7 / 13
終わりの始まり2
しおりを挟む気が付くとベッドの上だった。
隣にはライラの安らかな寝顔、愛しい寝顔。
カーテンの隙間から差す光が朝を告げていた。
昨日の夜の出来事が夢だったかの様な心地良い目覚めだった。
一糸まとわぬ姿が物語っている、ライラと僕は結ばれたのだ。
シャワールームで濡れた身体で抱き合っていた、どちらからともなく唇を合わせていた。
そこからは夢中であまり覚えていないが、ライラの息遣い、匂いや体温、そんな事ばかり覚えている。
初めてだった、でも後悔はない、ライラを愛している。きっと彼女も同じ気持ちのはずだ。
最初に目が合った時から始まっていたのだ。
運命の出会いだったのだ。
一度結ばれただけの関係なのに、何故かどうしようもなく惹かれてしまっている。
身体だけでなく、心も奪われてしまった。
弱みを見せてしまってからは、もう恥ずかしい事は何もない様なものだ。
醜態といってもいいぐらいだ。そんな僕の弱さを醜さを全て包み込んでくれた。
優しさと包容力、柔らかい笑顔、ライラこそが天使だったのだ。僕は彼女に救われたのだ。
施設での出来事、母の死、化物の正体、シドの安否、マチルダさんの秘密。
一時だけでも忘れる事が出来た。忘れてはいけないと分かっている、嫌悪感を伴いながらも抗えなかった。
抗う事すらしなかったのかもしれない。
それでも夢は終わったのだ、これからは向き合っていかないといけない。ライラにも僕の正体を明かさなくてはならない。
これからどうするのか、どうなるのか、何も分からない状態だった。不安でしかない。
ライラの安らかな寝顔を見る。
長い睫毛が落とす影を見ている、髪がサラリと顔に落ちる。全てが美しく、愛おしい。
温かな肌に触れてみる、血色の良い唇に引き寄せられる様に口付けた。柔らかな感触で頭の芯が甘く痺れる様だった。
ライラが目を覚ました。
もう長い間眠っていた様にゆっくりと時間が流れ始めた、お互い見つめ合うと照れ臭くて笑った。
「おはよう、ソラ」
「おはよう、ライラ」
僕達の新しい日々の始まりだ。
裸のままベッドの中で、枕物語の様にこれまでの事を話して聞かせた。ライラは黙って聞いてくれていた。施設での日常、母の事、シドの事。幸せな日々だった。母の妊娠を機に幸せの絶頂からの転落。
緊張のために、僕の声も上ずり、口が渇いてなかなか言葉がでなかった。その様子にライラも心配し手を握ってくれた。
僕は大きく深呼吸すると幾分か緊張も解けて、ライラの手を握りしめながら話を続けた。
母の死や化物の正体など、包み隠さず話した。
そして、僕が宙人の数少ない生き残りである事。翼も見せた。初めて会った時の様にライラの目には涙が浮かんでいた。
「大変だったね」
そう言って涙を流して一緒になって悲しんでくれた。
それだけで救われた気持ちになった。話して良かったと心から思った。
「私も話さなきゃならない事があるの」
ライラが真剣な表情をして言った。何を聞いても彼女への思いが変わる事はない。僕は黙って頷いて見せた。ライラはおもむろに背中を向けた、すると彼女の肩甲骨の辺りに羽根の抜け落ちた小さな翼の様な物が見えた。朝の光の中で見ると身体のあちこちに鱗の様に羽根が生えている所もあった。
「私は宙人の出来損ないなの」
ライラは自分を抱き締める様にして言った。
彼女がどんな表情をしているのか分からなかったが、僕は黙って後ろから彼女を抱き締めた。
「綺麗だよ」
僕はそれしか言えなかったが、心の底からの本当の言葉だった。
「ありがとう」
ライラは静かに言った、表情は相変わらず分からなかったが、涙を流していたのかもしれない。
彼女はとつとつを話し出した。世の中には宙人の出来損ないと言われる人々がいる事、それは差別の対象だったり、搾取される対象だったりするらしかった。
宙人は容姿が良い者が多く、歌声も素晴らしいので愛玩動物の様に扱われたり、性の対象にされたりする事も多いらしい。高値で売買される事も少なくないという事だった。
どれも初めて聞く事ばかりだった。施設では聞いた事もない話しだったし、施設の外で産まれ育ったシドからもそんな話は聞いた事がなかった。
施設にいた僕は随分良い暮らしをしていたのだと改めて思った。
「私も自分を売って生きてるの、軽蔑する?」
昨日の夜の出来事から初めてじゃないのは分かっていたし、慣れているというか、上手い事は分かっていたので驚きはしなかったが、少し悲しい気持ちになった。
「悲しいけど、軽蔑はしてない」
「悲しい?」
「何も知らなかった自分が情けなくて悲しくて、許せない」
僕は悲しいのはライラの方なのにと思いながら彼女の代わりに泣いた。
「ソラが泣く事ないのに」
ライラもそう言って泣いた。
僕達は僕達の過去を思って泣いた、未来のために泣いた。
「でも、ソラが私の前に現れて本当に天使かと思った、私を連れてってくれると思ったの、ここじゃない何処かへ、約束の場所へ」
「約束の場所?」
「そう、宙人の故郷」
「僕達の故郷?」
「そう、帰るべき場所」
そんな場所があるなんて知らなかった。知らない事ばかりだ、僕は本当に何も知らない子供みたいだ。
「それは何処に?」
「分からない、帰巣本能があるから宙人なら辿り着けるはずなんだって」
帰巣本能、鳥や虫などが、遠く離れた所からでも自分の巣に帰ることができる、生まれつきもっている能力の事。宙人の先祖は鳥だったという話もあるが、僕にもそんな能力があるというのだろうか。
「ライラは約束の場所に行きたい?」
「ソラと一緒なら」
ライラが振り返って僕の目を真っ直ぐに見て言った。
吸い込まれそうな青い瞳がキラキラと輝いている。
僕達の未来は約束の場所にあるのかもしれない。
ライラの瞳の輝きが僕にそう思わせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる