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ライゼン通りのお針子さん7 ~幸せのシンフォニア~
番外編 明かされる真実
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これはアイリスがキースから告白を受けた日の夜の事。
「そう、それは良かった。アイリスちゃんおめでとう」
「アイリス俺も本当に嬉しいよ」
「あ、有難う御座います」
イクトと工房へと遊びに来ていたソフィアに報告すると二人は心の底から喜び祝ってくれる。
「……アイリス。君に話したい事があるんだ。とっても長い話になる。座ってゆっくり話を聞いてくれるかな」
「はい」
真剣な顔で何事か考えていた彼が口を開くとアイリスは訳が分からないまま頷く。
「イクト君。そのお話、私も付き合うけれど良いわよね」
「うん。ソフィーが側にいてくれたらちゃんと話せそうだからお願いしてもいいかな」
「勿論よ」
ソフィアには内容が分っているようでそうイクトに尋ねる。それに彼が了承すると三人で二階へと上がりアイリスの寝室。かつてのミラの部屋へと向かった。
「あの、イクトさん。お話とは一体?」
「……俺は」
椅子に座り話を聞く態勢になったアイリスへと彼が口を開くが開閉を繰り返し黙り込み俯く。
相当言い辛い話なのだろうかと思いながら彼女はイクトが語り始めるのを待った。
「俺は……アイリスを立派なお針子として育てあげる事が罪の償いになると思っていた。だから今までミラさんから教わった技や心の全てを君に教えた。アイリス。君に話していないことが一つだけあるんだ。それはミラさんが何で死んでしまったのかその原因についてだ」
「おばあちゃんが死んだ原因ですか?」
意を決して口を開いた彼の言葉にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「アイリス。ミラさんを……君のお婆さんを殺したのは俺なんだ」
「え?」
体を震わせて消え入りそうな声で告げられた事実に彼女は驚く。
「もうずっと昔の事だけど、あの日俺はミラさんと口喧嘩をして家を飛び出し木こりの森へと入った。そこでアイアンゴーレムに襲われそうになってミラさんが庇ってくれた」
「……」
語り始めたイクトの言葉をアイリスは黙って聞き入る。
「その怪我がもとで命を落としてしまったんだ。俺が殺したようなものだ。あの時森になんか行かなければミラさんが襲われることもなく今もここにアイリスの隣で微笑んでいたに違いない。俺のせいで……ミラさんは死んだんだ」
「違うわ。イクト君のせいなんかじゃない。殺したって言うのならば私だって同じよ。私がミラさんを死なせてしまったの」
「ソフィーさんそれはどういう事ですか?」
俯き震える彼の体をソフィアが優しく抱きしめ支えながら口を開く。その言葉に彼女はさらに驚いて尋ねた。
「あの日。私はミラさんを助けようとしたの。傷薬や栄養剤などありとあらゆる回復薬を作ってね。だけど、私の腕が未熟だった。そのせいでミラさんの命を助けることが出来なかったの。あの時どんな病や怪我もたちまちのうちに治してしまう万能薬のような薬が作れていればミラさんは死ななかったかもしれない。だからアイリスちゃん。貴女のお婆さんを助けられなくて本当にごめんなさい」
ソフィアも話しながら小刻みに体を震わせて項垂れる。
「お二人とも顔をあげて下さい。私は全然気にしていませんから」
どんな言葉を浴びせられても構わないと覚悟を決めている二人にアイリスは優しい声色を意識しながら口を開く。
「イクトさん。おばあちゃんがイクトさんを庇わなければ今ここにイクトさんはいないんですよね。それはそれで私はとても悲しいです。だって私。イクトさんと一緒に仕立て屋のお仕事をするのがとっても楽しくて幸せな時間だったから。だからこれからも一緒に側にいて欲しいです」
そこで一度息を吸い込むと今度はソフィアの方へと視線を向けて口を開く。
「ソフィーさんもおばあちゃんを助けようと努力して下さったんですよね。有難う御座います。私全然二人の事恨んでなんていませんから。だからもうそんなに苦しまないでください。私を一人前のお針子に育て上げて下さり有り難う御座います」
「アイリス……」
