【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん

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第21話 貴族の食卓へ

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王都の北区、白い石造りの館が並ぶ高級住宅街。
その一角にある侯爵家の屋敷に、マリエールは深紅のドレスに身を包み、姿を現した。
長旅の疲れを微塵も見せず、灰色の瞳には静かな誇りが宿っている。

「これは……“辺境商会印”の瓶か」
侯爵が目を細める。
「子爵令嬢自ら持参とは、随分な覚悟だな」

「はい。辺境を代表する者として、直接お目通り願いたく存じました」
マリエールは深々と一礼し、机の上にルクスベリー・プレザーブの瓶を置いた。
「この瓶が、辺境の未来を変えます」

◇ ◇ ◇

銀の匙ですくわれたジャムが、侯爵の口に運ばれる。
ひと口。
甘みと酸味が広がり、清涼な香りが鼻腔を抜ける。

「……これは」
侯爵の目が驚きに見開かれた。

「お口に合いませんでしたか」
マリエールは落ち着いた声で問う。

「いや……素晴らしい。これほど鮮烈な香りは王都のどの菓子店にもない」

側にいた侯爵夫人も匙を取り、味わう。
「まあ……! 紅茶に添えたらどんなに美味しいでしょう。これは婦人方に大人気になりますわ」

◇ ◇ ◇

その時、晩餐に同席していたひとりの若い紳士が、静かに歩み出た。
端正な顔立ち、気品ある立ち居振る舞い。

「辺境から来たと聞いた。あなたがマリエール嬢か?」
低く澄んだ声に、マリエールは背筋を伸ばした。

「はい。マリエール=ド=ヴィエルと申します」
紳士は瓶を手に取り、鈴の花の印を見つめる。
「誇りを持つ眼差しだ。王都に欠けているものを、あなたは持っている」

一瞬、マリエールの胸が強く打った。
「……恐れ入ります」
言葉は簡潔だったが、灰色の瞳に映ったその青年の微笑みは、不思議と心を離れなかった。

◇ ◇ ◇

だがその場に、商人ギルドの使者が踏み込んできた。
「侯爵様! その品は粗悪です。ギルドが保証しておりません。どうかおやめください!」

夫人が眉をひそめる。
「粗悪品? どこがですの。これほど洗練された味を私は知りません」

紳士も冷ややかに言葉を添える。
「舌は嘘をつかない。あなた方の“保証”よりも、この味そのものが証だ」

「……!」
使者は言葉に詰まり、居心地悪そうに退いた。

侯爵は静かに頷く。
「正式に契約しよう。辺境から定期的にこの瓶を納めてもらいたい」

◇ ◇ ◇

その夜、マリエールは宿に戻ると帳面を広げた。
――「初契約:侯爵家」
――「顧客層:貴族・社交界」
――「課題:供給体制の拡大」

ペンを置き、窓の外に目をやる。
夜風に揺れる鈴の花が月明かりを浴びていた。

「必要をつくるのは、常にこちら。
――ギルドに振り回されるのは終わりよ」

だが同時に、あの紳士の言葉が心に残っていた。
(王都に欠けているものを、私が……?)

その答えを知るのは、まだ先のことだった。
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