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十一章 嵌められた罠
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トウヤさんの案内で宮殿へと向かう私達。この国に仕えていただけはあって裏道をよく知っている。そしてここまでの道中一度も誰ともすれ違わなかった。
「こんなところにこんな道があったなんて知らなかったな」
「アレクも知らない道なの?」
アレク君が驚いた顔で言ったのでアオイちゃんが不思議そうに尋ねる。
「うん。ぼくもまだまだ勉強不足だね」
彼女の言葉に答えると何やら小さな声で話していたがその言葉は聞き取れなかった。
「でも確かにこの道なら安全かもしれないわね。あら、どうしてって顔をしてるわね。だって人っ子一人通らないところを見るとこの道を利用する人は少ないって事でしょ」
「あ、そっか」
アゲハさんが言うと私とアオイちゃんは疑問符を浮かべる。それに気づいた彼女がにこりと笑い説明した。それにアオイちゃんもそう言われてみればそうだよねって感じで頷く。
「さあ、もうすぐ着きますよ」
「先に北の地へと向かった者達の姿がないけど、本当に大丈夫なのか」
「どこかで時が来るのを待っているのでしょう。アオイ様が宮殿へと入ったのを見ればきっと彼等も姿を現すと思いますよ」
トウヤさんの言葉にキイチさんが先に北の地へと向かった兵士達の姿が見当たらない事に不安になったのか尋ねる。それに彼がアレク君がいるからかアオイちゃんのことを姫とは呼ばず名前で呼んで説明した。
何だかものすごく不安にかられるのだけれど本当にこのまま乗り込んで大丈夫なのかな? だけどトウヤさんはさっさと見張りがいない裏側の壁の前へと向かって歩いていってしまう。私達はその後について行った。
「この壁をよじ登り中へと入るのです。幸いそこまで高くありませんのでアオイ様やレナさんでも楽に超えられるでしょう」
「待て、おれが先に行く。中に入り誰もいないとは限らないからな」
彼が言うとアオイちゃんが登ろうとする。それをキリトさんが止めて先に壁を……え、片手で飛び上がり軽々と超えちゃった。キリトさんて身体能力高いのね。
「大丈夫そうですね。アオイ、オレ達も行きましょう」
「うん」
そう言うとハヤトさんも軽くジャンプして飛び越えちゃった。アオイちゃんは流石に飛び越えはしなかったけど両手を壁にかけて一度上にのぼるとそのまま飛び降りる。
「そんじゃ、俺も」
「僕も行きますね」
「ではおれも続きます」
ユキ君が言うと軽々と壁を乗り越えていく。イカリ君とトウヤさんも片手を壁に乗せると簡単に反対側へと飛び越える。
「そんじゃオレ達も」
「ええ」
キイチさんが言うと大きく跳躍して壁を飛び越えた。踊り子をしているアゲハさんもさすがという感じに華麗に飛び上がり反対側へと消えていく。
「ぼくも行くけど、レナ。口なんか開けて何ぼっとしてるの。ちゃんとついてきてよね」
「は、はい」
アレク君の言葉に私は我に返り返事をする。彼は私に向けてほんとに分かってるのかと言いたげに小さく笑うと壁を……ジャンプするだけで越えてしまった。皆運動能力高すぎるよ。私あんなに華麗に飛び越えれないんだけど……。だけどいつまでもここにいても皆を心配させてしまうだけだし、うん。背伸びをすれば手は届きそうだし頑張ってみよう。
「よ、いっしょ……うっ……」
思った通り手は届いたが腕力がなくてうまく登れない。試しに皆みたいにジャンプしてみるがそれでもやっぱり壁を超える事ができない。思えば最初から何もできなかったのだからこっちにきたからといって運動神経があがっているわけがないよね。
「そんな所で小さく飛んでカエルかよ。助けて欲しい時はいえって言っただろ」
「何をしている。登れないのなら始めからそう言え」
「す、すみません」
いつまでも来ない私にしびれを切らしたのか壁の上にはいつの間にかユキ君とキリトさんの姿が。
二人の手を借りて何とか壁の上へと登る事ができた。彼等が先に地面へと降りると私も飛び降りようと動いた。
「あっ……」
しかし足を踏み外してしまいそのままの勢いで落下していく。私は地面に叩き付けられるのを覚悟して目を瞑る。
「……まったく。どこまでとろいんだか。無理に飛び降りようとしなくてもゆっくり降りてくればいいのに」
「す、すみません」
しかし私が思っていたのとは違う反動を覚えて目を開けると視界一杯にアレク君の姿があり、私はなんと彼にお姫様抱っこされた格好で受け止められていた。
苦笑を零す彼の言葉に私は恥ずかしくなって頬が赤くなっているんじゃないかって思いながら謝る。
「さて、みんな無事にこれたみたいだし、先へと進みましょうか」
他の旅芸人の人達や兵士達も壁を越えた事を確認したアゲハさんがにやにや笑いながら先を促す。私は降ろしてもらうと皆の後に続けて歩き出す。
「ふふ、これは姫ちゃんにとっての強力な好敵手かしら」
アゲハさんがそっと呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。私は彼女に勘違いされてしまった事に気付かないままアオイちゃんの背について敷地内を進んでいく。
しばらく進んでいくと回廊に続く中庭へと出てそこから周囲を警戒しながら先へと進む。そして大きな扉の前までくるといったん立ち止まる。
「この中が中央広間です。中央広間を抜けたさきに玉座があります」
「ここから先は気をつけないといけないのね。皆行くよ」
トウヤさんの言葉にアオイちゃんが言うと武器を手に扉を開け放ち中へと進む。
私達全員が扉を通ったとたんそれが閉まり部屋の中に閉じ込められてしまう。
試しにアオイちゃんが扉を開けようとするがびくともせず中からは開けられないようだ。
「この部屋には何か仕掛けでもあるのかな。ねえ、トウヤさん。ここからはどうやって進めばいいの」
「ここからですか。……そのようなご心配は不要かと思われますよ」
アオイちゃんの質問に彼が冷静な態度で答える。
「え?」
「ここで貴様等は命を落とすのだからな」
『!?』
その言葉の意味が解らなくて不思議そうにする彼女。そこに誰かの声が私達の耳へと入ってきて、私達は驚きと警戒で身構える。
「貴様が亡国の姫か。反徒どもを引き連れこの国に向かってきていることは最初から分かっていた。反徒どもをこれ以上野放しにするわけにはいかない。よって貴様等はここで死んでもらう」
「……」
赤色の髪の男性が大広間の奥の階段の上に姿を現すと冷たい口調で言葉を放つ。彼の隣にはジャスティスさんが無言で立っていてなぜか私を見ていた。
「誰?」
「彼は四天王を束ねるリーダーのシエルですよ」
「四天王」
アオイちゃんが不思議そうに尋ねるとハヤトさんが大太刀を構えながら説明する。その言葉に彼女も警戒してきつい眼差しになりながら呟く。
「お姉さん達旅芸人の一座じゃなかったんだね。残念、ボクお姉さん達の芸みてみたかったのにな……」
アイクさんが本当に残念だって顔をして呟く。旅芸人の一座だって言った言葉をずっと信じていたのになんか裏切ってしまったような気持になり申し訳なく感じた。って、そんなこと思っている場合じゃないよね。これって四天王が三人もいる状況なんだからもう少し危機感覚えなきゃ。
「トウヤ。反徒どもをここまでおびき出す役目ご苦労でしたね」
「……」
そこにシェシルさんの声が聞こえてきてこれで四天王が全員そろってしまった。……って、あれ。今何て? トウヤさんが私達をおびき出す役目って。まさか――。
話題に出ているとうのトウヤさんは無言を貫いているが明らかに表情が違う。今まで見せていた友好的な微笑みではなく冷たく顔に張り付けたような笑みになっていた。
「貴様。やはりおれ達をだましていたか」
「やっぱり、こいつの事好きになれそうにない」
「ち、ちょっと二人とも待ってよ。トウヤさん。今の話は本当なの? 私達をだましていたの?」
二刀を構えて鋭い目つきで彼を睨み付けるキリトさんと、今にも斬りかからん勢いのユキ君。二人に待ったをかけたアオイちゃんがそんなはずはないよねと言いたげな顔で問いかけた。
「ふっ。姫様は本当にお優しいお方ですね。おかげでこの疑い深いお二人をだますのに成功いたしました。そうです。帝王様に殺されそうになったという話は嘘です。あれは姫様方を信じ込ませるための演技というわけですよ」
