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ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘とそれぞれの恋愛事情~
八章 秋の使者と栗パン
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秋になり精霊祭が近付いて来たある日のライゼン通り。そこに一人の男性がパン屋の扉を開いて入っていった。
「いらっしゃいませ、って。まぁ!」
「ミラの知り合い?」
入って来た男性を見て高揚したミラの頬は赤くなる。その様子にアイクが尋ねた。
「失礼するよ。今年も、パンを買いたいと思い、こうして訪ねさせて頂いた」
「クラウス様、いらっしゃいませ」
「……」
紳士的な言動でクラウスが言うと、ミラは嬉しそうに対応する。その様子をアイクが黙って見詰めた。
「今年は、栗パンを頂いて行きたいのだが、まだ残っているかな」
「はい。こちらになります」
彼の言葉に彼女は言うと栗パンがある棚まで案内する。
「なるほど、お前はこの栗パンになったんだな」
「あ、あの。クラウス様。女神様のお友達だと聞いていますが、まさか貴方も」
慈しむような瞳で、栗パンを見詰めるクラウスへと、ミラはレイヤの事を思い出しながら尋ねた。
「あぁ、そうだよ。俺は秋を告げる季節の精霊。レイヤと同じかな」
「やっぱりそうだったんですね! そうじゃないかなって思っていたんです」
困った顔をしたのも一瞬で、柔らかく微笑み答えた彼へと、彼女は興奮した様子で話す。
「だが、このことはあまり口外しないように。俺の正体を知っているのは王族と、君達だけだから」
「はい。勿論です」
クラウスの言葉にミラは何度も頷き答える。
「それでは、また。……そこの方」
「へ、あ。はい」
帰ろうとした彼が、アイクへと視線を送って声をかけた。それに、ぼんやりしていた彼が慌てて返事をする。
「その感情を忘れずに、大切にすると良いと思う」
「へ?」
意味不明な言葉を残して、お店を出て行ってしまったクラウスの背中を見詰め、アイクが呆気にとられた顔で佇む。
「ねぇ、今の話はどういう意味なのかしら」
「さ、さあ。俺にも分からない」
声をかけて来たミラへと彼が慌てて答える。
この感情の意味に気付くのは、もう少し後になってからなのかもしれない。
「それより、クラウス様。やっぱり精霊様だったのね! それなら毎年姿が変わらなくても不思議じゃないわ」
「え、う。うん。そうだね。その、レイヤ様って人には会った事ないけど、春のお祭りで女神役をやっている人の事だろう」
瞳を輝かせて話す彼女へとアイクが頷き答える。
「そうよ。アイクさんにも会わせたいな。来年の春になったら会えるわね」
「来年の春……か。俺、来年の今頃は如何しているのだろうか」
「仕立て屋をやっているかもしれないわよ?」
「そうだと嬉しいけれど」
ミラと話をしながら彼の心に確かに安心感が生まれた。
(何だろう。この気持ちは……)
「如何したの?」
お喋りしていたと思うと、急に黙り込むアイクへと、彼女は不思議そうに尋ねる。
「何でもないんだ。それより、今度の精霊祭に、さっきのクラウスさんが出るんだよね。一緒に見に行こう」
「えぇ。そうね。一緒に見に行きましょう」
首を振って答えるとそう話す彼へ、ミラもにこりと笑い同意した。
それからお祭りも終わって、日常を取り戻したライゼン通り。
「失礼するよ」
「い、いらっしゃいませ」
ミラがバーへとパンを届けに行っている時間。そこにクラウスがやって来て、アイクがなぜか身構えてしまう。
「もうそろそろ、次の町へと向かうので、挨拶に来たのだが、ミラはいないようだね」
「今はバーへとパンを届けに行っていて、俺が店番をやっているんです」
彼の言葉に、何故か嫌悪感を抱きながら答える。
「少年。そう身構えなくても俺は、君の敵にはならないよ」
「え?」
困ったように笑うクラウスへと、彼が不思議そうに首をかしげる。
「その気持ち、大切にすると良い。……と、言ったのを覚えているかな。君にとって本当に大切だと思い始めているのなら、そうするといい」
「どういう意味ですか?」
彼の言葉に、アイクが分からなくて、不思議そうに尋ねる。
「ははっ。君にはまだ分からないかな。だが、その芽生えた気持ちは、本物なんだと俺は思うよ」
「?」
小さく笑い言われても、理解できない彼が、不思議に思い首を傾げた。
「育むといい。君にとってその気持ちが本物ならば……。では、俺はこれで失礼する」
「はぁ……?」
謎の言葉を残して、立ち去ってしまった、クラウスの言葉を考えてみる。
