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新たな冒険へ
しおりを挟む私達は町に戻って来た。それはそれは凄まじい歓迎を受けた。
あのヒューゴを退治したと。
本当の所は退治していないし、ヒューゴは生きている。とはとても言えなかった。
でももうこの町にヒューゴが何かする事はないだろう。
セラフさん曰く、火山が活動を完全に停止した事により、ヒューゴと火山との間の絆の様な物が完全に絶たれ、その理から外れた所で新しくヒューゴに命が宿ったのではないかという事だった。
肝心のヒューゴの卵はというと、セラフさんが持っている。卵が現れた時といいやはりヒューゴはセラフさんが好きらしい。私やカレンさんが卵を持つと暫くは大人しくしているが、時間が経つと卵の中から音を出して、不満を伝えるのだ。
カイの場合は卵を持った瞬間に音が鳴るくらいの嫌われっぷりだ。
ヒューゴ討伐の宴が続く中、卵は宿屋の部屋でお留守番だ。セラフさんのいう事ならちゃんと聞くので大人しくしているみたいだ。それに卵が冷えないように防寒対策はバッチリである。
「そういえば、アリシアさん達はこのミアレスの町に何をしに来られたので?」
町長さんの言葉に視線が集まった。そういえばこの町に来てから色々な事がありすぎて、名前すらも聞いていなかった事に気が付いた。
この町はミアレスというらしい。
「……ミアレス!?」
カイとセラフさんが同時に声を上げた。
「ミアレスといえば私達が来たマルガルド王国とは大陸を挟んで西の端に位置するファスティル公国の町」
「ずいぶん遠くまで来たもんだな」
カイがセラフさんに嫌味たっぷりに言った。
まだセラフさんの魔法でここに飛ばされた事を根に持っているみたいだ。
「私、マルガルドを出た事なかったのに!」
いきなり外国にほっぽり出されるなんて!
私は一気に不安になった。
セラフさんが申し訳なさそうに頭を垂れているのも目に入らないくらいに私は気が動転していた。
「なんであれ、アリシアさん達が来てくれたおかげでヒューゴを倒す事が出来たんですから」
町長さんの言葉に私は救われた気がした。
少し不安が薄れたのを感じた。
「でも問題は山積みだぜ?」
カイがもっともな事を言っているが、空気は読めない様だ。
カイは私が冷ややかな目線を送ると、両手を上げて降参のポーズをした。
「まぁまぁ、今日はヒューゴ討伐の宴です! これからの事はまた考えるとして、今は楽しみましょう!」
町長の声に町民達も賛同して宴はまた盛り上がりを見せた。セラフさんのコップには次々と酒が注がれ、カイの目の前にはたくさんの肉料理が並べられた。私もコップに入った木の実のジュースを飲みながら、料理と会話を楽しんだ。
そうして夜は更けていったーー。
◆◆◆◆◆
私は宿屋の部屋で目覚めた。
自分の足で来た覚えがないので誰かが運んでくれたんだろう。カイかセラフさんあたりだろう。
カイが見ず知らずの人に私を任せたりは絶対しないからだ。
私は部屋を出て、階段を降りてみた。
下の階はダイナーになっている。
昨日もそこで宴が開かれていたのだ。
そこには死屍累々、酔い潰れた大人達がテーブルや床に折り重なる様に眠っている。
その中にカイの姿を見付けた。
骨付き肉を手に持ったままテーブルに突っ伏している。酔い潰れるではなく、食い潰れるといった感じだ。
セラフさんの姿もあった。かなりの酒豪で勝負を挑む人が沢山いたが、誰一人勝てる人はいなかったらしい。
挑戦者の中にカレンさんもいたが、最初はいい勝負の様に思えたが先につぶれてしまっていた。
セラフさんは紳士なので酔い潰れたカレンさんをちゃんと2階の部屋へ運んでいた。あんなに飲んだのにふらつく事もなく、しっかりとした足取りでカレンさんをお姫様抱っこして階段を上る姿にびっくりしたのを覚えている。
その後もみんなに付き合って飲んでいたんだろう。酔い潰れている訳だはなくただ寝ている様だ。
町長さんの姿も見える、町長さんも町民の皆も安らかな寝顔をしていて私は宴って良いものだなと思った。
「おはよう、アリシア」
手に骨付き肉を持ったままカイが言った。
「おはよう、カイ」
その様子に笑いながら、私も挨拶をした。
カイが目を覚ましたのを皮切りに大人達も起き出した。
そこからは二日酔いの死屍累々ーー。皆頭を抱えている。
そんな中階段を降りてくる人影、カレンさんだ。
「おはようございます、カレンさん」
「おはよう、アリシア」
軽い挨拶の後、カレンさんは少し口ごもりながら言った。
「そういえば私を部屋まで運んだのって……」
「セラフさんですよ」
私は何の気なしに言った。
「……セラフのヤツ」
そう言ったカレンさんの頬が赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「紳士ですよね」
「のほほんとしてるくせに……」
悔しそうにしながらもやっぱり頬は赤いままだった。その目線の先には笑っているセラフさんが見えた。
(これって……恋?)