「そんな……そんなの嘘だよ。だってあれはどう見たって酷い傷だったのに」
「アオイそいつから離れろ。今すぐここで斬り捨てて今までの罪を償ってもらう」
小さく笑うと今まで向けたこともない嫌な笑みを浮かべて語るトウヤさん。その言葉にアオイちゃんは信じたくなくて首を振り否定すると一歩近づく。
そんな彼女の前へと駆けこんだキリトさんが怒りに染まった瞳を彼へと向けて言い放つ。
「おやおや、勇ましいことで。ですが、おれ一人だけ気にしていていいのですか? ここには四天王がいるということをお忘れなきように」
「!」
彼が言うと一歩背後へと退く。するとキリトさんの前に風刃が襲い掛かり、彼はそれを受け止めかき消す。
「貴様等の相手は一人ではない。わたし達がいる事を忘れてもらっては困る。でないと退屈で仕方がない」
「ねえ、やっぱりボク女の人と戦うの嫌だから、あっちの外野相手しててもいい?」
「そこはアイクの好きにすればいいでしょう」
アイクさんがシェシルさんに尋ねる。それに彼が好きにしろと言って頷く。
「そっか、良かった。それじゃあそっちのお兄さん達ボクの相手になってよ」
彼が嬉しそうに言うと真面目な顔になりハヤトさん達へと向けてショートソードをかまえて突っ込んでくる。
「それでは私も行かせてもらいましょか」
シェシルさんもロングソードを構えるとイカリ君達を狙う。
「……少女よ。お前も反徒どもの仲間だったのか?」
「えっ」
一人だけ何やら考え深げにしていたジャスティスさんがそっと私に声をかけてくる。ずっと私の事を見ていたけどまさかそんなことを聞かれるとは思わなくて驚いた。
「できれば、お前に刃を向けたくはない。今すぐこの部屋の隅に行き身を守っていろ。そうすればお前の事だけは見逃してやる」
「……それは、この前助けた借りを返してくれるという意味でしょうか?」
静かな口調で話しかけてくる彼へと私は真っすぐに見返して尋ねる。
「……」
「もし、そうなのであればそのことはどうかお気になさらないでください。私は、この腕輪を貰うまでは何もできないただの人間でした。ですが、この腕輪の力で誰かを助ける事ができるようになった。それならば私は私の大切な友達を守る為に、逃げたりなんかしません。そんなことしたくありません」
「そうか。……残念だ」
無言で見つめてくるジャスティスさんへと私は腕輪を右手で握りしめて話す。その言葉に彼はそっと呟くと私から離れていく。てっきり斬り捨てられるかと思っていたので彼の意外な行動に驚いてその場に立ちつくす。
「少女よ。せいぜい死なぬように逃げる事だな」
「……」
彼はそれだけ言うとキイチさん達の方へと向かっていった。私は暫くその場に佇んでいたけどアオイちゃんがシエルさんに狙われているのを見て慌てて腕輪に祈りを込めた。
「お願いです。皆さんをお守りください」
私の言葉に呼応するように腕輪が輝き見えない加護の力が働いたように感じる。
「なにぼさっと突っ立ってるの。そんなとこにいたら君も攻撃を受けちゃうよ」
「アレク君?」
そこに私の腕の裾を引っぱりアレク君が小声で話しかけてきた。先ほどから姿が見えないと思っていたら如何やら攻撃が当らない物陰に隠れていたようだ。
だけど私がぼうっと突っ立ていた為心配して声をかけてきたのだろう。
「それとも君も戦えるのかな? 四天王は強いよ。レナみたいに弱くてぼぅっとしている子が勝てるとは思えないんだけどね」
「た、戦えないことは事実ですが、でも誰かが怪我した時の治癒くらいならできます」
彼の言葉に図星をつかれて悲しく思いながらもそう答えた。
「ふ~ん。なら攻撃されないよう気を付けてアオイ達の事守ってあげてね。他の連中がどうなろうとぼくの知った事じゃないけど、アオイが悲しむのは見たくないし、だからあいつらが怪我したら助けてあげていいよ」
「なんだか上から目線ですね」
アレク君が一応? 納得してくれた様子で頷くとそう言って笑う。その言葉に私はずいぶんと偉そうな発言だなと思いながら苦笑いする。
「何か言った?」
「い、いえ……」
笑顔が怖くて慌てて首を振って答えると彼はまあいいやって顔で物陰へと身を隠す。私も目の前で繰り広げられる戦いに意識を戻した。
