外伝 ライゼン通りの冒険者さん ~アイアンゴーレム事件編

水竜寺葵

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外伝 ライゼン通りの冒険者さん ~アイアンゴーレム事件編

序章に過ぎない物語

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 深い森の中。時が止ったかのように美しい神殿の前に佇み空を見上げる。

「それじゃあ、行くよ」

そう呟くと胸元で揺れる緑の石に手を当てた。途端に眩い輝きが放たれると少女の姿は忽然とその場から消え去る。

「……」

次に少女が現れたのは寂れた古い建物の前。

「もう直ぐ時が動く。奴の中に”影”が潜んでいるのであれば、僕は役目を果たすまでだ」

そう呟くと背中に背負う大剣の重みを感じながら彼女は歩き始めた。

それから昼夜問わず旅を続けた少女がやってきたのは現れた場所からはるか遠くの大陸。

コーディル王国の入り口であるゲートの前に立つと町の中を伺い見る。

「……ここに来るのもこれが最後になるかもしれないね」

そう呟くと町の中へと入り王宮を目指した。

この物語は人々の心に負の感情と、劣等感と、罪悪感を抱かせることとなったアイアンゴーレム事件と後の世で呼ばれることになる出来事を終始見ていた一人の冒険者の記録である。

コーディル王国へとやって来た雪奈は、運命が動き出す時を待っていた。

「……また、星が廻る」

そう呟くと大剣を手に取り立ち上がる。宿屋の部屋を出るとまだこれから起こる出来事を知らない町は穏やかなままであった。

「セツナさん。親父さんから伝令よ。冒険者に依頼が入ったわ。仕立て屋のイクト君が街の外へ行ってしまったらしいの。捜索願が出されているから探しに行くわよ」

「ついに、か」

駆けつけてきたリゼットの言葉に小さく独り言ちると町の外へと向けて駆け出す。

「っ!? ここは俺が引き受ける。ソフィーとリーナはミラとイクトを連れてここから早く離れろ」

木こりの森までやってきた時、遠くから動揺しながらも叫ぶレイヴィンの声が聞こえてきた。

「あっちで何かあったみたい……セツナさん?」

リゼットの呟きを聞きながら加速する彼女の様子に不思議そうな声が返ってきたが、それを無視して森の奥へとひた走る。

駆け付けるとそこには血を流しているミラと、庇われているイクト。その前に立ち剣をむけ色々な感情を押し殺しながら相手を見詰めるレイヴィンの姿があった。

「隊長援護します」

「私もいるぞ」

ディッドとレオが隊長の背後へと進み出る。

「僕も手を貸す」

「私もやるわ」

そこにようやくたどり着いた雪奈とリゼットも相棒を抜き放ち構えた。

「ソフィー何してる。早くこの二人を連れて町に戻れ!」

「は、はい。イクト君立てる? ミラさん大丈夫?」

「私がミラさんを運びましょう」

怒鳴るレイヴィンの様子がいつもと違うので、戸惑いながらもソフィアは返事をして二人の下へ近寄る。そこに駆け付けたハンスがミラを抱きかかえ走り出した。

「……」

ソフィア達の気配が遠ざかるまで剣を構え相手が何時動いても対応できるように身構えていたレイヴィンが小さく息を吐き出す。

「まさか、こんなところで過去の負の遺産と出会うことになるとはね」

「……味方認識を確認中。……確認不可。攻撃を継続する」

自嘲とも取れる笑いを浮かべて言う隊長の前には、まるでロボットのように淡々とした口調で何の感情も感じ取れない男が立っていた。

「レイヴィン。まさか彼は……」

「あぁ。俺と同じ魔法生命体さ。かつてザハルの帝王が生み出した。負の産物だよ。今頃何でこんなところにいるんだか……」

「隊長……」

レオの言葉に自嘲気味に笑いレイヴィンが答える。その言葉はまるで自分自身も蔑んでいるように聞こえてディッドが呟きを零す。

「魔法生命体? ……ただの人にしか見えないわ」

「見た目はな。だが、こいつは俺と同じ、戦前に立ち敵国の兵を数えきれないほど倒してきた。胸に不死の刻印を刻まれ、死ぬことも許されず、命令に従い味方識別のない相手を殺すように刷り込まれたまま、生き続けているんだ」

