その温もりを感じていたくて。

胡桃澪

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Chapter5.私を好きになったらだめ。

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「知らない人がいっぱい……」

 大学一年の春、私は怯えた表情でゴルフサークルの見学へ。理由は勧誘していた男の先輩に強引に連れて来られたから。

 まだ、学科内に仲良い人いないし……人見知りには辛いよ、サークル見学とか。

 皆がお菓子を食べながら盛り上がってる中、私は隅っこでジュースを飲みながら、いつ帰ろうかとタイミングを伺っていた。

「あれ? 君、同じ学科の……」
「へ? 」

 私に話しかけてきたのは健介だった。今、黒くて短い髪は当時、長い茶髪でパーマをかけ、大分印象が違った。

「オリエンで席近かったから。君も見学来てたんだ? 」
「せ、先輩に強引に連れられて……」
「あはは、俺も。強引だよな、ここの先輩達。ゴルフは? 興味あるの? 」
「あまり……」
「だよな、俺も。じゃあさ、一緒に抜けよう」
「へ? よ、良いのかな? 」
「でも、このままだと入部って流れになりそうだし。違うサークルも見学したいなって。いくつか見学したいサークルあるんだけど、一緒に行かない? 友達にバイトだからって断られちゃって」
「う、うん! 」
「逃げるなら一人より二人だよな、やっぱ。行こっ」

 健介は人見知りな私でも話しやすい男子だった。

「宮瀬には見学したサークルの中でどのサークルが一番気になった? 」

 あらゆるサークルを見学すると、彼が聞いてきた。

「えっと、旅行サークルかな? 私、あちこち旅行してみたくて」
「お、奇遇だな。俺も! じゃあ、入部しよっか。旅行サークル! 」
「うん! 良かった、同じ学科の子がいてくれて心強いよ、私」
「俺も。そうだ、入部届出したら、時間ある? 」
「う、うん。あるけど……」
「実はさ、どの講義受けようか悩んでて。宮瀬が同じ講義だったら分からなくなっても聞けそうだなって」
「へ? 」
「宮瀬、いかにも頭良さげだから。同じ講義、受けたい」
「そんな理由ー? 」

 同じ学科、同じサークル、同じ講義を受けている、何かと接点があった私達はすぐに仲良くなった。

「優愛、合コン行かない? 」
「ご、合コン!? 私、行ったこと無いなぁ……リスキーじゃない? 」
「優愛可愛いし、すぐ相手見つかるって! お願い、人数足りないの! 」
「もう、ミカー! 」
「だめだぞ、優愛! 」
「へ? 健介? 」
「今日はサークルの打ち合わせ」
「あれ? そうだっけ」
「マジかー! 残念」

 あれは、大学二年の夏だった。

「健介、打ち合わせなんてあった? 部長からメールとか来てないけど」
「や、あの……あれだ、嘘ついた」
「えーっ!? ミカ、困ってたのに……」
「ミカには悪いけど、俺が嫌だったから」
「嫌って? 」
「優愛に彼氏、出来たら」
「な、何それ……」
「好きなんだ、俺。優愛の事が! 付き合って欲しい」
「け、健介……」
「初めて会った時からずっと好き」
「あ、あの! わ、私で良ければ……」
「本当か? やった……やったー! 」
「ちょっと! 大学内で抱きつくなぁ! 」

 それからはたまにケンカはあったけれど、順調に交際が続いて行った。健介じゃなきゃだめだって思えるくらい大好きで。

 だけど、最近は健介が忙しくて夜中に帰る事が多くなっていた。それでも、健介に美味しい物を食べて欲しくてちょっとしたおつまみを作って、彼が帰るのを待っていた。

「ただいま……」
「おかえり、健介! おつまみとお酒あるよ! 」
「悪い、優愛。さっきまで上司と飲んでたから」
「仕事で遅くなったんじゃないの? 」
「付き合いがあんだよ! 優愛みたいに17時定時終了の誰でもできるような仕事ばっかする会社とはちげぇんだよ」
「ごめん……」
「つーか、俺が帰るまで起きてなくて良いから。お前が寝る時間まで夜中になるって思うと、プレッシャーになる。寝てて良いし、食べ物も作らなくて良いから。な? 」
「私は……喜んで欲しくて……」
「疲れてるから寝るわ。話ならまた時間ある時に」
「それっていつよ……」