「こんなところにこんな道があったなんて知らなかったな」
「アレクも知らない道なの?」
アレク君が驚いた顔で言ったのでアオイちゃんが不思議そうに尋ねる。
「うん。ぼくもまだまだ勉強不足だね」
彼女の言葉に答えると何やら小さな声で話していたがその言葉は聞き取れなかった。
「でも確かにこの道なら安全かもしれないわね。あら、どうしてって顔をしてるわね。だって人っ子一人通らないところを見るとこの道を利用する人は少ないって事でしょ」
「あ、そっか」
アゲハさんが言うと私とアオイちゃんは疑問符を浮かべる。それに気づいた彼女がにこりと笑い説明した。それにアオイちゃんもそう言われてみればそうだよねって感じで頷く。
「さあ、もうすぐ着きますよ」
「先に北の地へと向かった者達の姿がないけど、本当に大丈夫なのか」
「どこかで時が来るのを待っているのでしょう。アオイ様が宮殿へと入ったのを見ればきっと彼等も姿を現すと思いますよ」
トウヤさんの言葉にキイチさんが先に北の地へと向かった兵士達の姿が見当たらない事に不安になったのか尋ねる。それに彼がアレク君がいるからかアオイちゃんのことを姫とは呼ばず名前で呼んで説明した。
何だかものすごく不安にかられるのだけれど本当にこのまま乗り込んで大丈夫なのかな? だけどトウヤさんはさっさと見張りがいない裏側の壁の前へと向かって歩いていってしまう。私達はその後について行った。
「この壁をよじ登り中へと入るのです。幸いそこまで高くありませんのでアオイ様やレナさんでも楽に超えられるでしょう」
「待て、おれが先に行く。中に入り誰もいないとは限らないからな」
彼が言うとアオイちゃんが登ろうとする。それをキリトさんが止めて先に壁を……え、片手で飛び上がり軽々と超えちゃった。キリトさんて身体能力高いのね。
「大丈夫そうですね。アオイ、オレ達も行きましょう」
「うん」
そう言うとハヤトさんも軽くジャンプして飛び越えちゃった。アオイちゃんは流石に飛び越えはしなかったけど両手を壁にかけて一度上にのぼるとそのまま飛び降りる。
「そんじゃ、俺も」
「僕も行きますね」
「ではおれも続きます」
ユキ君が言うと軽々と壁を乗り越えていく。イカリ君とトウヤさんも片手を壁に乗せると簡単に反対側へと飛び越える。
「そんじゃオレ達も」
「ええ」
キイチさんが言うと大きく跳躍して壁を飛び越えた。踊り子をしているアゲハさんもさすがという感じに華麗に飛び上がり反対側へと消えていく。
「ぼくも行くけど、レナ。口なんか開けて何ぼっとしてるの。ちゃんとついてきてよね」
「は、はい」
アレク君の言葉に私は我に返り返事をする。彼は私に向けてほんとに分かってるのかと言いたげに小さく笑うと壁を……ジャンプするだけで越えてしまった。皆運動能力高すぎるよ。私あんなに華麗に飛び越えれないんだけど……。だけどいつまでもここにいても皆を心配させてしまうだけだし、うん。背伸びをすれば手は届きそうだし頑張ってみよう。
「よ、いっしょ……うっ……」
思った通り手は届いたが腕力がなくてうまく登れない。試しに皆みたいにジャンプしてみるがそれでもやっぱり壁を超える事ができない。思えば最初から何もできなかったのだからこっちにきたからといって運動神経があがっているわけがないよね。
「そんな所で小さく飛んでカエルかよ。助けて欲しい時はいえって言っただろ」
「何をしている。登れないのなら始めからそう言え」
「す、すみません」
いつまでも来ない私にしびれを切らしたのか壁の上にはいつの間にかユキ君とキリトさんの姿が。
二人の手を借りて何とか壁の上へと登る事ができた。彼等が先に地面へと降りると私も飛び降りようと動いた。
「あっ……」
しかし足を踏み外してしまいそのままの勢いで落下していく。私は地面に叩き付けられるのを覚悟して目を瞑る。
「……まったく。どこまでとろいんだか。無理に飛び降りようとしなくてもゆっくり降りてくればいいのに」
「す、すみません」
しかし私が思っていたのとは違う反動を覚えて目を開けると視界一杯にアレク君の姿があり、私はなんと彼にお姫様抱っこされた格好で受け止められていた。
