【完結】きみが揺らす恋凪

１２話目

１２－３

　点滴が終わってしまったら和巳の運転する車で凪音に戻った。海岸線を行く車内の後部座席で、瀬凪は外に目を向けながら隣に座る美香に「ね」と話し掛けた。
「さっき処置室でなんでも言えって言ったよね」
「うん？　うん。言ったね」
「じゃあ早速なんだけど聞いていい」
「なんでもどうぞ」
「……大翔は……どうしてる？」
　変な聞き方をしてしまった。
　瀬凪は「俺が倒れてる間にバイト期間終わっちゃって顔合わせてないから、最後レジ一人で大変だっただろうなって思って」と言い訳のように付け加えた。
　しかし瀬凪のこの意を決した質問に美香は何でもないような声を上げた。
「あー、大丈夫だよ、心配しなくても」
「俺が代わりにレジ入ったし、それで夕方まで全然余裕だったし、花火大会中は例年の如くお客さん少なかったしな」
　運転している和巳にも話が聞こえていたようで会話に加わってきた。美香も和巳の話に相槌を打ちながら、「そういえば」と思い出したように手を叩いた。
「ひろくんも仕事終わりで一緒に病院来てくれたんだよ。瀬凪くんが起きるちょっと前まで居たの」
「えっ……そうなんだ」
「瀬凪くんが目覚ますまで居るって言ってくれたんだけど、もう遅いし、帰って貰ったのよ。さっき瀬凪くん起きたよって連絡したら安心してたよ」
「瀬凪と大翔、すげぇ仲良くなってたんだな、俺知らんかったわ」
　店のオーナーとはいえ、和巳はぎっくり腰になって離脱していたのだから瀬凪と大翔がどれくらい親しくなったかを把握していなくても仕方がない。
　瀬凪は胸の内がくすぐったく騒ぎ出しているのを誤魔化すように平静を装って話を続けた。
「まぁ、毎年恒例美香さんの名前呼びの成果じゃない？　それに同じ高校で最初から知り合いみたいな感じではあったし」
「あー、それもなぁ、大翔のやつ、そうならそうと言やいいのに……中三の夏から瀬凪目当てでうちに通ってたくせに、同じ高校行ってんの当日まで言わんとかどういうことだよ、なぁ、美香」
「あ、こら、和さん！　それはあれでしょ、口止め、ひろくんから。言っちゃダメって」
　するとあれだけベラベラと喋っていたのに急に運転席が静かになる。意識でも失ったのかと心配になるが、車は順調に海岸線を走っている。
「え、え、大翔がなに？　俺目当てってなに？」
　中途半端に聞いた話の内容が気になるのは当然のことで、瀬凪は和巳に話し掛けるが返事は返って来ない。仕方がないから隣の美香に目をやるも視線が合わない。
「おい、二人共。話さないなら来年のバイト入んねぇぞ」
「んもおお、瀬凪くーん！　そんなこと言わずにっ」
「悪かった瀬凪。なんでも話すからバイトの件だけは頼む！　あと大翔には俺たちから聞いたってのは内緒で！」
　脅し文句が功を奏したのか二人同時に縋りつくような声色を上げた。流石に可笑しくなって瀬凪は真顔を保てずに笑ってしまった。