「なんか……可哀想っすね」

リゼットの言葉に隊長が答えると相手を憐れむ瞳でディッドが言う。

「まったく、だ。……こいつは俺とは違って洗脳されすぎた。それゆえにありもしないザハル帝国の為だけに未だにこいつは戦い続けているのさ」

「敵は全て排除……攻撃を開始する」

『っ!?』

レイヴィンがそう答えた時魔法生命体が動き出す。その様子にこの場に緊張が走った。

「こいつは俺が倒す。レオ様達は無理をしないように」

「分かっている」

緊張した様子で隊長が言うとレオがそれに答える。

「……排除を開始」

「っ、はぁ。きゃ」

動き出した”彼”がまず一番後ろにいるはずのリゼットの下へと一瞬で詰め寄り剣を振う。

その動きに驚いたものの応戦するが押し出されバランスを崩す。

「まずは弱い奴から順にってことだね。リゼット相手の動きに気を付けて」

「は、はい」

雪奈の言葉に彼女が返事をすると慌てて間合いを取る。

「この……リゼットさんに近づくな! うわっ」

「防御壁か……厄介だな」

ディッドが斬りかかるも魔法壁により弾かれてしまう。その様子にレオが呟いた。

「私だって冒険者の一人よ。舐めて貰っちゃ困るわ。はっ」

「……」

体勢を立て直したリゼットが果敢にも斬りかかっていくが全て弾かれてしまう。

「やっ」

「援護する」

彼女の攻撃の切れ目にディッドとレオが魔法生命体に向かって斬りかかっていった。

「……」

「全く効いていないなんて……」

まったくの無傷で何ともないといった相手の様子にリゼットが顔を青ざめる。

「……魔法生命体はただの化物だからな」

「隊長!」

「レイヴィン!」

レイヴィンの言葉はまるで自分をも嘲笑ってるかのように聞こえて、二人が注意するようにきつく鋭い言葉で諫めた。

「疲れもしない、死にもしない。そんな奴はただの化物さ」

「レイヴィン。その言葉は聞き捨てならない。魔法生命体だって生きている。人間と何ら変わりはない。少なくとも私はそう思っている」

隊長の言葉にレオが鋭い声でそう宣言するかのように話した。

「話はいいから、相手をどうにかする事だけに意識向けてくれないかな」

ずっと一人でリゼットの前に立ち彼女を庇いながら戦っていた雪奈のもっともな言葉に三人は武器を構えて”彼”に意識を戻す。

「はぁっ!」

「やっ」

先頭に立ち魔法生命体目がけて剣を振うレイヴィンと雪奈。相手がこの二人だけに”彼”も簡単に反撃が出来ないようで身を護る事に精一杯といった様子である。

「隊長とセツナさん。まるで人が変わったかのようですね……」

「二人を突き動かす何かがあるという事だろう」

二人の戦闘の様子を見ていたディッドが呟いた言葉を聞き拾ったレオが話す。

「やっ」

「……」

隊長の剣が相手の右手を狙う。しかし魔法生命体はそれを右目に命中させることで利き腕を守った。

「へっ。右目を犠牲にしてかわしやがったか」

「このままでは埒が明かない。一斉攻撃に切り替えるぞ」

レイヴィンが小さく微笑するもその瞳はまったく笑ってはおらず真剣そのものである。

そこにレオが戦闘方法を切り替えようと提案した。

「隊長とセツナさんだけに任せるわけにはいかないもの。私達も戦います」

「そうですよ、隊長。オレ達にもやらせてください」

リゼットが言うとディッドもそう話す。

「分かった。だが、無理だけはするなよ」

皆の声に答えるようにレイヴィンが小さく頷く。

それから暫くの間緊迫した戦闘が続いた。そんな時である。

「きゃあ~っ!!」

真っ赤な血飛沫をあげて崩れ落ちる一人の少女。

「っ!? リゼットさん。……リゼット! しっかりしろ。目を開けろ」

ついに魔法生命体の攻撃が命中し利き腕を斬られてしまったリゼットは貧血と酷いめまいに襲われ気絶してしまう。倒れ込んだ彼女の下へと駆けつけ抱きかかえたディッドが必死に呼びかけるも、血色がどんどん悪くなっていく少女の様子に、喪うかもしれないという恐怖に体を震わせる。