苦笑を零す彼の言葉に私は恥ずかしくなって頬が赤くなっているんじゃないかって思いながら謝る。
「さて、みんな無事にこれたみたいだし、先へと進みましょうか」
他の旅芸人の人達や兵士達も壁を越えた事を確認したアゲハさんがにやにや笑いながら先を促す。私は降ろしてもらうと皆の後に続けて歩き出す。
「ふふ、これは姫ちゃんにとっての強力な好敵手かしら」
アゲハさんがそっと呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。私は彼女に勘違いされてしまった事に気付かないままアオイちゃんの背について敷地内を進んでいく。
しばらく進んでいくと回廊に続く中庭へと出てそこから周囲を警戒しながら先へと進む。そして大きな扉の前までくるといったん立ち止まる。
「この中が中央広間です。中央広間を抜けたさきに玉座があります」
「ここから先は気をつけないといけないのね。皆行くよ」
トウヤさんの言葉にアオイちゃんが言うと武器を手に扉を開け放ち中へと進む。
私達全員が扉を通ったとたんそれが閉まり部屋の中に閉じ込められてしまう。
試しにアオイちゃんが扉を開けようとするがびくともせず中からは開けられないようだ。
「この部屋には何か仕掛けでもあるのかな。ねえ、トウヤさん。ここからはどうやって進めばいいの」
「ここからですか。……そのようなご心配は不要かと思われますよ」
アオイちゃんの質問に彼が冷静な態度で答える。
「え?」
「ここで貴様等は命を落とすのだからな」
『!?』
その言葉の意味が解らなくて不思議そうにする彼女。そこに誰かの声が私達の耳へと入ってきて、私達は驚きと警戒で身構える。
「貴様が亡国の姫か。反徒どもを引き連れこの国に向かってきていることは最初から分かっていた。反徒どもをこれ以上野放しにするわけにはいかない。よって貴様等はここで死んでもらう」
「……」
赤色の髪の男性が大広間の奥の階段の上に姿を現すと冷たい口調で言葉を放つ。彼の隣にはジャスティスさんが無言で立っていてなぜか私を見ていた。
「誰?」
「彼は四天王を束ねるリーダーのシエルですよ」
「四天王」
アオイちゃんが不思議そうに尋ねるとハヤトさんが大太刀を構えながら説明する。その言葉に彼女も警戒してきつい眼差しになりながら呟く。
「お姉さん達旅芸人の一座じゃなかったんだね。残念、ボクお姉さん達の芸みてみたかったのにな……」
アイクさんが本当に残念だって顔をして呟く。旅芸人の一座だって言った言葉をずっと信じていたのになんか裏切ってしまったような気持になり申し訳なく感じた。って、そんなこと思っている場合じゃないよね。これって四天王が三人もいる状況なんだからもう少し危機感覚えなきゃ。
「トウヤ。反徒どもをここまでおびき出す役目ご苦労でしたね」
「……」
そこにシェシルさんの声が聞こえてきてこれで四天王が全員そろってしまった。……って、あれ。今何て? トウヤさんが私達をおびき出す役目って。まさか――。
話題に出ているとうのトウヤさんは無言を貫いているが明らかに表情が違う。今まで見せていた友好的な微笑みではなく冷たく顔に張り付けたような笑みになっていた。
「貴様。やはりおれ達をだましていたか」
「やっぱり、こいつの事好きになれそうにない」
「ち、ちょっと二人とも待ってよ。トウヤさん。今の話は本当なの? 私達をだましていたの?」
二刀を構えて鋭い目つきで彼を睨み付けるキリトさんと、今にも斬りかからん勢いのユキ君。二人に待ったをかけたアオイちゃんがそんなはずはないよねと言いたげな顔で問いかけた。
「ふっ。姫様は本当にお優しいお方ですね。おかげでこの疑い深いお二人をだますのに成功いたしました。そうです。帝王様に殺されそうになったという話は嘘です。あれは姫様方を信じ込ませるための演技というわけですよ」
「そんな……そんなの嘘だよ。だってあれはどう見たって酷い傷だったのに」
「アオイそいつから離れろ。今すぐここで斬り捨てて今までの罪を償ってもらう」
小さく笑うと今まで向けたこともない嫌な笑みを浮かべて語るトウヤさん。その言葉にアオイちゃんは信じたくなくて首を振り否定すると一歩近づく。