 夢を見ていたらしい。健介と出会った頃と現在の私達の夢。目覚めると、頰に涙が流れていた。

「優愛、大丈夫……? 」
「琥珀……お風呂、上がったんだ」
「うん。そろそろ寝ようかなって。ねぇ、優愛」
「ん? 」
「手、握っても良い? 添い寝はしないから」
「う、うん。良いけど……」
「大丈夫、手握ったら嫌な夢、見ないから」
「琥珀….…」
「今日は幸せな1日だった。いつもより油絵が良い感じに描けて、優愛と食べたハンバーグがいつも以上に美味しくて、モーツァルトの映画がかなり面白くて、優愛の作ったカレーにたくさんナスが入ってて嬉しくて。明日はもっともーっと楽しい日にする」
「私も楽しかったよ、琥珀」
「優愛、突然いなくなったりしないよね? 」
「大丈夫、ちゃんとお別れを言ってから出るよ」
「うん……」

 この子と話している時だけは辛い気持ちも和らいでいく。不思議な子だな、琥珀は。

「おやすみ、琥珀」
「おやすみ、優愛」

 琥珀が手を握ってくれていたからか、これ以上健介の夢を見る事は無かった。


「すごい……大学入ってすぐにたくさんの彫刻作品が」
「何十年か前の卒業制作らしい」
「美大って感じだね」
「優愛、こっち」

 翌日、私は琥珀と一緒に琥珀の大学へ。関係者じゃないのに入って良いのかな……?

「わっ! キャンバスがたくさんある! 図工室みたいな匂い」
「油絵学科が使ってる教室だよ。今日は日曜だから俺くらいしか使わないみたいだけど」
「ねぇ、手伝って欲しい事って何? 琥珀」
「優愛に絵のモデルを……して欲しい」
「えーっ!? わ、私? 」
「うん、優愛が良い」

 待って? 昨日、琥珀確か……

ーー俺が描きたいって思える人が俺の好きな人なんだと思う。

「あの、琥珀……」
「座って、そこのまん丸な椅子に」
「あ、うん。ま、待って! 脱いだ方が良いの? だったら、私……」
「そういう絵を描くつもりはないから大丈夫。俺を見て。疲れちゃうかもしれないけど、ごめん」

 そう言うと、琥珀は髪を一つに結い、道具を出す。

「話は出来るんだよね? 」
「うん、つまらなくなったら悪いから。話しながらでも描ける」
「そ、そう……もっとちゃんとした格好していけば良かったかな」
「優愛はいつでも魅力的だから大丈夫」
「あ、ありがとう……」

 琥珀は天才的な子だし、昨日もたまたま見かけた猫を描くって話してたし、気分で描きたくなっただけだよね? 私を好きかどうかなんて……。

「俺、授業以外では基本的に人物は描かないんだ」
「あ、そっか。動物とか風景専門だっけ」
「俺が絵を描くのってさ、自分が見たものを焼き付けておきたいから。昨日の猫もそう。忘れないでいたい物を絵に残すんだ」
「忘れないでいたい物……」
「だから、今……優愛を描いてる」

 動揺している私がいる。早く出て行かなきゃって思っていたのを見透かされてたみたい。

 私はまだ健介と別れていないし、まだ気持ちは彼にあるはず。だけど、どうしてこんなに気持ちが揺らぐんだろう。

 絵を描く為とは言え、いつも以上に琥珀の視線を感じ、落ち着かない。

「ど、どのくらいかかる? 」
「ざっと2時間くらいかな」
「本格的! 授業やコンクールに出すとか? 」
「いや、俺が好きで描いてるだけ」
「そ、そう……」

 明日、会社が終わったら、健介と話そうと思っていた。あんな夢を見てしまったし、このままじゃ良くないから。

 で、家の事をどうするかは健介と話した後に決める。別れたいってなったら、私は梨々香の紹介で新しい家を見つけるつもりだ。

 この子にいつまでも甘えられないし。もし、この子が私を好きだったら、尚更一緒にいちゃいけない。

 だって、私はまだ健介の事でもやもやしているわけで。
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