Le Lien Days~とあるアパートメントの恋愛事情~

なごみ和來

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第2部206号室×203号室 子持ちのシングルファーザー×恋に一直線なダンスインストラクター編

206×203 10-1

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「そっち引っ張ってー」
「はーい!」

 律夏に言われるがまま、ビニールプールを広げていく。うわ、でかい! そんな感想が零れるほど大きいビニールプールを見るの初めてだ。
 夏本番の8月に入り、毎日が猛暑日の連続。アスファルトを照り付ける陽射しは容赦がない。
 そんな夏を少しでも涼しく、そして快適に過ごす為に前オーナーは去年、大型のビニールプールをアパートメントに導入した。
 土曜日の午前中の仕事を終え、帰って来たばかりの茉白は律夏と蛍都と協力して準備をしているのだが、想像よりも大きなプールに驚きを隠せない。

「これも前の管理人さんが用意してくれたんですか?」
「そう、去年買ってくれた」
「プール行かなくても遊べるのいいですね!」

 大人が何人も入れるサイズの大きなプールは、広げるだけで完成。蓋などを始め、水質を保つ装置も全て用意されているので、毎日水を入替えする必要もないと律夏は先程言っていた。
 毎年夏は海やプールへ遊びに行く茉白からすれば家にプールがあるのは嬉しいことで「おれ毎日入っちゃいそうです」と笑えば、蛍都も同意してくれた。

「よし、あとは水入れたらいけるね。満タンにするいはちょっと時間かかるけど、1時間もすればちょっとした水遊びぐらいはできるようになるでしょ」
「やった! じゃあ今の内にやること終わらせよーっと!」

 3人がかりでテラスに広げたプールは水を入れるだけでもかなり時間がかかるだろう。お腹も空いているし、今の内にお昼を食べたりしておくべきだろう。

「管理人って夏はプールとか海行ったりします?」
「行きたかったけど、前の仕事は忙しくてバタバタで休みの日に遊びに行く余裕なかったんだよね。だから家にプールのあるの凄い嬉しい」
「そうなんですね!」
「けど今は余裕あるし、海行きたいなーって思ってる!」
「いいですね! おれも行きたいですし、計画立てましょ!」

 完成したプールを見て満足そうな蛍都と夏の予定を立て、プールを満たしていく冷たい水に目を向けていると、弾むような声が窓越しに聞こえてきた。
 
「わぁー!! プールだ!」

 パタパタと可愛らしい足音も加わって、声の方へと首を動かす。窓を開けてますます声を弾ませたのは柾矢でプールを見て目をキラキラと輝かせていた。

「柾矢くんおはよう!」
「ましろせんせーおはよーございます! パパ! まーくんもプール入ってもいい?」

 その柾矢に続いてラウンジ内からこちらを覗き込むのは父親の新で、小さな子供の質問に「昼からな」と言い聞かせる。

「新さんこんにちは!」
「今日仕事は?」
「今帰ってきたところです!」
「そうか。お疲れ様」

 こちらを覗き込む新と目が合えば、相変わらず簡単に心臓が嬉しいと騒めく。たった数秒が何分にも感じるのはいつものこと。ぶわっと顔に熱が集まりそうになったのは1週間経ってもまだ新と過ごした一夜を忘れられないからだ。
 あの熱い夜、それから翌日に新から言われた言葉を忘れられる筈もない。
 今はただ、新が結論を出すのを待っているが、その間はちゃんとこうして話してくれることが嬉しい。避けられていた1週間を経験したから余計に新と話せる時間が貴重に思える。

「新さんは今日お休みですか?」
「ああ、休みにしてもらった」
「体調は?」
「顔見る度に確認しなくてももう大丈夫だって言ってるだろ」

 先週体調を崩していた新はすっかり元気になったのだろう。顔色もいいし、様子もいつもと変わりない。茉白も風邪が移った気配はないし、寧ろ新との関係に進展の可能性があると知って元気があり余っている。

「さてと、ちょっと動画撮るね」

 ちょっとどいて、と律夏に言われてプールから離れて、ラウンジの中に入る。インフルエンサーの律夏からすればプールを用意するのもコンテンツのひとつなのだろう。先程から定期的にカメラを回している。彼も先週寝込んでいたみたいだが、すっかりいつも通りだ。

「柾矢くん、アップルパイ好き?」
「あっぷるぱいってなに?」
「リンゴの入ったお菓子って感じかな? こんな感じ!」

 蛍都が柾矢にスマホ画面を見せている様子を見ながら、茉白もリュックの横に置いていたコンビニで袋に手を伸ばす。中身は駅横のコンビニで買った冷製パスタ。キッチンにあるウォーターサーバーで水を入れて戻って来ると新の声が近くなった。

「あ、そうだ。茉白」
「はい! なんですか?」

 ダイニングチェアに座ったタイミングで新が隣へとやって来る。座ることはしないが、名前を呼ばれるだけでドキリとして少しだけ声が上ずるが、新を見上げるように首を動かす。すると予想外の質問が飛んで来た。

「明日お前なんか予定ある?」
「明日? 特にないですけど……」
「柾矢の子守りお願いしてもいいか?」
「へ?」

 パチリと瞬きを数回。多分間抜けな顔をしているだろう。それほど新からの提案は予想外だった。

「子守りですか?」
「そう。明日ちょっとフワラースタンドの搬入が何か所かあって、柾矢預ける先がなかったから連れて行こうと思ってたけど、もしお前が空いてるなら一日任せていい?」

 詳しい説明に茉白はなるほど、と頷いた。新が友人と立ち上げた花屋はフラワースタンドの注文も受け入れていることは知っている。日曜日は基本定休日とはいえ、ライブやイベント会場への搬入は当日のこともある。他の従業員とのスケジュールもあって今回は新が行くことになった。
 そして柾矢を預ける先として今茉白が候補として挙がっている。つまりはこういうことで、理解した茉白はすぐに何度も頷いた。

「おれでいいなら、もちろん大丈夫です!」
「ありがと。助かる」
「なんか信頼されてるみたいで嬉しいです」

 例え、両親や妹夫婦が無理でも子守りを任せるなら他にも人はいる。一番信頼している絢世や保育士の絃凪ならばきっと新だって安心するはず。だけどそんな中で自分を頼ってくれた嬉しさに勝手に頬が緩むと目の前の想い人もまた微かに笑った。

「嬉しそうな顔」
「だって嬉しいですもん!」

 もしかしたらこれは新からの試練みたいなものかもしれない。今後関係を発展させた時に柾矢との関係もしっかり深めてほしい。そんなところだろうか。
 そうとわかれば自然と気合だって入る。

「柾矢、明日は茉白先生とお留守番な」
「はあーい! ましろせんせー、いっぱいあそぼうね!」

 父親から明日のことを聞いた柾矢が声を弾ませると茉白もまた笑顔を作った。
 職業柄子供と一緒にいることは苦ではないし、親戚の子供達と遊ぶことだってある。丁度プールも準備したので明日もプールで遊んだっていい。さて、どうして柾矢を楽しませようかと考えるだけで、今から明日が待ち遠しくなった。

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