銀河皇帝のいない八月

沙月Q

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第一章

11. ジアレギ将軍の挑戦

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 シェンガは呆れこそしたが、反対はしなかった。
 他に手がないのは確かだし、完全人間が「やる」と言ったらやるのだ。

 ネープはゴンドロウワに命令した。
「お前はミン・ガンと協力して、船を守れ。私が戻って再度命令するまでミン・ガンの指示にだけ従い、他の者の命令には従うな」
「これでこのデカブツは完全に味方だ。どれだけの役に立つかは知らんが……」
 戦闘種族の本性を出し、嬉々として武器を見繕いながらシェンガが笑った。
 ネープのアーマーが耳障りな警告音を出した。ガントレットに仕込まれた装置を確認した少年は、キャリベックと合体し猛禽を思わせるヘルメットをかぶった。
 触手がうねり、さながら戦鬼か邪神のごとき姿となった。
「重装メタトルーパーのお出ましか……」
 シェンガの軽口には、ほのかな怖れがにじんでいた。
「来ました。ツノバチ級揚陸戦闘艇の一分隊。これがゴンドロウワを除いた彼らの最後の戦力でしょう」
「私は……どうすればいいの?」
「乗ってください」
 振り向いて騎乗を促す。自分を連れて戦いに身を投じようというのか……このまま船にいた方が安全なのではないだろうか……
 ためらう空里の心中を見透かしたように、ネープが言った。
「この惑星のどこよりも、私の後ろが安全です」
 空里は信じた。
 轟音と共に、揚陸戦闘艇の落とす影が地面を走った。
 シェンガが叫ぶ。
「早く行け!」
 空里がキャリベックにまたがると、金属の触手が少女の身体をしっかりと支えた。
「つかまって」
 言われるまま少年のアーマーを抱きしめる。柔軟で強靭な金属の感触に、ほてる頬が冷えた。

 次の瞬間、二人は空中にあった。

 もの凄い加速に耐えながら薄目を開けた空里は、コルベットのまわりにエネルギー弾が激しく着弾するのを見た。シールドも起動しているようだったが、その範囲は狭く、攻撃の弾き返し方にあまり力が無い。残された動力が少ないのだ。
 シェンガは早速応戦していた。驚いたことに、あの鈍重そうなゴンドロウワも大きな火器を手に戦いだしている。元々が人造兵士だから、戦闘には向いているようだ。

 重装メタトルーパーはさらに上昇し、急旋回すると眼下を飛びすぎる戦闘艇を追った。そして、追い抜きざまに空中で半回転し、ネープの槍が一閃して、戦闘艇のボディを引き裂いた。
「!」
 金属の破片が空里にも襲いかかったが、見えないシールドがすべて弾き返した。
 瞬く間に戦闘艇は墜落し、メタトルーパーは逆の方向へ急上昇した。
 あとの守りはミン・ガンとゴンドロウワに任せればよしと判断し、ネープは進路を頭上の巨大な円形船に取った。

「大丈夫ですか?」
「ん……ちょっときついけど……」
 実際はきついどころではなかった。空里は、遊園地で一番激しい絶叫マシンに乗った時より、はるかに恐ろしい思いをしていた。だが、ネープに声をかけられたことで落ち着きを取り戻し、がんばる気力が湧いた……気がした。

 メタトルーパーはさらに上昇を続けた。キャリベックの脚は見えないエネルギー反発場リパルシング・フィールドを形成し、そこを足場にして高々とジャンプする。それはまさに天馬が空を駆け上っていく様だった。

 青空の下、どこまでも飛んでいく……

 空里は、このまま少年の背にもたれて眠りに落ちたいと思ったりした。
 シールドにビームが弾ける音で、空里の物思いは破られた。
「!」
 二人は、惑星改造船の構造物を抜け、その上に躍り出ていた。
 中央の円盤部には、何人かの帝国軍兵士が出て来ており、据え付けた銃座でメタトルーパーを攻撃していた。が、ネープは彼らにかまっていなかった。
 メタトルーパーは円盤の外周に沿って飛び始め、キャリベックに取り付けられたランチャーからアブソラ式熱核弾を発射しつつ、さらに外側へ外側へと旋回飛行を続けた。熱核弾は炸裂すると鋭い熱線で構造物にダメージを与えていく。やがて、その攻撃に構造物全体の質量が加勢する形になり、巨大な惑星改造船は自己崩壊を始めた。

