その温もりを感じていたくて。

胡桃澪

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Chapter4. 居心地が良いのは何故だろうか

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「カレー、カレー……あっ! 琥珀に辛さ聞くの忘れてた」

 私はスーパーに着くと、食材をどんどんカゴに入れていくも、カレーのルーだけ辛さを確認する必要がある事に気がついた。

「えっと、成瀬琥珀……」

 私は琥珀に電話をする。

「もしもし? 優愛? 」
「あっ、琥珀! 今、カレー売場にいるんだけど、辛さ聞くの忘れてたから」
「そうだった。俺は辛口だけど、優愛大丈夫? 」
「うん、私もカレーは辛口だから。他に何か欲しい物ある? 」
「ビター系のチョコレートとカロリーフレンド」
「カロリーフレンドはだめ。どうせ大学での昼食、カロリーフレンドで済ませる気でしょ? 」
「バレたか……」
「ビター系のチョコレートは買ってあげる」
「優愛」
「ん? 」
「良かった、やっぱりちゃんと帰って来てくれるんだ」
「どんだけ信用されてないんだ、私」
「誰かと一緒に暮らすの久しぶりだから嬉しい」

 琥珀は純粋で素直な男の子だ。寂しくて見ず知らずの琥珀にさえ甘える私なんかといちゃいけないんだ、本当は。
 
 もし、彼が私を好きになっても私は気持ちに応えられないわけだし。だけど、会ったばかりなわけだし、それは無いよね?

「ただいま」
「優愛、おかえり! 」
「こ、こ、琥珀!? 」

 琥珀は私が帰るなり、私に抱きつく。

「ずっと、待ってた」
「だ、大丈夫だから! ね? 」
「チョコレートはー? 」
「あるよ! ビター系の板チョコ」

 私はスーパーの袋から板チョコを取り出す。

「やった! これ、1番好きなやつ」
「良かったね」
「うん! 」

 こういう部分は子供らしくて可愛いな、この子。

「そうだ、DVD借りて来たんだった。優愛、一緒に観よう」
「どんなDVD? 」
「モーツァルトの半生を描いた映画。友達が面白いって言ってたから」
「私、観たこと無いなぁ」

 さすが美大生。チョイスが独特だ。

 琥珀がDVDをDVDプレイヤーにセットすると、私の携帯電話が鳴る。

「琥珀、ちょっと待っててね」
「うん」

 母親からの電話だった。

「もしもし、お母さん? 」
「優愛、もう! 最近、全然連絡寄越さないんだから」
「ごめん、ごめん。ちょっとバタバタしてて」
「スイカ、富里のおばあちゃんから送られて来たからまた今年も送っといたわよ。健介くんと二人で食べなさい」
「あ、ありがとう……」

 バッドタイミングだよ、お母さん。

「ねぇ、貴方達……結婚はいつするの? あちらの両親とももう会ったんでしょう? もう20代後半なわけだし、そろそろ結婚しちゃいなさいよ」
「でも、今は健介……バタバタしてるし」
「籍入れるくらいなら出来るでしょう? 式は落ち着いてからでも良いんじゃ無い? こないだテレビでハワイ挙式の特集していたんだけど……」
「私達の事に口出ししないでよっ! 色々あるの、私達にだって! 」
「優愛? 何かあったの? 」
「もう、切るから」

 母に八つ当たりをしてしまった、最悪な娘だ。

 電話を切ると、心配した表情で琥珀が私の元へやって来た。

「ごめん、大声出して。母があまりにも結婚を急かしてくるから苛立って……」

 琥珀は黙って私を抱き寄せる。

「琥珀……? 」
「大丈夫、俺は分かってあげられるから。優愛の辛さ」
「ごめん……今だけ、5分だけ、泣いて良い? 」
「うん」

 私は声を上げて泣いた。ずっと我慢していたものを放出するかのように。

「ごめん、映画……観よう? 琥珀」
「うん」

 この子は不思議な子だ。初めて会ったのに、全然素顔の私でいられる。

「やっぱりモーツァルトの曲、好きだな」
「琥珀、クラシックも好きなんだ? 」
「うん。だから、さっきの洋食屋落ち着くんだ。モーツァルト、ショパンをよく流していて」
「そっか。確かにあの店の雰囲気、私も好きだよ」
「また行こう」
「う、うん……」

 私、いつまで琥珀の家にいるんだろう。早く、新しい家見つけなきゃだよね。もし、ここを出たら私達はまた赤の他人同士になるのかもしれない。

 また行こうって琥珀は言ってくれたけど……。

「面白かったね、映画。モーツァルトも女好きだったとは……」

 私は映画を観終えると、琥珀に映画の感想を言う。

「芸術家は女好きが多い。ゴッホも女癖が悪いって言われているし」
「えっ! そうなの? 」
「ん。恋愛をしている時が一番インスピレーション湧くんだって大学の教授も話していた」
「そっか、確かに恋人を描く人とかいるよね」
「俺はどうなるんだろう……」
「琥珀? 」
「そうだ、美術史の講義のレポートあるんだった。最後の仕上げやらないと……」
「じゃあ、私は夕飯の支度するね」
「ありがとう、楽しみにしてる」

 健介とちゃんと話しなきゃだよね。話をするのが怖いけど、このままってわけにもいかない。浮気されても、好きなら別れないべきなんだろうな。

「美味い……ナスたくさん入ってて嬉しい」
「お代わりもあるからね」

 夕飯が出来ると、琥珀は満足そうにカレーを食べる。

「優愛」
「ん? 」
「いつまでいられる……? 」
「なるべく早く、家は決めるよ。梨々香……友達が良い不動産屋さん紹介してくれるってさっき電話で言ってたから」
「そうか……」

 琥珀に甘えてばかりじゃだめだ、もう良い大人なんだから。

「ふぅ。お風呂、先に頂きました」
「優愛、ベッドで寝て良い。俺は布団で寝る」
「だめだよ! 琥珀の家なんだし」
「大丈夫、俺はどこでも寝られる」
「ていうか、布団あったんだ? 」
「さっき買った」
「担いで帰ったの!? 」
「優愛、添い寝やだって言うから……」
「だからってわざわざ……布団なら私が使うから! 」
「ベッド、ちゃんとシュッシュしたから男臭くないはず。ベッド使って、優愛。ね? 」
「わ、分かった。ありがとう、琥珀」
「俺も風呂行く」

 私、すぐ出て行くのに悪い事しちゃった。

「優しいな、琥珀は」

 こんなに誰かに優しくされたの久しぶりな気がする。
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