ほんと、ほんと、上手に作れてる。朝飯用に作ったの?」
小さな子供に言うような言い方で、真実かどうか疑わしくはあったけれど柊平に褒められたのは自信になった。
「大翔が朝、おにぎり作って来てくれるって言うからそれに合わせて作ったんだけど、柊平くんに褒められんのは嬉しいな」
名前で呼び合うという美香からのお達しを律儀に守って「柊平くん」と下の名を呼んで喜びを素直に表して笑うと柊平が真顔になって見つめて来る。
「……やっぱ可愛いな」
「え、は? なんて?」
「いや、瀬凪可愛いなって。俺、去年もここでちょっとの間キッチンに入ってたんよね。姉ちゃんが夏バテかなんかで体調不良んなって、三日間くらい」
「あ、それで大翔とも面識あるんだ」
「そそ。でね、和くんが今年は受験勉強で来てないけど毎年手伝いに来てくれてる甥っ子がいるっつって写真見せてくれたんだよ。可愛いから見てくれって。でもさ、そういう時って大抵可愛くないもんじゃん? でも褒めないといけないしさ、姉ちゃんの旦那の甥っ子だし」
「あー……はは」
まだ自分の子を持たない和巳にとって甥っ子の瀬凪の時間は幼稚園くらいで止まっているようで、未だ幼い身内を自慢するかのように写真を見せまくっているのか、その被害に遭った柊平を前に瀬凪は苦笑いを浮かべるより他なかった。
「だけど写真見たらほんとに可愛いくてびっくりした」
続いて出た柊平の言葉に「びっくりしたのはこっちの方だ」と口をついて出そうになった。
「い、いつの写真見たんだよ……赤ちゃんの頃とかじゃないの」
「学ラン来てたから中学の時じゃないかな。今日会って実物も可愛いって分かったからもう俺嬉しくてさ」
この人は何を言ってるんだろうか。瀬凪は苦笑いから段々と真顔に戻り、最終的には珍しい生き物を見るような目で柊平を見つめた。
「和くんの甥っ子だからいつか会えるだろうとは思ってたし、でもまだ十代でしょ。もうちょい大きくなってからのが俺的には良かったけど、まぁ出会いってのは突然にやって来るもんだし? これもなにかの縁だよなって」
柊平はペラペラと喋りながらも手際良く調理台の上にトレーを用意してその上に賄い飯のプレートと味噌汁を乗せる。そして瀬凪に向かってトレーを差し出した。
「あ、どうも」
小さな動きで頭を下げるとプレートを引き取った。両手に重みを受けるとプレートから離されたはずの柊平の手が瀬凪の手に触れて来る。指先がピクッと反応する。柊平にも反応が伝わったのか、片方の口角を上げて笑っている。
内心は心臓が騒いで仕方がないが今度はケチャップの容器を取り落としそうになった時みたいな動きは出来ない。
トレーから手を離せば折角作ってくれたプレートが床に落ちてしまう。
「な、なに、柊平く――」
「瀬凪、間違ってたらごめんだけど、お前男が好き?」
最初は質問の意味が分からなかった。だから返事が出来なかった。でも、一秒二秒と時間が経つにつれ柊平から何を指摘されたのか理解出来るようになって、でもそれで返事が出来るようになったかといえば全くそんなことはなく、黙りこくってしまった。
大人にとって沈黙は肯定と捉えられるようで、柊平は満足そうな笑顔を浮かべたまま瀬凪に触れていた手を離した。
「休憩行って良いって」
「え、ああ……あれ、そういえば美香さんは?」
調理場に戻ったら柊平に休憩に行くよう言われ、瀬凪はケチャップを定位置に戻しながら思い出したように美香の所在を尋ねてキッチンを見渡した。
そういえばさっきケチャップを受け取りに来た時から美香の姿が見えなかった。
「和くんに昼飯持ってった」
「そっか。じゃあ休憩取らせて貰います」
ぺこっと頭を下げてその場を去ろうと思ったら柊平に呼び止められた。
「ちょい待ち。瀬凪の賄い飯あるから持ってって食べろよ」
「えっ……おお~、すげぇ」
「俺、お手製、賄い洋食プレート。味噌汁付き」