「すごい……」
 おびただしい量の、高層ビルよりはるかに大きな構造物が、燃え上がり、崩れながら虚無と化した東京の地表へ落下していく。
 円盤部に舞い戻ると、事態の急変に度を失った兵士たちは、内部に撤退しようとしていた。それと入れ替わりに、一人の人物が甲板上に現れた。
 ネープの槍に似た武器を手に、こちらを見上げて何か叫んでいる男の姿に、空里は見覚えがあった。
「ジアレギ将軍……」
 ネープは呟くと、キャリベックを甲板に着陸させた。
「ネープ! 勝負しろ!」
 なんてこと……決闘を挑んでいるんだわ。
 空里の驚きをよそに、ネープは自らをキャリベックから切り離して槍を構えた。
「相手するの? 断れないの?」
「将軍が持っているのはショックスピアーです。同じ武器を持った人間の挑戦です。これはネープには断れない定めになっています」
「また〈法典〉の定め?」
「キャリベックから離れないで」
 槍を手にした二人は、十メートルほどの距離をはさんで対峙すると、作法通りの礼をして、槍の穂先を向け合った。
 それは不思議な戦いだった。
 直接切り結ぶ前に、槍から放射される衝撃波をぶつけ合い、お互いを牽制しながら距離を詰めていくのだ。近づくにつれて衝撃波は激しさを増し、ついに槍同士が触れ合うと、鋭い音と火花を散らしながらの戦いになった。

 勝負は明らかにネープが有利だった。
 太った巨体を持て余すように槍を振るう将軍に対し、少年は無駄の無い動きで敵の攻撃を弾き返し、確実に相手を追い詰めてゆく。
 勝てる……空里は確信したが、気づいていなかった。
 背後のハッチから、帝国軍の兵士が忍び出てこちらへ近づいて来ることに……将軍の狙いは初めから空里だったのだ。
 兵士は振動ナイフを抜いて、キャリベックに近づいていった。そのシールドは、ゆっくり近づく人間の接近を防げない、感力場式であることがわかっている。その刃が届くまで、あと数歩だ。
 少女は決闘に気を取られたまま、まったく動かない。捕まえることなくナイフの一振りで首の動脈を切断出来るだろう。
 あと三歩……二歩……一歩……

「!」
 そこで完全人間の少年は、刺客の存在に気づいた。
 将軍の攻撃を弾き返すや、ショックスピアーを逆手に持ち返し、空里の方へ投げる。
 思わず首をすくめた空里の耳をかすめ、槍は兵士の顔に命中した。
 が……
「死ね!」
 武器を失ったネープに、敵が襲いかかった。ジアレギ将軍は渾身の一撃をくわえるべく槍を振り上げ……
 突然の銃撃に全身を撃ち抜かれ、もんどり打って甲板上に倒れた。
「ネープ!」
 空里は二人に駆け寄りながら、一機の小型戦闘艇がこちらに近づいて来るのを見た。さっき地上で自分たちに襲いかかった船だったが、開いたキャノピーから顔を出したのは、茶色い毛皮に包まれたパイロットだった。
「間に合ったか」
 シェンガは乱暴に戦闘艇を着陸させ、コクピットから飛び降りた。
 ネープが立ち上がり、空里の身体をあらためた。
「怪我はありませんか?」
「うん……あなたは?」
「私は心配いりません」
「心配いらないだ?」
 やって来たシェンガが憎まれ口をたたいた。
「誰のおかげで無事なんだよ」
「相手は老人だ。手を出さずともなんとか出来た。だが、手っ取り早く片付いたことは認める」
「可愛くねえなあ……」
 空里は、ミン・ガンよりも大声で同意した。
「ホントよ! あんな無茶をして! 第一、決闘なんて時代遅れだわ! 私を護るなら、あんな真似は二度としないで!」
 涙に滲む少年の顔は少し驚いたように見えた。空里が何を怒っているのかわからないのだろう。
 確かに、彼は彼の言葉通り行動しただけだった。自分の命よりも、空里を優先したのだ。命に換えても空里を護るという言葉通りに……

「とにかく、さっさと脱出しようぜ」
 シェンガが二人を戦闘艇の方へうながす……と、同時に鈍い振動が船体を揺らし、近くの甲板が火を噴いた。
 一箇所ではない。いくつもの火柱があちこちから上がり、あたりは地獄の様相を見せ始めた。シェンガの戦闘艇も吹き飛ばされた。
「ああ! せっかく鹵獲したってのに……」
「自爆するつもりだ。急いで!」
 ネープがキャリベックと合体し、空里はシェンガの身体を抱えてその後ろに飛び乗った。
「自分で乗れるって!」

 三人が船体から飛び降り、自由落下に近い状態で急降下して間もなく……
 惑星改造船は大爆発を起こした。
 シールドでは防ぎ切れない鉄と炎の雨が降り注ぎ、ネープはその間を巧みに避けながら降下し続けた。
 が、地表が目前に迫っても、そのスピードがゆるまない。
「!」
 空里は恐怖に目をギュッと閉じ、少年と人猫の身体を強く抱きしめた。
 次の瞬間、キャリベックは軌道を九十度変え、水平飛行に入ると落下するバラバラの船体を避けながら走り続けた。

 耳を弄する轟音とともに、最も巨大な残骸が墜落し、メタトルーパーはようやく着陸した。

 巻きあがる爆煙の向こうに、夕映の夏空が広がっていた。
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