その温もりを感じていたくて。

胡桃澪

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Chapter6.ときめいてはいけないよ。

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「出来た」
「お疲れ様、琥珀」
「ごめん、2時間も」

 2時間かけて絵は完成された。絵の中の私は笑っている。

「だ、大丈夫。わっ! すごい色彩豊かだね。 なんか照れるなぁ、描かれると」
「超大作、琥珀さん的にナンバーワン作品」
「何それ。でも、嬉しいな。こんな綺麗に描いて貰えて。しかも、天才画家様に」
「お腹空いた……」
「さっきまで巨匠の顔だったのに、今はいつものゆるゆる琥珀だね」
「ご飯行こ? 優愛」
「はいはい」

 やっぱり、無いよね? 琥珀からしたら私は飼い主かお姉さんな気がする。甘えん坊だし。

「あれ、琥珀じゃん」
「あ、マジだ」

 作業場を出ると、琥珀の同級生らしきグループが話しかけてきた。

女の子二人と男の子三人、琥珀に比べたら派手な雰囲気だった。

「綺麗なお姉さん、連れてるー。珍しく女連れかよ」
「この人は彫刻科の四年生の先輩。美術史IIで知り合った」

 さらりと嘘ついたよ、琥珀さん!

「えっと、宮瀬優愛です….…」
「なかなか合コン来ないなって思ったら、そういうわけね。琥珀、やるじゃん」

 合コンか。確かに琥珀、行かなさそう。

「この人は……そういうのじゃない」
「マジ? 怪しいな。ね、瑠美ちゃん」
「琥珀は真面目だから合コンなんか行かないの! そんな暇あったら、絵描いてるってタイプなだけ! 彼女いたら話すよね? 琥珀」

 瑠美ちゃんと呼ばれた少女はむっとした表情で言う。

 この子、琥珀が好きなんだろうな。

「うん、話すよ。皆は友達、だから」
「マジかぁ。だったら、お姉さん! 俺と仲良くしてみません? 彫刻科の授業どんなか知りたくって。LINE教えてください! 」

 琥珀の友達なのにチャラいのいる!

「だめ」

 琥珀はLINE交換をせがむ友達から私を隠す。

「ちょっ! 琥珀! 何だよ! 」
「この人と仲良くして良いのは俺だけ」

 こ、琥珀!?

「行こ、優愛」
「えっ! 琥珀、良いの!? お友達……」

 琥珀は私の手を引き、速歩きで歩き出す。

「細田はチャラいから危険」
「だ、大丈夫だよ! 私からしたら彼らは子供だし。迫られても流す事くらい簡単に……何? 琥珀、もしかしてヤキモチ? 」
「悪い? 」

 琥珀は私を睨み、言う。かなり不機嫌だ、琥珀さん!

「大丈夫。あの中なら一番琥珀が可愛いよ」
「俺は……俺の事は子供扱いしないで」
「琥珀? 」
「優愛のバカ……」
「何で拗ねてるの!? 琥珀! あっ、美味しいもん食べに行こう。ね? 」
「食べる……」

 もしかして、琥珀……いやいや、無いよ! だって、私だよ!? だめなとこばっかり琥珀に晒してるし……。

 もし、そうなら私は琥珀とはもう一緒に暮らせないし、もう会えない……。

 そう思ったら、胸がずきりと痛んだ。

「これから、アルバイトなんだ」

 琥珀は大学を出ると、そう言った。

「あ、そっか。絵画教室の……」
「ごめんね。お昼ご飯は一緒に食べられない」
「き、気にしないで! 」
「夕方には戻るから」
「うん。それまでDVDでも観て……」

 琥珀は突然、私のおでこにキスをした。

「こ、琥珀!? 」
「行ってきますのチュー」
「そ、そう言うのってカップルがするもんだよ? 」
「唇じゃないからセーフ」
「そ、そういう問題じゃ……」
「じゃあ、急ぐから」
「あ、うん! 」

 何、20歳の男の子にときめいてるのよ、私!