柊平が調理台の上に置かれたプレートを手で指し示す。オムライスにサラダ、それにハンバーグとナポリタン、どれも小さめサイズの物がワンプレートに纏められている。今日の休憩は適当にポテトやフランクフルトを食べようと思っていたのでこれは有難い。
「ちなみにこの味噌汁、ここの冷蔵庫に入ってたやつ。瀬凪が作ったんだって?」
てっきり味噌汁も柊平の手作りかと思ったが、これは瀬凪が早朝作ったものだった。
「さっき味見したけど美味かったよ。才能あんね」
「え、ほんと?」
「ほんと、ほんと、上手に作れてる。朝飯用に作ったの?」
小さな子供に言うような言い方で、真実かどうか疑わしくはあったけれど柊平に褒められたのは自信になった。
「大翔が朝、おにぎり作って来てくれるって言うからそれに合わせて作ったんだけど、柊平くんに褒められんのは嬉しいな」
名前で呼び合うという美香からのお達しを律儀に守って「柊平くん」と下の名を呼んで喜びを素直に表して笑うと柊平が真顔になって見つめて来る。
「……やっぱ可愛いな」
「え、は? なんて?」
「いや、瀬凪可愛いなって。俺、去年もここでちょっとの間キッチンに入ってたんよね。姉ちゃんが夏バテかなんかで体調不良んなって、三日間くらい」
「あ、それで大翔とも面識あるんだ」
「そそ。でね、和くんが今年は受験勉強で来てないけど毎年手伝いに来てくれてる甥っ子がいるっつって写真見せてくれたんだよ。可愛いから見てくれって。でもさ、そういう時って大抵可愛くないもんじゃん? でも褒めないといけないしさ、姉ちゃんの旦那の甥っ子だし」
「あー……はは」
まだ自分の子を持たない和巳にとって甥っ子の瀬凪の時間は幼稚園くらいで止まっているようで、未だ幼い身内を自慢するかのように写真を見せまくっているのか、その被害に遭った柊平を前に瀬凪は苦笑いを浮かべるより他なかった。
「だけど写真見たらほんとに可愛いくてびっくりした」
続いて出た柊平の言葉に「びっくりしたのはこっちの方だ」と口をついて出そうになった。
「い、いつの写真見たんだよ……赤ちゃんの頃とかじゃないの」
「学ラン来てたから中学の時じゃないかな。今日会って実物も可愛いって分かったからもう俺嬉しくてさ」
この人は何を言ってるんだろうか。瀬凪は苦笑いから段々と真顔に戻り、最終的には珍しい生き物を見るような目で柊平を見つめた。
「和くんの甥っ子だからいつか会えるだろうとは思ってたし、でもまだ十代でしょ。もうちょい大きくなってからのが俺的には良かったけど、まぁ出会いってのは突然にやって来るもんだし? これもなにかの縁だよなって」
柊平はペラペラと喋りながらも手際良く調理台の上にトレーを用意してその上に賄い飯のプレートと味噌汁を乗せる。そして瀬凪に向かってトレーを差し出した。
「あ、どうも」
小さな動きで頭を下げるとプレートを引き取った。両手に重みを受けるとプレートから離されたはずの柊平の手が瀬凪の手に触れて来る。指先がピクッと反応する。柊平にも反応が伝わったのか、片方の口角を上げて笑っている。
内心は心臓が騒いで仕方がないが今度はケチャップの容器を取り落としそうになった時みたいな動きは出来ない。
トレーから手を離せば折角作ってくれたプレートが床に落ちてしまう。
「な、なに、柊平く――」
「瀬凪、間違ってたらごめんだけど、お前男が好き?」
最初は質問の意味が分からなかった。だから返事が出来なかった。でも、一秒二秒と時間が経つにつれ柊平から何を指摘されたのか理解出来るようになって、でもそれで返事が出来るようになったかといえば全くそんなことはなく、黙りこくってしまった。
大人にとって沈黙は肯定と捉えられるようで、柊平は満足そうな笑顔を浮かべたまま瀬凪に触れていた手を離した。
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