「俺。如何して、クラウスさんに嫌な感情を抱いたんだろう。それが、答えって言っていたけれど……」
考えてみても分らないなら、これ以上悩んでいても仕方ないと思い、店番へと戻っていった。
「いらっしゃいませ、って。まぁ!」
「ミラの知り合い?」
入って来た男性を見て高揚したミラの頬は赤くなる。その様子にアイクが尋ねた。
「失礼するよ。今年も、パンを買いたいと思い、こうして訪ねさせて頂いた」
「クラウス様、いらっしゃいませ」
「……」
紳士的な言動でクラウスが言うと、ミラは嬉しそうに対応する。その様子をアイクが黙って見詰めた。
「今年は、栗パンを頂いて行きたいのだが、まだ残っているかな」
「はい。こちらになります」
彼の言葉に彼女は言うと栗パンがある棚まで案内する。
「なるほど、お前はこの栗パンになったんだな」
「あ、あの。クラウス様。女神様のお友達だと聞いていますが、まさか貴方も」
慈しむような瞳で、栗パンを見詰めるクラウスへと、ミラはレイヤの事を思い出しながら尋ねた。
「あぁ、そうだよ。俺は秋を告げる季節の精霊。レイヤと同じかな」
「やっぱりそうだったんですね! そうじゃないかなって思っていたんです」
困った顔をしたのも一瞬で、柔らかく微笑み答えた彼へと、彼女は興奮した様子で話す。
「だが、このことはあまり口外しないように。俺の正体を知っているのは王族と、君達だけだから」
「はい。勿論です」
クラウスの言葉にミラは何度も頷き答える。
「それでは、また。……そこの方」
「へ、あ。はい」
帰ろうとした彼が、アイクへと視線を送って声をかけた。それに、ぼんやりしていた彼が慌てて返事をする。
「その感情を忘れずに、大切にすると良いと思う」
「へ?」
意味不明な言葉を残して、お店を出て行ってしまったクラウスの背中を見詰め、アイクが呆気にとられた顔で佇む。
「ねぇ、今の話はどういう意味なのかしら」
「さ、さあ。俺にも分からない」
声をかけて来たミラへと彼が慌てて答える。
この感情の意味に気付くのは、もう少し後になってからなのかもしれない。
「それより、クラウス様。やっぱり精霊様だったのね! それなら毎年姿が変わらなくても不思議じゃないわ」
「え、う。うん。そうだね。その、レイヤ様って人には会った事ないけど、春のお祭りで女神役をやっている人の事だろう」
瞳を輝かせて話す彼女へとアイクが頷き答える。
「そうよ。アイクさんにも会わせたいな。来年の春になったら会えるわね」
「来年の春……か。俺、来年の今頃は如何しているのだろうか」
「仕立て屋をやっているかもしれないわよ?」
「そうだと嬉しいけれど」
ミラと話をしながら彼の心に確かに安心感が生まれた。
(何だろう。この気持ちは……)
「如何したの?」
お喋りしていたと思うと、急に黙り込むアイクへと、彼女は不思議そうに尋ねる。
「何でもないんだ。それより、今度の精霊祭に、さっきのクラウスさんが出るんだよね。一緒に見に行こう」
「えぇ。そうね。一緒に見に行きましょう」
首を振って答えるとそう話す彼へ、ミラもにこりと笑い同意した。
それからお祭りも終わって、日常を取り戻したライゼン通り。
「失礼するよ」
「い、いらっしゃいませ」
ミラがバーへとパンを届けに行っている時間。そこにクラウスがやって来て、アイクがなぜか身構えてしまう。
「もうそろそろ、次の町へと向かうので、挨拶に来たのだが、ミラはいないようだね」
「今はバーへとパンを届けに行っていて、俺が店番をやっているんです」
彼の言葉に、何故か嫌悪感を抱きながら答える。
「少年。そう身構えなくても俺は、君の敵にはならないよ」
「え?」
困ったように笑うクラウスへと、彼が不思議そうに首をかしげる。
「その気持ち、大切にすると良い。……と、言ったのを覚えているかな。君にとって本当に大切だと思い始めているのなら、そうするといい」
「どういう意味ですか?」
彼の言葉に、アイクが分からなくて、不思議そうに尋ねる。
「ははっ。君にはまだ分からないかな。だが、その芽生えた気持ちは、本物なんだと俺は思うよ」
「?」
小さく笑い言われても、理解できない彼が、不思議に思い首を傾げた。
「育むといい。君にとってその気持ちが本物ならば……。では、俺はこれで失礼する」
「はぁ……?」
謎の言葉を残して、立ち去ってしまった、クラウスの言葉を考えてみる。
「俺。如何して、クラウスさんに嫌な感情を抱いたんだろう。それが、答えって言っていたけれど……」
考えてみても分らないなら、これ以上悩んでいても仕方ないと思い、店番へと戻っていった。
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