琥珀とはずっと一緒にはいられないし、私はまだ健介が……。

「えーっ!? 男子学生と同棲!? 」
「はい……」

 琥珀と別れた私は久しぶりに大学時代の友人である真莉の家へ。真莉には全て話してしまった。

「やるねぇ、優愛。彼氏への復讐? 」
「そういうつもりじゃないんだけど。何か、琥珀をほっとけなくて」
「でも、その子……危険だな」
「えっ? 」
「優愛に甘えてるんでしょ? かなり執着されるよ、きっと。家族を失ってから誰かにずっと甘えたくて仕方ないみたいだし。優愛に甘えられるようになったら後は優愛に依存だね」
「そんな。琥珀は今迄一人暮らしだったんだよ? 」
「でも、限界が来たんじゃない? 天才故の孤独と家族がいないという孤独。彼はずっと孤独なわけなんだから」
「真莉……」
「気をつけた方が良いよ? 優愛みたいに優しい子は依存されやすいんだから」
「さすが恋愛マスター……」
「やめてよ、もう」
「もうすぐだね、結婚式」
「うん。いやぁ、あっという間だわ」

 真莉は来月、5つ上の彼と結婚する。

「どうして彼と結婚しようと思ったの? 」
「この人じゃなきゃだめって思ったからかな」
「浮気とかあった? 真莉の彼氏」
「無い無い! そんなイケメンでもないし。でも、まあ遊びくらいなら浮気許せるかな」
「えっ! 」
「男は浮気する生き物だし」
「真莉は強いね」
「とりあえずさ、ちゃんと健介くんと話しな? 話したら考えまとまるかもしれないし。いつまでも得体の知れない男といちゃだめ。優愛が好きなのは健介くんなんだから」
「真莉……」

 そうだ、私の彼氏は健介なわけで。

「ちゃんと話し合う時間作るべきだったんじゃない? 優愛達には」
「そう……だね」

 喧嘩すらまともにしなかった。やっぱり、ちゃんと話し合うべきなんだよね。

 結婚、か。私は健介と結婚したいって思えるのかな……?

 真莉の家を出た私はレンタルDVDショップでDVDを一本借りると、琥珀の家へ帰る。

 真莉は琥珀を危険って言ってたけど……あの子は今迄一人だったわけだし、依存なんて……。

 DVDを観終える頃には夕方になっていた。

 今日も琥珀は息を切らしながら帰って来た。

「優愛っ」
「あ、おかえり。琥珀……」

 琥珀は私を強く抱き締める。

「急いで帰らなくても私は勝手にいなくならないよ? 昨日も言ったでしょ」
「分かってるけど、怖かった」
「琥珀、私はいつかは出て行くんだよ? 」

 私はずっとこの子とは一緒にいられない。

「出て行かないで、優愛」
「えっ? 」
「ずっと、ここにいれば良い。俺なら優愛の彼氏みたく、優愛を傷付けない。優愛にいて欲しい」
「だめだよ、琥珀。琥珀はもう20歳。私がいなくてもしっかりしなきゃ! 今迄、一人だったんだからさ」

 私はこの子にこれ以上、甘えちゃいけない。

「優愛……」
「夕飯、用意するね」

 私は琥珀から離れ、台所へ立つ。

 真莉の言う通りだったら、私はすぐにでもこの家を出なければならない。

 琥珀が私に依存しないように。

「今日はパスタにするね、琥珀」
「優愛は俺が嫌になった……? 」

 えっ?

 琥珀を見ると、彼は不安げな表情を浮かべていた。

「嫌になったわけじゃないよ。でもさ、私と琥珀は….…」
「優愛といると、一人ぼっちじゃないって思える。優愛が来てから楽しい。だから、一緒にいて。俺、ちゃんと良い子にするから……」
「琥珀……」
「いつかは出て行くんだよとか言わないで」

 琥珀は私を後ろから抱き締め、言う。

「ご、ごめん……」

 やっぱり危険、なのかもしれない。真莉の言う通り、琥珀は私に依存しかけている。

「今日は何パスタ? ゴンボレ? 」
「もう! ゴンボレじゃなくてボンゴレね。今日作るのはカルボナーラ」
「カルボナーラ、好き」

 琥珀とは出会ったばかりなのに弟やペットみたいに可愛いと思える。だけど、それでもずっと一緒にいちゃいけない。

 私と琥珀が一緒にいるのは寂しいから。

 そんなの、ハタから見たらただの傷の舐め合いなのだ。
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