私は内心ドキドキしながらもカレンさんに気付かれないようにするのに必死だった。
私はカレンさんも一緒に旅が出来たら心強いと思った。戦力的な意味でも。それにヒューゴのお嫁さんをしていた時に仲良くなり、出来た絆がここで絶たれるのは寂しいと思った。
私が頼めば面倒見のいい姉御肌のカレンさんの事だついてきてくれるに違いない、でも私はカレンさん自らついてきてくれる事を望んでいる。
だから、私から誘う事はしない、そう決めた。
でもカレンさんがセラフさんを好きならば、ついてきてくれる確率が増えるのではないかと密かに期待した。
私の思惑は置いといて、これからの事を考えなくてはならない。はたして二日酔いの大人達に考える事が出来るだろうかという疑問が湧いてくるが、取り合えずセラフさんがいるテーブルにカレンさんと共に着いた。
「おはようございます」
セラフさんがいつもの柔和な笑顔で言った。
「おはようございます、セラフさん」
「あぁ……おはよう」
カレンさんは今度はセラフさんを見ようともせずに言った。
(やっぱり……恋?)
私はカレンさん可愛いと思いながら、表情は冷静を装った。
「分かりやす」
カイが考えなしに言うので、私はカイをキッと睨んだ。両手を上げて降参のポーズをするカイ。
カレンさんは周りにやいのやいの言われると素直になれないタイプだと思うので、そっとしておいて欲しい。
それが私の思いだ。
「これからどうするかの話ですが」
私はカイの発言がなかったかの様に話題を振った。これからのことを考えなきゃいけないのは本当の事だったから。
「まずは私から、謝罪をさせて下さい。私の魔法のせいで本当に申し訳ありませんでした」
セラフさんが真っ先に謝罪した、真面目な性格のセラフさんらしい。
「私は気にしてませんよ、頼んだのは私ですし」
私は本当の気持ちを言った。それにミアレスの町に来てなかったら、カレンさんともヒューゴとも出会えなかっただろうし、もちろん町長さんや、町民の皆さんとも。
「私はアリシア達が来てくれて良かったと思っている、そんなに気にする必要はない」
カレンさんもそう言ってくれた。
町長さんをはじめ町民の皆さんもカレンさんの言葉に頷いている、肯定をしている。
「ありがとうございます、皆さん」
セラフさんはそう言って笑顔を見せた。魔法の事がずっと気がかりだったのかもしれない、肩の荷がおりて晴れやかな顔をしていた。
「それでは本題に入りますかな」
町長さんが話し合いの口火を切った。
「我々の町、ミアレスのあるファスティル公国からマルガルドまでに越える国は3つ、皆平和な国なので問題はないでしょう、ただミストラル王国とギルゴウン王国の間に広がるロッフテッド平原にはモンスターが出ます、スライムやホーンラビットなど比較的弱いモンスターが多いですが、時にはワイルドボアが出る事もあるので注意が必要です」
「それなら問題ない、私が同行する」
「カレンさん! 一緒に旅してくれるんですか!?」
私は嬉しさのあまりカレンさんに抱きついていた。
「ヒューゴの件では世話になったしな、これも何かの縁だ」
そう言って私の頭を撫でてくれた。やっぱりカレンさんは優しい人だ。縁、そう思ってくれていたのも嬉しい。
「カレンさんが仲間になってくれるのは心強いですね」
「お……お前達だけではアリシアは任せられんからな!」
(カレンさん……嬉しそう!)