顔をあげた二人の前には陽だまりの様に暖かな微笑を讃えたアイリスの姿がありイクトが言葉を失う。
「許して……くれるのか?」
「許すも許さないもないです。だって私イクトさんとソフィーさんに出会えて一杯色んなこと教えて貰えて支えて貰えて嬉しかったから。だからもうその事で苦しまないでください。きっとおばあちゃんもそう思っていると思います」
呟く彼へと彼女は満面の笑みを浮かべて答える。
「アイリス」
「有り難う」
眩しい笑顔に二人はようやく許された気がして肩の力が一気に抜けた。
こうしてようやく本当の事を話せたイクトは前を向いて歩いていけれるようになる。
「イクト君良かったわね。まぁ、アイリスちゃんなら許してくれるとは思っていたけれど」
「うん。ソフィーも色々と有り難う」
簡易台所で紅茶を飲みながら話すソフィアへとイクトがお礼を述べる。
「それより、アイリスちゃんの事は安心して任せられる人も見つかったのだから今度はイクト君の番だと思わない」
「え?」
唐突に言われた言葉の意味が分からずイクトが不思議そうな顔をした。
「彼女に返事待ってもらっているんでしょう。何時までも待たせていたら可哀そうよ。貴方達孤児院の頃から幼馴染同士なんでしょ。なら、もういい加減くっ付いちゃいなさいな」
「ははっ。ソフィーには何時まで経ってもかなわないな。すべてお見通しと言う感じかな」
「彼女の方が私なんかよりずっとイクト君の事見ていたはずよ。だからずっと黙って待っていてくれているのよ。そんなに想ってくれている人をこれ以上待たせちゃだめよ」
苦笑を零す彼へと彼女が溜息交じりに語る。
「うん。アイリスにちゃんと話も出来たし俺もそろそろいろんなことから逃げ回るのをやめようと思うよ」
「お似合いのカップルだと私は思うわよ。イクト君。幸せになりなさいな。アイリスちゃんもミラさんもそれを望んでいると思うから」
「うん」
ソフィアの言葉にイクトが小さく頷いた。
その後アイリスが入籍してから直ぐ後にイクトも結婚して幸せな家庭を築き上げていくこととなるがこれはまた別のお話である。
======
あとがき
これにて本当にお針子さんは完結です。ここまでお付き合いくださいまして誠に有難う御座いました。
「そう、それは良かった。アイリスちゃんおめでとう」
「アイリス俺も本当に嬉しいよ」
「あ、有難う御座います」
イクトと工房へと遊びに来ていたソフィアに報告すると二人は心の底から喜び祝ってくれる。
「……アイリス。君に話したい事があるんだ。とっても長い話になる。座ってゆっくり話を聞いてくれるかな」
「はい」
真剣な顔で何事か考えていた彼が口を開くとアイリスは訳が分からないまま頷く。
「イクト君。そのお話、私も付き合うけれど良いわよね」
「うん。ソフィーが側にいてくれたらちゃんと話せそうだからお願いしてもいいかな」
「勿論よ」
ソフィアには内容が分っているようでそうイクトに尋ねる。それに彼が了承すると三人で二階へと上がりアイリスの寝室。かつてのミラの部屋へと向かった。
「あの、イクトさん。お話とは一体?」
「……俺は」
椅子に座り話を聞く態勢になったアイリスへと彼が口を開くが開閉を繰り返し黙り込み俯く。
相当言い辛い話なのだろうかと思いながら彼女はイクトが語り始めるのを待った。
「俺は……アイリスを立派なお針子として育てあげる事が罪の償いになると思っていた。だから今までミラさんから教わった技や心の全てを君に教えた。アイリス。君に話していないことが一つだけあるんだ。それはミラさんが何で死んでしまったのかその原因についてだ」
「おばあちゃんが死んだ原因ですか?」
意を決して口を開いた彼の言葉にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「アイリス。ミラさんを……君のお婆さんを殺したのは俺なんだ」
「え?」
体を震わせて消え入りそうな声で告げられた事実に彼女は驚く。
「もうずっと昔の事だけど、あの日俺はミラさんと口喧嘩をして家を飛び出し木こりの森へと入った。そこでアイアンゴーレムに襲われそうになってミラさんが庇ってくれた」
「……」
語り始めたイクトの言葉をアイリスは黙って聞き入る。
