宙(そら)の詩(うた)

猫田れお

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終わりの始まり2

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 気が付くとベッドの上だった。
隣にはライラの安らかな寝顔、愛しい寝顔。
カーテンの隙間から差す光が朝を告げていた。
昨日の夜の出来事が夢だったかの様な心地良い目覚めだった。

 一糸まとわぬ姿が物語っている、ライラと僕は結ばれたのだ。

 シャワールームで濡れた身体で抱き合っていた、どちらからともなく唇を合わせていた。
そこからは夢中であまり覚えていないが、ライラの息遣い、匂いや体温、そんな事ばかり覚えている。

 初めてだった、でも後悔はない、ライラを愛している。きっと彼女も同じ気持ちのはずだ。
最初に目が合った時から始まっていたのだ。

 運命の出会いだったのだ。

 一度結ばれただけの関係なのに、何故かどうしようもなく惹かれてしまっている。
身体だけでなく、心も奪われてしまった。

 弱みを見せてしまってからは、もう恥ずかしい事は何もない様なものだ。
醜態といってもいいぐらいだ。そんな僕の弱さを醜さを全て包み込んでくれた。
優しさと包容力、柔らかい笑顔、ライラこそが天使だったのだ。僕は彼女に救われたのだ。

 施設での出来事、母の死、化物の正体、シドの安否、マチルダさんの秘密。
一時だけでも忘れる事が出来た。忘れてはいけないと分かっている、嫌悪感を伴いながらも抗えなかった。
抗う事すらしなかったのかもしれない。
 
 それでも夢は終わったのだ、これからは向き合っていかないといけない。ライラにも僕の正体を明かさなくてはならない。
これからどうするのか、どうなるのか、何も分からない状態だった。不安でしかない。
 
 ライラの安らかな寝顔を見る。
長い睫毛が落とす影を見ている、髪がサラリと顔に落ちる。全てが美しく、愛おしい。

 温かな肌に触れてみる、血色の良い唇に引き寄せられる様に口付けた。柔らかな感触で頭の芯が甘く痺れる様だった。
 
 ライラが目を覚ました。
もう長い間眠っていた様にゆっくりと時間が流れ始めた、お互い見つめ合うと照れ臭くて笑った。

「おはよう、ソラ」

「おはよう、ライラ」

 僕達の新しい日々の始まりだ。

 裸のままベッドの中で、枕物語の様にこれまでの事を話して聞かせた。ライラは黙って聞いてくれていた。施設での日常、母の事、シドの事。幸せな日々だった。母の妊娠を機に幸せの絶頂からの転落。
緊張のために、僕の声も上ずり、口が渇いてなかなか言葉がでなかった。その様子にライラも心配し手を握ってくれた。
僕は大きく深呼吸すると幾分か緊張も解けて、ライラの手を握りしめながら話を続けた。
母の死や化物の正体など、包み隠さず話した。
そして、僕が宙人の数少ない生き残りである事。翼も見せた。初めて会った時の様にライラの目には涙が浮かんでいた。

「大変だったね」

そう言って涙を流して一緒になって悲しんでくれた。
それだけで救われた気持ちになった。話して良かったと心から思った。

「私も話さなきゃならない事があるの」

ライラが真剣な表情をして言った。何を聞いても彼女への思いが変わる事はない。僕は黙って頷いて見せた。ライラはおもむろに背中を向けた、すると彼女の肩甲骨の辺りに羽根の抜け落ちた小さな翼の様な物が見えた。朝の光の中で見ると身体のあちこちに鱗の様に羽根が生えている所もあった。

「私は宙人の出来損ないなの」

ライラは自分を抱き締める様にして言った。
彼女がどんな表情をしているのか分からなかったが、僕は黙って後ろから彼女を抱き締めた。

「綺麗だよ」

僕はそれしか言えなかったが、心の底からの本当の言葉だった。

「ありがとう」

ライラは静かに言った、表情は相変わらず分からなかったが、涙を流していたのかもしれない。

 彼女はとつとつを話し出した。世の中には宙人の出来損ないと言われる人々がいる事、それは差別の対象だったり、搾取される対象だったりするらしかった。
宙人は容姿が良い者が多く、歌声も素晴らしいので愛玩動物の様に扱われたり、性の対象にされたりする事も多いらしい。高値で売買される事も少なくないという事だった。
どれも初めて聞く事ばかりだった。施設では聞いた事もない話しだったし、施設の外で産まれ育ったシドからもそんな話は聞いた事がなかった。
施設にいた僕は随分良い暮らしをしていたのだと改めて思った。

「私も自分を売って生きてるの、軽蔑する?」

昨日の夜の出来事から初めてじゃないのは分かっていたし、慣れているというか、上手い事は分かっていたので驚きはしなかったが、少し悲しい気持ちになった。

「悲しいけど、軽蔑はしてない」

「悲しい?」

「何も知らなかった自分が情けなくて悲しくて、許せない」

僕は悲しいのはライラの方なのにと思いながら彼女の代わりに泣いた。

「ソラが泣く事ないのに」

ライラもそう言って泣いた。
僕達は僕達の過去を思って泣いた、未来のために泣いた。

「でも、ソラが私の前に現れて本当に天使かと思った、私を連れてってくれると思ったの、ここじゃない何処かへ、約束の場所へ」

「約束の場所?」

「そう、宙人の故郷」

「僕達の故郷?」

「そう、帰るべき場所」

そんな場所があるなんて知らなかった。知らない事ばかりだ、僕は本当に何も知らない子供みたいだ。

「それは何処に?」

「分からない、帰巣本能があるから宙人なら辿り着けるはずなんだって」

帰巣本能、鳥や虫などが、遠く離れた所からでも自分の巣に帰ることができる、生まれつきもっている能力の事。宙人の先祖は鳥だったという話もあるが、僕にもそんな能力があるというのだろうか。

「ライラは約束の場所に行きたい?」

「ソラと一緒なら」

ライラが振り返って僕の目を真っ直ぐに見て言った。
吸い込まれそうな青い瞳がキラキラと輝いている。
僕達の未来は約束の場所にあるのかもしれない。
ライラの瞳の輝きが僕にそう思わせた。






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