「レオ様、ディッド、セツナ! ここは俺が引き受ける。リゼットを連れて町へ戻れ」

「隊長……」

「一人でやるつもりか」

庇うように前に立ちふさがり“彼”の攻撃を受け止めながらレイヴィンが叫ぶ。その言葉に二人がそれぞれ隊長へと視線を向けた。

「最初っからこいつとまともに渡り合えるのなんか、同じ魔法生命体である俺くらいしかいなかったんだよ。ここにいたら被害が増える。だから今すぐ町に戻れ!」

「ディッド行くぞ。今はリゼットを助けることが先決だ」

「っ……隊長。すみません」

レイヴィンの言葉にレオがその条件を飲み込み座り込んでいるディッドへと声をかける。彼がリゼットを抱きかかえ立ち上がると小さく謝罪し町へと向けて駆け出した。

「……君一人で殺り合うつもり?」

「セツナ……こいつと決着を付けなくちゃいけないのは俺だ。だから、手出ししないで欲しい」

一人だけ残るという隊長へと向けて雪奈が声をかける。それにレイヴィンが静かな口調で答えた。

「過去への決別って訳? ま、如何でもいいけど。だけど、君一人残ったところでこいつをどうにか出来るとでも。……今は時じゃないんだよ」

「それは……どういう意味だ?」

彼女の言葉に引っかかりを覚えそちらへと視線を向けると、胸元に揺れる緑の石を握りしめた雪奈の表情は笑っていた。

『時を紡ぎ、時をつづる者の力を解き放つ。……彼の者を誘え。……時が来るまで彼の地で眠れ……』

「「っ!?」」

力を開放した雪奈は普段の様子とは違った雰囲気で言葉を紡ぐ。その途端緑色の魔法陣が”彼”の足元へと広がり瞬間光り輝く。その様子に相手もレイヴィンも驚いて目を見開いた。

「セツナ、あいつをどこへやったんだ?」

「時が来るまでこことは違う次元に送り込み眠ってもらった。しばらくの間、奴がこの地に戻ってくることはないから安心しなよ」

「ははっ。相変わらず無茶苦茶な力だな……時の使者さん」

隊長の言葉に淡々とした口調で答えると小さく笑われる。

「時が来たらといったな。その時は俺の邪魔はしないでくれよ」

「しないよ。僕の役目ではないからね」

彼女へと向き直ったレイヴィンの言葉に雪奈は小さく答えた。

「僕はもう行かないといけないから。君から皆に適当に伝えてくれる」

「相変わらず忙しいんだな。分かった。ソフィー達には故郷に帰ったって伝えておくよ」

彼女の頼みに小さく頷き了承する。その言葉を聞いた雪奈は緑石に力を込める。

「セツナ……あんたにはこの先の未来が見えてるってことだな」

緑の煌きに包まれ世界を渡る力でこの場からいなくなった彼女が残した小さな粒子だけを見詰めてレイヴィンは呟く。

これが後にアイアンゴーレム事件と呼ばれることになった出来事の真実である。

そうして時を越えて世界を渡り森の中の神殿へと戻って来た雪奈は背後に感じた気配に振り返った。

「セツナ。お帰りなさい。それで、どうだった?」

「僕が探していた”影”とは関係なかったよ」

金の髪に時の数だけ皺を付けた一人の老婆が人懐っこいのにどこか凛とした瞳を向けて尋ねる。それに彼女は淡泊に答えた。

「そう、それならまた暫くの間は一緒にいられるのね」

「……アオイ」

良かったと言わんばかりに微笑む老婆へと雪奈はそっと呟く。

「え、何か言った? ごめんなさいね。最近耳が遠くて……」

「何も……」

途端に不思議そうな顔をする老婆へと彼女は何でもないといいたげに答える。

「……僕はあとどのくらい、君達と一緒にいられるんだろうね」

窓の外を見詰める雪奈の呟きは目の前の老婆へと向けて言われた言葉なのか、それともつい先ほどまで一緒にいたソフィア達へ対しての発言なのか。それを知るのは彼女本人だけであった。

=====

 あとがき

 アイアンゴーレム事件編これにて完結に御座います。錬金術師さん2で明かされなかった伏線の回収が出来ていたら良いのですが。作者としてはようやく”彼”の正体を暴露できて落ち着きました。これが真実です。そしてその真実は隠されたまま未来へとつながっていくのです。
最後に登場した老婆「アオイ」という名に皆様心当たりありませんか? そう【大人気乙女ゲームの世界に来てしまったのでゲームの知識を駆使して生き残ります】で登場したのちに聖女伝説を生みだした瑠璃王国の王女アオイの未来の姿です。彼女が出てきたという事は次の物語はこの世界軸での未来のお話となります。現在執筆中ですのでまた出来上がりましたらこちらに掲載開始します。
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