「その怪我がもとで命を落としてしまったんだ。俺が殺したようなものだ。あの時森になんか行かなければミラさんが襲われることもなく今もここにアイリスの隣で微笑んでいたに違いない。俺のせいで……ミラさんは死んだんだ」
「違うわ。イクト君のせいなんかじゃない。殺したって言うのならば私だって同じよ。私がミラさんを死なせてしまったの」
「ソフィーさんそれはどういう事ですか?」
俯き震える彼の体をソフィアが優しく抱きしめ支えながら口を開く。その言葉に彼女はさらに驚いて尋ねた。
「あの日。私はミラさんを助けようとしたの。傷薬や栄養剤などありとあらゆる回復薬を作ってね。だけど、私の腕が未熟だった。そのせいでミラさんの命を助けることが出来なかったの。あの時どんな病や怪我もたちまちのうちに治してしまう万能薬のような薬が作れていればミラさんは死ななかったかもしれない。だからアイリスちゃん。貴女のお婆さんを助けられなくて本当にごめんなさい」
ソフィアも話しながら小刻みに体を震わせて項垂れる。
「お二人とも顔をあげて下さい。私は全然気にしていませんから」
どんな言葉を浴びせられても構わないと覚悟を決めている二人にアイリスは優しい声色を意識しながら口を開く。
「イクトさん。おばあちゃんがイクトさんを庇わなければ今ここにイクトさんはいないんですよね。それはそれで私はとても悲しいです。だって私。イクトさんと一緒に仕立て屋のお仕事をするのがとっても楽しくて幸せな時間だったから。だからこれからも一緒に側にいて欲しいです」
そこで一度息を吸い込むと今度はソフィアの方へと視線を向けて口を開く。
「ソフィーさんもおばあちゃんを助けようと努力して下さったんですよね。有難う御座います。私全然二人の事恨んでなんていませんから。だからもうそんなに苦しまないでください。私を一人前のお針子に育て上げて下さり有り難う御座います」
「アイリス……」
顔をあげた二人の前には陽だまりの様に暖かな微笑を讃えたアイリスの姿がありイクトが言葉を失う。
「許して……くれるのか?」
「許すも許さないもないです。だって私イクトさんとソフィーさんに出会えて一杯色んなこと教えて貰えて支えて貰えて嬉しかったから。だからもうその事で苦しまないでください。きっとおばあちゃんもそう思っていると思います」
呟く彼へと彼女は満面の笑みを浮かべて答える。
「アイリス」
「有り難う」
眩しい笑顔に二人はようやく許された気がして肩の力が一気に抜けた。
こうしてようやく本当の事を話せたイクトは前を向いて歩いていけれるようになる。
「イクト君良かったわね。まぁ、アイリスちゃんなら許してくれるとは思っていたけれど」
「うん。ソフィーも色々と有り難う」
簡易台所で紅茶を飲みながら話すソフィアへとイクトがお礼を述べる。
「それより、アイリスちゃんの事は安心して任せられる人も見つかったのだから今度はイクト君の番だと思わない」
「え?」
唐突に言われた言葉の意味が分からずイクトが不思議そうな顔をした。
「彼女に返事待ってもらっているんでしょう。何時までも待たせていたら可哀そうよ。貴方達孤児院の頃から幼馴染同士なんでしょ。なら、もういい加減くっ付いちゃいなさいな」
「ははっ。ソフィーには何時まで経ってもかなわないな。すべてお見通しと言う感じかな」
「彼女の方が私なんかよりずっとイクト君の事見ていたはずよ。だからずっと黙って待っていてくれているのよ。そんなに想ってくれている人をこれ以上待たせちゃだめよ」
苦笑を零す彼へと彼女が溜息交じりに語る。
「うん。アイリスにちゃんと話も出来たし俺もそろそろいろんなことから逃げ回るのをやめようと思うよ」
「お似合いのカップルだと私は思うわよ。イクト君。幸せになりなさいな。アイリスちゃんもミラさんもそれを望んでいると思うから」
「うん」
ソフィアの言葉にイクトが小さく頷いた。
その後アイリスが入籍してから直ぐ後にイクトも結婚して幸せな家庭を築き上げていくこととなるがこれはまた別のお話である。
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あとがき
これにて本当にお針子さんは完結です。ここまでお付き合いくださいまして誠に有難う御座いました。
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