ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

水竜寺葵

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ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

一章 パン屋の娘ミラ

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 暖かな午後の日が差し込む雑貨屋。そのお店の扉を開けて誰かお客が入ってきた。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ。あ、ミラ!」

どこか人懐こい瞳の少女、ミラが声をかけるとベティーは笑顔になり駆け寄る。

「お店は大丈夫なの?」

「今は落ち着いた時間だから、それより。新しい商品が入荷したんでしょ。見に来たわよ」

彼女の言葉にミラが笑顔で話す。

「そう。ついでに何か買って行ってくれると助かるんだけどなぁ~」

「もう、ベティーったら。まぁ、いいわ。いつもパンを買って行ってくれるんですもの。私もお店に貢献しましょう」

ベティーのお願いに彼女がくすりと笑うと棚に収められた商品を眺める。

「あ、これ春物のスカーフね。それにこっちの木製のカップ、可愛いわね」

「今季入荷した新作です。さぁ、さ。お嬢さんお一つどうぞ」

棚を見ていたミラが言うと彼女はふざけた口調で話す。

「もう、ベティーったら」

「おや、賑やかいと思ったらミラちゃんいらっしゃい」

小さく笑う彼女へと、ジュディーがうたた寝から目を覚まし声をかける。

「ジュディーおばあちゃんこんにちは」

「はい、こんにちは。ミラちゃんが来るとお部屋が明るくなるねぇ」

ミラの言葉に彼女がにこりと笑い話した。

「ふふ。そうかしら? それじゃあベティー。このスカーフとコップを購入するわ」

「はい。毎度有り難う御座います! おばあちゃん。会計よろしくね」

小さく笑ったミラが言うとベティーが祖母に声をかける。

「ミラちゃん何時も有り難うねぇ」

「こちらこそ。何時も家のパンを買ってもらって有難う御座います」

ジュディーの言葉に彼女が笑顔で答えた。

「ライゼン通りの人なら皆ミラちゃんのお店でパンを買うよ。あそこは出来たてでも冷めてても美味しいからねぇ」

「ふふ。嬉しいわ。それじゃあまた顔を出すわね」

「うん。お店頑張ってね」

彼女の言葉にはにかみ笑うミラはベティーへと声をかける。それに彼女も笑顔で返した。

「あぁ、そうだった。試食会の話だけれどね。日取りを決めておこうと思って」

帰ろうとした彼女だったが、思い出した様子でベティーへと話す。

試食会とは、彼女がパンを買いに行った際にお願いされた件で、ミラは毎年春祭りの為に新作のジャムを色々と作るのだが、その味の審査をベティーが頼まれているのである。

「そうね。うちのお店が休みの日にやりましょう。ミラもその日は一日空けておいてよ」

それに彼女も受け答えミラを見やる。

「えぇ、勿論よ。今年も色々と試作品を作ったから覚悟しておいてね」

「毎年食べるの楽しみにしているわ。今年はどんな美味しいジャムに出会えるかしら」

彼女の言葉にベティーがそう言って小さく笑う。

「ふふっ。今年も自信作だから楽しみにしておいてね」

「えぇ。また今度ね」

「それじゃあ、お邪魔しました」

こうして二人で試食会の日取りを決めるとミラは店を出て行き、ベティーはお仕事へと戻っていった。

その翌日のことであった。いつものようにお店番をしていると、常連のお客である婦人が嬉々とした顔でミラに近寄って来る。

「ねぇ、ミラちゃん聞いた? 最近王女様がお城を度々抜け出して街に遊びに来ているらしいのよ」

「へ~。王女様が?」

婦人から聞かされた話にベティーは目を丸める。

「そうらしいわよ。噂では王女様が城を抜け出して王宮では大変な騒ぎになっているとか。何が目的なのか分からないけれど、兎に角今巷ではこの話題でもちきりなのよ」

「そうなの。知らなかったわ」

興奮して話す婦人へと彼女は呆けた顔で呟く。

「私も王女様に会えないかと外を歩く時は見て回るのよ」

「へー。私も気にして見てみようかしら」

婦人が言うとベティーも良い事を聞いたといった顔で笑う。

「それじゃあ、私はそろそろお夕飯の買い物があるから。ベティーちゃんまたね」

「はい。またのご来店お待ちしてます!」

「おや、いらっしゃいませ」

婦人が店を出て行くと、目を覚ましたジュディーが、誰もいない空間へと顔を向けて微笑む。

「もう、おばあちゃんたら。お客さんはとっくに帰ったわよ」

「おや、そうかい。ベティーお客様もいなくなったみたいだから、ミラちゃんのお店に買い物に行ってくれないかい」

腰に手を当てて話すベティーへと彼女が小さく頷きおつかいを頼む。

「分かった。行ってくる。何時ものでいいのよね」

「あぁ。お願いね」

「はーい!」

祖母に頼まれパン屋さんまで向かう。

「ふふ。王女様がお城を抜け出して街まで来てるだなんて。これは独り占めできないわ。ミラにも教えてあげよう」

独り言を零し小さく笑うと、ベティーはパン屋の扉を開けて中へと入っていった。
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