そんな彼女の前へと駆けこんだキリトさんが怒りに染まった瞳を彼へと向けて言い放つ。
「おやおや、勇ましいことで。ですが、おれ一人だけ気にしていていいのですか? ここには四天王がいるということをお忘れなきように」
「!」
彼が言うと一歩背後へと退く。するとキリトさんの前に風刃が襲い掛かり、彼はそれを受け止めかき消す。
「貴様等の相手は一人ではない。わたし達がいる事を忘れてもらっては困る。でないと退屈で仕方がない」
「ねえ、やっぱりボク女の人と戦うの嫌だから、あっちの外野相手しててもいい?」
「そこはアイクの好きにすればいいでしょう」
アイクさんがシェシルさんに尋ねる。それに彼が好きにしろと言って頷く。
「そっか、良かった。それじゃあそっちのお兄さん達ボクの相手になってよ」
彼が嬉しそうに言うと真面目な顔になりハヤトさん達へと向けてショートソードをかまえて突っ込んでくる。
「それでは私も行かせてもらいましょか」
シェシルさんもロングソードを構えるとイカリ君達を狙う。
「……少女よ。お前も反徒どもの仲間だったのか?」
「えっ」
一人だけ何やら考え深げにしていたジャスティスさんがそっと私に声をかけてくる。ずっと私の事を見ていたけどまさかそんなことを聞かれるとは思わなくて驚いた。
「できれば、お前に刃を向けたくはない。今すぐこの部屋の隅に行き身を守っていろ。そうすればお前の事だけは見逃してやる」
「……それは、この前助けた借りを返してくれるという意味でしょうか?」
静かな口調で話しかけてくる彼へと私は真っすぐに見返して尋ねる。
「……」
「もし、そうなのであればそのことはどうかお気になさらないでください。私は、この腕輪を貰うまでは何もできないただの人間でした。ですが、この腕輪の力で誰かを助ける事ができるようになった。それならば私は私の大切な友達を守る為に、逃げたりなんかしません。そんなことしたくありません」
「そうか。……残念だ」
無言で見つめてくるジャスティスさんへと私は腕輪を右手で握りしめて話す。その言葉に彼はそっと呟くと私から離れていく。てっきり斬り捨てられるかと思っていたので彼の意外な行動に驚いてその場に立ちつくす。
「少女よ。せいぜい死なぬように逃げる事だな」
「……」
彼はそれだけ言うとキイチさん達の方へと向かっていった。私は暫くその場に佇んでいたけどアオイちゃんがシエルさんに狙われているのを見て慌てて腕輪に祈りを込めた。
「お願いです。皆さんをお守りください」
私の言葉に呼応するように腕輪が輝き見えない加護の力が働いたように感じる。
「なにぼさっと突っ立ってるの。そんなとこにいたら君も攻撃を受けちゃうよ」
「アレク君?」
そこに私の腕の裾を引っぱりアレク君が小声で話しかけてきた。先ほどから姿が見えないと思っていたら如何やら攻撃が当らない物陰に隠れていたようだ。
だけど私がぼうっと突っ立ていた為心配して声をかけてきたのだろう。
「それとも君も戦えるのかな? 四天王は強いよ。レナみたいに弱くてぼぅっとしている子が勝てるとは思えないんだけどね」
「た、戦えないことは事実ですが、でも誰かが怪我した時の治癒くらいならできます」
彼の言葉に図星をつかれて悲しく思いながらもそう答えた。
「ふ~ん。なら攻撃されないよう気を付けてアオイ達の事守ってあげてね。他の連中がどうなろうとぼくの知った事じゃないけど、アオイが悲しむのは見たくないし、だからあいつらが怪我したら助けてあげていいよ」
「なんだか上から目線ですね」
アレク君が一応? 納得してくれた様子で頷くとそう言って笑う。その言葉に私はずいぶんと偉そうな発言だなと思いながら苦笑いする。
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
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身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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