「本当にそれだけか?」
カイが独り言の様に呟いた。
その言葉が聞こえたのか、聞こえてないのか、セラフさんはのほほんとした笑顔をしているだけだった、一方カレンさんは顔を真っ赤にしてカイを睨んで言った。
「それ以外に何があるというんだ!?」
私がカイに視線を向けると、舌を出していたずらっぽく笑っていた。
「カレン殿がいればモンスターの件は大丈夫そうですな」
その様子を微笑ましそうに見ていた町長さんが言った。
(もしかして……バレバレ?)
それでも私はカレンさんをあくまで密かに応援すると誓った。
そんな私の思惑は置いておいて、他に話す事はあったかなと思いを巡らす。
国境を越えるにはギルドカードあれば問題ない、足りないのは旅の装備と路銀だ。
装備を買うにもお金が必要、やはり先立つものはお金という事か。
私のギルドカードにいくらか入ってるはずだ、父と何度もモンスター討伐の依頼を受けていたから。そんな事に考えを巡らせていたら、近くにいたカイがそっと耳打ちしてきた。
「金なら問題ない、子どもが心配する事じゃないよ」
また子ども扱い、でも10歳の私には何も出来る事がないのも確かだ。ここはカイの言う事に従おう。
「後は旅の準備ですかな、ミアレスの町には武器や防具を扱うお店もあります、そこでなら旅に必要な物も揃うでしょう」
「ありがとうございます、早速寄らせてもらいます」
その足で私達はお店に向かった。
「らっしゃい」
武器屋に入るといかにもなゴツい店主と思われるおじさんが出迎えてくれた。
寡黙で仕事人という感じで品物の品質も信用できる気がする。客商売にしては無愛想だけど。
「私達、これから旅に出るので、防具を探していて……」
「お前さん方、ヒューゴを倒したっていう冒険者じゃないか?」
「はい、一応」
「それなら、めぇいっぱい勉強させてもらうぜ」
さっきまでの無愛想な態度とは違い、とんとん拍子に話は決まっていき、私達は無事に防具を手に入れる事が出来た。それもかなり安い値段で。
「他に何か必要な物はあるかい?」
「マジックバッグはありますか?」
「マジックバッグなら色々揃えてるぜ、お嬢ちゃんに似合いそうなヤツもな」
店主はそう言ってアイテムバッグを色々見せてくれた。肩掛け鞄や、リュック等のよくある物から、革を使った高級なものまで本当に色々な種類の物があった。
中でも私が気に入ったのは、角なしラビットのぬいぐるみのリュック!一目惚れだった。
「やっぱり、嬢ちゃんならそれを選ぶと思ったぜ、服にも合ってるしな」
店主、よく分かってる!
「これください!」
即断即決だった。他の皆もそれぞれに選んだ物を買った。
「まいどあり! ヒューゴ倒してくれてありがとな!」
店主に見送られて私達は店をでた。
「さて、次は食料と薬ですね」
私は良い買い物が出来てすっかり気分が良くなっていた。人に感謝されるのも悪くないな。
食料は市場で、ポーションなどは薬屋で調達した。皆、ヒューゴのお供え物とかで、食料が少ない中で安く売ってくれた。もちろん薬もだ。皆が本当に嬉しそうにしているから、厚意を受けるしかなかった。本当にこの町はいい町だ、この町の役に立てて本当に良かった。この町にテレポートしてきて本当に良かった。
そんなこの町ともお別れの時が迫っていた。
出立は明日だ。
町長さんや町民の皆さんが送別会を開いてくれた。それだけで私はもう泣きそうになっていた。
皆が別れを惜しんでくれた。私も離れ難くなっていた。そうしてたくさん泣いた。私もやっぱりまだまだ子どもなんだなと思った。
そうして夜は更けていったーー。
◆◆◆◆◆
出立の朝が来た。
隣町のペレスへは町長さんのご厚意で馬車が用意されていた。馬車でなら午後にはペレスに着けるそうだ。本当に有り難い。
「町長さん! 皆さん! 本当にお世話になりました! ありがとうございました!」
私達は見送りに来てくれた、町長さん始め町民の皆さんに深々とお辞儀をした。
「私達こそヒューゴを倒してもらってありがとうございました、これでこの町もまた動き出せます」
町長さんの言葉に町民の皆さんも賛同の声を上げていた。
「それでは皆さん体には十分気を付けて! またきっときます!」
私は笑顔でミアレスの町に別れを告げた。
本当は涙がこぼれない様に必死だったけど。
それは他の皆も一緒で。
あのカイでさえ涙ぐんでいた。
そうして私達は新たな冒険へと旅立ったーー。
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